• 著者: International Adjuvant Lung Cancer Trial Collaborative Group (Rodrigo Arriagada, Bengt Bergman, Ariane Dunant, Thierry Le Chevalier, Jean-Pierre Pignon, Johan Vansteenkiste)
  • Corresponding author: IALT Secretariat (Institut Gustave-Roussy, Villejuif, France)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2004
  • Epub日: 2004-01-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 14736927

背景

肺癌は世界的に癌による死亡原因の最大数を占める悪性腫瘍であり、完全外科切除が最も効果的な初期治療法として広く認識されている。しかし、完全切除後の患者に対する術後補助療法は、その有効性が確立されていなかった。特に、長期にわたるアルキル化剤による補助療法や放射線療法が、早期病期の患者において長期生存に有害な影響を及ぼす可能性も指摘されていた。このような背景の中、1995年に発表された非小細胞肺癌 (NSCLC) 化学療法のメタ解析 NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 は、52のランダム化試験、8145例の個別患者データを統合し、シスプラチン (cisplatin) ベースの補助化学療法が5年全生存率 (OS) を絶対値で5%改善する可能性を示唆した。しかし、この結果は統計的に有意ではなかったため、その臨床的意義は依然として議論の的であり、有効性の確立にはさらなる大規模な検証が不足していた。

このメタ解析の示唆を検証するため、国際補助肺癌試験 (IALT) は1995年に開始された。IALTは、各参加施設が事前にシスプラチン投与量、併用薬、術後放射線療法 (PORT) の方針を選択できる「オープンチョイスデザイン」を採用した。この設計は、多様な臨床実践を反映し、広範な施設からの参加を促進するとともに、結果の一般化可能性を高めることを目的としていた。当時のNSCLC補助化学療法の最適なレジメンや、補助化学療法が恩恵をもたらす病期、PORTの適応に関する不確実性が存在しており、これらの知識ギャップを埋めることがIALTの重要な課題であった。また、過去の試験では、術後補助化学療法の明確な有効性が示されておらず、長期アルキル化剤補助療法が有害な場合もあったため、より安全で効果的な治療法の確立が強く求められていた。例えば、過去のメタ解析 Pignon et al. NEnglJMed 1992 では小細胞肺癌における胸部放射線療法の効果が示されたものの、NSCLCにおける補助療法の有効性は未解明な点が多かった。本研究は、この未解明な領域において、シスプラチンベースの補助化学療法が完全切除NSCLC患者の生存率を改善するかどうかを、大規模な国際共同試験で検証することを目的とした。特に、先行するメタ解析 NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 で示唆された生存利益が統計的に有意ではなかったため、この仮説を確固たるエビデンスとして確立することが本研究の重要な課題であった。

目的

本研究の主要な目的は、完全切除された非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、シスプラチン (cisplatin) ベースの補助化学療法 (3〜4サイクル) が全生存率 (OS) を改善するかどうかを評価することであった。OSは主要エンドポイントとして設定された。本試験は、先行するメタ解析 NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 が示唆したシスプラチンベース補助化学療法の有効性を、統計的に有意なレベルで検証することを目指した。

副次的な目的としては、以下の点が挙げられる。

  1. 無病生存率 (DFS) の改善効果の評価。
  2. 二次原発癌の発生率の評価。
  3. 治療に関連する毒性プロファイルの評価。
  4. 様々な病期 (Stage I, II, III)、組織型、年齢、および異なるシスプラチン用量や併用薬、術後放射線療法 (PORT) の方針といったサブグループ間での治療効果の均一性の評価。

本試験は、当時世界最大規模の国際多施設共同第III相ランダム化比較試験 (RCT) として実施され、NSCLCの術後補助化学療法の標準治療確立に資するエビデンスを提供することを目的とした。

結果

全生存率 (OS) の有意な改善: シスプラチンベースの補助化学療法群は、観察群と比較して全生存率を有意に改善した (P<0.03)。全1867例のITT解析において、死亡は化学療法群で469例、観察群で504例であった。死亡のハザード比 (HR) は0.86 (95% CI 0.76-0.98, P<0.03) であり、化学療法群で死亡リスクが14%低下したことを示した (Figure 1A)。5年OS率は化学療法群で44.5%、観察群で40.4%であり、絶対差は+4.1%であった。2年OS率はそれぞれ70.3% vs 66.7%であった。この結果は、先行するメタ解析が示唆した5%の絶対OS改善と概ね一致するものであった。

無病生存率 (DFS) の有意な改善: DFSにおいても、化学療法群は観察群と比較して有意な改善を示した (P<0.003)。疾患進行または死亡イベントは、化学療法群で518件、観察群で577件であった。DFSのハザード比は0.83 (95% CI 0.74-0.94, P<0.003) であり、化学療法群で疾患進行または死亡のリスクが17%低下したことを示した (Figure 1B)。5年DFS率は化学療法群で39.4%、観察群で34.3%であり、絶対差は+5.1%であった。2年DFS率はそれぞれ61.0% vs 55.5%であった。DFSの改善はOSの改善よりも統計的証拠が強く、化学療法が再発抑制に明確な効果を持つことを裏付けた。

サブグループ解析における治療効果の均一性: 事前規定された全てのサブグループ因子 (年齢、性別、パフォーマンスステータス、病期、手術方法、組織型、シスプラチン投与量、併用薬、術後放射線療法ポリシー) において、治療効果とこれらの因子との間に有意な交互作用は認められなかった (全ての交互作用P値は0.14以上) (Figure 2)。これは、シスプラチンベースの補助化学療法が、特定の患者群に限定されず、幅広いNSCLC患者に一貫した利益をもたらすことを示唆している。特に、病期I、II、IIIの全てのステージで均一な利益が観察されたことは重要な知見である。また、センター間の治療効果の異質性も有意ではなかった (P=0.11)。

安全性プロファイルと治療コンプライアンス: 化学療法群の患者のうち、73.8%が少なくとも240mg/m²の累積シスプラチン投与量を受けた。7.8%の患者は化学療法を受けなかったが、これは主に患者または医師の拒否によるものであった。治療中止の主な理由は有害事象 (51.5%) であった。Grade 4の重篤な毒性は22.6%の患者で発生し、主に好中球減少症 (17.5%)、血小板減少症 (2.6%)、嘔吐 (3.3%) であった。その他のGrade 4毒性の発生率は1.0%以下であった。治療関連死は7例 (0.8%) で発生し、内訳は骨髄抑制5例、腎不全1例、低ナトリウム血症1例であった。シスプラチン120mg/m²投与群では治療関連死率が2.4%であったのに対し、100mg/m²以下の群では0.6%であり、高用量シスプラチンにおける毒性の懸念が示唆された (P=0.15)。

化学療法レジメンと術後放射線療法との関係: 最も多く使用された化学療法レジメンは、シスプラチン100mg/m² (3または4サイクル) とエトポシドの併用 (49.3%) であった (Table 3)。ビノレルビンは26.8%の患者に、ビンブラスチンは11.0%の患者に、ビンデシンは5.8%の患者に併用された。シスプラチン用量や併用薬、術後放射線療法ポリシーによる治療効果の交互作用は認められず (P≥0.14)、選択された全てのオプションにおいて一貫した利益が示された。術後放射線療法 (PORT) は30.6%の患者で計画されたが、化学療法群では70.4%が、観察群では84.2%が実際にPORTを受けた。化学療法群でのPORT受療率の低下は、化学療法投与期間中の早期死亡や疾患進行が一部の患者でPORTを妨げたためと解釈された。PORTの有無と化学療法の効果との間に有意な交互作用は認められなかった (P=0.66)。二次原発癌の発生率に両群間で有意差はなかった。

考察/結論

IALTは、完全切除された非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、シスプラチンベースの補助化学療法が全生存率 (OS) および無病生存率 (DFS) を有意に改善することを、当時世界最大規模の第III相試験 (n=1867) で初めて実証した。OSのハザード比は0.86 (95% CI 0.76〜0.98, P<0.03) であり、5年OS率の絶対差は+4.1%であった。この結果は、1994年のメタ解析 NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 が示唆した5%の改善と一致しており、その仮説を裏付けるものであった。DFSにおいても、ハザード比0.83 (95% CI 0.74〜0.94, P<0.003) と、より強い統計的証拠をもって有意な改善が示された。

先行研究との違い: 過去の多くの補助化学療法試験が明確な生存利益を示せなかったこと、また長期アルキル化剤による補助療法が有害な影響を及ぼす可能性が指摘されていたことに対し、本研究はシスプラチンベースのレジメンが安全かつ有効であることを示した点で、これまでの報告と対照的な結果であった。特に、IALTのオープンチョイスデザインは、多様な臨床実践を反映し、結果の一般化可能性を高めるという点で新規性があった。

新規性: 本研究で初めて、シスプラチンベースの補助化学療法が、病期、組織型、年齢、シスプラチン用量、併用薬、術後放射線療法ポリシーといった事前規定された全てのサブグループにおいて、均一な利益をもたらすことが示された (交互作用P値は全て0.14以上)。この知見は、術後補助化学療法の幅広い適応を支持するものであり、現代の治療ガイドラインの基礎を築いた。

臨床応用: 本試験の結果は、完全切除NSCLC患者に対するシスプラチンベース補助化学療法を標準治療として確立する上で極めて重要な臨床的意義を持つ。世界中で年間約18万例の患者が補助化学療法の適応となる可能性があり、本研究で示された+4.1%の絶対OS改善は、年間約7,000例の死亡回避に相当すると推定される。この公衆衛生的意義は非常に大きい。本試験は、同時期に報告されたJBR.10試験やANITA試験とともに、後のLACEメタ解析 (2007年) に統合され、Stage II-III NSCLCにおける術後シスプラチン併用補助化学療法が標準治療となる基盤を確立した。

残された課題: 今後の検討課題として、本試験でシスプラチン120mg/m²投与群において治療関連死率が2.4%と、100mg/m²以下の群の0.6%と比較して高かった点が挙げられる。これは、高用量シスプラチンの毒性管理の重要性を示唆しており、現代では100mg/m²以下の用量が推奨されることが多い。また、Stage I患者への利益は、後のLACE解析でStage IAでは利益が不明確とされ、Stage IB-IIIを中心とした適応に収斂していった。本試験では7.8%の患者が化学療法を受けなかったため、治療コンプライアンスの改善も今後の課題である。さらに、本研究はバイオマーカー研究のための組織保存プログラムを組み込んでおり、将来的に化学療法の候補者をより的確に特定するための予測因子が同定されることが期待される。

方法

本研究は、1995年2月から2000年12月にかけて、33ヶ国148施設で実施された第III相無作為化比較試験 (RCT) である。対象患者は、1986年AJCC分類に基づく病期I、II、またはIIIの非小細胞肺癌 (NSCLC) を完全切除され、術後60日以内、年齢18〜75歳、前治療歴なし、化学療法禁忌なしの患者であった。合計1867例の患者が登録され、化学療法群 (n=932) と観察群 (n=935) に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、施設、手術の種類 (肺全摘 vs その他)、病期 (I vs II vs III) に基づいて層別化され、最小化法を用いて実施された。

患者のベースライン特性は、化学療法群と観察群でバランスが取れていた (Table 2)。病期分布は、Stage Iが36.5% (T1N0 10.3% vs 9.3%、T2N0 25.4% vs 27.9%)、Stage IIが24.2%、Stage IIIが39.3%であった。手術方法は、肺葉切除が63.8%、肺全摘が34.7%を占めた。組織型は、扁平上皮癌が46%、腺癌が40%、大細胞癌が6%であった。

化学療法群では、各施設が事前に選択したシスプラチンベースのレジメンが3〜4サイクル投与された (Table 1)。シスプラチンの投与量は80mg/m² (4サイクル)、100mg/m² (3または4サイクル)、120mg/m² (3サイクル) のいずれかであり、併用薬はビンデシン、ビンブラスチン、ビノレルビン、エトポシドのいずれかであった。最も多く選択されたレジメンは、シスプラチン100mg/m² (3または4サイクル) とエトポシドの併用であり、全体の49.3%を占めた (Table 3)。化学療法は術後60日以内、無作為化後14日以内に開始された。化学療法群の73.8%の患者が、少なくとも240mg/m²の累積シスプラチン投与量を受けた。治療中止の主な理由は、有害事象 (51.5%)、患者または医師の判断 (24.3%)、早期死亡 (8.1%)、疾患進行 (5.1%) であった。

術後放射線療法 (PORT) は、患者全体の30.6%で計画されており、化学療法群では計画された患者の70.4%が、観察群では84.2%が実際にPORTを受けた。化学療法群におけるPORT受療率の低下は、化学療法期間中の早期死亡や疾患進行が原因と考えられた。

主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であり、副次エンドポイントは無病生存期間 (DFS)、二次原発癌の発生、および有害事象であった。OSの解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、ITT (intention-to-treat) 原則に基づき、層別化因子 (施設、病期、手術の種類) で調整された。DFSのイベントは、局所再発、遠隔転移、または再発のない死亡と定義された。追跡期間の中央値は56ヶ月であった。統計的検出力は、5年OSで5%の絶対改善を検出するために、両側検定で83%の検出力を有するように設計された。中間解析は320例および640例の死亡後に計画され、データモニタリング委員会はP<0.001で試験中止を検討することとされた。全てのP値は両側検定で評価された。データはPIGAS (an interactive statistical database management system) ソフトウェアを用いて入力・確認され、SASソフトウェアバージョン8.2を用いて解析された。