• 著者: Kenneth Rosenfield, Frederikus A. Klok, Gregory Piazza, Andrew S.P. Sharp, Fionnuala Ní Áinle, Michael R. Jaff, Stefano Barco, Samuel Z. Goldhaber, Nils Kucher, Irene M. Lang, Irene Schmidtmann, Keith M. Sterling, and Stavros V. Konstantinides, for the HI-PEITHO Investigators
  • Corresponding author: Stavros V. Konstantinides (Center for Thrombosis and Hemostasis, University Medical Center of the Johannes Gutenberg University Mainz, Germany)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2026, Vol. 394, pp. 1979-90
  • Epub日: 2026-03-28
  • Article種別: Randomized Controlled Trial
  • PMID: 41910345

背景

急性肺塞栓症 (pulmonary embolism, PE) は臨床的重症度の広いスペクトラムを持ち、リスクに応じた治療戦略が求められる。血行動態不安定な高リスクPEに対してはシステミック線溶療法・カテーテルインターベンション・外科的血栓摘除が推奨されているが、中等リスクPE (right ventricular dysfunction あり、血行動態安定) に対する最適治療は未解決の課題であった (がん関連血栓)。

大規模RCTのPEITHO試験 (Pulmonary Embolism Thrombolysis trial) でシステミック線溶療法 (全身投与アルテプラーゼ) は中等リスクPEにおいて血行動態虚脱を予防したが、大出血・脳卒中リスクの増大が臨床普及を妨げてきた (Konstantinides et al. N Engl J Med 2014)。高周波・低出力超音波エネルギーは線溶効果を増強する可能性があり、USAT (ultrasound-facilitated catheter-directed fibrinolysis、超音波補助カテーテル指向性線溶療法) により少量アルテプラーゼの局所投与で有効性を維持しつつ出血リスクを軽減できると期待されていた。先行観察研究でUSATは右室機能早期回復と関連していたが (Kucher et al. Circulation 2014)、ランダム化エビデンスは欠如していた (液性バイオマーカー)。なお、がん患者ではVTE (venous thromboembolism、静脈血栓塞栓症) が高率に合併することも知られている (がん関連血栓)。

しかし、USATを含むいかなるカテーテルベース治療も抗凝固単独との比較で臨床的エンドポイントに対する効果を示したRCT (randomized controlled trial) エビデンスが欠如していたというギャップが認識されており、中等リスクPEにおけるUSATの臨床的有効性と安全性のバランスは未解明であった。また液性バイオマーカー (トロポニン等) による患者層別化の有効性も継続的に検討されている (バイオマーカー層別化)。この知識のギャップを埋めるべく、HI-PEITHO (Higher-Risk Pulmonary Embolism Thrombolysis) 試験が企画された。

目的

中等リスク急性PE患者において、超音波補助カテーテル指向性線溶療法 (alteplase) +抗凝固が抗凝固単独と比べ7日間複合臨床エンドポイントを改善するかを検討することを目的とした。

結果

主要エンドポイント (7日間複合): ITT集団 (n=544) において主要エンドポイント発生率は介入群 4.0% (11/273) vs 対照群 10.3% (28/271)、RR 0.39 (95% CI 0.20-0.77)、p=0.005 (Table 2)。効果は主に心肺虚脱/虚脱の差で規定された: 介入群 3.7% (95% CI 2.0-6.6) vs 対照群 10.3% (95% CI 7.2-14.5)、RR 0.4 (95% CI 0.2-0.7)。PE関連死RR 3.0 (95% CI 0.3-28.5)、PE再発RR 1.0 (95% CI 0.1-15.8)。per-protocol集団においても同様の傾向が確認された (Table S6): 主要エンドポイント発生率 4.1% (11/253) vs 9.8% (26/244)、RR 0.40 (95% CI 0.21-0.77)。感度分析 (ロジスティック回帰、年齢・RV/LV比を共変量として調整) ではOR 0.36 (95% CI 0.18-0.75) と一貫した結果であった。層別サブグループ解析 (年齢 <75 vs ≥75歳、RV/LV比 <1.5 vs ≥1.5) においてもheterogeneityは認められなかった (Figure S1)。

安全性エンドポイント: ISTH基準大出血: 72時間介入群 4.1% (11/273) vs 対照群 0.7% (2/271)、p=0.02 と72時間での差は有意であったが、7日間4.1% vs 2.2% (p=0.32)、30日間4.1% vs 3.0% (p=0.64) と追跡期間が延びるにつれ有意差は消失した (Table 3)。GUSTO基準の重症出血も同傾向を示した。頭蓋内出血: 両群ともゼロ (ICH 0/273 vs 0/271)。30日全死亡9件 (介入群6件・対照群3件)、うちPE関連死4件 (3件・1件)。重篤有害事象 (serious adverse events) の30日間発生率は両群間で実質的差なし (Table 4)。レスキュー治療施行: 介入群2.9% (8/273) vs 対照群9.2% (25/271)、RR 0.32 (95% CI 0.15-0.68)、介入群でレスキュー治療が有意に少なかった。

回復・機能的転帰: 平均入院日数: 介入群5.77±5.02日 vs 対照群6.48±4.88日 (差 -0.71日、95% CI -1.55-0.12)。30日6分間歩行距離 (6-minute walk distance, 6MWD): 介入群中央値405.0m (IQR 311.0-501.4) vs 対照群393.0m (IQR 280.0-502.0)、両群の差は限定的であった。WHO機能クラス (World Health Organization functional class): 介入群と対照群で30日時点の分布は同程度であった。ICU入室率: 介入群71.1% vs 対照群50.2%、ICU在院日数は2.19日 vs 2.78日と、処置を必要とした介入群でICU入室は多いが在院日数は短い傾向が示された。ベースライン特性: 平均年齢58.2±13.5歳、女性42.6%、平均National Early Warning Score (NEWS) 6.0±1.9 (Table 1)。

考察/結論

本試験は中等リスク急性PEに対するUSATの初の大規模ランダム化試験であり、抗凝固単独に対し7日間複合エンドポイントをRR 0.39 (61%低下) という明確な有効性を示した。先行のPEITHO試験 (Konstantinides et al. 2014) では全身投与alteplase (0.6 mg/kg、最大50 mg) が中等リスクPEで同様の血行動態虚脱抑制効果を示したが、脳卒中1.5%・大出血11.5%という高い出血リスクが臨床普及を阻んだ点と異なり、本HI-PEITHO試験ではEkoSonicによる局所低用量alteplase (片側平均8.85 mg) の使用により、30日大出血リスク (4.1% vs 3.0%、p=0.64) が両群間で統計的有意差なく、頭蓋内出血もゼロという安全性を確認した。また先行の単腕観察研究 (Kucher et al. Circulation 2014) とは異なり、ランダム化比較試験として初めてUSATの優越性を証明した点で本研究は新規な貢献をなす。

本研究の初めての大規模RCT知見という位置づけは臨床的に重要な意義を持つ。中等リスクPEにおいて抗凝固単独 vs 積極的介入のいずれが最適かは長年未解決の問題であったが、本試験はその問いに対する最初の高質なランダム化証拠を提供した。特に72時間時点での大出血 (4.1% vs 0.7%、p=0.02) は手技に関連した早期リスクを示すものの、30日時点では差が消失しており、手技の安全性が改善していることを示唆する。

臨床応用の観点から、本試験は中等リスクPEにおける標準治療の見直しを促す可能性がある。レスキュー治療が介入群2.9% (対照群9.2%)、RR 0.32と有意に低減されたことは、早期USATが二次的心肺虚脱を予防し、より侵襲的な後続治療を回避できることを示す実臨床上の意義がある。今後のガイドライン改訂において、ESCやACCPは本試験をエビデンスの根拠として中等リスクPEへのUSATを推奨クラスに組み込む可能性が高い。特にPERT (pulmonary embolism response team) を有する施設では早期導入が検討されるべきである。

残された課題として、12ヶ月後の後期アウトカム追跡データ (PE後症候群、運動能力の長期回復) は現在進行中であり未報告である。高齢者サブグループ (75歳以上が10.1%に過ぎず) での外挿可能性、多様な民族集団での再現性、他のカテーテルベース治療 (機械的血栓吸引・吸引血栓除去術等) との直接比較RCT、USATの費用対効果分析、さらに本試験を非盲検試験として実施したバイアスリスクの評価が今後の研究課題として残る。

方法

多国間・適応デザイン・非盲検・盲検化アウトカム判定 (RCT) として実施 (HI-PEITHO試験、NCT04790370)。2021年8月〜2025年7月に米国・欧州59施設で4,313名をスクリーニング、544名をランダム化した。適格基準: 18〜80歳の急性中等リスクPE (主要または近位葉肺動脈への確認済みPE + RV/LV拡張末期径比≥1.0 + トロポニン上昇 + 心肺窮迫2項目以上: 収縮期血圧≤110mmHg・心拍数≥100bpm・呼吸数>20回/分)。持続性血行動態不安定例は除外。

介入群 (n=273): EkoSonicシステム (Boston Scientific) によるUSAT + alteplase投与 (片側: 8.85±0.67mg、両側: 16.92±3.47mg、平均投与時間7.16±0.52h) + 抗凝固。対照群 (n=271): 抗凝固単独。ランダム化後6時間以内に治療開始、介入群は2時間以内開始を推奨。層別化: 年齢 (<75 vs ≥75歳) + RV/LV比 (<1.5 vs ≥1.5)。

主要エンドポイント (7日間複合): PE関連死・心肺虚脱または虚脱 (NEWS≥9の持続、心停止、ショック、ECMO、挿管、非侵襲的換気のいずれか) ・症候性PE再発。副次エンドポイント: 大出血 (ISTH・GUSTO基準)、頭蓋内出血、48時間RV/LV比変化、全死亡、WHO機能クラス、6分間歩行距離 (30日)。統計解析: 主要エンドポイントにはFisher正確検定 (Fisher’s exact test、両側α<0.02938) を適用し、感度分析にはロジスティック回帰を用いた。層別化変数 (年齢・RV/LV比) を共変量に含め、95% 信頼区間はClopper-Pearson法で算出した。解析ソフトウェアはSAS v9.4を使用した。