• 著者: Park S, Kim IR, Baek KK, Lee SJ, Chang WJ, Maeng CH, et al.
  • Corresponding author: Ahn MJ (Division of Hematology-Oncology, Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Korea)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-02-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23393122

背景

肺癌は世界の癌発症・死亡原因の第1位であり、患者の過半数が診断時65歳以上、約30%が70歳以上という高齢者中心の疾患である。切除可能NSCLCに対するプラチナベース術後補助化学療法の生存利益は複数の大規模無作為化試験によって確立されてきた。IALT試験 (Arriagada et al. NEnglJMed 2004)、JBR.10試験 (Winton et al. NEnglJMed 2005)、ANITA試験 (Douillard et al. LancetOncol 2006) でそれぞれ生存利益が示され、さらにLACEメタ解析 (Pignon et al. JClinOncol 2008) でも術後シスプラチンベース化学療法の有効性が確認されてきた。

しかし、これらの主要試験はいずれも年齢上限を設定しており、65歳以上の高齢者は系統的に除外されてきた。一方、高齢者における術後補助化学療法に関する後方視的解析では、JBR.10サブグループ解析やOntarioコホート研究 (Cuffe et al. JClinOncol 2012) において生存利益が若年者と同等であることが示されていた。しかし、こうした既報は全て後方視的・サブグループ解析に限定されており、高齢者における主観的アウトカムであるHRQOL (health-related quality of life) を主要エンドポイントとする前向き試験は存在しなかった。高齢者の治療目標は個人によって異なり、生存期間よりもQOL (quality of life) を優先するケースも多く、この gap in knowledge が最適な治療意思決定を困難にしていた。多合併症・臓器予備能低下・薬物動態変化を抱える高齢者集団における補助化学療法中のHRQOL評価に関する前向きエビデンスが手薄であり、特化した臨床研究が急務とされていた。

目的

完全切除されたstage Ib-IIIa NSCLCに対し術後補助化学療法を受ける65歳以上の高齢患者と65歳未満の患者を前向きに対比し、HRQOLの経時推移を定量的に評価・比較すること。副次目的として、両年齢群間での血液毒性、化学療法投与強度、OS (overall survival)・RFS (relapse-free survival) を比較する。

結果

患者背景と登録状況:2008年10月から2011年10月に139例が連続登録された (65歳未満群73例、65歳以上群66例、Table 1)。全体の年齢中央値は64歳 (範囲32-82歳) で、高齢者群の中央値は69歳 (65-82歳)、若年者群は56歳 (32-64歳) であった。男性が全体の82.0%を占め、高齢者群では90.9%と若年者群74.0%より有意に多かった (P=0.009)。喫煙歴ありは高齢者群87.9%・若年者群68.5%で有意差があり (P=0.006)、pack-years中央値も高齢者群40対若年者群30と有意に高く (P=0.017)、heavy smoker (≥30 pack-years) は高齢者群77.6%対若年者群56.0%に及んだ。合併症の保有は高齢者群28.8%・若年者群13.7%で有意差があり (P=0.029)、糖尿病・心疾患・脳血管疾患・慢性閉塞性肺疾患・間質性肺疾患を含む計34合併症が29例に認められた。

組織型は全体で腺癌49.6%・SQC (squamous cell carcinoma) 41.7%・神経内分泌腫瘍5.8%・その他2.9%であった。若年者群では腺癌 (61.6%) が最多で、高齢者群では扁平上皮癌 (56.1%) が最多と、両群間で組織型分布に有意差が認められた (P=0.007)。病期はstage IB 23.0%・II 60.4%・IIIa 16.5%で両群間に差はなかった (P=0.205)。化学療法レジメンはNP (シスプラチン+ビノレルビン) 53.2%・PC (パクリタキセル+カルボプラチン) 46.8%で、若年者群でNPが多く (60.3%)、高齢者群ではPCが多い傾向があった (54.5%、P=0.08)。QLQ-C30・QLQ-LC13の全スケールにおけるベースラインQOL値は両群間で有意差は認められなかった。

高齢者におけるHRQOLの経時変化:139例中127例 (91.4%) がアンケートを完了した (若年者群91.8%・高齢者群90.9%、Table 2)。回答率は経時的にやや低下したが、全5時点を通じて90%以上を維持し、attrition biasは最小限であった。

GEE解析 (Table 3) による高齢者群の経時変化分析では、QLQ-C30の6機能スケール (身体機能・役割機能・情緒機能・認知機能・社会機能・全体的QOL) はいずれも化学療法期間中に有意な経時変化を示さなかった (全てP>0.05)。症状スケールの疲労・悪心嘔吐・疼痛も有意な変動は認めなかった。一方、単一項目スケールでは睡眠障害 (P=0.0066)・食欲低下 (P=0.0186)・便秘 (P=0.0004) が化学療法開始後に有意に変化した (Figure 1A)。睡眠障害と食欲低下は第1サイクル後に一時悪化した後、以後の残サイクルで徐々に改善傾向を示した。一方で便秘は化学療法全期間を通じて継続的に増悪した。QLQ-LC13では咳嗽 (P=0.0054) が第1サイクル後に悪化したが以後改善した (Figure 1B)。治療関連症状として口内炎 (P=0.0032)・末梢神経障害 (P<0.001)・脱毛 (P<0.001) が化学療法中に有意に増加した。肩・腕の疼痛も2サイクル後に有意な変化を示した (P=0.0104)。

年齢群間でのHRQOL経時推移の比較:GEE解析の交互作用項 (年齢群×時間) で評価したところ (Table 3)、QLQ-C30の全6機能スケールおよびほぼ全ての症状スケールで、両年齢群間に時間推移の有意差は認められなかった (全てP>0.05)。各交互作用項の推定差の95% CI (confidence interval) はいずれも臨床的意義の閾値である10ポイントを下回り、統計的有意差の欠如と一致する結果であった。症状スケールのうち便秘のみが有意な群間交互作用を示し (P=0.0207)、両群で便秘は増悪したが高齢者群でよりその増悪が顕著であった。QLQ-LC13では口内炎・末梢神経障害・脱毛が高齢者群において化学療法中に悪化したが、若年者群でも同様の経時推移が観察され、交互作用項は有意でなかった (Figure 1A・1B)。呼吸困難・血痰・嚥下障害・胸痛・経済的問題など他の項目においても両群間の時間推移に有意差はなく、高齢者が若年者よりも大きくQOLが低下するという当初の仮説は支持されなかった。全体的QOLは両群で類似した経時推移を示し、年齢が独立したQOL悪化因子とはならなかった。

血液毒性と化学療法投与強度:血液毒性の解析 (Table 4) では、all gradeの貧血のみが高齢者群で有意に高頻度であった (60.6% vs 39.7%、P=0.014)。白血球減少 (高齢者37.9% vs 若年者32.9%、P=0.538)・好中球減少 (66.7% vs 80.8%、P=0.057)・血小板減少 (6.1% vs 5.5%、P=1.000) のall gradeおよびGrade ≥3の各毒性は両群間で有意差なしであった。好中球減少はall gradeで最も頻度が高く若年者群80.8%・高齢者群66.7%に認められ、Grade ≥3は若年者41.1%・高齢者39.4% (P=0.838) と同等であった。

化学療法の完遂率は全体で93.5% (130/139例) と高く、年齢群別では若年者群94.5% (69/73例)・高齢者群92.4% (61/66例) で有意差はなかった (P=0.736)。用量調整は全体で58例 (41.7%) に行われ、若年者群57.5%・高齢者群59.1%で同等であった (P=0.853)。MDI (mean dose intensity) の比較 (Table 5) では、NPレジメンのビノレルビンMDIは若年者群10.761 mg/m²/週・高齢者群12.628 mg/m²/週 (P=0.135)、シスプラチンMDIは24.230 vs 24.755 mg/m²/週 (P=0.816) であった。PCレジメンではパクリタキセルMDI 55.748 vs 54.146 mg/m²/週 (P=0.118)、カルボプラチンMDI 1.741 vs 1.732 mg/ml/min/週 (P=0.830) と、全薬剤においてMDIおよびRDI (relative dose intensity) の群間差は有意でなかった。

生存転帰:中央追跡期間31.9ヶ月 (範囲7.6-45.4ヶ月) において、3年OSは高齢者群91.8%・若年者群82.6%、3年RFSは高齢者群62.2%・若年者群69.5%であった。数値上は高齢者群のOSが良好であったが、OSおよびRFSともに両群間で統計的有意差は認められなかった (OS: P=0.4274、RFS: P=0.4512)。本試験はQOLを主要エンドポイントとする前向きパイロット試験であり、生存解析の統計的検出力は限定的であるため、生存転帰の解釈には慎重を要する。

考察/結論

本研究で初めて、高齢NSCLC患者 (≥65歳) の術後補助化学療法中のHRQOLを前向きかつ専門的に評価・比較したことが新規な点として際立つ。これまでの研究では高齢者の補助化学療法に関する知見は全て後方視的解析またはサブグループ解析から得られており、HRQOLを主要エンドポイントとした前向き試験はこれまで報告されていない。本試験はその重要な空白を埋める初の前向きエビデンスを提供した。

本試験の主要知見は、既報の後方視的研究の生存利益に関する結論と対照的な含意を持つ。既報では「高齢者は補助化学療法への忍容性が低くQOLが有意に悪化する」という懸念が根強かった。しかし本試験では、高齢者群が若年者群と比較してより多くの合併症 (28.8% vs 13.7%、P=0.029)、重度の喫煙歴 (pack-years中央値40 vs 30)、高率の扁平上皮癌 (56.1% vs 28.8%) という不利な背景を持つにもかかわらず、QLQ-C30全機能スケールおよびほぼ全症状スケールにわたって有意な群間差は生じなかった。化学療法完遂率92.4%・MDIの同等性は客観的な忍容性を示し、これは後方視的に生存利益の同等性を示した既報 (Cuffe et al. Ontario コホート (Cuffe et al. JClinOncol 2012) など) の知見を主観的QOLの観点からも補強するものである。

臨床的意義として、本研究の結果は適切に選別された高齢NSCLC患者において術後補助化学療法の施行を支持する根拠となる。便秘が高齢者群で有意に増悪した唯一の項目であった (交互作用P=0.0207) ことは、疼痛コントロールに使用するオピオイド増加が一因と考えられ、高齢患者のQOL管理において便秘への積極的な臨床現場での対応が重要である。年齢のみを理由とした補助化学療法の除外は不適切であり、本試験の臨床的有用性は高い。

残された課題として、いくつかの重要なlimitationがある。第1に、カットオフ年齢65歳は恣意的であり、高齢者群の中央年齢は69歳にとどまっている。実臨床で特に問題となる75歳以上のフレイルな高齢者は十分に代表されていない。第2に、ECOG PS 0-1かつ十分な臓器機能を条件としており、実際の高齢者集団全体を代表するものではなく selection bias が存在する。第3に、化学療法を拒否した経過観察患者との直接QOL比較がなく、補助化学療法の有無によるQOLへの影響を直接評価できなかった。第4に、n=139というサンプルサイズは統計的検出力の面で制限を有し、小さな群間差の検出が困難であった。今後の検討として、CGA (comprehensive geriatric assessment) を統合した大規模前向き試験、75歳以上の超高齢者集団への拡大、および化学療法施行群と経過観察群の直接QOL比較が必要である。

術後補助化学療法は高齢NSCLC患者のHRQOLを有意に低下させず、HRQOLの経時推移は65歳以上と65歳未満の間で有意に異ならなかった。化学療法完遂率・投与強度も両群で同等であった。本前向き試験は、適切に選別された高齢NSCLC患者への術後補助化学療法の施行を支持し、年齢のみを理由に治療から除外すべきでないことを示す重要なエビデンスを提供した。

方法

2008年10月から2011年10月にかけて韓国Samsung Medical Centerにて前向きパイロット試験として139例を連続登録した (65歳未満73例、65歳以上66例)。対象は組織学的に確認された完全切除stage Ib・II・IIIa NSCLCで、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0-1、骨髄・腎・肝機能が十分な患者とした。主な除外基準は、直近6ヶ月以内の心血管イベント (心筋梗塞・重症狭心症・うっ血性心不全・脳血管障害)、NCI CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) Grade ≥2の心不全・不整脈、コントロール不良の高血圧・糖尿病、過去5年以内の他悪性腫瘍の既往 (非黒色腫性皮膚癌・子宮頸癌局所病変を除く) とした。本試験はSamsung Medical CenterのIRB (institutional review board) により承認され、全患者から文書による同意を取得した。

術後補助化学療法は手術後8週以内に4サイクル投与した。担当医の裁量によりNP (vinorelbine+cisplatin) レジメン (シスプラチン80 mg/m² day1点滴 + ビノレルビン25 mg/m² day1・8点滴、3週サイクル) またはPCレジメン (パクリタキセル175 mg/m² + カルボプラチンAUC 5.5、day1、3週サイクル) を選択した。

HRQOL評価にはEORTC QLQ-C30 (European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire C30) とQLQ-LC13 (lung cancer-specific questionnaire) を使用した。QLQ-C30は6機能スケール (身体機能・役割機能・情緒機能・認知機能・社会機能・全体的QOL) と3症状スケール (疲労・悪心嘔吐・疼痛)、および6単一項目スケール (呼吸困難・睡眠障害・食欲低下・便秘・下痢・経済的問題) から構成される。QLQ-LC13は肺癌特有の症状 (咳嗽・血痰・呼吸困難・部位別疼痛)、治療関連有害事象 (口内炎・嚥下障害・末梢神経障害・脱毛)、鎮痛薬使用の13項目を評価する。問診は各化学療法サイクル前 (計4回) および最終サイクル1ヶ月後の計5時点で患者自記式にて実施した。

統計解析では、HRQOLの経時推移分析に作業独立構造に基づくGEE (generalized estimating equations) 法を用いた線形モデルを適用し、年齢群 (≥65 vs <65)・時間・交互作用項を解析した。カテゴリ変数にはχ²検定 (またはFisherの正確検定)、連続変数にはMann-Whitney検定を使用した。OS・RFSの推定はKaplan-Meier法、群間比較はlog-rank検定で行い、有意水準はP<0.05 (両側) とした。