• 著者: Weis CA, Yao X, Deng Y, Detterbeck FC, Marino M, Nicholson AG, Huang J, Ströbel P, Antonicelli A, Marx A; for the Contributors to the ITMIG Retrospective Database
  • Corresponding author: Cleo-Aron Weis (Institute of Pathology, University Medical Centre Mannheim, Mannheim, Germany)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25616178

背景

胸腺腫は、成人における前縦隔腫瘍の大部分を占める稀な腫瘍であり、全悪性腫瘍の1%未満である。その予後は主に腫瘍の病期と切除の完全性に依存すると考えられているが、WHO組織型分類(A、AB、B1、B2、B3型)が独立した予後因子であるかについては、長らく議論が続いていた。過去の小規模な単施設研究やメタアナリシスでは、A、AB、B1型がB2、B3型と比較して良好な転帰を示すという報告がある一方で、有意な差を認めない研究も存在した。これらの矛盾は、胸腺腫の希少性、組織学的な複雑性、そしてWHO分類の一部のサブタイプにおける病理医間の診断再現性の問題に起因する可能性が指摘されていた。特に、異なる地域からの報告間で分類の一貫性にばらつきがあることが示唆されており、これが真の疫学的差異によるものか、あるいは病理診断の不一致によるものかは未解明であった。

このような背景から、国際胸腺悪性腫瘍研究グループ(ITMIG: International Thymic Malignancy Interest Group)は、これまでの小規模で単施設中心の研究が抱える限界を克服するため、アジア、米国、欧州の複数の臨床・病理施設からなる大規模な国際後方視的データベースを構築した。このデータベースには、4918例の胸腺腫および胸腺癌に関する情報が蓄積されている。本研究は、このITMIGデータベースの中から、WHO組織型情報が利用可能であり、1983年以降に診断された4221例の胸腺腫に焦点を当てた。この大規模な国際コホートを用いて、WHO組織型、病期、および切除完全性が、全生存率(OS)と再発累積発生率(CIR: cumulative incidence of recurrence)に与える独立した影響を多変量解析により評価する、最初の大規模国際研究である。これにより、WHO組織型の予後における真の独立した役割を明らかにするとともに、地域間での組織型分布の差異が疫学的なものか、あるいは診断基準のばらつきによるものかを考察することが目的とされた。先行研究では、Okumura et al. Cancer 2002Kondo et al. AnnThoracSurg 2003などがWHO分類の予後予測能を示唆しているが、大規模な国際共同研究は不足していた。また、Detterbeck et al. AnnThoracSurg 2006はWHO分類の臨床的価値についてレビューしているが、国際的な疫学データは未開拓であった。これらの先行研究は、胸腺腫の希少性からくる症例数の少なさや、単施設での検討に留まるという限界があり、WHO組織型の独立した予後因子としての役割については未確立な点が残されていた。

目的

本研究の主要な目的は、ITMIGの国際後方視的データベースに登録された胸腺腫患者4221例のデータを解析し、WHO組織型、病期、および切除完全性が、全生存率(OS)と再発累積発生率(CIR)に与える独立した影響を多変量解析によって明らかにすることである。具体的には、以下の点を解明することを目指した。

  1. 異なるWHO組織型間で、患者の人口統計学的特性(年齢、性別、重症筋無力症の合併率)および臨床的特徴(腫瘍径、病期)に差異が存在するかどうかを評価する。
  2. WHO組織型分類が、異なる地理的地域(アジア、米国、欧州)および施設間で一貫して適用されているか、また地域間での組織型分布に有意な差異が存在するかを解析する。
  3. WHO組織型、病期、および切除完全性が、OSおよびCIRの独立した予後因子であるかどうかを多変量解析により評価し、特にWHO組織型が生存と再発に対して独立した影響を持つかを検証する。
  4. WHO組織型が予後因子である場合、その影響が特定の病期グループ(例:早期病期)に限定されるかどうかを詳細に検討する。

これらの解析を通じて、胸腺腫の予後予測におけるWHO組織型の真の価値を確立し、国際的な診断基準の標準化に向けた基礎情報を提供することを目的とした。

結果

患者背景と組織型分布: 本研究の解析対象となった4221例の胸腺腫患者において、WHO組織型B2型が最も多く(28%)、次いでAB型(23%)、B3型(21%)、B1型(17%)であり、A型が最も少なかった(11%)。性別分布に有意な差は認められなかった(男性49%、女性51%)。年齢中央値は、A型で64歳、AB型で57歳と、B1-3型(52-53歳)と比較して有意に高齢であった(p<0.0001)。重症筋無力症(MG)の合併はB2型で最も多く(49%)、B1型(35%)、B3型(40%)が続き、A型およびAB型では25-26%であった。病期とWHO組織型の間には有意な関連が認められ(p<0.0001)、A型では90%がI-II期と早期病期に多く、B3型では38%がIII期と進行期に多い傾向が示された (Figure 1)。

地理的組織型分布の差異: 地域間でのWHO組織型分布に有意な偏りが存在することが明らかになった (Figure 2)。A型胸腺腫の頻度は、アジアで6%と、欧州(15%)および米国(14%)と比較して有意に低かった(調整済みp<0.0001)。同様に、B2型胸腺腫の頻度もアジアで20%と、欧州(31%)および米国(32%)と比較して有意に低かった(調整済みp<0.0001)。対照的に、B3型胸腺腫はアジアで32%と、欧州(15%)および米国(16%)と比較して有意に高頻度であった(調整済みp<0.0001)。B1型胸腺腫の頻度(16-20%)には地域差は認められなかった。この地理的差異は、高施設量および低施設量施設の両方で観察され、病理医の経験による分類の不一致ではなく、真の疫学的差異である可能性が示唆された。

全生存率(OS)と再発累積発生率(CIR): R0切除された患者におけるOSは、WHO組織型間で有意差が認められた(p=0.0165)。しかし、個別のサブタイプ間の比較では、B3型がB1型と比較してOSが有意に低いという結果のみであった(調整済みp=0.043)。A型胸腺腫は再発率が低いにもかかわらず、OSが比較的低いという乖離が観察された。これはA型患者の年齢中央値が64歳と高いため、胸腺腫以外の原因による死亡が影響している可能性が示唆された。 R0切除された全病期の患者における5年累積再発率(CIR)は以下の通りであった:A型4% (95% CI 1-9%)、AB型2% (95% CI 1-4%)、B1型8% (95% CI 5-13%)、B2型13% (95% CI 9-17%)、B3型14% (95% CI 9-17%)。CIRにおいては、A型とAB型、B2型とB3型はほぼ同等であり、B3型とB1型の差は有意水準に達しなかった(調整済みp=0.066)。

病期別再発率とWHO組織型の関係: R0切除された患者において、病期別にWHO組織型と再発率の関係を解析した (Figure 3)。I-II期の患者(n=1473)では、WHO組織型が有意な予後因子であった(p<0.04)。具体的には、A型、AB型、B2型はB1型およびB3型と比較して再発率が有意に低かった。5年再発率は、A型2% (95% CI 0.3-6%)、AB型1% (95% CI 0.4-3%)、B2型2% (95% CI 0.8-4%)に対し、B1型6% (95% CI 3-10%)、B3型7% (95% CI 3-12%)であった。対照的に、III期(n=277)およびIVa期(n=89)の患者では、WHO組織型間のCIRに有意差は認められなかった。

多変量解析による独立予後因子の同定: 年齢、病期、切除完全性、およびWHO組織型を組み込んだ多変量解析を実施した(Table 2)。その結果、年齢(OS: HR 1.04/年, p<0.0001; 再発: HR 0.99, p<0.02)、病期(stage III vs I+II: OS HR 2.15 (95% CI 1.40-3.30, p<0.001); 再発 HR 5.94 (95% CI 3.79-9.30, p<0.0001); stage IV vs I+II: OS HR 3.57 (95% CI 2.45-5.20, p<0.0001); 再発 HR 13.82 (95% CI 9.17-20.82, p<0.0001))、および切除完全性(R1 vs R0: 再発 HR 1.64 (95% CI 1.12-2.40, p=0.01))が、OSおよび再発の独立した予後因子であることが確認された。WHO組織型はOSに対しては独立した予後効果を認めなかった(p=0.4)。しかし、再発に対しては独立した予後効果が認められた(p<0.04)。この再発に対する効果は、主にI-II期の患者におけるAB型とB型の比較に限定されることが示唆された。

考察/結論

本研究は、ITMIG国際後方視的データベースを活用した、WHO組織型と予後の相関を解析した最大規模の研究である。主要な結論として、病期と切除完全性が胸腺腫患者の全生存率(OS)および再発累積発生率(CIR)に対する最も強力な独立予後因子であることが確認された。WHO組織型はOSへの独立した予後効果は認められなかった(多変量解析 p=0.4)が、再発に対しては限定的な独立予後効果を持つことが示された(多変量解析 p<0.04)。この再発への影響は、特に早期病期(I-II期)の患者において、AB型がB1、B2、B3型と比較して再発率が低いという形で観察された。

先行研究との違い: これまでの小規模な単施設研究ではWHO組織型が独立した予後因子であると報告されることが多かったが、本研究の大規模な多変量解析では、病期と切除完全性による交絡を調整した後、組織型のOSへの独立効果は認められなかった点で、多くの先行研究と異なる結果を示した。これは、組織型と病期との強い相関(特にB3型で進行期割合が高い)が、組織型の予後効果をマスクしていた可能性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、胸腺腫のWHO組織型分布に地理的差異が存在することが大規模データで明確に示された。アジア地域ではA型およびB2型の頻度が低く、B3型の頻度が高いという傾向は、施設経験の差では説明しにくく、真の疫学的差異(遺伝的または環境的要因)を反映している可能性が新規に示唆された。これは、胸腺腫の病因に関する今後の研究方向性を示す重要な知見である。

臨床応用: 本研究の結果は、胸腺腫の予後予測において、病期と切除完全性が最も重要な因子であることを再確認し、臨床現場での治療方針決定においてこれらの因子を最優先すべきであることを示唆する。WHO組織型は再発リスクの層別化に限定的ながら有用である可能性があり、特に早期病期の患者に対する個別化医療の検討に役立つ可能性がある。A型胸腺腫で再発率が低いにもかかわらずOSが比較的低いという乖離は、高齢患者における非腫瘍関連死の影響を反映しており、再発率が胸腺腫の生物学的悪性度をより適切に評価する指標であるという臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究の限界として、中央病理査読が実施されていないため、地域間での組織型分類の一貫性を直接評価できなかった点が挙げられる。このため、観察された地理的差異が診断基準のばらつきによるものか、真の疫学的差異であるかを確定するには至らなかった。今後の検討課題として、ITMIGが提唱する洗練された組織型分類基準(Marx et al. JThoracOncol 2014)を用いた再分類と、中央病理査読による観察者間再現性の検証が不可欠である。また、A型胸腺腫のOSと再発率の乖離をさらに詳細に解析するため、死因別の解析や併存疾患の影響評価も今後の研究方向性として残されている。

方法

本研究は、ITMIG後方視的データベースに登録された胸腺腫・胸腺癌4918例のうち、WHO組織型情報が欠損している389例、および1983年以前に診断された308例を除外した4221例の胸腺腫(WHO type A、AB、B1、B2、B3)を解析対象とした後方視的コホート研究である。解析対象期間は1983年から2012年であり、データは欧州、米国、アジアの複数の施設から提供された。本研究はYale Institutional Review Board (HIC # 1307012419) の承認を得て実施された。

患者コホートとデータ処理: 全生存期間(OS)解析には2891例、再発解析には2408例が組み入れられた(欠損データ、例えば切除状況、介入日、フォローアップ日などが不十分な症例を除外した後)。各施設は、地理的地域(大陸別)および症例提出量に基づいて分類された。具体的には、各大陸における症例提出量の上位50%を占める施設群を「高施設量」、それ以外を「低施設量」と二分した。

病理学的分類と病期分類: 胸腺腫の組織型は、各施設の病理医によってWHO基準(Rosai and Sobin, 1999)に従って分類された。本研究では、A、AB、B1、B2、B3型以外の稀なサブタイプ(例:微小結節性胸腺腫、化生性胸腺腫)は除外された。スライドの中央病理査読は本研究の目的では実施されなかった。病期分類には、Masaoka分類およびMasaoka-Koga分類が用いられた。ITMIGのStaging and Prognostic Factors Committeeの知見に基づき、これらの病期分類システム間、およびMasaoka病期I期とII期の間で転帰に有意差がないことが示されているため、解析では両システムおよびI期とII期を統合して扱った。

統計解析: 主要評価項目はOSおよび再発累積発生率(CIR)であった。OSはKaplan-Meier法を用いて推定され、群間比較にはログランク検定が用いられた。CIRは競合リスク解析を用いて評価され、死亡を競合イベントとして扱った。再発に対する臨床因子の影響はGray’s検定を用いて評価された。多変量解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、年齢、病期、切除完全性、およびWHO組織型を独立変数として組み入れた。統計的有意水準はp値0.05未満と設定し、全ての検定は両側検定であった。多重比較の問題を考慮し、ペアワイズ比較における全てのp値はBonferroni法により調整された。統計解析はSAS 9.3 (SAS Institute Inc., Cary, NC) およびRを用いて実施された。