- 著者: Junshik Hong, Minkyu Jung, Yu Jin Kim, Sun Jin Sym, Sun Young Kyung, Jinny Park, Sang Pyo Lee, Jeong Woong Park, Eun Kyung Cho, Sung Hwan Jeong, Dong Bok Shin, Jae Hoon Lee
- Corresponding author: Eun Kyung Cho (Gachon University Gil Hospital, Incheon, Korea; ekcho@gilhospital.com)
- 雑誌: Cancer Chemotherapy and Pharmacology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2011-06-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 21691745
背景
小細胞肺がん (SCLC) は全肺がんの約15%を占め、急速な倍加時間・高増殖分画・早期広範転移を特徴とする高悪性度腫瘍である。初診時に全患者の約2/3が進展型 (extensive disease; ED) を呈し、胸部照射野外に病変が及ぶため根治的局所療法の適応がない。ED-SCLCに対する標準1次化学療法としてetoposide+cisplatin (EP) またはirinotecan+cisplatin (IP) が長年使用されてきたが、複数の大規模第III相試験にもかかわらず (Noda et al. NEnglJMed 2002; Hanna et al. JClinOncol 2006; Lara et al. JClinOncol 2009)、1980年代中盤以降ED-SCLCの中央値全生存 (overall survival; OS) は約10ヶ月のまま改善されておらず、有効な新規薬剤の開発が手薄な領域であった。
Belotecan (CKD602、Camtobell®、韓国Chong Keun Dang Corp.) はカンプトテシンのBおよびEリングを修飾することで水溶性と抗腫瘍活性を高めた新規カンプトテシン誘導体であり、トポイソメラーゼI (topoisomerase I) 阻害を機序とする。Cleavable complex assayを用いた前臨床研究では、belotecanはtopotecanの3倍、camptothecin比でやや高いトポイソメラーゼI阻害効力を示した。12種のヒトがん細胞株に対するATI (antitumor index; 抗腫瘍指数) はtopotecanの2倍以上 (乳がん・卵巣がん・肺がん細胞株) であった。胃がん細胞株でのcisplatinとの相乗効果も確認されている。第I相試験でのbelotecan単剤最大耐容量は0.7 mg/m²/day (5日間連続、3週毎)、用量制限毒性 (dose-limiting toxicity; DLT) は好中球減少であった。ED-SCLCを対象としたbelotecan単剤第II相試験2件でも有意な活性が確認されたが、cisplatinとの1次治療併用レジメンとしての有効性については知識のgap in knowledgeが存在し、系統的な評価が不足していた。Lee et al.によるbelotecan+cisplatin第I相試験から、第II相推奨用量としてbelotecan 0.5 mg/m²/day (day 1-4) + cisplatin 60 mg/m² (day 1)、3週毎投与が設定された。しかし、未治療ED-SCLC患者に対するbelotecan+cisplatin 1次治療の有効性と安全性は未解明であり、第II相以降の系統的エビデンスが不足していた。
目的
化学療法未治療のED-SCLC患者を対象として、belotecan 0.5 mg/m²/day (day 1-4) + cisplatin 60 mg/m² (day 1) 3週毎投与 [以下BP (belotecan+cisplatin)] の奏効率 (objective response rate; ORR) および安全性を主要エンドポイントとして第II相試験で評価すること。二次エンドポイントは無増悪生存 (progression-free survival; PFS) および全生存 (OS)。
結果
患者背景と治療実施状況: 2008年1月から2010年6月にかけて35例が登録された。中央値年齢68.0歳 (range 51-77)、男性32例 (91.4%)。ECOG PS分布: PS 0 n=3 (8.6%)、PS 1 n=18 (51.4%)、PS 2 n=14 (40.0%) と高PS患者の割合が高い集団であった (Table 1)。乳酸脱水素酵素 (lactate dehydrogenase; LDH) 高値は19例 (54.3%)、体重減少あり9例 (25.7%)。転移部位は胸膜17例・骨11例・肝臓9例・肺 (異葉) 6例・副腎6例・中枢神経系3例・骨髄2例。3ヶ所以上の転移部位を有する患者は13例 (37.1%)。中央値追跡期間14.3ヶ月 (range 2.9-32.8)。中央値投与サイクル数は5回 (range 1-6)。BelotecanのRDI (relative dose intensity; 相対用量強度) は70.1%、cisplatinのRDIは83.0%であった。中央値DI (dose intensity; 実投与量強度) はbelotecan 0.47 mg/m²/週、cisplatin 16.6 mg/m²/週であった。BelotecanのRDI 70.1%は計画投与量強度の約70%にとどまり、重篤な血液毒性による投与延期・減量の頻度を反映する。
奏効率: 35例中5例 (好中球減少性敗血症性ショックによる死亡2例、初回サイクル後の患者辞退3例) を除く30例が奏効評価可能であった。最良総合効果はPR (partial response) 25例 (83.3%)、SD (stable disease) 2例 (6.7%)、PD (progressive disease) 3例 (10%)、CR (complete response) 0例 (Table 2)。ITT (intent-to-treat) 解析によるORRは71.4% (95% CI 55.7-87.2%)、per protocol解析では83.3% (95% CI 69.2-97.5%) であった。13例が2次化学療法を受け、PR 4例・SD 1例・PD 6例であった。
生存アウトカム: 中央値PFSは5.7ヶ月 (95% CI 3.9-7.5ヶ月)、中央値OSは10.2ヶ月 (95% CI 9.3-11.1ヶ月) であった (Fig. 1a, Fig. 1b)。追跡期間中に30例のPFSイベントと20例の死亡が確認された。本試験BP療法mOS 10.2ヶ月 (95% CI 9.3-11.1ヶ月) vs 先行BP第II相試験 (Lee et al. 2010、n=30) mOS 19.2ヶ月 (95% CI 13.3-25.2ヶ月) と比較して本試験の生存は短かったが、患者背景の差 (後述) が主要因と考察された。また、EP療法 (Hanna et al.: 10.2ヶ月、Eckardt et al.: 9.8ヶ月) vs IP療法 (Noda et al.: 12.8ヶ月、Lara et al. [SWOG S0124]: 9.9ヶ月) といった大規模第III相試験の標準療法と比較しても本試験のmOS 10.2ヶ月は同等であった (Table 4)。
安全性・毒性プロファイル: 血液毒性が非血液毒性に比して顕著であった (Table 3)。全Grade有害事象の頻度: 貧血77.1%、好中球減少74.3%、食欲不振57.1%、倦怠感48.6%、血小板減少37.1%。Grade 3-4の重篤血液毒性: 好中球減少 n=24 (68.6%)、白血球減少 n=15 (42.9%)、血小板減少 n=10 (28.6%)、貧血 n=7 (20.0%)。Grade 4好中球減少は19例 (54.3%) に認められ、うち8例が発熱性好中球減少症に進展した。発熱性好中球減少症は全体で8例 (22.9%; Grade 3: 6例、治療関連死: 2例)。8例中5例は培養陰性で感染巣不明であり、6例は広域抗生物質静注療法で回復したが2例 (5.7%) が好中球減少性敗血症性ショックにより治療関連死した。死亡した2例の患者プロファイル: (1) 72歳・ECOG PS 2・体重減少>10%・LDH高値で第1サイクル中死亡; (2) 73歳・ECOG PS 1・LDH高値・血清アルブミン<3.0 g/dLで治療関連死。非血液毒性はGrade 1-2が大半であり、Grade 3-4の口内炎・下痢・末梢神経障害は皆無。Grade 3-4の倦怠感は3例 (8.6%) のみで、その他の非血液毒性 (悪心・嘔吐・便秘・神経障害・腎毒性・肝毒性) の重篤例は認めなかった。Grade 2以上の脱毛は2.8%のみで、EP療法既報 (Grade 2脱毛32.1%) と比較して著明に少なかった。
考察/結論
既存レジメンとの比較と本試験の位置付け: 本試験でのBP療法のITT ORR 71.4% (95% CI 55.7-87.2%) はこれまでの標準EP・IP療法の第III相試験ORR (EP: 43.6-69%、IP: 48-65%) と対照的に高い値を示し、belotecanのED-SCLCに対する活性を支持するものである。mOS 10.2ヶ月はEP療法の既報 (Hanna et al.: 10.2ヶ月、Eckardt et al.: 9.8ヶ月、Lara et al.: 9.1ヶ月) と同程度であった (Table 4)。Lee et al. (2010) による唯一の先行BP第II相試験 (n=30) ではORR 70% (95% CI 50.6-85.3%)・mPFS 6.9ヶ月・mOS 19.2ヶ月が報告されており、ORRは本試験と類似しているが、mOSには顕著な差異が認められる。この差異は患者背景の違いから生じていると考えられる: 本試験の中央値年齢68.0歳は先行試験の59.5歳より高齢であり、ECOG PS 2の患者割合 (40% vs. 10%) が顕著に高く、2次化学療法実施率 (37.1% vs. 56.6%) も低かった。既報の大規模試験の多くでは中央値年齢が60歳前半・ECOG PS 0-1患者が大多数を占めることと照合すれば (Table 4)、本試験はより高リスク・高齢集団を代表するデータとして重要な情報を提供している。
新規性と臨床的意義: Belotecanはカンプトテシン誘導体として新規に開発されたトポイソメラーゼI阻害薬であり、irinotecanとは異なる代謝プロファイルを持つ。Irinotecanの活性代謝物SN-38はUGT1A1によりグルクロン酸抱合を受けるためUGT1A1*6/*28多型保有者での毒性増強が問題となるが、belotecanはこの代謝経路を経ない点が臨床応用上の潜在的優位性として挙げられる。本研究で初めてECOG PS 2が40%を占める高齢・高PS集団を含む未治療ED-SCLC患者に対してBP療法の第II相成績を明示した。非血液毒性プロファイルの優位性—Grade 3-4の口内炎・下痢・神経障害皆無、Grade 2以上脱毛2.8%—はEP療法に比して患者QOL上の臨床的意義がある。韓国では belotecanが再発SCLCに対して国民健康保険の適用を受けており、1次治療データの蓄積はレジメン拡大の根拠として重要性を持つ。
残された課題と今後の検討: 本試験の最大のlimitationはGrade 4好中球減少の高頻度 (54.3%) および治療関連死2例 (5.7%) という重篤な血液毒性プロファイルである。先行Lee et al.試験でも同程度のGrade 4好中球減少 (53%)・発熱性好中球減少症 (30%) が観察されたが治療関連死は皆無であり、本試験での死亡はより高齢・低PS集団への適用に伴うリスクとして理解される。残された課題として、G-CSF予防的投与の組み込み、あるいはbelotecan 25%減量スケジュール (0.5 mg/m²を3日間投与) による毒性軽減戦略の確立が必要である。相対用量強度がbelotecanで70.1%にとどまったことも現行スケジュールの至適性を問い直す根拠となる。単施設・単群デザインによる標準EP療法との無作為比較の欠如は本試験の根本的限界であり、BP対EP第III相無作為化比較試験 [COMBAT (combination chemotherapy with belotecan and cisplatin versus etoposide and cisplatin Treatment trial; NCT00826644; belotecan+cisplatin versus etoposide+cisplatin比較試験)] の進行が今後の研究として不可欠である。本試験の知見はBP療法がED-SCLCで高いORRを達成可能であることを支持するが、OS改善の確認と安全な投与集団の同定のためにより大規模な無作為化試験が必要である。
方法
単群オープンラベル第II相試験。実施施設:韓国・Gachon University Gil Hospital (単施設)。本試験はGachon University Gil Hospitalの施設内審査委員会 (Institutional Review Board; IRB) の承認を受け、全患者から書面インフォームドコンセントを取得した。
適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたED-SCLC、年齢≥18歳、RECIST version 1.0に基づく測定可能病変≥1ヶ所、前化学療法・放射線療法なし、ECOG performance status (PS) 0-2、適切な臓器・骨髄機能 (絶対好中球数≥1,500/μL、血小板≥100,000/μL、ヘモグロビン≥9 g/dL、総ビリルビン≤1.5 mg/dL、AST・ALT≤正常上限の2倍、血清クレアチニン≤1.5 mg/dLまたはクレアチニンクリアランス≥60 mL/min)。コントロール不良な合併症・活動性感染症・重複がんは除外。
治療レジメン: Belotecan 0.5 mg/m²/dayを5%ブドウ糖液100 mLに混合し30分かけて静注 (day 1-4)。Cisplatin 60 mg/m²を生理食塩水150 mLに混合し適切な水和・制吐薬前投与のもと1時間かけて静注 (day 1)。3週毎に繰り返し最大6サイクル実施。疾患進行・忍容不能な毒性・患者辞退で中止。
用量調整: 絶対好中球数 (ANC) が1,000-1,500/μLかつ/または血小板75,000-100,000/μLの場合、belotecanを25%減量 (0.375 mg/m²/day)。ANC≤1,000/μLまたは血小板≤75,000/μLで1週間投与延期。延期が3週を超えた場合は試験中止。Grade 4好中球減少+発熱例では次サイクルのbelotecanを25%減量。一次予防的顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte colony-stimulating factor; G-CSF) は投与しない。二次G-CSF予防はGrade 3-4好中球減少または発熱性好中球減少症発症後の後続サイクルで実施。Cisplatinはクレアチニンクリアランス≤60 mL/minで50%減量、≤40 mL/minで中止。
評価: 腫瘍評価は2サイクル毎に胸部CT等で実施、奏効は初回評価から4週以上後に確認。有害事象はNCI Common Toxicity Criteria (CTC) version 3.0で記録。
統計設計: Simonのminimax 2段階デザインを採用。帰無仮説ORR<50%に対し対立仮説ORR≥75% (検出力85%、有意水準α=0.05)。第1段階:11例登録後≥6奏効なら第2段階へ進行し合計28例登録、≥19奏効で有望と判定。脱落率20%を想定し目標登録数34例。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で解析。全て両側検定、有意水準P<0.05。統計解析はSPSS version 15.0 (SPSS Inc., Chicago, IL) を使用。