- 著者: Pujol JL, Daures JP, Riviere A, Quoix E, Westeel V, Quantin X, Breton JL, Lemarie E, Poudenx M, Milleron B, Moro D, Debieuvre D, Le Chevalier T
- Corresponding author: Jean-Louis Pujol (Hopital Universitaire Arnaud de Villeneuve, Montpellier, France)
- 雑誌: Journal of the National Cancer Institute
- 発行年: 2001
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 11181777
背景
進展型小細胞肺癌 (extensive SCLC, ES-SCLC) は、その高い増殖能と早期からの転移傾向により、診断時にはすでに進行していることが多い。標準的な化学療法として、エトポシドとシスプラチン (EP) の併用療法が世界的に確立された有効性と許容可能な毒性を示してきた。しかし、EP療法による長期成績は依然として不満足なものであり、2年生存率および5年生存率は低く、治療後の再発や二次耐性の発生が予後不良の主要な原因であった。この課題に対し、化学療法を強化する様々な戦略が議論されてきた。これには、(1) Schabel仮説に基づく用量強化、(2) Goldie-Coldmanモデルに基づく異なる作用機序を持つ薬剤の組み合わせによる耐性クローン出現抑制、(3) サイクル間隔短縮による用量密度 (dose density) の向上、(4) 標準併用療法への新規薬剤追加—の4つのアプローチが含まれる。
先行研究では、EP療法にシクロホスファミドとアントラサイクリン系薬剤である4’-エピドキソルビシンを追加した4剤併用療法 (PCDE) が有望な成績を示唆していた。例えば、Pujol et al. (1997) の研究では、高用量4剤併用療法が検討され、一定の有効性が示唆されている。また、Murray et al. (1999) はCODE療法とCAV/EP交互療法の比較を行い、多剤併用療法の可能性を探っている。しかし、これらの多剤併用療法が標準EP療法と比較して全生存期間を改善するかどうかについては、大規模な無作為化比較試験による明確な検証が不足していた。特に、用量強化戦略については、Ihde et al. (1994) の研究のように、高用量エトポシドとシスプラチンが必ずしも生存改善につながらないという報告もあり、その有効性は未解明な部分が残されていた。
本研究は、French Federation of Cancer Institutesの研究者間協力により、この仮説を検証するために計画された無作為化第III相試験である。EP療法にシクロホスファミドと4’-エピドキソルビシンを追加したPCDE療法が、標準EP療法と比較してES-SCLC患者の生存期間を改善し、かつ許容可能な毒性プロファイルを持つかを評価することが目的とされた。この研究は、多剤併用による治療強化がES-SCLCの予後を改善しうるかという、当時の臨床における重要な知識ギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者を対象に、標準的なエトポシドとシスプラチン (EP) 併用療法と、それにシクロホスファミドおよび4’-エピドキソルビシンを追加した4剤併用療法 (PCDE) を比較し、PCDE療法がEP療法単独と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを検証することである。副次的な目的として、両治療群における客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (TTP)、毒性プロファイル (特に血液毒性および治療関連死)、および患者の生活の質 (QOL) を評価し、PCDE療法の臨床的意義と安全性プロファイルを詳細に明らかにすることを目指した。これにより、ES-SCLCの治療戦略における多剤併用療法の役割を確立し、将来の治療ガイドラインに貢献するエビデンスを提供することが意図された。
結果
患者背景: EP群109例、PCDE群117例の計226例が登録された。6例 (2.6%) が適格性違反で除外されたが、intention-to-treat解析が実施された。両群間で、年齢、性別、パフォーマンスステータス (PS)、転移部位、血清乳酸脱水素酵素 (LDH)、神経特異エノラーゼ (NSE) などの前治療因子に統計学的な有意差は認められなかった (Table 1)。無作為化から治療開始までの期間も両群間で差はなく、95%の患者が24時間以内に初回化学療法を受けていた。
奏効率と治療完了率: PCDE群の客観的奏効率 (CR+PR) は76% (CR 21% + PR 55%) であり、EP群の61% (CR 13% + PR 48%) と比較して有意に高かった (p=0.02)。早期の病勢進行 (PD) はEP群で22%、PCDE群で9%と、PCDE群で明らかに低かった。計画された6サイクルの治療完遂率はPCDE群で64%、EP群で53%であった (p=0.09)。治療中止の理由は両群間で有意に異なり (Table 2)、EP群では病勢進行による中止が32%に対しPCDE群では9% (p<0.0001) と高率であった一方、PCDE群では毒性による中止が15%に対しEP群では5% (p=0.007) と高率であった。エトポシドおよびシスプラチンの実際の用量強度は、PCDE群でEP群よりも有意に低かった (Table 3)。予防的全脳照射はEP群の5% (n=5) に対し、PCDE群では13% (n=15) の患者に実施された (p=0.02)。また、二次治療はEP群の64%に対し、PCDE群の44%で実施された (p=0.003)。
全生存期間 (OS): 追跡期間中央値2年時点で196例の死亡が確認された。PCDE群の全生存期間中央値 (MST) は10.5ヶ月、EP群は9.3ヶ月であり、PCDE群で統計学的に有意な生存期間の延長が認められた (ログランク検定 p=0.0067) (Fig. 3)。1年生存率はPCDE群で40%、EP群で29%であり、18ヶ月生存率はそれぞれ18%と9%であった。Cox比例ハザードモデルによる多変量解析では、PCDE群への割り付けが独立した予後因子として確認され、死亡の相対リスク (RR) は0.70 (95% CI 0.51-0.95, p=0.0259) であった。他の独立予後因子は、血清NSE値が25 ng/mL未満であること (RR 0.51, 95% CI 0.37-0.74, p=0.0002) と、PSが0または1であること (RR 0.61, 95% CI 0.38-0.97, p=0.0368) であった (Table 5)。
無増悪生存期間 (TTP): PCDE群のTTP中央値は7.2ヶ月、EP群は6.3ヶ月であり、PCDE群で有意な延長が認められた (ログランク検定 p<0.0001) (Fig. 4)。Cox多変量解析では、PCDE群への割り付けによる病勢進行の相対リスクは0.55 (95% CI 0.41-0.76) と、より顕著な効果が示された。再発様式は両群間で有意に異なり、EP群では局所再発が70% vs 50% (p=0.02) と高率であった。脳転移再発はPCDE群で32% vs 48% (p=0.06) と、EP群で高い傾向が認められた。
血液毒性の増悪: PCDE群では、グレード3/4の血液毒性がEP群と比較して有意に高率で観察された (Table 4)。具体的には、好中球減少症が99% vs 85% (p<0.0001)、貧血が51% vs 18% (p<0.0001)、血小板減少症が78% vs 18% (p<0.0001) であった。全グレードの発熱は70% vs 18% (p<0.0001)、確認された感染症は22% vs 8% (p=0.0038) と、PCDE群で顕著に増加した。赤血球輸血 (45% vs 13%)、血小板輸血 (38% vs 5%)、抗菌薬静注 (67% vs 26%) の必要性もPCDE群で有意に高かった (全てp<0.0001)。毒性管理のための再入院期間中央値は、PCDE群で平均8日 (95% CI 6-10)、EP群で1.6日 (95% CI 0.6-2) であり、PCDE群で有意に長かった (p=0.0001)。グレード4好中球減少および血小板減少までの期間もPCDE群で有意に短かった (それぞれ中央値0.5ヶ月 vs 3.5ヶ月、p<0.0001)。
心毒性と治療関連死: PCDE群では心毒性が8% (1例の致死的心筋梗塞と8例の無症候性左室機能低下) であり、EP群の2%と比較して有意に高かった (p=0.04)。治療関連死はPCDE群で9%、EP群で5.5%であり、統計学的な有意差はなかった (p=0.22)。治療関連死の主な原因は血液毒性 (17例中13例) と放射線後の肺線維症 (3例) であった。特に、PCDE群のPS 2患者では治療関連死率が29% (5/17) に達し、PS 0-1患者の6% (6/100) と比較して有意に高かった (p=0.01)。EP群ではPSによる治療関連死率の差は認められなかった。
QOL: Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993およびLC13モジュールによるQOL評価では、両群ともに治療中の全般的健康状態が同様に改善し、4剤併用によるQOLへの負の影響は認められなかった。痛みと呼吸困難の症状スコアは、PCDE群でEP群よりも最終スコアが良好であった (痛みスコア: EP群25 vs PCDE群15, p=0.011)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者において、標準的なエトポシドとシスプラチン (EP) 併用療法と比較して、シクロホスファミドと4’-エピドキソルビシンを追加した4剤併用療法 (PCDE) が、奏効率と全生存期間 (OS) を統計学的に有意に改善することを示した初の大規模無作為化第III相試験である。全生存期間中央値が10.5ヶ月 vs 9.3ヶ月 (ハザード比 0.70, 95% CI 0.51-0.95, p=0.0067) と改善したことは、Goldie-Coldmanモデルに基づく多剤併用による二次耐性クローン出現抑制の仮説を部分的に支持するものである。これまでのES-SCLCにおける治療強化戦略に関する研究は、用量強化やサイクル短縮に焦点を当てることが多かったが、本研究は標準EP療法に異なる作用機序の薬剤を追加するアプローチの有効性を検証した点で、先行研究と異なる。特に、Arriagada et al. NEnglJMed 1993が限局型SCLCで用量強化の有効性を示唆した一方で、Ihde et al. (1994) は進展型SCLCにおける高用量EPの優位性を示せなかった。本研究は、用量強度だけでなく、薬剤の組み合わせ自体が予後改善に寄与する可能性を示唆した点で、これまでの知見を補完する。
新規性: 本研究で初めて、EPにシクロホスファミドと4’-エピドキソルビシンを追加するPCDEレジメンが、EP単独と比較してES-SCLC患者のOSを有意に延長することを示した。これは、多剤併用による治療強化が、ES-SCLCの治療成績向上に貢献しうるという新規の知見である。また、QOLが損なわれない形で生存期間が延長された点も、本研究の重要な新規性である。
臨床応用: 本知見は、ES-SCLC患者の治療選択肢として、より強力な多剤併用療法が有効である可能性を示唆する。特に、若年で良好なパフォーマンスステータス (PS 0-1) を有し、臓器機能が保持された患者においては、PCDE療法が選択肢となりうる。しかし、生存延長の絶対値は1.2ヶ月と限定的であり、グレード3/4の血液毒性 (好中球減少症99% vs 85%、貧血51% vs 18%、血小板減少症78% vs 18%)、感染症 (22% vs 8%)、治療関連死 (9% vs 5.5%)、および心毒性の増加との引き換えであるため、臨床的意義は慎重に評価されるべきである。特に、PS 2の患者ではPCDE群で治療関連死率が29%に達したことから、この集団へのPCDEの推奨はできない。
残された課題: 今後の検討課題として、PCDEの長期生存への影響(2年生存率や治癒率)が限定的であった点が挙げられる。ES-SCLCの根治を目指すためには、さらなる新規治療戦略の開発が不可欠である。また、本研究は2001年に発表されたものであり、現在のES-SCLCの標準治療が免疫チェックポイント阻害剤(例えばアテゾリズマブやデュルバルマブ)とEP療法の併用(IMpower133試験やCASPIAN試験)に置き換わっている現状では、PCDEの直接的な臨床的適用は限定的である。しかし、本試験は多剤併用の有効性と毒性のトレードオフを明確に示した意義深い研究であり、その後のSCLC治療開発における患者選択や支持療法最適化の議論の基礎となった。
方法
本研究は、1996年3月から1999年3月にかけて、フランス国内の19施設で実施された多施設共同無作為化第III相臨床試験 (RCT) である。合計226例の未治療組織学的確診SCLC患者が登録された。本研究は米国国立がん研究所のCANCERLIT®/PDQ®データベースに登録された。
患者適格基準: 進展型SCLC (片側胸郭を越える病変、遠隔転移または悪性胸水を含む)、WHOパフォーマンスステータス (PS) 2以下、年齢75歳未満、過去3ヶ月間の体重減少10%以下、好中球数2000/µL以上、血小板数10万/µL以上、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼが正常上限値の2倍未満、血清ナトリウム125 mmol/L以上、クレアチニンクリアランス60 mL/min以上、左室駆出率 (LVEF) 50%超、および少なくとも1つの二次元測定可能病変を有すること。以前の治療歴や悪性疾患の既往(適切に管理された基底細胞癌を除く)、症候性脳転移を有する患者は除外された。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、本研究はモンペリエ大学病院医療倫理委員会によって承認された。
治療プロトコル: 患者はEP群 (n=109) またはPCDE群 (n=117) に1:1で無作為に割り付けられた。
- EP群: エトポシド100 mg/m²をday 1-3に、シスプラチン100 mg/m²をday 2に投与した。
- PCDE群: EP療法に加えて、シクロホスファミド400 mg/m²をday 1-3に、4’-エピドキソルビシン40 mg/m²をday 1に投与した。 両群ともに4週間ごとにサイクルを繰り返し、合計6サイクルが計画された。シスプラチンは標準的な水分補給と制吐剤(コルチコステロイドと5HT-3受容体拮抗薬)とともに投与された。好中球減少症に対する成長因子予防投与は許可されなかった。各サイクルは、好中球数2000/µL以上、血小板数10万/µL以上の場合に開始された。血液毒性による遅延や重度感染症の場合には、用量減量(25%減)が適用されたが、シスプラチン用量はクレアチニンクリアランスに応じて調整された。
評価項目: 主要評価項目は全生存期間 (OS) であった。副次評価項目は、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (TTP)、毒性(WHO基準)、および生活の質 (QOL)(Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993およびLC13モジュール)であった。完全奏効 (CR) 達成患者には予防的全脳照射 (PCI) が推奨され、胸腔内に病変が限局する部分奏効 (PR) 患者には胸部放射線療法が推奨された。
統計解析: 統計学的には、PCDE群で1年生存率がEP群と比較して15%改善するという仮説に基づき、両側α=0.05、β=0.20で210例(153イベント)を目標とした。生存期間の差はWilcoxon検定およびログランク検定を用いて解析された。治療群と予後因子(年齢、性別、転移部位、アルカリホスファターゼ、乳酸脱水素酵素、神経特異エノラーゼ)の生存への関連は、Cox比例ハザードモデルを用いて評価された。多変量解析では、単変量解析でp値が0.05未満の変数が選択された。QOLは、不均衡な反復測定モデルを用いた二元配置分散分析で評価された。全ての統計検定は両側検定であった。