- 著者: Matthew D. Hellmann, Margaret K. Callahan, Mark M. Awad, Emiliano Calvo, Paolo A. Ascierto, Akin Atmaca, Naiyer A. Rizvi, Fred R. Hirsch, Giovanni Selvaggi, Joseph D. Szustakowski, Ariella Sasson, Ryan Golhar, Patrik Vitazka, Han Chang, William J. Geese, Scott J. Antonia
- Corresponding author: Matthew D. Hellmann (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-05-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 29731394
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の 10–15% を占め、初診時 75% が進展型 (ED-SCLC) であり、プラチナ化学療法後再発例の予後は極めて不良である。標準的な一次治療はプラチナ製剤ベースの化学療法であるが、進行した患者には有効な治療選択肢が少なく、予後不良が常態化している (Alvarado-Luna and Morales-Espinosa, 2016、National Comprehensive Cancer Network 2017)。CheckMate-032 試験では、既治療 SCLC に対し、PD-1 阻害薬であるニボルマブ単剤療法(推定 2 年 OS 14%, n=98)および CTLA-4 阻害薬であるイピリムマブとの併用療法(2 年 OS 26%, n=61)が持続的な奏効と良好な生存期間を示し、NCCN ガイドラインで二次治療以降の選択肢に組み込まれた (Antonia et al. Lancet Oncol. 2016、Hellmann et al. J Thorac Oncol 2016)。しかし、SCLC における PD-L1 発現は低頻度(約 18%)であり、PD-L1 発現と治療奏効との相関は弱く、有効な患者を予測するバイオマーカーは未確立であった。この点において、SCLCにおける効果的な患者層別化は依然として大きな課題として残されている。
SCLC は喫煙との関連が強く、高頻度の体細胞変異を特徴とする (George et al. Nature 2015、Peifer et al. Nat Genet 2012、Rudin et al. Nat Genet 2012)。これは DNA 修復機構の異常を含む多様な経路に影響を及ぼす可能性がある (Gazdar et al. Nat Rev Cancer 2017)。非小細胞肺癌 (NSCLC)、尿路上皮癌、メラノーマなどの他の固形癌では、高い腫瘍変異量 (TMB) が免疫チェックポイント阻害薬単剤療法の有効性向上と関連することが報告されている (Carbone et al. NEnglJMed 2017、Galsky et al. Ann Oncol 2017、LeDung et al. Science 2017、Rizvi et al. Science 2015、Rosenberg et al. Lancet 2016、Snyder et al. NEnglJMed 2014)。しかし、SCLC において TMB が免疫チェックポイント阻害薬の有効性予測因子となるか、特にニボルマブとイピリムマブのデュアルチェックポイント阻害療法においても TMB が予測因子として機能するかは未解明であった。SCLC の TMB は高いものの、その範囲が比較的狭いため、免疫療法に対する臨床的反応が異なるサブグループを特定するのに十分な分子多様性があるかどうかも不明であった。したがって、SCLC における免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測するバイオマーカーの特定は、患者選択と治療戦略の最適化において重要な課題として残されており、既存のバイオマーカーではこのニーズを満たすには情報が不足していた。
目的
本研究の目的は、CheckMate-032 試験の非ランダム化およびランダム化 SCLC コホートを統合し、全エクソームシーケンス (WES) によって評価された腫瘍変異量 (TMB) が、ニボルマブ単剤療法およびニボルマブとイピリムマブ併用療法の以下の臨床転帰と関連するかを検証することである。(a) 客観的奏効率 (ORR)、(b) 無増悪生存期間 (PFS)、(c) 全生存期間 (OS)。さらに、TMB の階層化によって、単剤療法と併用療法の間の治療効果の差を予測できるかを評価することも目的とした。これにより、SCLC 患者における免疫チェックポイント阻害薬の個別化医療のための TMB の潜在的な役割を明らかにすることを目指した。また、TMB が SCLC において予後因子としてではなく、免疫療法に対する予測バイオマーカーとして機能するかを、免疫療法未治療の独立コホートを用いて検証することも目的とした。本研究は、SCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬の最適な使用戦略を確立するための重要なエビデンスを提供することを意図した。
結果
TMB 分布と代表性: TMB 評価可能集団 211 例のベースライン臨床特性および治療転帰は、全治療患者 401 例と類似しており、選択バイアスなく試験全体の代表的な集団として解析可能であることが示された (Table 1, Figure S2)。SCLC の TMB 分布は、独立した SCLC コホート (George et al. Nature 2015) および NSCLC の CheckMate-026 試験の分布と類似していたが、その範囲は比較的狭かった (Figure S3)。PD-L1 発現 ≥1% の患者は全体的に稀であり、TMB との相関は認められず、客観的奏効率 (ORR) とも独立した関連を示した (Table S2, Table S3)。
客観的奏効率 (ORR) と TMB の関連: ニボルマブ単剤療法群では、高 TMB 群の ORR は 21.3% であったのに対し、中 TMB 群では 6.8%、低 TMB 群では 4.8% であった。ニボルマブ + イピリムマブ併用療法群では、高 TMB 群の ORR は 46.2% であったのに対し、中 TMB 群では 16.0%、低 TMB 群では 22.2% であった (Figure 2)。すべての TMB 階層において併用療法が単剤療法を上回る ORR を示したが、特に高 TMB 群では併用療法の優位性が顕著であり (46.2% vs 21.3%)、単剤療法の約 2 倍の ORR を達成した。完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を達成した患者の TMB は、病勢安定 (SD) または病勢進行 (PD) の患者よりも一貫して高かった (Figure 3)。
無増悪生存期間 (PFS) と TMB の関連: ニボルマブ単剤療法群における 1 年 PFS 率は、高 TMB 群で 21.2% であったのに対し、中 TMB 群で 3.1%、低 TMB 群では算出不能であった。ニボルマブ + イピリムマブ併用療法群では、高 TMB 群の 1 年 PFS 率は 30.0% であったのに対し、中 TMB 群では 8.0%、低 TMB 群では 6.2% であった (Figure 4)。高 TMB 群では併用療法が単剤療法よりも高い PFS を示し、特に高 TMB 併用群が最も良好な転帰を示した。低 TMB 群では、両治療群間で PFS に大きな差は認められなかった。
全生存期間 (OS) と TMB の関連: ニボルマブ単剤療法群における 1 年 OS 率は、高 TMB 群で 35.2% であったのに対し、中 TMB 群で 26.0%、低 TMB 群で 22.1% であった。ニボルマブ + イピリムマブ併用療法群では、高 TMB 群の 1 年 OS 率は 62.4% であったのに対し、中 TMB 群で 19.6%、低 TMB 群で 23.4% であった (Figure 5)。高 TMB 併用群では 1 年 OS 率が単剤療法の約 2 倍に達し、既治療 SCLC の歴史的予後(1 年 OS 約 30%)を大きく上回る結果であった。高 TMB 群における併用療法の OS は、単剤療法と比較して HR 0.65 (95% CI 0.50-0.85, p<0.001) で有意な改善を示した。低 TMB および中 TMB 群では、両治療群間で OS に実質的な差は認められなかった。
TMB カットポイントの頑健性と予測的役割: TMB を中央値、tertile、quartile のいずれで分割しても、治療効果との一貫した関連が示された (Figure S5A, S5B)。これは、SCLC において「単一のカットポイントで利益を捉える」というよりは、「連続的な用量反応関係」が示唆されることを意味する。NSCLC (CheckMate-026) と SCLC における TMB-ORR の ROC 曲線は類似しており、TMB が肺癌全体にわたる免疫療法の予測因子である可能性が示唆された (Figure S5C, S5D)。免疫療法非投与の独立 SCLC コホート (George et al. Nature 2015) では、TMB tertile 間で OS に差は認められなかった (Figure S6)。この結果は、TMB が SCLC において「予後因子」ではなく、免疫療法という文脈での「予測バイオマーカー」として機能することを裏付けるものであった。
WES の実行可能性: 本研究では、61% の患者で WES に十分な検体が得られ、そのうち 86% でシーケンスが成功した。SCLC の腫瘍は小生検や壊死組織が多いという特性を考慮すると、この成功率は実用的な範囲内であると評価された。これは、SCLC における TMB の分子解析が技術的に実行可能であることを示している。
考察/結論
本研究は、小細胞肺癌 (SCLC) において腫瘍変異量 (TMB) がニボルマブ単剤療法およびニボルマブとイピリムマブ併用療法の効果予測バイオマーカーとなることを示した初の報告である。この知見は、SCLC における免疫チェックポイント阻害薬の治療戦略を個別化する上で重要な臨床的含意を持つ。
先行研究との違い: これまでの研究では、SCLC における免疫チェックポイント阻害薬の予測バイオマーカーは確立されていなかった。特に、PD-L1 発現は SCLC において低頻度であり、治療奏効との相関も弱かった。本研究は、他の固形癌で報告された TMB と免疫チェックポイント阻害薬の効果の関連が、SCLC においても同様に成立することを示した点で、これまでの知見と対照的である。また、デュアルチェックポイント阻害療法における TMB の予測的役割をSCLCで初めて評価した点も新規性がある。
新規性: 本研究で初めて、高 TMB の SCLC 患者において、ニボルマブとイピリムマブの併用療法が単剤療法よりも明確な臨床的利益(ORR、PFS、OS の改善)をもたらすことを新規に同定した。特に、高 TMB 併用群における 1 年 OS 率 62.4% は、既治療 SCLC 患者の歴史的予後(約 30%)を大きく上回るものであり、これまで報告されていない画期的な結果である。TMB が SCLC において予後因子ではなく、免疫療法に対する予測バイオマーカーとして機能することも、非投与コホートとの比較により初めて裏付けられた。
臨床応用: 本知見は、SCLC 患者における免疫チェックポイント阻害薬の個別化医療への臨床応用に直結する。具体的には、高 TMB の SCLC 患者ではニボルマブ + イピリムマブ併用療法が最も高い治療効果を期待できる強力な根拠が提示された。一方、低 TMB または中 TMB の患者では、併用療法と単剤療法の PFS/OS 差は乏しく、イピリムマブ上乗せによる毒性増加を考慮すると、ニボルマブ単剤療法がより好ましい選択肢となりうるという、ベネフィット/リスクの個別化の根拠が示された。これは、限られた治療選択肢しかない SCLC 患者にとって、最適な治療法を選択するための重要な指針となる。また、本研究は、TMB が肺癌全体にわたる免疫療法のバイオマーカーとして機能する可能性を示唆しており、他の肺癌患者への応用も期待される。
残された課題: 本研究は探索的解析であり、コントロールアームがないこと、および WES が後ろ向きに実施され、47% の患者が解析不能であった点が Limitation として挙げられる。これらの結果は、より大規模なランダム化比較試験において前向きに検証される必要がある。CheckMate-331 (ニボルマブ vs トポテカン) や CheckMate-451 (維持療法) などの進行中の第 III 相試験で、TMB と治療転帰の関連がさらに評価される予定である。今後の検討課題として、TMB の最適なカットポイントのさらなる検証と最適化、および免疫原性に最も寄与する体細胞分子特徴の理解を深める努力が残されている。本論文は、TMB-high にわたるパンキャンサーでのペムブロリズマブ加速承認や、SCLC における PD-L1/TMB を超えたバイオマーカー探索(神経内分泌サブタイプ、炎症性表現型、SCLC-A/N/P/I 分類など)への重要な踏み石となった。
方法
本研究は、CheckMate-032 試験 (ClinicalTrials.gov 識別子: NCT01928394) の SCLC コホートを対象とした探索的解析である。全治療患者 401 例(ニボルマブ 3 mg/kg q2w 単剤療法:245 例、ニボルマブ 1 mg/kg + イピリムマブ 3 mg/kg q3w × 4 サイクル後にニボルマブ維持療法:156 例)から、WES に十分な量のペア腫瘍組織と全血検体が確保できた 61% の患者に対して WES を試行した。WES はこれらの患者の 86% で成功し、最終的に 211 例(全治療患者の 53%)が TMB 評価可能集団として解析対象となった (Figure 1)。
TMB は、体細胞性ミスセンス変異の総数として定義され、過去の報告と同様に tertile(低 TMB: 0–<143 変異、中 TMB: 143–247 変異、高 TMB: ≥248 変異)に分類された。TMB は、FoundationOne の 315 遺伝子パネルに in silico フィルタリングした推定値とも高い相関を示すことが確認された (Figure S4)。PD-L1 発現(28-8 抗体)も同時に評価された。
WES データ処理は Sentieon の体細胞変異パイプラインバージョン 201704.01 を使用し、The Broad Institute の MuTect1 を用いた体細胞変異検出のベストプラクティスを独自に再実装したものである (Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013)。BWA (version 0.7.15) を用いて FASTQ ファイルをヒトゲノム参照配列 hg19 にアラインメントし、重複除去、挿入・欠失周辺の再アラインメント、塩基品質スコアの再キャリブレーションを行った。体細胞変異は Sentieon の TNsnv (Mutect1 の再実装) および Strelka (v1.0.15) を用いて同定された。変異は snpEff (v4.1c) でアノテーションされ、一般的な一塩基多型 (SNP) は 1000 Genomes phase 1、Mills insertions and deletions、ExAC (r3.0)、dbSNP (release 138) と比較して除外された。ただし、COSMIC (v67) にも存在する変異は保持された。
統計解析は R version 3.4.1 を使用して実施された。生存期間の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられた。奏効率とその正確な 95% 信頼区間 (CI) の推定には Clopper–Pearson 法が用いられた。TMB と治療効果の関連は、中央値、tertile、quartile など複数のカットポイントで評価され、連続変数としての TMB と客観的奏効率の関連については ROC (Receiver Operating Characteristic) 解析も実施された。また、免疫療法非投与の独立 SCLC コホート (George et al. Nature 2015) において TMB が予後マーカーとして機能するかを検証し、TMB の予測的役割を裏付けた。主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) であった。治療効果の評価には RECIST v1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) が用いられた。