• 著者: Dan Ni, Fatmah AlZahrani, Michael Smylie
  • Corresponding author: Michael Smylie (Faculty of Medicine, Oncology Department, Cross Cancer Institute, Edmonton, AB, Canada)
  • 雑誌: Case Reports in Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-06-19
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 31275137

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) は、転移性メラノーマをはじめとする多くのがん腫において劇的な治療効果をもたらし、標準治療としての地位を確立している。特に、programmed cell death receptor 1 (PD-1) を標的とする pembrolizumab や nivolumab などの抗PD-1抗体は、T細胞の抑制経路を解除することで強力な抗腫瘍免疫応答を誘導する。Snyder et al. NEnglJMed 2014 などの先行研究において、メラノーマにおける遺伝子変異負荷と免疫療法への治療反応性との関連が示されている。また、がんワクチンなどの他の免疫療法アプローチも研究されている (Butterfield et al. BMJ 2015)。しかし、免疫活性化に伴う免疫関連有害事象 (irAE: immune-related adverse event) の管理は臨床上の重要な課題である。血液学的irAEは比較的稀であるものの、重篤化すると致命的になり得る。抗PD-1抗体による自己免疫性溶血性貧血 (AIHA: autoimmune hemolytic anemia) や汎血球減少症の報告は存在するが、その詳細な発症機序や、慢性リンパ性白血病 (CLL: chronic lymphocytic leukemia) などの既存の造血器疾患を合併する患者における病態への影響については依然として 未解明 な部分が多い。特に、末梢での血球破壊と骨髄での造血抑制が同時に進行するような複雑な病態に関する報告は極めて 不足 しており、臨床現場での迅速な診断と適切な治療介入のための知見の蓄積が求められている。

目的

本報告の目的は、CLLの既往を有する転移性メラノーマ患者において、pembrolizumab治療中に発症した極めて稀な血液学的irAEである、AIHAおよび汎血球減少症の合併症例を詳細に提示することである。本症例における臨床経過、詳細な血液学的検査所見、骨髄生検結果、およびステロイド治療に対する反応性を提示し、末梢性と中枢性の双方が関与する血球減少の病態生理学的メカズムを考察する。さらに、既報のPD-1阻害薬による血液学的有害事象の文献レビューを通じて、本病態の早期発見、鑑別診断、および適切な管理方法を確立し、臨床医に対する注意喚起と安全ながん免疫療法の実施に寄与することを目指す。

結果

重度貧血の顕在化と初期評価: CLLの既往を有する67歳男性 (n=1) は、BRAF遺伝子野生型の転移性メラノーマに対して一次治療としてpembrolizumab (2 mg/kg、3週ごと) を開始した。8サイクル目の投与終了時、患者は1週間にわたる倦怠感と労作時および安静時の息切れを主訴に受診した。血液検査において、ベースライン時に 154 g/L であった Hb 値が 66 g/L へと急激に低下していることが確認された (Fig. 1)。この時点での LDH は正常範囲内であり、絶対網赤血球数は 12.8 × 10⁻⁹/L (正常値: 20-90 × 10⁻⁹/L) と著明に減少していた。末梢血塗抹像では正球性貧血を認め、球状赤血球などの溶血所見は見られなかった。骨髄生検では、低悪性度B細胞リンパ腫 (CLL成分) の骨髄浸潤 (浸潤割合は約 20%) と、赤血球造血の左方移動および抑制が認められたが、この時点では赤芽球癆の確定診断には至らなかった。

汎血球減少症への進行と自己免疫性溶血性貧血の診断: 初期受診から2週間後、患者の血球減少はさらに進行し、Hb 83 g/L、WBC 4.2 × 10⁻⁹/L、PLT 45 × 10⁻⁹/L、ANC 1.5 × 10⁻⁹/L となり、汎血球減少症の基準を満たした (Fig. 1)。血液内科医による評価の結果、CLLの背景下でのPD-1阻害薬使用に伴う再生不良性貧血様の中枢性骨髄抑制と、DAT陽性 (直接クームス試験陽性) に基づく末梢性AIHAの2つの病態が併発していると診断された。治療としてプレドニゾン 1 mg/kg/day (n=1) の経口投与が開始され、これに対して良好な反応を示したことから、免疫介在性の病態であることが裏付けられた。

ステロイド治療による血球回復と漸減時の再燃経過: プレドニゾンの投与開始後、血球数は緩徐に回復に向かった。投与開始から2ヶ月後のフォローアップにおいて、網赤血球数の上昇とともに骨髄抑制からの回復傾向が確認された (Fig. 2)。しかし、プレドニゾンの漸減を開始したところ、LDHの上昇とハプトグロビンの低下を伴う溶血の再燃が認められたため、ステロイドの漸減スケジュールを延長せざるを得なかった。最終的に5ヶ月をかけて漸減を完了した10月時点では、WBC 13.3 × 10⁻⁹/L、Hb 112 g/L、PLT 220 × 10⁻⁹/L まで改善した (Fig. 1)。その後、Hbの低下に伴いプレドニゾンの再投与を計 2回 必要としたが、最終的には血球数は安定した。なお、メラノーマ病変については肺結節の増大を認めたため、定位放射線治療へと移行した。

既報のPD-1阻害薬による血液学的有害事象の集計と臨床試験データとの比較: 文献レビューにおいて、pembrolizumabによる血液学的irAEは本症例を含めて極めて稀であり、当時わずか3例のみが報告されていた (Table 1)。一方、もう一つの抗PD-1抗体であるnivolumabでは、AIHAまたは汎血球減少症を呈した症例が11例報告されていた (Table 2)。これら11例のうち、ステロイドおよび輸血療法により血球減少が回復したのは 5/11 例 (約 45%) に留まり、残りの6例は原疾患の進行により死亡するか、持続的な骨髄不全に陥っていた。なお、転移性メラノーマに対するpembrolizumabの第III相試験 (KEYNOTE-006) における全生存期間 (OS) のハザード比は、ipilimumab群 vs pembrolizumab群の比較において、全体で HR 0.63 (95% CI 0.47-0.83, p<0.001) であり、PD-L1陽性サブグループにおいては HR 0.54 (95% CI 0.38-0.77, p<0.001) と優れた治療効果が示されているが、本症例のように重篤な血液学的毒性が発症した場合には、治療の継続が困難となるリスクがある。

考察/結論

先行研究との違い: 本症例は、単一の血球系統のみが減少する一般的な血液学的irAE と異なり、末梢での自己免疫性溶血 (AIHA) と中枢での骨髄抑制 (汎血球減少) が同時に進行した点で極めて特異的である。Michot et al. EurJCancer 2017 はnivolumab治療後の免疫関連骨髄不全を報告しているが、本症例はpembrolizumabにおいて同様の骨髄抑制と末梢性溶血の双方が関与する病態を示した。また、CLLという既存の造血器疾患を合併していた点が、血球減少の原因解釈を複雑にした。

新規性: 本症例は、CLL既往を有する転移性メラノーマ患者において、pembrolizumab投与により末梢性と中枢性のハイブリッドな機序で重篤な汎血球減少が誘発されることを 本研究で初めて 示した。このような合併例における詳細な経過とステロイドへの反応性は、これまで報告されていない 新規の臨床知見である。

臨床応用: 本知見の 臨床的意義 として、がん免疫療法を施行する 臨床現場 において、治療開始前からの定期的な血算モニタリングの重要性が再認識される。特にCLLなどの造血器疾患を合併する患者では、血球減少が原疾患の進行によるものか、あるいはICIによる重篤なirAEによるものかをDATや骨髄生検を用いて迅速に鑑別診断することが、適切な治療介入 (ステロイドや輸血療法) の決定に直結する。

残された課題: ICIによる血液学的毒性の詳細な分子メカズムや、休薬後の再投与 (rechallenge) の安全性については依然として 今後の検討課題 として残されている。Tokumo et al. LungCancer 2018 が報告しているように、重篤な汎血球減少は致命的になり得るため、より安全な免疫抑制療法のプロトコル確立が望まれる。本症例におけるステロイド漸減時の再燃傾向も、長期管理における limitation を示唆しており、最適なステロイド投与期間や二線級治療 (リツキシマブなど) の導入基準の策定が求められる。

方法

本研究は、pembrolizumab投与後に重篤な血液学的irAEを呈した67歳男性の転移性メラノーマ患者1例を対象とした単一症例報告である。患者からは本症例報告の公表に関するインフォームドコンセントを取得した。臨床データとして、治療開始前 (ベースライン) から有害事象発症、治療介入、および回復期に至るまでの血算値 (ヘモグロビン [Hb]、白血球数 [WBC: white blood cell count]、好中球絶対数 [ANC: absolute neutrophil count]、血小板数 [PLT: platelet count])、乳酸脱水素酵素 (LDH: lactate dehydrogenase)、ハプトグロビン、直接抗グロブリン試験 (DAT: direct antiglobulin test) などの生化学・免疫学的検査値、および骨髄生検の病理組織学的所見を時系列で収集・解析した。

さらに、PD-1阻害薬による血液学的有害事象の臨床的特徴を明らかにするため、PubMed などのデータベースを用いて文献検索を実施し、pembrolizumabおよびnivolumabに関連するAIHAや汎血球減少症の既報例を網羅的に集計した。なお、本症例の背景となる転移性メラノーマに対するpembrolizumabの有効性と安全性プロファイルは、第III相臨床試験である KEYNOTE-006 試験 (臨床試験登録番号: NCT01866319) のデータに基づき、生存率解析における Kaplan-Meier 法による生存曲線やハザード比などの統計学的指標を参照しつつ、本症例の特異的な経過と比較検討した。