- 著者: A.S. Mansfield, A. Kazarnowicz, N. Karaseva, A. Sánchez, R. De Boer, Z. Andric, M. Reck, S. Atagi, J.-S. Lee, M. Garassino, S.V. Liu, L. Horn, X. Wen, C. Quach, W. Yu, F. Kabbinavar, S. Lam, S. Morris, R. Califano
- Corresponding author: A.S. Mansfield (Division of Medical Oncology, Mayo Clinic, Rochester, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-01-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 31959349
背景
小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は肺癌全体の約15%を占め、極めて進行が早く予後不良な悪性腫瘍である。特に入院時や診断時に遠隔転移を伴う進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC: extensive-stage small-cell lung cancer) においては、長年にわたりプラチナ製剤とエトポシドの併用化学療法が標準治療とされてきた。しかし、一時的な奏効は得られるものの、速やかに再発し、生存期間中央値は約10ヶ月にとどまっていた。このような背景から、新たな治療選択肢の確立が切望されていたが、多くの臨床試験が失敗に終わり、有効な治療法の開発は極めて困難な課題とされてきた。先行研究である Byers et al. (2015) や Farago et al. (2018) において、ES-SCLCに対する新規治療の必要性が指摘されていた。
近年、がん免疫療法の進歩に伴い、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が期待されるようになった。Horn et al. NEnglJMed 2018 によるIMpower133試験の主要解析において、CP/ET (carboplatin and etoposide: カルボプラチン/エトポシド) に抗PD-L1抗体アテゾリズマブを追加することで、生存期間が有意に延長することが実証され、ES-SCLCの一次治療に約20年ぶりの革新をもたらした。しかし、生存期間の延長というベネフィットが得られる一方で、免疫チェックポイント阻害薬の追加が患者の身体的負担や日常生活動作に与える影響については、詳細な評価が不足している。特に、化学療法単独と比較して、アテゾリズマブの併用が患者の主観的な症状や健康関連QoL (HRQoL: health-related quality of life) にどのような影響を及ぼすのか、また長期的な維持療法における安全性がどのように推移するのかという点については、十分な検証がなされておらず、未解明な課題として残されていた。生存ベネフィットが毒性の増強によるQoLの著しい低下を伴うものであっては、真の臨床的ベネフィットとは言えないため、患者報告アウトカム (PRO: patient-reported outcome) を用いた多角的な検証が不可欠である。このように、アテゾリズマブ併用が患者の主観的QoLに及ぼす影響に関する詳細なデータが不足していることが、臨床現場での意思決定における大きなgapとなっていた。
目的
本研究の目的は、ES-SCLC患者に対する一次治療としてのCP/ETへのアテゾリズマブ追加投与について、その安全性プロファイルおよびPROを詳細に評価することである。具体的には、治療プロセスを「導入期 (化学療法併用期)」と「維持期 (単剤投与期)」の2つのフェーズに分け、それぞれの時期における有害事象 (AE: adverse event) の発生頻度、重症度、および免疫関連有害事象 (irAE: immune-related adverse event) の特徴を明らかにする。
さらに、標準化された質問票である Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993 のEORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer: 欧州がん研究治療機構) QLQ-C30 (Quality of Life Questionnaire Core 30) およびEORTC QLQ-LC13 (Quality of Life Questionnaire Lung Cancer 13) を用いて、患者が主観的に感じる治療関連症状、身体的・社会的機能、および全体的なHRQoLの経時的変化を測定する。これにより、アテゾリズマブの追加が患者のQoLを損なうことなく、生存期間の延長と良好な忍容性を両立できているかを検証し、本併用療法の総合的なベネフィット・リスクプロファイルを確立することを目的とする。
結果
導入期における全般的安全性の維持: 導入期において、安全性を評価された患者はアテゾリズマブ群で n=198、プラセボ群で n=196 であった。全AEの発生率はアテゾリズマブ群で 98% (195/198) vs プラセボ群で 94% (185/196) であり、両群間で極めて類似していた。重症度分類における Grade 3-4 の重篤な AE の発生頻度についても、アテゾリズマブ群で 63% (124/198) vs プラセボ群で 58% (114/196) と、統計的および臨床的に同等であった。さらに、死亡に至る Grade 5 の AE はアテゾリズマブ群で 2% (4/198) vs プラセボ群で 4% (8/196) であり、アテゾリズマブの追加による致命的な毒性の増加は認められなかった。SAE (serious adverse event: 重篤な有害事象) 全体の発生率も 29% vs 27% と同等であり、アテゾリズマブ併用療法の導入期における高い忍容性が示された (Table 2)。
維持期における長期投与時の安全性と治療中止率: 維持期に移行した患者は、アテゾリズマブ群で n=155、プラセボ群で n=163 であった。維持期における Grade 3-4 の AE 発生率は、アテゾリズマブ群で 28% (43/155) vs プラセボ群で 23% (37/163) であり、導入期と比較して大幅に低下した。しかし、有害事象による治療中止の割合は、治療期間全体を通じてアテゾリズマブ群でやや高く、何らかの治療中止に至った割合は 7% vs 2% であった。アテゾリズマブまたはプラセボの単剤投与中止に至った割合は、アテゾリズマブ群で 5% vs プラセボ群で 1% であった。最も頻度の高い中止理由はインフュージョンリアクション (注入反応) であり、その発生率は約 2% であった (Table 2)。
免疫関連有害事象の発生頻度と特徴的なプロファイル: アテゾリズマブの追加に伴い、irAEの発生率はプラセボ群と比較して上昇した。導入期における irAE の発生率はアテゾリズマブ群で 28% vs プラセボ群で 17% であった。維持期においても、irAE の発生率は 26% vs 15% とアテゾリズマブ群で高頻度であった。最も多く報告された irAE は皮疹 (rash) であり、導入期で 11% vs 9%、維持期で 14% vs 4% であった。また、甲状腺機能低下症 (hypothyroidism) の発生率は、導入期で 4% vs 0% であったのに対し、維持期では 10% vs 1% と上昇し、長期投与に伴う甲状腺毒性の蓄積が示唆された (Table 4)。
QOLに影響を与える一般的な治療関連症状の推移: 患者の日常生活や QOL に直接的な影響を及ぼす一般的な化学療法関連の有害事象について、両群間で発生頻度を比較した。悪心 (nausea) の発生率は導入期で 34% vs 31%、維持期で 9% vs 4% であった。嘔吐 (vomiting) は導入期で 15% vs 13%、維持期で 6% vs 6% であった。便秘 (constipation) は導入期で 21% vs 26%、維持期で 8% vs 6% であった。下痢 (diarrhea) は導入期で 14% vs 10%、維持期で 5% vs 9% であった。食欲減退 (decreased appetite) は導入期で 18% vs 14%、維持期で 12% vs 5% であった。これらの結果から、アテゾリズマブの追加は、化学療法に起因する消化器症状や全身症状を増悪させないことが確認された (Table 3)。
PROによる健康関連QoLの持続的改善と生存ベネフィット: EORTC QLQ-C30を用いた患者報告による HRQoL の解析において、ベースライン時のスコアは両群間で同等であった。治療開始後、身体機能 (physical functioning) および役割機能 (role functioning) は両群ともに早期から改善を示した。特に、全体的健康状態 (Global Health Status) および HRQoL の評価において、アテゾリズマブ群では 54 週にわたり臨床的に意味のある改善 (ベースラインから 10 点以上の向上) が持続したのに対し、プラセボ群では 21 週以降に改善効果が減衰した (Figure 2)。また、主要解析 Horn et al. NEnglJMed 2018 と同様に、主要生存エンドポイントである全生存期間 (OS) は、アテゾリズマブ群で有意に延長し、アテゾリズマブ群 12.3 months vs プラセボ群 10.3 months、HR 0.70 (95% CI 0.54-0.91, p=0.007) であった。無増悪生存期間 (PFS) についても、アテゾリズマブ群で有意な改善が認められ、アテゾリズマブ群 5.2 months vs プラセボ群 4.3 months、HR 0.77 (95% CI 0.62-0.96, p=0.02) であった。これらの生存ベネフィットは、患者が報告する QoL の維持・改善と整合していた。
PCI施行患者における中枢神経系有害事象の探索的解析: 維持期にPCIを受けた患者 (アテゾリズマブ群 n=23、プラセボ群 n=21) を対象に、CNS (central nervous system: 中枢神経系) 関連の有害事象を探索的に解析した。PCI 施行後の CNS 関連 AE として、頭痛 (headache) の発生率はアテゾリズマブ群で 26% (6/23) vs プラセボ群で 14% (3/21) であった。また、アステニア (asthenia、易疲労感) は 4% (1/23) vs 0% (0/21)、不眠症 (insomnia) は 4% (1/23) vs 5% (1/21) であった。アテゾリズマブ群においていくつかの症状がやや高頻度に認められたものの、症例数が極めて限定的であるため、統計的な結論を導き出すには至らなかった (Table 5)。
考察/結論
本研究は、ES-SCLCの一次治療において、標準的な化学療法であるCP/ETにアテゾリズマブを併用することの安全性およびPROを包括的に実証した重要な報告である。
先行研究との違い: 従来の多くの臨床試験が生存期間の延長のみに焦点を当て、治療に伴う毒性や患者の主観的な QoL への影響を軽視しがちであったのと異なり、本解析では詳細な PRO データを経時的に収集し、生存ベネフィットが患者の日常生活の質を犠牲にしていないことを明確に示した。
新規性: 本研究は、ES-SCLC に対する免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法において、患者報告によるHRQoLの臨床的に意味のある改善が 54 週という長期にわたって持続することを本研究で初めて明らかにした。これは、アテゾリズマブの追加が単に生存期間を延ばすだけでなく、腫瘍縮小に伴う症状緩和効果を通じて、患者の良好な体調を維持することに寄与していることを示す新規の知見である。
臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。実際の臨床現場において、ES-SCLC 患者は診断時に高頻度で重篤な呼吸器症状や全身倦怠感を抱えており、治療選択において QoL の維持が最優先される。アテゾリズマブ併用療法が、プラセボ群と比較して悪心、嘔吐、便秘などの一般的な治療関連毒性を増悪させず、かつ irAE (特に甲状腺機能低下症や皮疹) の多くが適切に管理可能であることを示したデータは、本レジメンを一次治療の新たな標準治療として自信を持って推奨する強力な根拠となる。
残された課題: 一方で、いくつかの残された課題や limitation も存在する。第一に、治療の後半 (特に 36 週以降) において病勢進行などにより PRO の回収率が低下しており、長期生存者における QoL の評価には一定の限界がある。第二に、PCIを施行した患者における CNS 関連有害事象 of interest の解析は症例数が少なく、アテゾリズマブ併用が PCI の毒性を増強するか否かについては今後の課題としてさらなる検証が必要である。また、irAE として報告された甲状腺機能低下症 (維持期 10%) などの内分泌障害は、生涯にわたるホルモン補充療法を必要とする場合があり、長期的な生存者における管理方法の確立も求められる。
方法
本解析は、国際共同ランダム化二重盲検第I/III相試験であるIMpower133試験 (NCT02763579) の副次評価項目として実施された。対象は、化学療法未治療のES-SCLC患者であり、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス (0または1) および脳転移の有無などにより層別化された。患者は1:1の割合で、アテゾリズマブ併用群 (アテゾリズマブ 1200 mg + カルボプラチン + エトポシド) またはプラセボ群 (プラセボ + カルボプラチン + エトポシド) にランダムに割り付けられた。
治療は、21日を1サイクルとし、導入期として4サイクルの併用療法を行った後、病勢進行または認容不能な毒性が発現するまで、アテゾリズマブまたはプラセボによる維持療法を継続した。維持期における予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) の実施は許容された。
安全性評価は、有害事象共通用語基準 (NCI-CTCAE v4.0) を用いて行われ、特にアテゾリズマブの作用機序に関連するirAEは、特定有害事象 (AESI: adverse event of special interest) として定義され、詳細に追跡された。
PROの評価には、がん患者の一般的なQoLを測定するEORTC QLQ-C30および肺がん特異的な症状を評価するEORTC QLQ-LC13質問票が用いられた。これらの評価は、治療開始前のベースライン時、および治療期間中の各サイクルの第1日に、電子PROデバイスを用いて患者自身によって入力された。
統計解析において、PROの評価項目である悪化までの時間 (TTD: time to deterioration) は、ベースラインから10点以上のスコア悪化が2回連続して確認されるか、または最初の悪化から3週間以内の死亡と定義された。TTDの比較には、層別 Cox regression (コックス比例ハザード回帰) モデルおよび Kaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 法が用いられ、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) が算出された。また、各評価時点におけるベースラインからの平均スコア変化量が算出され、10点以上の変化を臨床的に意味のある変化とみなした。なお、質問票の妥当性検証には先行研究である Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993 の基準が適用された。