- 著者: Owonikoko TK, Park K, Govindan R, Ready N, Reck M, Peters S, et al.
- Corresponding author: Taofeek K. Owonikoko, MD, PhD (Winship Cancer Institute of Emory University)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 33683919
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は、診断時に既に広範囲に転移していることが多く、予後不良な疾患である。一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法が標準であり、初期奏効率は高いものの、その効果は一時的であり、多くの患者で早期に再発を経験する。再発後の治療選択肢は限られており、長期生存は困難な状況が続いている。非小細胞肺癌 (NSCLC) では、維持療法が全生存期間 (OS) の改善に寄与することが示されているが、SCLCにおいては細胞傷害性薬剤や分子標的薬を用いた維持療法が、これまで耐久性のある臨床的ベネフィットをもたらすことはなかったと報告されている (Rossi et al. 2010, Schiller et al. 2001, Ready et al. 2015, Gadgeel et al. 2018)。
近年、免疫チェックポイント阻害薬がSCLCの治療において有望な結果を示している。抗PD-1抗体であるニボルマブと抗CTLA-4抗体であるイピリムマブの併用療法は、再発SCLCを対象とした第I/II相CheckMate 032試験において臨床活性を示すことが報告された (Antonia et al. LancetOncol 2016, Ready et al. JThoracOncol 2019)。これらの免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞の活性化を促進することで抗腫瘍免疫応答を増強する相補的な作用機序を持つ。特に、PD-1/PD-L1経路の阻害は既存の抗腫瘍T細胞の機能を改善し、CTLA-4/B7経路の阻害はT細胞の増殖とde novoの抗腫瘍T細胞応答を誘導すると考えられている (Sharma and Allison 2020, Das et al. 2015)。
しかし、一次化学療法後に進行しなかったED-SCLC患者において、ニボルマブとイピリムマブの併用療法またはニボルマブ単独療法を維持療法として用いることで、OSが改善されるかについては未解明であった。これまでのSCLCにおける維持療法の失敗や、免疫療法の投与タイミングに関する知見の不足が、この領域における重要な知識ギャップとして残されていた。特に、化学療法と免疫療法の最適な組み合わせや投与順序、そして維持療法としての免疫療法の役割は、SCLCの治療戦略において重要な課題であった。本研究は、この未開拓な領域において、大規模な第III相試験を通じて維持免疫療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。
目的
本研究の主要な目的は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者において、一次プラチナ製剤ベースの化学療法後に疾患が進行しなかった症例を対象として、ニボルマブとイピリムマブの併用維持療法がプラセボと比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することであった。
副次的な目的としては、以下の項目が設定された。
- ニボルマブ単独維持療法がプラセボと比較してOSを改善するかどうかを評価する。
- ニボルマブとイピリムマブの併用維持療法がプラセボと比較して無増悪生存期間 (PFS) を改善するかどうかを評価する。
- ニボルマブ単独維持療法がプラセボと比較してPFSを改善するかどうかを評価する。
- ニボルマブとイピリムマブの併用維持療法とニボルマブ単独維持療法の間でOSおよびPFSを比較する。
- 腫瘍変異負荷 (TMB) ステータス別にニボルマブ単独療法および併用療法のOSおよびPFSを評価する。
- 客観的奏効率 (ORR) および奏効持続期間 (DOR) を各治療群で評価する。
- 腫瘍PD-L1発現 (CPS) を独立した予測バイオマーカーとして評価する。
- 各治療群における安全性と忍容性を評価する。
これらの目的は、ED-SCLCにおける維持免疫療法の臨床的有用性を多角的に検証し、最適な治療戦略を確立するための重要な情報を提供することを目指した。
結果
主要評価項目:全生存期間 (OS) - ニボルマブ+イピリムマブ併用群 vs プラセボ群: ニボルマブ+イピリムマブ併用群におけるOS中央値は9.2ヶ月 (95% CI 8.2-10.2) であったのに対し、プラセボ群では9.6ヶ月 (95% CI 8.2-11.0) であった。ハザード比 (HR) は0.92 (95% CI 0.75-1.12, p=0.37) であり、統計的に有意なOSの延長は認められず、主要評価項目は達成されなかった (Figure 1A)。この結果により、階層的検定の規則に従い、以降の副次評価項目の正式な統計的検定は実施されなかった。
全生存期間 (OS) - ニボルマブ単独群 vs プラセボ群: ニボルマブ単独群におけるOS中央値は10.4ヶ月 (95% CI 9.5-12.1) であったのに対し、プラセボ群では9.6ヶ月 (95% CI 8.2-11.0) であった。ハザード比 (HR) は0.84 (95% CI 0.69-1.02) であり、正式な検定は行われなかったものの、ニボルマブ単独療法によるOS改善の傾向が示された (Figure 1B)。
無増悪生存期間 (PFS): 盲検化された独立中央判定によるPFS中央値は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群で1.7ヶ月 (95% CI 1.5-2.6)、ニボルマブ単独群で1.9ヶ月 (95% CI 1.6-2.6)、プラセボ群で1.4ヶ月 (95% CI 1.4-1.5) であった。PFSは両免疫療法群でプラセボ群と比較して改善傾向が認められた。ニボルマブ+イピリムマブ併用群 vs プラセボ群のHRは0.72 (95% CI 0.60-0.87) であり (Figure 1C)、ニボルマブ単独群 vs プラセボ群のHRは0.67 (95% CI 0.56-0.81) であった (Figure 1D)。
客観的奏効率 (ORR) および奏効持続期間 (DOR): ベースラインに少なくとも1つの標的病変を有する患者におけるORRは、ニボルマブ+イピリムマブ併用群で9.1% (95% CI 5.9-13.2)、ニボルマブ単独群で11.5% (95% CI 7.9-16.0)、プラセボ群で4.2% (95% CI 2.1-7.4) であった (Table 2)。奏効持続期間中央値は、併用群で10.2ヶ月 (95% CI 3.5-16.1)、ニボルマブ単独群で11.2ヶ月 (95% CI 7.3-NR)、プラセボ群で8.1ヶ月 (95% CI 2.1-NR) であった。
サブグループ解析および探索的解析: 探索的サブグループ解析では、ニボルマブ単独群において、一次化学療法最終投与からランダム化までの期間が5週間以内であった患者でOS改善の傾向が認められた (HR 0.66, 95% CI 0.49-0.91) (Figure 2)。多変量解析でも、化学療法から維持療法開始までの期間がOSの唯一の予測因子として支持された。年齢65歳未満の患者では、ニボルマブ+イピリムマブ併用群 (HR 0.72, 95% CI 0.54-0.95) およびニボルマブ単独群 (HR 0.74, 95% CI 0.56-0.97) でOS改善の傾向が見られた。
腫瘍変異負荷 (TMB) バイオマーカー解析: TMB評価可能であった患者580名 (69.5%) のうち、TMBが13 mut/Mb以上であった患者は191名 (32.9%) であった。TMBが13 mut/Mb以上のサブグループでは、ニボルマブ+イピリムマブ併用群とプラセボ群のOSにおいて改善傾向が認められた (HR 0.61, 95% CI 0.39-0.94) (Figure 3A)。一方、TMBが13 mut/Mb未満の患者では、OSの改善は認められなかった (HR 1.04, 95% CI 0.79-1.37) (Figure 3B)。TMBカットオフ値10 mut/Mbでは、OS予測能は認められなかった。ニボルマブ単独群においても、TMBが13 mut/Mb以上の患者でOS改善傾向が認められた (HR 0.67, 95% CI 0.45-1.01) (Figure 3A)。
PD-L1 Combined Positive Score (CPS) 解析: PD-L1 CPS評価可能であった患者354名 (42.4%) のうち、CPSが1%以上であった患者は163名 (46.0%) であった。CPSが1%以上または1%未満のいずれのサブグループにおいても、免疫療法群がプラセボ群に対してOSの優越性を示すことはなかった (Figure 3C, 3D)。しかし、CPSが1%以上の患者は、プラセボ群を含め、すべての治療群でCPSが1%未満の患者よりも良好なOSを示し、PD-L1発現がSCLCにおける予後因子である可能性が示唆された。例えば、CPSが1%以上の患者におけるニボルマブ単独群のOS中央値は14.1ヶ月 (95% CI 9.9-21.6) であったのに対し、CPSが1%未満の患者では9.4ヶ月 (95% CI 5.8-11.3) であった。
安全性: 治療関連有害事象 (TRAE) の発現率は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群で85.6%、ニボルマブ単独群で60.9%、プラセボ群で50.2%であった (Table 3)。Grade 3-4のTRAEは、併用群で52.2%、ニボルマブ単独群で11.5%、プラセボ群で8.4%と、併用群で高頻度であった。重篤なTRAEは、併用群で37.4%、ニボルマブ単独群で6.1%、プラセボ群で2.9%であった。TRAEによる治療中止率は、併用群で28.8%、ニボルマブ単独群で7.9%、プラセボ群で0.4%であった。治療関連死は、併用群で7例 (横紋筋融解症、心筋炎、肝不全、辺縁系脳炎、重症筋無力症、脳炎、免疫性大腸炎各1例)、ニボルマブ単独群で1例 (脳炎)、プラセボ群で1例 (肺炎) 報告された。ニボルマブ+イピリムマブ併用群では、ニボルマブの累積投与量がニボルマブ単独群と比較して大幅に少なかった。併用群ではニボルマブの投与中央値が2.0回 (1-45回)、累積投与量が2.0 mg/kgであったのに対し、ニボルマブ単独群では投与中央値が5.0回 (1-54回)、累積投与量が16.5 mg/kgであった。この投与量の差は、併用療法における高い毒性プロファイルに起因する治療中止率の高さが原因である可能性が示唆された。
考察/結論
CheckMate 451試験は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) において、一次プラチナ製剤ベースの化学療法後に進行が認められなかった患者を対象とした、免疫チェックポイント阻害薬による維持療法の有効性を検証した初の第III相大規模試験であった。しかしながら、主要評価項目であるニボルマブとイピリムマブ併用維持療法による全生存期間 (OS) の有意な延長は達成されなかった (HR 0.92, 95% CI 0.75-1.12, p=0.37)。ニボルマブ単独療法もOSを有意に延長しなかった (HR 0.84, 95% CI 0.69-1.02)。
先行研究との違い: 本研究の結果は、ED-SCLCの一次治療において化学療法と免疫療法を併用し、その後に免疫療法を維持療法として継続する戦略がOSを改善した先行研究 (Horn et al. NEnglJMed 2018, Paz et al. Lancet 2019, Rudin et al. JClinOncol 2020) とは対照的であった。これらの先行研究では、免疫療法が化学療法と同時または直後に投与されており、本研究のように化学療法終了から維持療法開始までに一定の期間が空くデザインとは異なる。この投与タイミングの差が、本研究のネガティブな結果に影響を与えた可能性が考えられる。特に、SCLCは腫瘍増殖速度が速く、化学療法終了後の短い期間でも疾患進行のリスクが高いことが知られている。本研究では、化学療法最終投与から維持療法開始までの期間中央値が5.6週間であり、この遅延が一部の患者で維持療法開始前に疾患進行を招いた可能性がある。実際に、探索的解析では、化学療法最終投与から維持療法開始までの期間が短いほど、ニボルマブ単独療法におけるOS改善の傾向が認められた (HR 0.66, 95% CI 0.49-0.91)。
新規性: 本研究で初めて、ED-SCLCの維持療法におけるニボルマブとイピリムマブの併用療法の安全性プロファイルが、これまでのSCLCにおける同用量・同スケジュールでの報告 (Antonia et al. LancetOncol 2016) と一貫していることが示された。新たな安全性シグナルは観察されなかったものの、併用療法群ではGrade 3-4の治療関連有害事象 (TRAE) が52.2%と高頻度であり、ニボルマブ単独群 (11.5%) やプラセボ群 (8.4%) と比較して高かった。これにより、併用療法群ではニボルマブの曝露量が少なくなる傾向が見られ、これが有効性に影響した可能性も指摘される。
臨床応用: 腫瘍変異負荷 (TMB) が13 mut/Mb以上のサブグループにおいて、ニボルマブとイピリムマブ併用療法でOS改善の傾向が認められた (HR 0.61, 95% CI 0.39-0.94)。これは、高TMB患者が免疫チェックポイント阻害薬の恩恵を受けやすいという、非小細胞肺癌における知見 (Hellmann et al. NEnglJMed 2018) や、SCLCにおけるCheckMate 032試験の探索的解析 (Hellmann et al. CancerCell 2018) と一致する。この結果は、TMBがED-SCLCにおける免疫療法のバイオマーカーとして臨床応用される可能性を示唆するが、本解析は探索的なものであり、さらなる検証が必要である。PD-L1発現は、免疫療法の有効性を予測するバイオマーカーとしては機能しなかったが、CPSが1%以上の患者は、プラセボ群を含め、すべての治療群で良好なOSを示しており、PD-L1発現がSCLCの予後因子である可能性が示唆された。
残された課題: 本研究の主要な限界は、維持療法開始までの遅延と、併用療法群におけるニボルマブ曝露量の低下が、有効性の欠如に寄与した可能性である。SCLCの急速な増殖特性を考慮すると、化学療法終了後速やかに免疫療法を開始する戦略、あるいは化学療法と免疫療法の同時併用戦略のさらなる検証が今後の検討課題として残されている。また、TMBなどのバイオマーカーを用いた患者選択により、免疫療法の恩恵を最大限に引き出す治療戦略の開発も今後の研究方向性となる。本研究のネガティブな結果は、SCLCの維持療法における免疫療法の最適な投与タイミング、用量、および患者選択の重要性を浮き彫りにした。
方法
CheckMate 451 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02538666) は、32カ国168施設で実施されたランダム化二重盲検3群比較の第III相試験である。
患者選択: 対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたED-SCLC、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0または1、かつ3〜4サイクルのプラチナ製剤ベースの一次化学療法後に疾患進行が認められなかった(完全奏効 [CR]、部分奏効 [PR]、または安定疾患 [SD])成人患者であった。ランダム化は、化学療法最終投与から9週間以内(予防的頭蓋照射 [PCI] を受けた患者は11週間以内)に行われた。試験薬は化学療法最終投与から3週間以上、放射線療法最終投与から2週間以上経過後に投与された。
試験デザインと治療: 患者は1:1:1の比率で以下の3群のいずれかにランダムに割り付けられた。
- ニボルマブ+イピリムマブ併用群: ニボルマブ 1 mg/kgとイピリムマブ 3 mg/kgを3週間ごとに12週間投与後、ニボルマブ 240 mgを2週間ごとに投与。
- ニボルマブ単独群: ニボルマブ 240 mgを2週間ごとに投与。
- プラセボ群: ニボルマブおよびイピリムマブに対応するプラセボを投与。 治療は最大2年間、または疾患進行、許容できない毒性が発現するまで継続された。クロスオーバーは許可されなかった。ランダム化はECOG PS (0 vs 1)、性別 (男性 vs 女性)、およびPCIの有無 (あり vs なし) で層別化された。
評価項目: 主要評価項目は、ランダム化から評価されるニボルマブ+イピリムマブ併用群とプラセボ群のOSであった。副次評価項目は階層的に検定され、OS (ニボルマブ単独群 vs プラセボ群)、PFS (併用群 vs プラセボ群)、PFS (ニボルマブ単独群 vs プラセボ群) の順で評価された。その他の副次評価項目として、併用群とニボルマブ単独群のOSおよびPFS、TMBステータス別のOSおよびPFS、ORR、DOR、PD-L1 CPSが探索的に評価された。腫瘍評価はRECIST v1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、盲検化された独立中央判定により実施された。有害事象 (AE) はNCI-CTCAE v4.0を用いて評価された。
バイオマーカー解析: TMBはFoundationOne CDxアッセイを用いて、mutations per megabase (mut/Mb) で評価された。PD-L1発現レベルはDako PD-L1 IHC 28-8 pharmDxアッセイを用いて、CPS (Combined Positive Score) で決定された。CPSはPD-L1陽性細胞(腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージ)の総数を生存腫瘍細胞の総数で割り、100を乗じた値と定義された。TMBカットオフ値は10 mut/Mbおよび13 mut/Mb、PD-L1 CPSカットオフ値は1%として、OSおよびPFSが評価された。
統計解析: 約810名の患者がランダム化される計画であった。主要評価項目は、386件以上の死亡イベントが観察された時点で解析された。これは、ログランク検定により、併用群がプラセボ群に対してハザード比 (HR) 0.72を検出するのに約90%の検出力を持つと推定された (両側有意水準0.05)。階層的検定手順が用いられ、主要評価項目が統計的に有意であった場合にのみ、次の副次評価項目が検定された。OSおよびPFS曲線はカプラン・マイヤー法を用いて推定され、HRおよび95%信頼区間 (CI) は層別化されたCox比例ハザードモデルを用いて推定された。最終的な有効性および安全性解析は、ITT集団に基づいて行われた。