• 著者: Pierre-François Dequin, Nicholas Heming, Ferhat Meziani, Gilles Plantefève, Guillaume Voiriot, Julien Badié, Arnaud W. Thille, Jean-Baptiste Lascarrou, Keyvan Razazi, Stephan Ehrmann, Bertrand Souweine, Yves Malloizel-Delaunay, Florence Tamion, Fabienne Tamion, Christophe Girault, Saad Nseir, Laurent Argaud, Antoine Vieillard-Baron, Véronique Maxime, Quentin Capron, Christophe Guitton, Vincent Leclère, and the CAPE COD trial group
  • Corresponding author: Pierre-François Dequin (CHU Tours, Tours, France)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-03-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36942789

背景

市中肺炎 (CAP) は、世界的に感染症による入院および死亡の主要な原因であり、公衆衛生上の大きな課題である。2019年には、世界中で4億8900万件の下気道感染症 (LRI) が発生し (GBD 2019 LRI Collaborators, 2022)、米国では年間150万人以上の成人がCAPで入院している (Ramirez et al., 2017)。2019年の米国における死因の第9位であり、感染症による死亡原因としては第1位であった (Heron, 2021)。高所得国におけるCAP入院患者の月間死亡率は約10〜12%に達し (Musher and Thorner, 2014; Ewig et al., 2009)、特にICUを要する重症CAP患者の院内死亡率は20〜30%にも及ぶことが報告されている (Cilloniz et al., 2018)。肺炎は、激しい肺および全身性炎症を引き起こし、ガス交換障害、敗血症、多臓器不全、そして死亡リスクの増加につながる。

コルチコステロイドは強力な抗炎症作用と免疫調節作用を持ち、肺炎の炎症性反応を軽減し、予後を改善する可能性が示唆されてきた。これまでに7つのランダム化比較試験 (RCT) (Confalonieri et al., 2005; Snijders et al., 2010; Meijvis et al., 2011; Fernández-Serrano et al., 2011; Blum et al., 2015; Torres et al., 2015; Wittermans et al., 2021) が様々な重症度のCAP患者におけるコルチコステロイドの有効性を評価してきたが、Confalonieri et al. (2005) の小規模試験を除き、死亡率に関する有意な群間差は示されていなかった。これらの試験のメタ解析では、コルチコステロイドが臨床的安定化までの期間と入院期間を短縮するものの、生存率の改善には寄与しない可能性が示唆された (Briel et al., 2018)。しかし、オープンラベル試験やバイアスのリスクが高いと評価された試験を含んだ別のメタ解析では、重症CAP患者においてコルチコステロイドが死亡率を低下させる可能性が示唆されたが、エビデンスの質は中程度であった (Stern et al., 2017)。このように、コルチコステロイド、特にハイドロコルチゾンの抗炎症作用が重症CAP患者の予後を改善できる可能性は示唆されてきたものの、小規模試験やメタ解析では結果が一致せず、大規模RCTによる明確な結論が未解明であった。また、従来のコルチコステロイド使用では、二次感染、血糖上昇、筋力低下などの懸念も存在し、その安全性プロファイルに関するデータも不足していた。したがって、重症CAP患者におけるコルチコステロイド療法の有効性と安全性を確立するための、より大規模で質の高いエビデンスが求められており、この知識ギャップを埋めることが重要な課題として残されていた。

目的

本研究 (CAPE COD試験、ClinicalTrials.gov識別子 NCT02517489) は、ICU管理を要する重症市中肺炎 (CAP) 成人患者を対象に、早期のハイドロコルチゾン投与が28日死亡率をプラセボと比較して有意に低下させるかどうかを検証することを主要な目的とした。この主要評価項目により、重症CAP患者におけるハイドロコルチゾン療法の生存ベネフィットを明確に評価することを目指した。また、副次的な目的として、90日死亡率、非侵襲的換気を受けている患者における気管挿管率、昇圧薬の新規使用率、ICU滞在日数、人工呼吸器非装着日数、昇圧薬非使用日数、PaO2/FiO2比の変化、SOFA (Sequential Organ Failure Assessment) スコアの変化、および90日時点でのSF-36 (36-Item Short-Form Health Survey) によるQOL評価を比較した。さらに、安全性評価として、院内感染、消化管出血、高血糖(インスリン投与量)、および体重増加の発生率を評価し、ハイドロコルチゾン療法の全体的なリスク・ベネフィットプロファイルを明らかにすることも目的とした。これにより、重症CAP患者に対するコルチコステロイド療法の臨床的有用性に関する既存の知識ギャップを埋め、治療ガイドラインの改訂に資する強固なエビデンスを提供することを目指した。

結果

主要エンドポイント:28日死亡率の有意な低下: 本試験では、ハイドロコルチゾン群 (n=400) とプラセボ群 (n=395) の計795例が主要解析対象となった。28日目までに、ハイドロコルチゾン群では25例 (6.2%) が死亡し、プラセボ群では47例 (11.9%) が死亡した。ハイドロコルチゾン群はプラセボ群と比較して、28日死亡率が統計的に有意に低かった (絶対差 -5.6パーセンテージポイント; 95% CI, -9.6 to -1.7; P=0.006)。この結果は、重症CAP患者における早期ハイドロコルチゾン療法の明確な生存ベネフィットを示している (Table 2)。90日目時点での死亡率も、ハイドロコルチゾン群で9.3% (95% CI, 6.4-12.2) であったのに対し、プラセボ群では14.7% (95% CI, 11.1-18.2) であり、ハイドロコルチゾン群で有意な低下が維持された (絶対差 -5.4パーセンテージポイント; 95% CI, -9.9 to -0.8)。この結果は、ハイドロコルチゾンによる死亡率低下効果が短期だけでなく、中期的な予後にも及ぶことを示唆している (Table 2)。

気管挿管率の有意な減少: ベースラインで機械換気を受けていなかった患者442例において、28日目までの気管挿管の累積発生率は、ハイドロコルチゾン群で18.0% (40/222例) であったのに対し、プラセボ群では29.5% (65/220例) であった。ハイドロコルチゾン群では気管挿管のリスクが有意に低かった (HR 0.59; 95% CI, 0.40-0.86)。この結果は、ハイドロコルチゾンが呼吸不全の進行を抑制し、より侵襲的な呼吸管理の必要性を減少させることを示唆する (Fig. 3A)。また、ベースラインで気管挿管されていなかった患者618例全体では、侵襲的機械換気の累積発生率はハイドロコルチゾン群で19.5% (60/308例) vs プラセボ群で27.7% (86/310例) であり、同様に有意な低下が認められた (HR 0.69; 95% CI, 0.50-0.94) (Fig. 3B)。

昇圧薬新規使用率の有意な減少: ベースラインで昇圧薬を使用していなかった患者703例において、28日目までに昇圧薬が開始された累積発生率は、ハイドロコルチゾン群で15.3% (55/359例) であったのに対し、プラセボ群では25.0% (86/344例) であった。ハイドロコルチゾン群では昇圧薬開始のリスクが有意に低かった (HR 0.59; 95% CI, 0.43-0.82) (Fig. 3C)。この結果は、ハイドロコルチゾンが循環動態の安定化に寄与し、血管作動薬の必要性を減少させることを示している。

安全性プロファイル: 院内感染の発生率は、ハイドロコルチゾン群で9.8% (39/400例) vs プラセボ群で11.1% (44/395例) であり、両群間に有意差は認められなかった (HR 0.87; 95% CI, 0.57-1.34; P=0.54)。消化管出血の発生率も、ハイドロコルチゾン群で2.2% (9/400例) vs プラセボ群で3.3% (13/395例) と稀であり、有意差はなかった (HR 0.68; 95% CI, 0.29-1.59; P=0.38)。これらの結果は、ハイドロコルチゾンが従来懸念されていた二次感染や消化管出血のリスクを増加させないことを示している。しかし、7日目までのインスリン投与量の中央値は、ハイドロコルチゾン群で35.5 IU/日 (IQR, 15.0-57.5) であったのに対し、プラセボ群では20.5 IU/日 (IQR, 9.4-48.5) と、ハイドロコルチゾン群で有意に多かった (中央値差 8.7; 95% CI, 4.0-13.8; P<0.001)。これは、コルチコステロイドの薬力学的効果と一致する高血糖の増加を示唆するが、通常は一過性であると報告されている。体重増加の中央値は、ハイドロコルチゾン群で2.0 kg (IQR, -0.5-5.0) vs プラセボ群で1.0 kg (IQR, -3.0-6.0) であり、有意差はなかった (中央値差 1.0; 95% CI, 0-2.0; P=0.18) (Table 2)。ICU滞在期間や人工呼吸器非装着日数、昇圧薬非使用日数などの副次評価項目もハイドロコルチゾン群で改善傾向が示されたが、多重性調整は行われていないため探索的結果として解釈される。

考察/結論

CAPE COD試験は、ICU管理を要する重症CAP患者に対する早期ハイドロコルチゾン投与が28日死亡率を有意に低下させることを明確に示した大規模RCTであり、重症CAPの治療パラダイムを変える可能性のある極めて重要な試験結果である。NNT (必要治療数) は18人と、重症感染症に対する介入としては優れた効果規模を示した。

先行研究との違い: これまでの小規模試験やメタ解析では、コルチコステロイドの死亡率改善効果について一貫した結果が得られておらず、特に大規模なRCTによる確固たるエビデンスが不足していた。本研究は、フランス31施設の多施設デザイン、二重盲検、十分な症例数 (n=800)、および臨床的に意義のある主要エンドポイント (死亡率) の設定により、この不確実性を解消した点で、これまでの研究と大きく異なる。特に、Torres et al. (2015) やMeduri et al. (2022) の試験では、メチルプレドニゾロンが治療失敗の複合エンドポイントを減少させたものの、院内死亡率や60日死亡率に有意な差は認められなかった。本研究でハイドロコルチゾンが死亡率を改善した要因としては、コルチコステロイドの種類 (ハイドロコルチゾンは鉱質コルチコイド作用も持つ)、敗血症性ショック患者の除外、ICU入室から治療開始までの期間が非常に短かったこと (<15時間)、および女性患者の割合が比較的高かったことなどが考えられる。

新規性: 本研究は、重症CAP患者における早期ハイドロコルチゾン投与が28日死亡率を統計的かつ臨床的に有意に低下させることを、大規模な二重盲検プラセボ対照RCTで初めて明確に実証した。また、気管挿管や昇圧薬開始のリスクも有意に減少させることが示され、これらの結果は、ハイドロコルチゾンが重症CAPの病態生理学的プロセスに早期に介入し、臓器不全の進行を抑制する新規な治療戦略となり得ることを示唆している。さらに、従来懸念されていた二次感染や消化管出血の増加が認められなかったことは、ハイドロコルチゾン療法の安全性プロファイルに関する重要な新規知見である。

臨床応用: 本知見は、ICU管理を要する重症CAP患者に対するコルチコステロイド療法の臨床応用を強力に支持するものである。本試験の結果は、現在の重症CAP管理ガイドラインにおけるコルチコステロイド推奨の強化に直接影響を与え、臨床現場での治療選択肢を拡大する。特に、NNTが18という値は、重症感染症に対する介入としては非常に効果的であり、多くの患者の生命を救う可能性を秘めている。早期のハイドロコルチゾン投与は、呼吸不全の悪化や循環不全の進行を抑制し、ICUにおける患者管理の負担軽減にも寄与すると考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究がICU管理を要する重症CAP患者に限定されているため、軽症・中等症CAPへの適用が適切かどうかは不明な点が挙げられる。また、本研究はフランスの多施設で実施されたものであり、日本を含むアジア集団など、異なる人種・地理的背景を持つ集団での有効性確認が未実施である。病原体 (ウイルス、細菌、真菌) による効果の差異も今後の検討課題である。さらに、コルチコステロイドによる高血糖の管理戦略や、神経心理学的・神経筋系の副作用に関する詳細な評価も今後の研究で必要とされる。本試験では、ハイドロコルチゾンの持続静注と漸減投与のレジメンが採用されたが、他の投与レジメンとの比較に関するエビデンスは不足している。これらのlimitationを克服し、より広範な患者群における最適なコルチコステロイド療法の確立に向けた研究が引き続き求められる。

方法

本研究は、フランス国内31施設で実施された第3相、多施設共同、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照優越性試験である。対象は、重症CAPによりICUに入室した18歳以上の成人患者であった。重症CAPの診断は、臨床的および放射線学的基準に基づき、機械換気開始、高流量鼻カニューレによる酸素投与でPaO2/FiO2比が300未満、またはPSI (Pulmonary Severity Index) が130点を超える (クラスV) など、少なくとも1つの重症度基準を満たすことと定義された。主要な除外基準は、挿管拒否の指示、インフルエンザウイルスによる肺炎 (コルチコステロイドの安全性への懸念のため)、およびベースラインでの敗血症性ショックであった。

患者は1:1の比率でハイドロコルチゾン群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。無作為化は、試験施設および登録時の機械換気の有無によって層別化された。ハイドロコルチゾン群の患者には、重症度基準発現後24時間以内に、ハイドロコルチゾン200 mg/日を4日間持続静脈内投与し、その後、患者の状態改善に応じて総投与期間が8日間または14日間となるように漸減投与された。プラセボ群の患者には、ハイドロコルチゾン群と同じレジメンで生理食塩水が投与された。両群の患者は、抗生物質や支持療法を含む標準治療を受けた。

主要評価項目は、無作為化から28日目までの全死因死亡率であった。副次評価項目には、90日死亡率、ICU滞在期間、ベースラインで非侵襲的換気を受けていた患者における気管挿管率、昇圧薬の新規開始率、人工呼吸器非装着日数、昇圧薬非使用日数、PaO2/FiO2比の変化、SOFAスコアの変化、および90日時点でのSF-36によるQOL評価が含まれた。安全性評価項目として、28日目までの院内感染、消化管出血、7日目までのインスリン投与量、および体重増加が評価された。

統計解析では、当初1146例の登録で28日死亡率の25%相対減少 (プラセボ群27.0% vs ハイドロコルチゾン群20.25%) を検出する80%の検出力を想定していた。しかし、COVID-19パンデミックの影響により、800例の患者が無作為化された時点で試験登録が一時停止され、2回目の計画された中間解析後に登録中止が勧告された。主要評価項目である28日死亡率の解析には、795例の患者データが使用された。死亡率の比較にはカイ二乗検定が用いられ、ハザード比 (HR) を用いた競合リスクモデル (Fine and Gray model) がICU退院期間、挿管、昇圧薬開始、二次感染、消化管出血などのイベント発生率の比較に用いられた (Fine and Gray, 1999)。P値が0.049未満を統計的有意と判断した。副次評価項目に関する統計解析は多重性調整を行っておらず、探索的な結果として解釈された。すべてのデータはSASソフトウェアバージョン9.4およびRソフトウェアバージョン3.3.1を用いて解析された。