• 著者: David R. Ziehr†, Fei Li†, K. Mark Parnell, Nathan M. Krah, Kevin J. Leahy, Christelle Guillermier, Ce Gao, Sean A. Prell, Niv Vigder, Sergio Poli, Jack Varon, Rebecca M. Baron, Bradley A. Maron, Nancy J. Philp, Lida P. Hariri, Edy Y. Kim, Kevin S. Wei, Matthew L. Steinhauser, Rachel S. Knipe, Jared Rutter, William M. Oldham (†共同筆頭著者)
  • Corresponding author: William M. Oldham (Brigham and Women’s Hospital / Brown University)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42090478

背景

特発性肺線維症 (idiopathic pulmonary fibrosis; IPF) は、米国で約 15 万人が罹患し、生存期間中央値が 3〜5 年と極めて予後不良な慢性進行性の致死的肺疾患である (Martinez et al. 2017)。現在承認されている抗線維化薬としてピルフェニドン、ニンテダニブ、およびネランドミラスト (2025年承認) があるが、これらは疾患の進行を遅らせるものの、完全に停止させることはできない (King et al. 2014; Richeldi et al. 2014; Richeldi et al. 2025)。進行期の患者にとって、肺移植が唯一の治療選択肢となるのが現状である。これらの治療限界から、IPF の病態生理に関わる新たな治療標的の探索が強く求められていた。

近年、細胞代謝が治療標的として注目を集めている (Bueno et al. 2020; Selvarajah et al. 2021)。肺線維症の主要な病態は、筋線維芽細胞 (myofibroblast) による過剰な細胞外マトリックス (ECM) 沈着であり、この筋線維芽細胞の分化および活性化には代謝の再プログラミングが不可欠である (Bernard et al. 2015; Xie et al. 2015)。IPF 患者由来の筋線維芽細胞では、ex vivo および TGFβ (transforming growth factor-β) 誘導 in vitro モデルにおいて、解糖系の亢進と乳酸産生の増加が報告されている (Kottmann et al. 2012; Kottmann et al. 2015)。グルコース取り込み、解糖系、および乳酸発酵の阻害薬が動物モデルでの肺線維症を減弱させることも示されていた (Goodwin et al. 2018; Cho et al. 2017)。しかし、従来の化合物は標的親和性の低さ、特異性の欠如、治療域の狭さ、および耐性獲得といった課題を抱えており、臨床応用が困難であった (Rodríguez-Enríquez et al. 2009; Michelakis et al. 2017; Pelicano et al. 2006)。このため、より効果的で安全な代謝標的薬の開発が不足していた。

持続的な解糖系活性には、乳酸の細胞外排出が不可欠であり、これを担うモノカルボキシレートトランスポーター (monocarboxylate transporter; MCT) ファミリーが注目されている。MCT1 から MCT4 のうち、MCT1 と MCT4 が肺の主要な乳酸トランスポーターとして同定されている (Halestrap 2013)。MCT 阻害薬は癌や心不全などを対象に開発が進められており (Puri et al. 2020; Cluntun et al. 2021)、MCT1 阻害薬 AZD3965 はすでに進行癌の第 1 相臨床試験を完了し、良好な忍容性を示している (Halford et al. 2023)。しかし、IPF における MCT 阻害の前臨床有効性と分子機構の検証は未解明であった。本研究は、この知識ギャップを埋め、乳酸トランスポーター阻害が肺線維症の新たな治療戦略となり得るかを検証することを動機とした。

目的

本研究の目的は、肺線維症における乳酸トランスポーター MCT1 および MCT4 の役割を包括的に解明し、これらの阻害が新たな抗線維化治療戦略となり得るかを評価することである。具体的には、以下の点を目的とした。

  1. MCT 発現の解析: IPF 患者肺組織および実験モデルにおける MCT1、MCT2、MCT4 の発現パターンを詳細に解析し、病態との関連性を評価する。Human Lung Cell Atlas のデータも活用し、IPF 肺とドナー対照肺における発現差を比較する。
  2. 筋線維芽細胞分化における MCT の役割: RNA 干渉 (small interfering RNA; siRNA) および選択的薬理学的阻害剤を用いて、MCT1、MCT2、MCT4 が TGFβ 刺激による筋線維芽細胞分化に与える影響を in vitro で検証する。α-SMA (α-smooth muscle actin) および COL1A1 (collagen type 1 alpha 1 chain) 発現、コラーゲンゲル収縮能を評価する。
  3. MCT 阻害に伴う代謝再プログラミングの解析: バイオエネルギー解析 (プロトン排出速度、酸素消費速度)、安定同位体トレーサー ([U-13C6]-グルコース、[U-13C3]-乳酸) を用いた LC-MS (liquid chromatography–mass spectrometry) メタボロミクス、および空間イメージング質量分析により、MCT 阻害が線維芽細胞の代謝経路に与える影響を詳細に解明する。NAD+/NADH 比、ROS (reactive oxygen species) 産生も評価する。
  4. in vivo における抗線維化効果の評価: ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルにおいて、MCT1 阻害薬 AZD3965 および MCT4 阻害薬 VB124 の抗線維化有効性を、組織学的評価 (Ashcroft スコア)、肺機能 (コンプライアンス、弾性)、および空間トランスクリプトーミクス、多同位体イメージング質量分析 (multi-isotope imaging mass spectrometry; MIMS) を用いて評価する。
  5. 次世代 MCT4 阻害薬 VB253 の開発と評価: 新規 MCT4 選択的阻害薬 VB253 を開発し、その in vitro における抗線維化効力、代謝プロファイル、および若齢・高齢ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルにおける既存抗線維化薬 (ニンテダニブ、ピルフェニドン) との比較評価を行う。

結果

MCT1・MCT4 は IPF 肺と実験モデルで発現増加する: Human Lung Cell Atlas の解析により、ドナー対照肺と比較して IPF 肺において MCT1 および MCT4 の mRNA およびタンパク発現が増加していることが明らかになった (MCT2 は変化なし)。IPF 肺摘出組織 (n=8 IPF vs n=7 CTL) および TGFβ 刺激線維芽細胞 (IPF-LF、NHLF) でも同様の発現増加が再現された (Fig. 1A, C, D)。TGFβ 刺激により MCT1 および MCT4 の発現は有意に上昇した (MCT1 p<0.01, MCT4 p<0.0001)。ブレオマイシン投与マウスにおいても、Mct1 および Mct4 のアップレギュレーションが確認され (Fig. 1B, n=6 BLEO vs n=5 CTL)、肺線維症の病態におけるこれらのトランスポーターの関与が示唆された。

MCT1・MCT4 阻害は筋線維芽細胞分化を抑制する: siRNA による MCT1 または MCT4 のノックダウンは、TGFβ 誘導性の α-SMA 発現を抑制したが (MCT1 ノックダウンで α-SMA 発現が 50%減、MCT4 ノックダウンで 60%減)、siMCT2 は効果を示さなかった (Fig. 2A)。薬理学的阻害剤である AZD3965 (MCT1 阻害) および VB124 (MCT4 阻害) は、それぞれ単独で α-SMA 発現を抑制し、両剤併用により COL1A1 発現も追加的に抑制された (Fig. 2B)。コラーゲンゲル収縮能も AZD3965 と VB124 の併用で有意に低下した (Fig. 2C)。RNA シークエンシング解析では、MCT4 阻害 (VB124) が最も大きな転写変化をもたらし、TGFβ 誘導性の EMT (epithelial-to-mesenchymal transition) 遺伝子セットのエンリッチメントを逆転させた (Fig. 2E)。Leading edge 解析により、BGN、COL6A3、FZD8、MGP、PMEPA1、TIMP1、TNC の 7 つの共通遺伝子が TGFβ で誘導され、MCT1/4 阻害で抑制されることが同定された (Fig. 2G)。

MCT 阻害は代謝を解糖系から酸化的リン酸化へシフトさせる: AZD3965 と VB124 の併用は、細胞外乳酸およびグルコース消費を減少させ、プロトン排出率の低下と酸素消費率の増加 (酸化的リン酸化へのシフト) をもたらした (Fig. 3C)。MCT1 および MCT4 の両阻害でプロトン排出率は対照群と比較して有意に低下し (p<0.0001)、酸素消費率は有意に増加した (p<0.0001)。LC-MS メタボロミクス解析では、細胞内乳酸、グリコール酸、および TCA (tricarboxylic acid) 中間体の増加が確認された (Fig. 4F, G, H)。安定同位体トレーシングでは、グルコース由来炭素の乳酸、クエン酸、リンゴ酸への取り込み増大が確認された (Fig. 4I)。MCT4 阻害は NADH/NAD+ 比を上昇させ (Fig. 4K)、総 ROS (CellROX) を有意に低下させた (Fig. 4L, p=0.045)。AZD3965 はミトコンドリアスーパーオキシド (MitoSOX) を選択的に減少させた (Fig. 4M)。Smad3 および ERK のリン酸化には影響がなく、MCT 阻害は古典的な TGFβ シグナル伝達経路を直接干渉せず、独立したメカニズムで作用することが示唆された (Fig. 5A, B)。

ブレオマイシンモデルでの有効性: AZD3965 (Ashcroft スコア p=0.004) および VB124 (p=0.002) は、ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルにおいて肺線維症の重症度を改善した (Fig. 6E)。肺コンプライアンスおよび弾性の改善も確認された (AZD3965 投与群で肺コンプライアンス p=0.145、弾性 p=0.025;VB124 投与群で肺コンプライアンス p=0.018、弾性 p=0.002) (Fig. 6B, C)。空間トランスクリプトーミクス解析では、両薬剤とも筋線維芽細胞の相対的割合の減少と線維化ニッチの縮小を示し、筋線維芽細胞コンパートメントにおける EMT、細胞増殖、および KRAS シグナリング経路の減弱が確認された (Fig. 7B, D, E)。MIMS では、ECM 合成 (15N-プロリン取り込み) およびグルコース取り込み (2H-グルコース) の低下が空間レベルで可視化された (Fig. 7G, H)。

VB253:次世代 MCT4 阻害薬の優れた抗線維化効果: VB253 は VB124 の次世代アナログであり、MCT4 に対する選択性が MCT1 の約 30,000 倍、効力が約 10 倍高い (IC50 2 nM) (Fig. 8B)。IPF-LF において、VB253 はニンテダニブと同等の α-SMA 抑制効力を示し (ピルフェニドンより有効)、ニンテダニブで観察される細胞毒性 (nintedanib 100 nM で細胞生存率 70% vs VB253 100 nM で 95%以上) は認められなかった (Fig. 8C, D)。VB253 は TGFβ-Smad3 シグナルを変化させず、受容体非依存的な代謝再プログラミングという既存薬とは異なる作用機序で機能することが示唆された。若齢マウス (8〜10 週齢、n=9-10/群) において、VB253 (3 mg/kg 1 日 2 回) は Penh (enhanced pause) を正常化し、Ashcroft スコアおよび α-SMA 染色においてピルフェニドンと同等の抗線維化効果を示した (Fig. 8M, N, O)。高齢マウス (70 週齢、n=10/群) でも、ニンテダニブおよびピルフェニドンと同等の Ashcroft スコア改善 (p<0.001 vs BLEO) および α-SMA 低下を達成した (Fig. 8P, Q)。全肺乳酸濃度の低下は、in vivo でのターゲットエンゲージメントを確認するものであった (Fig. 8R, p<0.0001 vs BLEO)。VB253 は TCA サイクル、ペントースリン酸経路、およびピルビン酸代謝産物を減少させ、VB124 とは異なる代謝シグネチャーを示した (Fig. 8H, I)。TGFβ 投与後早期 (0〜48 時間) の Seahorse 測定では、TGFβ の早期代謝応答 (プロトン排出率上昇、酸素消費率低下) を MCT 阻害が抑制し、この早期代謝応答の遮断が筋線維芽細胞プログラム開始に必要であることが示された (Fig. 8G)。

考察/結論

本研究の主要な概念的貢献は、乳酸トランスポーター MCT1 および MCT4 が筋線維芽細胞分化と肺線維症の中心的代謝調節因子であることを確立した点である。MCT 阻害は TGFβ 受容体シグナルを直接遮断せず、TGFβ が誘導する早期代謝応答 (解糖系亢進) を遮断することで、筋線維芽細胞の転写プログラム開始自体を阻止するという独自の作用機序を持つ。この機序は既存の抗線維化薬 (ニンテダニブ、ピルフェニドン) とは相補的であり、将来的な併用療法の可能性を示唆する。これまでの研究では、乳酸が TGFβ 活性化を介して筋線維芽細胞分化を誘導することが示唆されていたが (Kottmann et al. 2012)、本研究では細胞外乳酸の追加が α-SMA 発現に影響を与えないことを示し、先行研究とは異なる知見を提供した。

抗線維化メカニズムの候補として、①解糖系から酸化的リン酸化 (OXPHOS) への細胞エネルギー代謝の変化、②ROS 産生低下による酸化ストレスの緩和、③乳酸蓄積によるリジン lactylation を介したエピジェネティック遺伝子調節 (新興概念) が考えられる。特に、MCT 阻害が NADH/NAD+ 比を上昇させ、ROS 産生を低下させることは、酸化ストレスが筋線維芽細胞分化を促進するという既報 (Jain et al. 2013) と対照的であり、新規の抗線維化メカニズムを示唆する。これらのメカニズムの因果関係解明は今後の重要課題である。

臨床的意義として、次世代 MCT4 阻害薬 VB253 はニンテダニブに匹敵する有効性を示しながら細胞毒性がなく、MCT4 ノックアウトマウスが正常生存するという安全性上の優位性がある。VB253 はすでに第 1 相臨床試験が進行中であり、本前臨床データはその根拠を提供する。また、MCT1 阻害薬 AZD3965 の癌領域での第 1 相試験で確認された忍容性プロファイル (可逆的な無症候性眼代謝変化) も、IPF への応用可能性を支持する。これらの結果は、乳酸輸送阻害が臨床応用可能な新規治療戦略となる可能性を強く示唆する。

残された課題として、①ブレオマイシンおよび TGFβ モデルがヒト IPF の複雑性を完全に再現しない可能性、②マウスの薬物動態がヒトと異なる可能性、③若齢マウスでのニンテダニブ比較群が限定的であること、④他の MCT 発現肺細胞 (マクロファージ、移行期 AT2 細胞など) への影響が未評価であること (条件付きノックアウトモデルが必要)、⑤非ブレオマイシン対照マウスが一部の安全性評価に含まれていないこと、⑥代謝変化から転写制御への因果機構のさらなる解明が挙げられる。特に、MCT1 および MCT4 がマクロファージや樹状細胞、上皮細胞など複数の肺細胞種で発現していることから (Travaglini et al. 2020)、細胞種特異的な MCT 機能の解明は今後の研究方向性として重要である。

本研究は、IPF 治療における代謝アプローチ (fibrometabolism) の概念実証として極めて重要であり、乳酸輸送阻害という新規治療戦略の臨床評価を後押しするものである。既存薬に不耐または無効な患者への応用も視野に入れた、IPF 新規治療薬としての MCT 阻害薬の開発が期待される。

方法

In vitro 実験系: IPF 患者由来肺線維芽細胞 (IPF-LF) および正常ヒト肺線維芽細胞 (NHLF) を用いた。MCT1 阻害薬 AZD3965 (Ki 1.6 nM)、MCT4 阻害薬 VB124 (Ki 11 nM)、および新規 MCT4 阻害薬 VB253 (IC50 2 nM;MCT4 選択性 MCT1 の 30,000 倍) を使用した。siRNA (small interfering RNA) による MCT1、MCT2、MCT4 のノックダウン実験も実施した。TGFβ 刺激 (48 時間) により筋線維芽細胞分化を誘導し、α-SMA および COL1A1 発現を Western blot で評価した。コラーゲンゲル収縮アッセイも実施した。細胞外フラックスアナライザー (Seahorse) を用いて、プロトン排出速度 (extracellular acidification rate; ECAR) および酸素消費速度 (oxygen consumption rate; OCR) を測定し、バイオエネルギープロファイルを解析した。安定同位体トレーサーとして [U-13C6]-グルコースおよび [U-13C3]-乳酸を用い、LC-MS による細胞内外メタボロミクス解析を実施した。RNA シークエンシングにより、MCT 阻害が線維芽細胞の転写プロファイルに与える影響を評価し、主成分分析 (PCA) および遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) を行った。NAD+/NADH 比、総 ROS (CellROX)、ミトコンドリアスーパーオキシド (MitoSOX) も測定した。

Ex vivo 実験系: ヒト精密切除肺スライス (precision-cut lung slices) を用いて、TGFβ 刺激下での MCT 阻害が ECM タンパク (fibronectin、COL1A2) 発現に与える効果を Western blot で評価した。

In vivo 実験系: C57Bl/6N マウス (若齢マウス 8〜12 週齢、高齢マウス 70 週齢) を使用した。気管内ブレオマイシン (1.2 U/kg) 投与により肺線維症を誘発し、7 日目から各薬剤を経口投与した。AZD3965 は 100 mg/kg 1 日 2 回、VB124 は 30 mg/kg 1 日 1 回、VB253 は 3 mg/kg 1 日 2 回の用量で投与した。肺線維症の重症度は Ashcroft スコア、ヒドロキシプロリン含量、および肺コンプライアンス・弾性測定により評価した。空間トランスクリプトーミクス (Xenium、n=2/群) および多同位体イメージング質量分析 (MIMS: 15N-プロリン+2H/13C-グルコース) を実施し、in vivo での細胞特異的な代謝および転写変化を解析した。全身プレチスモグラフィーにより Penh (enhanced pause) を測定した。

統計解析: データ解析、統計比較、および可視化は R を用いて実施した。線形または線形混合効果モデルを使用し、事後検定には Dunnett 法または Benjamini-Hochberg 補正を適用した。p 値が 0.05 未満を有意差ありと判断した。メタボロミクスデータは確率的商正規化 (probabilistic quotient normalization; PQN) を用いて正規化し、limma パッケージで解析した。