- 著者: Bożena Cybulska-Stopa, Andrzej Gruchała, Maciej Niemiec
- Corresponding author: Bożena Cybulska-Stopa (Maria Skłodowska-Curie Institute, Oncology Center, Krakow Branch, Cracow, Poland)
- 雑誌: Case Reports in Oncology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-10-29
- Article種別: Case Report
- PMID: 31762755
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) は抗CTLA-4抗体と抗PD-1/PD-L1抗体を含み、腫瘍学において画期的な進歩をもたらしがん患者の治療成績を大幅に改善した。Dolan and Gupta (2014) はPD-1 (programmed death-1) 経路阻害薬がT細胞の抗腫瘍反応を広範に変化させ、複数の固形がん種において奏効をもたらすことを述べている。ICIはT細胞に腫瘍抗原に対する特異的な免疫応答を誘導するが、活性化したリンパ球は同様または同一の抗原を介して健常組織にも細胞傷害性を発揮し、免疫関連有害事象 (irAE: immune-related adverse event) と呼ばれる特有の副作用を発症する。Passat et al. (2018) はanti-CTLA-4・anti-PD-1・anti-PD-L1抗体によるirAEの病態生理メカニズムを概説し、免疫チェックポイント解除に伴うT細胞の過剰活性化が主要な機序と述べている。
皮膚および消化管に関連するirAEの組織学的病態は比較的よく解明されているが、骨髄障害に関する知見は手薄である。ICI使用に関連する骨髄障害は好中球減少・貧血・血小板減少として発現し、最重症例では汎血球減少を来す。Brahmer et al. (2018) のASCO臨床実践ガイドラインおよびHaanen et al. (2017) のESMO臨床診療ガイドラインはいずれも、Grade 3以上の血液学的irAEに対するICI中断を推奨しているが、骨髄の免疫組織化学染色 (IHC: immunohistochemical staining) を用いて病態を詳細に評価した上で治療継続の可否を判断した事例の報告はこれまでの研究で不足している。
Puzanov et al. (2017) のSITC毒性管理ワーキンググループのコンセンサス推奨では、ICIによる血液学的irAEの管理アルゴリズムが示されているが、個別症例における骨髄IHC評価が治療方針決定に与える影響についてのgap in knowledgeが存在する。Ni et al. CaseRepOncol 2019 は、pembrolizumabによる自己免疫性溶血性貧血 (AIHA: autoimmune hemolytic anemia) と汎血球減少症を合併したメラノーマ症例を報告しており、ICI誘発性血液学的irAEが多様な臨床像を呈することを示している。Delanoy et al. (2019) はLancet Haematologyにおいて抗PD-1/PD-L1免疫療法による血液学的irAEの記述的観察研究を発表し、その発生頻度と種類を明らかにした。これらの知見が蓄積される中、骨髄生検を起点とした詳細なIHCが単一症例でどのような診断的価値をもたらすかは未解明な部分が多く、本症例は当該知識ギャップを埋める事例として位置付けられる。
目的
播種性メラノーマに対するpembrolizumab(抗PD-1抗体)治療中に発症した重篤なirAE性汎血球減少症の症例を提示し、骨髄トレフィン生検・IHC・フローサイトメトリーによる詳細な病理学的評価が、(1) irAEの確認、(2) 腫瘍骨髄浸潤の除外、(3) 偶発的造血器悪性腫瘍である慢性リンパ性白血病 (CLL: chronic lymphocytic leukemia) の発見、という複合的な診断価値を有することを実証する。これにより、ICI治療中の重篤な血液学的irAEに対する適切な診断アルゴリズムと個別化された治療継続判断の理解に貢献することを目的とする。
結果
症例背景と急性血液毒性の発症: 対象はBRAF V600変異陽性の播種性メラノーマ(肺・リンパ節・脾臓・CNS [central nervous system] 単発転移)を有する56歳男性(n=1)で、2017年11月よりpembrolizumab 200 mgを3週ごとに開始した。2コース後、CTCAE G4白血球減少・G4好中球減少・G2血小板減少・G2貧血と発熱性好中球減少症が発症し入院となった。追加検査では感染源は特定されなかった。経験的抗菌薬(アモキシシリン/クラブラン酸)、デキサメタゾン静脈内投与、フィルグラスチム皮下投与により、発熱は消退し白血球減少G2・好中球減少G2・貧血G2に改善したが、pembrolizumabは一時中断された。2週間後の再検査でG1白血球減少・G1好中球減少・G2貧血が持続し、LDHは正常上限の約1.5-fold(正常上限の1.5倍)に上昇した (Fig 1, 2)。メラノーマ骨髄浸潤とirAEの鑑別のため骨髄トレフィン生検が施行された。
第1回骨髄生検:irAEによる骨髄変化の確認とメラノーマ浸潤の除外: 2018年1月の骨髄生検(Fig 1, 2)では、骨髄細胞充実度が約70%と増加しており、全血球系が保たれていた。実質内および骨梁周囲にリンパ球集簇が認められ、IHC染色ではCD20陽性B細胞が主体でCD4陽性・CD8陽性T細胞が豊富に混在していた。骨髄全体にCD8陽性細胞傷害性T細胞が散在性に多数存在し、Ki-67増殖活性は低値であった。検索した骨髄切片にメラノーマ細胞の浸潤は認めず、フローサイトメトリーでも非ホジキンリンパ腫 (NHL: non-Hodgkin lymphoma) の増殖サインは陰性であった。これらの所見はICI治療に関連したirAEによる骨髄への免疫細胞動員と合致した。治療開始10週後の画像診断で部分奏効 (PR: partial response) が確認され、2018年2月にpembrolizumab継続が決定した。
第2回骨髄生検:CLL/SLL合併の偶発的発見: 2018年7月、G1貧血が持続していたため2回目の骨髄生検を施行した(Fig 3, 4, 5, 6)。骨髄円柱は2本、総長約14 mmで、細胞充実度は約50%へと改善(第1回の約70%から低下)し、全血球系は保たれていた。しかし、生理的な組織パターンを背景に、小型のCD20陽性・bcl2陽性B細胞からなる焦点性・結節性・骨梁間浸潤が認められた。B細胞のCD5は疑陽性で、CD23・CD10・bcl6・MUM1は陰性。CD4陽性・CD8陽性T細胞の有意な混在を認め、Ki-67増殖活性は低値であった。フローサイトメトリーでは結果が決定的でなかったが、CLL/SLLの免疫フェノタイプを示す異常B細胞の小集団が検出された。末梢血の免疫フェノタイピングでは、リンパ球28%・単球6%・顆粒球66%を示し、リンパ球のうち50%超がB細胞であった。これらB細胞はすべてCLL/SLLの古典的免疫フェノタイプ(CD19陽性・CD20/CD22発現低下・CD23とCD5の共発現・表面免疫グロブリン軽鎖陰性)を示し、CLL/SLL合併と診断確定した。
CLL合併を踏まえたpembrolizumab継続と長期転帰: 文献上、CLL症例の約4%にメラノーマが合併するとされる(Archibald et al. 2018)。Ding et al. (2017) はpembrolizumabがRichter転換CLL症例に奏効することを報告しており、本患者の画像診断による部分奏効維持・良好な血球数パラメータも考慮してpembrolizumab継続が決定された。2019年6月時点で第36回投与後も部分奏効が維持され、血球数パラメータは良好に保たれていた。CTCAE G4汎血球減少症という重篤なirAE発症後も治療継続が可能となったことは、骨髄IHCによる適切な鑑別診断が臨床的意思決定に直接貢献した好例である。
考察/結論
本症例は、播種性メラノーマへのpembrolizumab治療中に発症したCTCAE G4汎血球減少症に対して骨髄トレフィン生検・IHC・フローサイトメトリーを組み合わせた詳細な病理学的評価が、irAEの確認・腫瘍浸潤の除外・偶発的造血器悪性腫瘍の発見という複合的な診断価値をもたらし、治療継続判断に直結した稀な事例である。通常であれば重篤な血液学的irAEは免疫療法の中断・中止の適応とされるが、本症例では骨髄評価の結果に基づいた個別化された判断が行われ、長期にわたる部分奏効の維持が実現した。
先行研究との違い(ガイドライン推奨との乖離): ASCO(Brahmer 2018)およびESMO(Haanen 2017)の現行ガイドラインはいずれも、Grade 3または4の血液学的irAEにはICI療法の中断または永久中止を推奨しており、これまでの報告において実際にGrade 4汎血球減少症後にICI治療が継続された症例の詳細な報告は極めて少ない。本症例はこれまでの報告と異なり、骨髄生検の結果がガイドラインの定型的推奨とは対照的な個別化治療継続の根拠となった点で特筆される。また、第1回骨髄生検と第2回の比較では骨髄細胞充実度が約70%から約50%へと改善しており、既報のirAEによる骨髄過形成が継続治療下で悪化するという懸念とは異なり、骨髄病変の回復が確認された。
新規性(骨髄IHCが二次腫瘍診断に直結): 本研究で初めて、ICI関連血液学的irAEの精査目的で施行した骨髄IHCがirAEの確認のみならず、偶発的な独立造血器悪性腫瘍であるCLL/SLLの確定診断に直結したことが示された。この二重の診断価値はこれまで報告されていない観点であり、骨髄IHCを積極的に施行することがnovelな臨床的含意をもつことを実証している。さらに、抗PD-1薬がCLL(特にRichter転換例)に対しても有効性を示す可能性があるという既報と組み合わせることで、単なる毒性管理を超えた治療戦略の合理化が可能となった。
臨床応用(骨髄IHCの診断アルゴリズムへの組み込み): 本知見の臨床応用として、ICI治療中に重篤な血液学的irAEが発症した場合、血球数のグレードのみで治療中止を判断するのではなく、積極的な骨髄生検・IHC・フローサイトメトリーを施行する診断アルゴリズムの確立に臨床的意義がある。骨髄評価によりirAEの確認・腫瘍浸潤の除外・偶発的造血器腫瘍の発見が一度に可能となり、不必要な治療中断を回避して患者の臨床的利益を最大化できる可能性がある。本症例では第36回投与後も部分奏効が維持されており、骨髄IHCに基づく治療継続判断の臨床現場における意義は明確である。
残された課題(今後の検討に向けた展望): 今後の検討として、ICI関連血液学的irAEにおける骨髄IHC所見のパターンと臨床転帰との相関を多症例の前向きコホートで評価する研究が必要である。CLL/SLLとメラノーマの合併症例(推定頻度約4%)におけるICI治療の長期安全性・有効性のさらなる解析、および骨髄IHCを血液学的irAE診断アルゴリズムに標準組み込みする際のコスト効果に関する更なる検討も求められる。本症例はn=1の単一事例というlimitationを有するため、その知見の一般化には類似症例の系統的な蓄積と分析がfuture researchの重要な課題である。
方法
本研究はインフォームドコンセントを取得した単一患者 (n=1) の後方視的症例報告である。対象は56歳男性で、BRAF V600変異陽性の播種性メラノーマに対してpembrolizumab 200 mg(静脈内投与、3週ごと)を施行中に血液学的irAEが発症した。
臨床的評価: 血球数パラメータ(白血球数・好中球数・血小板数・ヘモグロビン値)を定期評価し、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0に基づいてG1〜G4のGrading を行った。乳酸脱水素酵素 (LDH: lactate dehydrogenase)、肝機能、腎機能などの生化学的検査も経時的に追跡した。治療効果はCTにより定期的に評価した。
骨髄トレフィン生検(計2回実施): 汎血球減少症の原因鑑別のため腸骨稜から骨髄トレフィン生検を2回施行した。第1回は2018年1月(pembrolizumab 2コース後にG4汎血球減少症が発症し治療中断後)、第2回は2018年7月(G1貧血が持続した状況で、治療再開後4カ月)に実施した。
組織病理学的・免疫組織化学的評価: 採取骨髄組織にはヘマトキシリン・エオジン (H&E: hematoxylin-eosin) 染色による形態学的評価を行うとともに、以下のマーカーによるIHC染色を実施した。B細胞系: CD20・bcl2・CD10・bcl6・MUM1、T細胞系: CD3・CD4・CD8・CD5・CD23、増殖マーカー: Ki-67。各マーカーの発現パターン・染色強度・陽性細胞の分布を評価し、反応性変化・リンパ腫・白血病浸潤・腫瘍転移の鑑別を行った。
フローサイトメトリー: 骨髄穿刺液および末梢血をフローサイトメトリー解析に供し、CLL/SLL (small lymphocytic lymphoma) 診断に必要な免疫フェノタイプ(CD19・CD20・CD22・CD23・CD5・表面免疫グロブリン軽鎖)を評価した。
治療マネジメントの記録: 発熱性好中球減少症に対する経験的抗菌薬(アモキシシリン/クラブラン酸)、ステロイド療法(デキサメタゾン静脈内投与)、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) であるフィルグラスチム皮下投与の経過を記録し、その後のpembrolizumab再開・継続の臨床経過を詳細に追跡した。