- 著者: Leora Horn, Aaron S. Mansfield, Aleksandra Szczesna, Libor Havel, Maciej Krzakowski, Maximilian J. Hochmair, Florian Huemer, Gyorgy Losonczy, Melissa L. Johnson, Makoto Nishio, Martin Reck, Tony Mok, Sivuonthanh Lam, David S. Shames, Juan Liu, Beiying Ding, Alan Lopez-Chavez, Fairooz Kabbinavar, Wei Lin, Alan Sandler, Stephen V. Liu, for the IMpower133 Study Group
- Corresponding author: Leora Horn (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-09-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 30280641
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は全肺癌の約15%を占める高悪性度神経内分泌癌であり、喫煙との強い相関を持つ疾患である。診断時に約70%が進展型であり、予後は極めて不良である。初回治療としての白金製剤 (carboplatinまたはcisplatin) + etoposideは1980年代から約20年以上にわたって標準治療として変化がなく、奏効率は60-65%と高いものの、奏効期間が短く、OS中央値は約10ヶ月、5年生存率は2%未満にとどまっていた。この状況は、ED-SCLCの治療成績を改善するための新たな治療戦略が不足していることを示していた。
免疫学的観点からは、SCLCは高い腫瘍変異負荷 (TMB) を示すことが報告されており (Rudin et al. NatGenet 2012, Peifer et al. NatGenet 2012)、免疫原性が期待されることから、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の有効性が理論的に予測されていた。実際、再発SCLCに対しては、nivolumab単剤やnivolumab + ipilimumabの併用療法 (CheckMate 032試験; Antonia et al. LancetOncol 2016)で臨床活性が示されていた。しかし、1次治療でのICIの取り組みはいずれも不成功に終わっていた。例えば、CA184-156試験ではipilimumab + etoposide + 白金製剤が化学療法単独と比較してOSを改善できず (Reck et al. 2016)、さらに単剤維持pembrolizumabの第II相試験 (Gadgeel et al. 2018) も歴史的対照との比較でPFS・OSの改善を示すことができなかった。これらの先行研究の結果は、SCLCにおける免疫療法の最適な導入時期や併用戦略が未解明であることを示唆していた。
これらの背景から、PD-L1阻害薬であるatezolizumabを化学療法の導入期から並行して投与し、かつ維持療法として継続するという、より積極的な戦略を検証することが求められていた。Atezolizumabは完全ヒト型モノクローナル抗体であり、PD-L1とPD-1・B7-1の双方の結合を阻害し、腫瘍特異的T細胞免疫を回復させる機序を持つ。この薬剤は、POPLAR試験 (Fehrenbacher et al. Lancet 2016)およびOAK試験 (Rittmeyer et al. Lancet 2017)において既治療NSCLCで有効性を示し、単剤投与での安全性プロファイルも確立されていた。化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用は、相乗効果により抗腫瘍免疫を増強し、既存の治療法を上回る効果をもたらす可能性が示唆されていた (Herbst et al. Nature 2014)。
目的
本研究の目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象に、標準化学療法 (carboplatin + etoposide) にPD-L1阻害薬であるatezolizumabを上乗せする治療法が、化学療法単独 (プラセボ対照) と比較して、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善するかどうかを、二重盲検プラセボ対照第III相試験 (IMpower133; NCT02763579) で検証することである。具体的には、導入期4サイクルで化学療法とatezolizumabを併用し、その後病勢進行までatezolizumabを維持療法として継続する戦略の有効性と安全性を評価する。主要評価項目は、intention-to-treat (ITT) 集団における治験担当医評価によるPFSおよびOSであり、副次評価項目として客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR) を評価する。さらに、血液ベースの腫瘍変異負荷 (bTMB) がatezolizumabの治療効果予測バイオマーカーとなるかについても探索的に検討する。
結果
患者背景: 2016年6月6日から2017年5月31日までに、合計403例の患者が登録され、atezolizumab群にn=201、プラセボ群にn=202が無作為に割り付けられた (Figure 1)。ベースライン特性は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。両群ともに22例の患者が予防的頭蓋照射を受けた。ITT集団において、atezolizumab群の104例、プラセボ群の116例が少なくとも1回の後続治療を受けた。プラセボ群の15例は後続治療として免疫療法を受けた。
全生存期間 (OS) の有意な改善: データカットオフ時点 (追跡期間中央値13.9ヶ月) で、atezolizumab群の死亡は104例 (51.7%)、プラセボ群は134例 (66.3%) であった。OS中央値はatezolizumab群で12.3ヶ月 (95% CI 10.8-15.9) であったのに対し、プラセボ群では10.3ヶ月 (95% CI 9.3-11.3) であった。死亡のハザード比 (HR) は0.70 (95% CI 0.54-0.91; P=0.007) と、事前規定の有意水準 (α=0.0193) を超えて有意差が確認された (Figure 2A)。1年OS率はatezolizumab群で51.7%、プラセボ群で38.2%と、約13.5ポイントの絶対的改善を達成した。OS曲線は12ヶ月以降に分離が拡大する「long tail」を形成し、免疫療法特有のパターンを示した。
無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長: PFS中央値はatezolizumab群で5.2ヶ月 (95% CI 4.4-5.6) であったのに対し、プラセボ群では4.3ヶ月 (95% CI 4.2-4.5) であった。病勢進行または死亡のHRは0.77 (95% CI 0.62-0.96; P=0.02) であった (Figure 2B)。atezolizumab群の171例 (85.1%)、プラセボ群の189例 (93.6%) が病勢進行または死亡に至った。6ヶ月PFS率はatezolizumab群で30.9%、プラセボ群で22.4%であり、12ヶ月ではそれぞれ12.6% vs 5.4%と、時間とともに差が拡大した。これは導入期以降の維持療法による持続的な抗腫瘍効果が示唆された。
奏効率 (ORR) と奏効期間 (DOR): 治験担当医評価による客観的奏効率 (ORR) は、atezolizumab群で60.2% (完全奏効 [CR] 2.5% [n=5]、部分奏効 [PR] 57.7% [n=116])、プラセボ群で64.4% (CR 1.0% [n=2]、PR 63.4% [n=128]) と、初回奏効率は両群でほぼ同等であった (Table 2)。奏効の深さ (depth of response) よりも持続性に違いが現れており、データカットオフ時点での奏効持続中の患者はatezolizumab群で18/121例 (14.9%)、プラセボ群で7/130例 (5.4%) と、atezolizumab群で持続奏効が約2.8倍多かった。奏効期間中央値はatezolizumab群で4.2ヶ月 (範囲 1.4-19.5)、プラセボ群で3.9ヶ月 (範囲 2.0-16.1+) であった。安定病変はatezolizumab群で20.9%、プラセボ群で21.3%と同等であった。
サブグループ解析: OSおよびPFSの改善効果は、主要なサブグループ全体で一貫していた (Figure 2C)。脳転移ありの患者 (各群17-18例) では、両群間のOSおよびPFSに差は認められなかったが、症例数が少なく結論を出すことは困難であった。年齢サブグループ解析では、65歳未満の患者でOSのアンバランスが観察されたが、生物学的説明に乏しく追加解析が必要とされた。
血液TMB (bTMB) 探索解析: 403例中374例の血漿検体からbTMBが評価可能であり、そのうち351例 (93.8%) が高品質データとして解析に供された。探索解析の結果、bTMBカットオフ値 (10 mut/Mbまたは16 mut/Mb) の上下でOSおよびPFSのHRはいずれも類似しており、bTMBはatezolizumab上乗せ効果の予測バイオマーカーとはならなかった (Figure 2C)。これは、SCLC全体がすでに高いTMBを示すため、TMBで集団を分けてもICIへの感受性差が生まれにくいという病態を反映すると解釈された。
安全性プロファイル: 安全性評価可能集団はatezolizumab群n=198、プラセボ群n=196であった。治療関連有害事象 (任意グレード) はatezolizumab群で94.9%、プラセボ群で92.3%に発生した。グレード3/4の治療関連有害事象はatezolizumab群で56.6%、プラセボ群で56.1%と両群で同等であり、ICI上乗せによる化学療法毒性の増強は認められなかった (Table 3)。
主要なグレード3/4毒性としては、好中球減少症 (好中球数減少含む) が最も多く、atezolizumab群で22.7%+14.1%、プラセボ群で24.5%+16.8%と両群でほぼ同等であった。貧血もatezolizumab群で14.1%、プラセボ群で12.2%と差はなかった。血小板減少症は10.1% vs 7.7%であった。
免疫関連有害事象はatezolizumab群で79例 (39.9%)、プラセボ群で48例 (24.5%) に発生した。最も多かったのは皮疹 (atezolizumab群で高頻度)、甲状腺機能低下症 (atezolizumab群で12.6%以上 vs プラセボ群で0.5%)、肝炎、注入関連反応であった。グレード3/4の免疫関連有害事象は少数であった。
治療関連死亡は各群で3例 (1.5%) であった。atezolizumab群では好中球減少症1例、肺炎1例、原因不明1例、プラセボ群では肺炎1例、敗血症性ショック1例、心肺不全1例であった。
治療曝露期間中央値はatezolizumabで4.7ヶ月 (範囲0-21)、投与回数中央値は7用量 (範囲1-30) であった。両群でcarboplatin (中央値4用量) およびetoposide (中央値12用量) の投与量は同等であり、ICI上乗せによる化学療法デリバリーへの悪影響は認められなかった。
考察/結論
先行研究との違い: IMpower133試験は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) の初回治療において、免疫療法がOSを有意に改善することを示した初の第III相試験であり、1980年代から変化のなかったED-SCLC治療パラダイムを約20年ぶりに更新した。これは、CTLA-4阻害薬であるipilimumabを用いたCA184-156試験 (Reck et al. 2016) がOS改善を示せなかったことと対照的である。この成功の要因として、PD-L1阻害という標的の選択、導入期からの化学療法とICI同時開始による相乗効果、および病勢進行まで維持療法を継続する戦略が挙げられる。
新規性: 本研究で初めて、ED-SCLCの初回治療において、化学療法にatezolizumabを追加することで、OS中央値を2ヶ月延長し、1年OS率を13.5ポイント改善できることを新規に実証した。これは、SCLCにおける免疫療法の有効性を示す画期的な成果である。また、ORRは両群で同等であったにもかかわらずOSが有意に改善したことは、atezolizumabが生み出す持続的な免疫監視と維持期の「long tail」効果がOSに貢献していることを示唆しており、これは従来の化学療法単独では見られなかった新規の知見である。
臨床応用上の意義: 本試験の結果に基づき、atezolizumab + carboplatin + etoposide併用療法は2019年3月にFDA承認を取得し、続くCASPIAN試験 (durvalumab + EP) とともにED-SCLCの標準治療を刷新した。血液TMBが予測バイオマーカーとならなかったことは、患者選択なしに全例に投与できることを意味し、臨床的には単純明快な適用基準を提供した。安全性面では、化学療法毒性 (Grade 3/4 56.6% vs 56.1%) への上乗せがなく、免疫関連有害事象の管理のみが追加課題となる点も、実臨床での採用を後押しする。
残された課題: SCLCの分子サブタイプ (ASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1) と免疫療法感受性の関係は未解明であり、サブタイプ特異的治療戦略の開発が今後の検討課題である。脳転移例 (本試験では各群約8.5%) での有効性はサンプルサイズ不足で評価困難であったため、さらなる研究が必要である。免疫療法失敗後の2次治療戦略 (topotecan、lurbinectedin、DLL3標的療法のrova-T・tarlatamabなど) も引き続き重要な課題として残されている。本試験はOS中間解析であり、長期生存者のバイオマーカー同定および5年生存率の確認にはさらなるフォローアップが必要である。バイオマーカー開発の観点では、SP142アッセイによるPD-L1はSCLCで腫瘍細胞発現が低く評価困難なため、代替バイオマーカーとしてTMB、Teff遺伝子シグネチャー、腫瘍免疫浸潤評価の継続検討が重要である。
方法
試験デザインと施設:本試験は、二重盲検、プラセボ対照、第III相無作為化比較試験 (IMpower133; NCT02763579) として、21カ国106施設で実施された。試験はGood Clinical Practiceガイドラインおよびヘルシンキ宣言の規定に従い実施され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。
対象患者:組織学的または細胞学的に確認された未治療のED-SCLC患者が対象とされた。VALSG (Veterans Administration Lung Study Group) 病期分類基準に基づく進展型SCLCであり、RECIST v1.1基準で測定可能病変を有し、ECOG PS 0-1の患者が組み入れられた。治療を受けた無症候性脳転移例も組み入れ可能であった。主要な除外基準は、自己免疫疾患の既往およびCD137アゴニストまたは免疫チェックポイント阻害薬による治療歴であった。
無作為化と層別化:合計403例の患者が1:1の比率で無作為に割り付けられた (atezolizumab群 n=201、プラセボ群 n=202)。無作為化は置換ブロック法 (IxRS) を用いて行われ、層別因子は性別、ECOG PS (0 vs 1)、脳転移の有無であった。PD-L1発現は、SCLCにおける腫瘍細胞での発現率が低いことや、先行するatezolizumab第I相試験で奏効との関連が認められなかったことから、スクリーニング時に評価されなかった。
治療レジメン:
- 導入期 (4サイクル、3週毎):carboplatin (AUC 5 mg/mL/min、Day 1) + etoposide (100 mg/m²、Day 1-3) に、atezolizumab 1200 mg静注またはプラセボを併用した。
- 維持期:RECIST基準での病勢進行、忍容不能な毒性、または追加の臨床的利益がないと判断されるまで、atezolizumab 1200 mgまたはプラセボを3週毎に継続投与した (化学療法は維持期なし)。
- 維持期における予防的頭蓋照射は許可されたが、胸部放射線療法は不可であった。病勢進行後も臨床的利益が認められる場合は、治験薬の継続が許可された。
評価項目:主要評価項目は、ITT集団における全生存期間 (OS) および治験担当医評価による無増悪生存期間 (PFS) であった。OSは無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間、PFSは無作為化からRECISTに基づく病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。主要な副次評価項目には、治験担当医評価による客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR) が含まれた。
探索的評価項目:血液ベースの腫瘍変異負荷 (bTMB) の評価が実施された。bTMBは先行研究で報告されたアッセイを用いて評価され (Gandara et al. NatMed 2018)、カットオフ値10 mut/Mbおよび16 mut/Mbを用いて有効性解析が行われた。
安全性評価:有害事象はNCI Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0に基づき評価された。治験担当医が有害事象と治験薬との関連性を判断した。
統計解析:OSの中間解析は、238例の死亡が発生した時点 (データカットオフ日2018年4月24日) で実施された。全体の両側Type Iエラー率0.05を管理するため、群逐次加重Holm法が用いられ、PFSに0.005、OSに0.045の有意水準が割り当てられた。OSの最終解析には306例の死亡が必要とされ、ハザード比 (HR) 0.68を検出するために91%の検出力が設定された。PFSの主要解析はOSの中間解析と同時に実施された。OSおよびPFSの解析には、層別ログランク検定および層別Cox回帰モデルが用いられた。カプラン・マイヤー法により生存確率が推定された。