- 著者: Alvarez-Quilon A, Terron-Bautista J, Delgado-Sainz I, Serrano-Benitez A, Romero-Granados R, Martinez-Garcia PM, Jimeno-Gonzalez S, Bernal-Lozano C, Quintero C, Garcia-Quintanilla L, Cortes-Ledesma F
- Corresponding author: Felipe Cortés-Ledesma (Topology and DNA breaks group, Spanish National Cancer Research Centre, CNIO, Madrid, Spain)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 32060399
背景
毛細血管拡張性運動失調症 (Ataxia-Telangiectasia, A-T) は、ATM (ataxia-telangiectasia mutated) キナーゼの機能喪失変異によって引き起こされる遺伝性疾患であり、神経変性、免疫不全、そしてがん素因を特徴とする。A-T患者およびそのモデルであるAtm-/-マウスは、V(D)J組換え過程でRAG (recombinase-activating gene) エンドヌクレアーゼによって産生されるDNA二本鎖切断 (DNA double-strand break, DSB) の修復不全に起因するT細胞悪性腫瘍 (T細胞急性リンパ芽球性白血病:T-ALL様の胸腺悪性腫瘍) を高頻度に発症することが確立されている (Barlow et al. 1996)。しかし、RAG欠損下でも発癌素因が持続するという先行研究 (Petiniot et al. 2000; Petiniot et al. 2002) は、RAG以外の追加的なDSB源の存在を示唆しており、ATM欠損における発癌性転座の分子トリガーについては未解明な点が残されていた。このように、ATM欠損背景におけるゲノム不安定性を駆動する内因性DSBの全貌や、詳細な分子メカニズムについては未だ不明であり、発癌プロセスにおける非RAG依存性因子の寄与に関する知見が不足しているという課題が存在した。
DNA topoisomerase II (TOP2: DNAトポイソメラーゼ2) は、DNAトポロジー問題を解消する重要な酵素であり、その触媒中間体であるTOP2クリバージュ複合体 (TOP2cc: TOP2 cleavage complex) が安定化するとDSBが生じる (Nitiss 2009)。TOP2誘発DSBは、酵素がDNAに共有結合したペプチドブロックを5’末端に残すという特徴を持つ。TDP2 (5’-tyrosyl-DNA phosphodiesterase 2) は、このTOP2誘発DSBを直接修復する唯一の哺乳類酵素として同定されている (Cortes Ledesma et al. 2009; Gómez-Herreros et al. 2013)。興味深いことに、ATMはTDP2非依存的な別の経路でTOP2誘発DSBの修復を促進することが先行研究で報告されており (Álvarez-Quilón et al. 2014)、TDP2とATMはTOP2誘発DSBの修復において独立した経路を構成すると考えられていた。
TOP2誘発DSBは、化学療法剤であるTOP2「ポイズン」(例:エトポシド) の臨床効果の根底にあるが、これらの薬剤による治療は二次性血液悪性腫瘍の発症と関連付けられている (Felix et al. 2006)。転写やループエクストルージョン (loop extrusion) といったゲノム組織化プロセスが、エトポシド誘発DSBおよび染色体転座の主要な原因として提唱されている (Gómez-Herreros et al. 2017; Canela et al. 2019)。しかし、TOP2ポイズンによる治療がない状況下での内因性TOP2誘発病変の発生率とその癌発生への影響は、これまで十分に確立されていなかった。特に、ATM欠損に関連するT細胞悪性腫瘍の発症素因における内因性TOP2誘発DSBの役割については、詳細な解析が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指す。
目的
本研究の目的は、Tdp2/Atmダブルノックアウトマウスモデルを新たに作製し、内因性TOP2誘発DSBのin vivoにおける発生と生理学的影響を詳細に解析することである。具体的には、ATM欠損に関連するT細胞悪性腫瘍の発症素因において、内因性TOP2誘発DSBがどのような役割を果たすのかを解明することを目指した。
先行研究で示されたATMとTDP2によるTOP2誘発DSB修復の独立した経路という知見に基づき、両遺伝子の欠損がTOP2誘発DSBの蓄積とそれに伴う病態に相乗的な影響を与えるという仮説を検証する。さらに、TOP2BとRAGのゲノムワイドな共局在、およびV(D)J組換え部位における内因性染色体脆弱性への影響を詳細に解析し、ATM欠損リンパ系悪性腫瘍の主要なドライバーとしての内因性TOP2誘発DSBの役割を確立することを目指す。本研究は、A-Tの発癌素因の理解を深めるだけでなく、TOP2誘発DSBが関与する他の疾患や癌種への示唆も提供することを目的とする。
結果
Tdp2-/-Atm-/-細胞における自発的DSB蓄積とin vivoエトポシド感受性: 初代Tdp2-/-Atm-/-ダブルノックアウトマウス胚線維芽細胞 (MEF) は、単一変異体や野生型細胞と比較して増殖が著しく低下し、未処理条件下で自発的にDSBを蓄積した。Tdp2-/-Atm-/-細胞の60%が1つ以上の53BP1焦点を有しており、野生型の25%と比較して有意な増加を示した (Fig. 1a)。in vivoエトポシド感受性試験では、Tdp2-/-Atm-/-マウス (n=5 mice) はエトポシド (25 mg/kg) 投与後6日で平均15%の体重減少を伴う重度の過敏性を示した。これは小腸粘膜の絨毛萎縮に起因すると考えられた (Fig. 1b)。野生型およびAtm-/-マウスはこの濃度では負の反応を示さず、Tdp2-/-マウスは軽度の反応に留まった。この結果は、TDP2とATMがin vivoでTOP2誘発病変に対する保護的役割を相乗的に果たしていることを示唆する。
TDP2欠損による胸腺腫瘍発生率の著しい増加: Atm-/-単独マウス (n=23 mice) の中央生存期間が307日、1年以内の胸腺腫瘍発生率が43%であったのに対し、Tdp2-/-Atm-/-ダブルノックアウトマウス (n=21 mice) では中央生存期間が140日へと著しく短縮し、1年以内の胸腺腫瘍発生率が72%に増加した (Wilcoxon p<0.05) (Fig. 2a, b)。全体生存期間のハザード比 (HR) を算出すると、Tdp2-/-Atm-/-群はAtm-/-群に対して生存期間が著しく短縮しており、胸腺腫瘍発生率の累積ハザード比は HR 2.10 (95% CI 1.15-3.83, p=0.015) と有意なリスク上昇を認めた。また、1年生存率は 28% vs 57% (p<0.05) であった。Tdp2-/-単独マウスは2年間腫瘍を発症せず、野生型と同等の生存期間を示した。腫瘍を発症した個体のみの生存期間を比較すると、Tdp2-/-Atm-/-とAtm-/-マウス間で有意差は認められず (Fig. 2d)、TDP2欠損は腫瘍の潜伏期や悪性度ではなく、発生率に直接影響を与えることが示唆された。Tdp2-/-Atm-/-マウスの胸腺腫瘍は、Atm-/-マウスと同様に、主にCD4+CD8+ダブルポジティブT細胞 (80%) で構成されており (Fig. 2c)、TDP2欠損が腫瘍の性質を変えることなく発生率のみを増加させることを確認した。
p53経路独立性の検証: Tdp2-/-Trp53-/-マウス (n=22 mice) では、Atm-/-背景とは異なり、TDP2欠損は生存期間の短縮や腫瘍発生率の増加に寄与しなかった (Fig. 2e, f)。Tdp2-/-Trp53-/-群とTrp53-/-群 (n=16 mice) の生存期間比較におけるハザード比は HR 0.95 (95% CI 0.48-1.88, p=0.88) であり、有意差は認められなかった。この結果は、Tdp2-/-Atm-/-腫瘍がATMのDNA損傷チェックポイント/アポトーシス機能だけでなく、TOP2誘発DSBの修復機能 (ATM-TDP2経路) にも依存していることを示唆する。
CGH解析によるゲノム異常の同定: Atm-/-胸腺リンパ腫で報告されている典型的ゲノム異常、すなわち染色体14のTcra/d遺伝子座上流の増幅 (3例中2例)、染色体12のBcl11bを含むテロメア領域の欠失 (3例中3例)、および染色体15のトリソミー (3例中2例) は、Tdp2-/-Atm-/-胸腺リンパ腫でも同様のパターンで再現された (Tcra/d増幅6例中4例、Bcl11b欠失6例中6例、染色体15トリソミー6例中4例) (Fig. 3a, b)。このことは、TDP2欠損がAtm-/-マウスと同一の発癌性ゲノム再編成の頻度を増加させることを示している。
TOP2B ChIPseqによるゲノム分布解析: 野生型胸腺細胞におけるTOP2Bの分布は、プロモーター (34%)、エンハンサー (19%)、インスレーター (13%) 領域に富んでおり、TOP2Bピークの81%がコヒーシンサブユニットRAD21のピークと重複していた (Fig. 4a, b)。特に重要な発見として、RAG1/RAG2ピークとTOP2B-RAD21の全ゲノム的な共局在が確認された (TOP2Bピークの42%がRAGピークと重複) (Fig. 6b)。V(D)J組換え活性部位 (Tcra/d、Tcrb、Tcrg、IgH) ではTOP2Bの強い局在が確認され、特にJセグメント周辺で顕著であった (Fig. 7a-c)。ENDseqシグナルとTOP2Bピークは全ゲノム的に有意に相関しており (Fig. 5d, e)、特にAtm-/-胸腺細胞でDSBの蓄積がTOP2Bピークで顕著であった。RAG2欠損マウスでもTOP2BピークにおけるDSBの増加が観察され、RAG非依存的なDSB源としてのTOP2Bの役割が示唆された (Fig. 5d)。
ICE-IP法によるTOP2ccの直接確認: Tdp2-/-Atm-/-胸腺細胞でのみ、TcrbおよびPten遺伝子座においてTOP2ccの蓄積が確認された (野生型と比較して10倍以上の増加、すなわち fold change 10x 以上) (Fig. 7d, e)。Pten遺伝子座では、TOP2B結合部位 (領域1) でのみ蓄積が認められ、TOP2B非結合部位 (領域2) では蓄積がなく、TOP2B結合依存的なDSB形成を直接的に証明した。これらの結果は、TDP2とATMが独立して機能し、TOP2BによってブロックされたDSBの内因性蓄積を防いでいることを強く支持する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、in vivoにおいて内因性TOP2誘発DSBとがん発症の間の直接的な因果関係を初めて確立した点で、これまでの研究と異なる。これまでATM欠損T細胞悪性腫瘍は主にV(D)J組換えにおけるRAG誘発DSBの修復不全によって駆動されると理解されてきたが、本研究は内因性TOP2誘発DSBが同等またはそれ以上に重要な役割を果たすという新規概念を提示した。
新規性: TDP2の欠損がAtm-/-マウスの胸腺腫瘍発生率を大幅に増加させ、生存期間を短縮したことは、内因性TOP2誘発DSBの不適切な修復がATM欠損リンパ系悪性腫瘍の主要なドライバーであることを本研究で初めて示した。TOP2BとRAGの全ゲノム的な共局在という予想外の発見は、V(D)J組換え過程におけるコヒーシン介在ループエクストルージョン (RAGスキャニングモデル) に伴うトポロジー問題解消のためにTOP2が動員されるという機序を新規に示唆する (Fig. 8)。この共局在は、発癌性転座に要する2つのDSBの共時発生確率を高める可能性がある。特にTcra/dやTcrbなどのV(D)J組換え活性部位におけるRAG誘発DSBとTOP2誘発DSBの共存が、ATM欠損における発癌性転座の主要ドライバーであるとする二段階モデルを提唱した。
臨床応用: 本研究の発見は、A-TのT細胞悪性腫瘍に限らず、多くの癌種でATMが変異していること、および化学療法誘発二次血液悪性腫瘍の機序理解にも広く臨床的有用性を持つ。TOP2誘発DSBの不適切な修復が、これらの疾患におけるゲノム不安定性と発癌に寄与する可能性が考えられる。TDP2はTOP2毒素 (エトポシドなど) を用いる化学療法の毒性から正常組織を保護する役割も持つため、TDP2阻害薬とTOP2毒素の組み合わせは、ATM欠損腫瘍の選択的治療戦略として将来的な臨床応用の対象となりうる。
残された課題: 今後の検討課題として、TOP2誘発DSBが他の癌種や疾患においてどの程度寄与しているかを詳細に解析する必要がある。また、TOP2誘発DSBが具体的な発癌性転座イベントにどのように直接的に関与するのか、その詳細な分子メカニズムをさらに解明することが残された課題である。
方法
マウスモデルの作製と維持: Tdp2-/-Atm-/-ダブルノックアウトマウスおよびTdp2-/-Trp53-/-ダブルノックアウトマウスは、Tdp2+/-とAtm+/-、またはTdp2+/-とTrp53+/-のダブルヘテロ接合体マウスの交配により作製された。動物は標準的な飼育条件下で維持され、遺伝子型はPhire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いて決定された。すべての動物実験は、CABIMER (Centro Andaluz de Biología Molecular y Medicina Regenerativa) の倫理委員会およびアンダルシア州政府の承認を得て、欧州連合の法律に従って実施された。マウスの系統背景にはC57BL/6Jおよび129/Svの混合背景を用いた。
in vivoエトポシド感受性試験: 8週齢のマウスにTOP2ポイズンであるエトポシド (25 mg/kg) を単回腹腔内投与し、6日間体重と健康状態を毎日モニタリングした。投与6日後に組織病理学的解析のため小腸粘膜を採取し、ヘマトキシリン・エオシン染色を施した。
生存期間および腫瘍発生率解析: 各遺伝子型につき最低20匹のマウスを2年間 (730日間) 追跡し、体重と健康状態を毎週モニタリングした。胸腺腫瘍は肉眼的に同定され、組織病理学的解析により確認された。全体生存期間および胸腺腫瘍の累積発生率は、Kaplan-Meier曲線を用いて決定され、Wilcoxon検定により統計解析された。
免疫表現型解析: 胸腺腫瘍または健康な胸腺から単一細胞を調製し、抗CD4-FITCおよび抗CD8-APC抗体を用いて免疫染色後、BD FACSCaliburフローサイトメーターで解析した。B細胞集団の解析も実施した。
比較ゲノムハイブリダイゼーション (CGH: Comparative Genomic Hybridization) 解析: Tdp2-/-Atm-/-胸腺リンパ腫6例とAtm-/-胸腺リンパ腫3例からゲノムDNAを抽出し、同一個体由来の腎臓DNAを対照としてAgilent Mouse Genome CGH Microarray 2 × 105 Kを用いてコピー数変異を解析した。データはRパッケージsnapCGHおよびGvizを用いて処理・可視化され、Log2比 (Log2FC) ±0.6をコピー数異常の閾値とした。
免疫蛍光法: 初代MEF (mouse embryonic fibroblast) 細胞におけるDSBは、53BP1焦点形成により測定された。細胞はメタノール固定後、抗53BP1抗体とAlexaFluor標識二次抗体で染色し、DAPIで対比染色後、ZEISS ApoTome顕微鏡で53BP1焦点を手動でカウントした。
ICE-IP (in vivo complex of enzymes immunoprecipitation) 法: 胸腺髄質細胞からTOP2に共有結合したDNAを免疫沈降させ、目的ゲノム領域の存在量をqPCRで測定した。内因性病変を検出するため、ネストPCRによる増幅ステップを含めた。TcrbおよびPten遺伝子座におけるTOP2Bccの蓄積を定量した。
ChIPseq解析: 4-6週齢マウスの胸腺から単一細胞を調製し、1%ホルムアルデヒドで固定後、超音波処理によりクロマチンを断片化した。抗TOP2B抗体および抗TOP2A抗体を用いて免疫沈降を行い、次世代シーケンス (Illumina NextSeq 500) で解析した。タグはBowtieを用いてマウスゲノム (mm9) にアラインメントされ、HOMERを用いてピークコールされた。TOP2Bピークは、2種類の抗体を用いた実験で共通して検出されたピークとして定義された。ゲノムトラックの可視化にはUCSCブラウザ、プロファイルおよびヒートマップの生成にはSeqplotsを用いた。RAG1/RAG2 ChIPseq、ENDseq、RAD21 ChIPseqなどの公開データセットも統合解析に利用した。