• 著者: Sean W. Cutter, Gang Liu, Eleanor Saunders, Bailey Cardwell, Vinzenz Hofferek, Thomas Soerianto, Kaitlyn Ritchie, Erin N. S. McGowan, Tien K. Nguyen, Ivan K. H. Poon, Malcolm J. McConville, Benjamin J. Marsland, Glen P. Westall, Mark D. Hulett, Nicholas P. Reynolds, Mark D. Wright, Philip M. Hansbro, Katrina J. Binger
  • Corresponding author: Katrina J. Binger (Department of Biochemistry and Molecular Biology, Biomedicine discovery institute, Monash University, Clayton, Victoria 3800, Australia)
  • 雑誌: Science Advances
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-15
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1126/sciadv.aec8501

背景

肺線維症、特に特発性肺線維症 (IPF: idiopathic pulmonary fibrosis) は、肺胞上皮の損傷とそれに続く過剰な細胞外マトリックス (ECM: extracellular matrix) の蓄積によって特徴づけられる致死的な疾患である。この病態において、マクロファージの機能不全と炎症・創傷治癒表現型の持続が、筋線維芽細胞の分化促進やECMリモデリングの阻害を通じて線維化を駆動することが知られている (Liu et al. 2021)。マクロファージは周囲の微小環境からの刺激に応じて表現型を柔軟に変化させる可塑性を持ち、その分化には代謝経路のリプログラミングが不可欠である。例えば、TCA (tricarboxylic acid) サイクル代謝物であるコハク酸やイタコン酸の産生は、サイトカイン産生などの免疫調節機能に重要な役割を果たすことが報告されている (Pålsson-McDermott et al. 2025)。

しかし、従来のマクロファージ研究の多くは2次元 (2D) 培養系を用いて行われてきた。2D培養は簡便である一方で、生体内の複雑な3次元 (3D) 構造や物理的な剛性、ECMタンパク質の空間的配置といった微小環境因子を再現できず、in vivo での免疫病理学的プロセスを正確に解明するには不十分であった。特に、線維化組織におけるマクロファージの代謝状態がどのように制御され、それがどのように前線維化表現型を維持させるのかというメカニズムは未解明な点が多く、生体模倣性の高い3Dモデルを用いた解析が切望されていた。このように、組織ニッチの物理的・化学的構成がマクロファージの代謝リプログラミングに与える影響についての知見は不足しており、これが IPF の治療標的を同定する上での大きな課題となっていた。

目的

本研究の目的は、コラーゲンとビトロネクチン (Vitronectin; VN) を組み合わせた3D in vitro モデルを構築し、3D構造およびビトロネクチンがマクロファージの表現型および代謝リプログラミングに与える影響を明らかにすることである。特に、ビトロネクチンが誘導する特異的な代謝変化と、それが前線維化マクロファージの活性化にどのように寄与するかを検証する。さらに、得られた知見をヒト IPF 患者の肺組織およびマウスのブレオマイシン誘発肺線維症モデルを用いて検証し、ビトロネクチン-マクロファージ軸が肺線維症の病態駆動に果たす役割を解明することを目的とした。

結果

3Dコラーゲン-ビトロネクチン環境による前線維化活性の増強: マウス骨髄由来マクロファージ (BMDM: bone marrow-derived macrophages) を3Dコラーゲンスキャフォールドで培養したところ、コラーゲン単独では細胞生存能が低下したが、ビトロネクチンを添加することで生存能が有意に回復した (Fig. 1B)。IL-4およびIL-13刺激による前線維化活性化 (M(IL-4 + IL-13)) を評価したところ、3Dコラーゲン-ビトロネクチン (3D C+V) 培養のマクロファージでは、2Dコントロールと比較して前線維化マーカーである Mrc1 (mannose receptor C-type 1), Arg1 (arginase 1), Ccl17 (chemokine ligand 17), Fizz1 (fibrosis-associated lC-type lectin 1) の mRNA 発現が有意に上昇した (Fig. 1E-H)。特に Mrc1 と Arg1 の発現量は、3D環境下においてビトロネクチン濃度 (0 to 10 g/cm) と正の相関を示した (Pearson’s correlation, Fig. 1I-J)。また、L. mexicana 感染実験において、3D培養マクロファージは2Dよりも高い寄生虫負荷を示し、より許容的な表現型へとシフトすることが示された (fig. S2A-E)。n=3 to 4 の独立した生物学的実験において、これらの傾向が確認された。

CD38発現上昇とNAD+代謝の変動: 3D C+V 培養は、炎症性刺激 (LPS + IFN) による TNF や IL-1 の産生には大きな影響を与えなかったが (Fig. 2A-E)、NAD+ (nicotinamide adenine dinucleotide) 消費酵素である CD38 の発現を特異的に誘導した。CD38 の mRNA 発現は、3D環境においてビトロネクチン濃度に依存して有意に上昇し、この傾向は 2D 培養では認められなかった (Fig. 2F-G)。さらに、NAD+ 依存性酵素である Sirt1-7 (Sirtuins 1-7) および Parp1 (poly(ADP-ribose) polymerase 1) の mRNA 発現も 3D 培養において有意に増加していた (Fig. 2I)。これにより、3Dビトロネクチン環境がマクロファージにおける NAD+ 代謝経路を強力にリプログラミングすることが示唆された。n=3 to 5 の独立した実験において、CD38 の誘導は 3D 構造特異的な現象であることが示された。

3D環境特異的な代謝リプログラミングとイタコン酸の蓄積: Seahorse XFe96 (extracellular flux analyzer) アナライザーを用いた代謝解析の結果、3D C+V 培養マクロファージは 2D とは異なる代謝プロファイルを示した。M(IL-4 + IL-13) マクロファージにおいて、3D 培養では糖新生・解糖系 (PER: proton efflux rate) が亢進し、一方でミトコンドリアの予備呼吸能 (SRC: spare respiratory capacity) が低下するという、通常は炎症性マクロファージに見られる特徴を呈した (Fig. 2K, M)。LC-MS (liquid chromatography-mass spectrometry) によるメタボローム解析では、3D 培養マクロファージにおいてイタコン酸 (itaconate) の蓄積が有意に認められた (Fig. 3B, J)。このイタコン酸合成の亢進は、合成酵素である Irg1 (immune responsive gene 1 / Acod1: aconitate decarboxylase 1) の発現上昇および Nrf2-Atf3 (Nuclear factor erythroid 2-related factor 2 - Activating transcription factor 3) 経路の活性化に伴うものであることが qPCR により確認された (Fig. 3L-N)。n=4 の独立した実験において、3D 培養は LPS 刺激なしでも Nrf2 および Atf3 の mRNA を誘導した。

ヒトIPF肺におけるビトロネクチンとMRC1+CD38+マクロファージの増加: ヒト肺生検データセット (GSE24206, GSE47460, GSE110147) の解析により、IPF 患者の肺では VTN (vitronectin), MRC1, CD38 の mRNA 発現が健常対照群に比して有意に上昇していた (Fig. 4A-E)。免疫組織化学染色 (IHC: immunohistochemistry) では、IPF 患者の肺、特に胸膜下線維化領域や血管周囲において VTN タンパク質の沈着が有意に増加していた (Fig. 4H-J)。さらに、ヒト肺細胞アトラス (HLCA: Human Lung Cell Atlas) の単一細胞 RNA シーケンシング (scRNA-seq) 解析により、IPF 患者の肺において MRC1+CD38+ 二重陽性の肺胞マクロファージ (AMs: alveolar macrophages) 集団が有意に拡大していることが明らかになった (Fig. 4P)。解析対象は、健常者 n=72 および IPF 患者 n=51 のサンプルを含み、MRC1+CD38+ AMs の割合は IPF 群で有意に高かった (p<0.001)。

Vtn欠損によるブレオマイシン誘発肺線維症の抑制: 野生型 (WT) マウスとビトロネクチン欠損 (Vtn-/-) マウス (n=6-8/群) にブレオマイシン (0.05 U) を鼻腔投与したところ、WT マウスでは顕著な小気道周囲のコラーゲン沈着と肺全体の可溶性コラーゲン量の増加が認められたが、Vtn-/- マウスではこれらが有意に抑制された (Fig. 5A-C)。肺機能評価において、WT マウスでは一酸化炭素拡散能 (DLCO: diffusing capacity for carbon monoxide) が低下したが、Vtn-/- マウスでは正常なガス交換能が維持されていた (Fig. 5D)。また、気管支肺胞洗浄液 (BALF: bronchoalveolar lavage fluid) 中の総白血球数、特にマクロファージおよび好中球の浸潤が Vtn-/- マウスで有意に減少していた (Fig. 5E-G)。

Vtn欠損による前線維化マクロファージ集積の阻害: 肺組織の免疫蛍光染色において、ブレオマイシン投与後の WT マウスでは Mrc1+ 細胞および CD38+ 細胞が有意に増加し、これらはビトロネクチン沈着部位に共局在していた (Fig. 5H-M)。対照的に、Vtn-/- マウスでは Mrc1+ 細胞の増加が完全に抑制され、ベースラインレベルに留まった (Fig. 5H-I)。同様に、CD38+ 細胞の数も Vtn-/- マウスで有意に減少していた (Fig. 5K-N)。以上の結果から、ビトロネクチンが 3D 構造を介して Mrc1+CD38+ 前線維化マクロファージを誘導し、肺線維症を促進することが証明された。n=4 to 8 のマウスを用いて、Vtn の欠損が Mrc1+ および CD38+ 細胞の浸潤を強力に抑制することが示された (p<0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来、マクロファージの代謝は「M1 (解糖系依存)」と「M2 (OXPHOS依存)」という単純な二分法で説明されてきた。しかし、本研究の結果はこれと異なり、3Dビトロネクチン環境下では M(IL-4 + IL-13) マクロファージが解糖系亢進とイタコン酸蓄積という、通常は M1 的な代謝特性を併せ持つことを示した。また、イタコン酸は一般に炎症を抑制する「代謝ブレーキ」として知られているが、本研究では前線維化活性の高い表現型と共存しており、環境依存的にその機能が変化する可能性が示唆された。

新規性: 本研究で初めて、3Dの組織構造とビトロネクチンというECM成分が、CD38を介した NAD+ 代謝のリプログラミングを誘導し、それが前線維化マクロファージの表現型を決定づけるという新規な分子軸を同定した。特に、in vitro の 3D モデルで得られた代謝的特徴が、ヒト IPF 患者の scRNA-seq データおよび Vtn-/- マウスの表現型と高度に一致することを実証した点は極めて重要である。

臨床応用: 本知見は、ビトロネクチンまたは CD38 を標的とした治療戦略の臨床的意義を提示している。特に、CD38 阻害による NAD+ 代謝の正常化が、前線維化マクロファージの集積を抑制し、肺線維化を軽減させる可能性があり、IPF に対する新たな translational な治療アプローチとなることが期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、ビトロネクチンがマクロファージのどの受容体 (integrin V3/5, uPAR, CD36 等) を介して代謝リプログラミングを誘導するのか、その詳細なシグナル伝達経路を特定することが残された課題である。Limitation として、本研究では Vtn 全欠損マウスを用いたが、治療への応用には細胞特異的な制御や、COPD 等の他疾患におけるビトロネクチンの保護的役割との整合性を考慮した精密な標的化が必要である。

方法

マクロファージの分化と3D培養: C57BL/6 マウスの骨髄から BMDM を分化させ、コラーゲン (5 mg/ml) との 1:1 混合物を用いて 3D スキャフォールドを構築した。ビトロネクチン (5 g/ml) やフィブロネクチン等の ECM タンパク質をゲル化前に添加し、最終的なコラーゲン濃度 2.5 mg/ml、細胞密度 cells/ml とした。2D コントロールとしては、プラスチックプレートまたは ECM コーティングプレートを用いた。刺激として LPS (10 ng/ml) + IFN (10 ng/ml) または IL-4 (10 ng/ml) + IL-13 (10 ng/ml) を添加した。

代謝解析とメタボローム解析: Seahorse XFe96 アナライザーを用い、3D スキャフォールドから回収して再播種した細胞の OCR (oxygen consumption rate) および PER (proton efflux rate) を測定した。メタボローム解析は、LC-MS および GC-MS (gas chromatography-mass spectrometry) を用い、内部標準として s-inositol を使用して定量した。データ処理には MetaboAnalyst 5.0/6.0 を用い、Pareto scaling および median normalization を実施した。

ヒト組織および scRNA-seq 解析: IPF 患者および健常者の肺生検組織を用い、GSE24206 等の公開マイクロアレイデータセットを解析した。HLCA (Human Lung Cell Atlas) の scRNA-seq データを用い、Seurat V5 で解析し、fastMNN によりバッチ効果を補正した。MRC1+CD38+ 細胞の割合は、各クラスター内の二重陽性細胞数として算出した。

マウスモデルと統計解析: Vtn-/- マウスおよび WT マウス (n=6-8/群) にブレオマイシン (0.05 U) を鼻腔投与し、28 日後に評価した。肺のコラーゲン沈着は Sirius Red 染色および可溶性コラーゲン定量キットで評価し、DLCO はガスクロマトグラフィーを用いて測定した。統計解析は GraphPad Prism 10 を用い、t検定、one-way ANOVA、two-way ANOVA (Sidak’s post hoc) を実施した。相関分析は Pearson’s correlation coefficient を用いた。