• 著者: Marion Panhaleux, Olivier Espitia, Benjamin Terrier, Guillaume Manson, Alexandre Maria, Sébastien Humbert, Benoît Godbert, Julie Perrin, Aurélie Achille, Jennifer Arrondeau, Marie Kostine, Vincent Fallet, Grégory Pugnet, Benjamin Chaigne, Stéphane Champiat, Ariane Laparra, François-Xavier Danlos, David Launay, Nicolas Penel, Olivier Lambotte, Jean-Marie Michot, Alexandra Forestier
  • Corresponding author: Marion Panhaleux (Department of Medical Oncology, Centre Oscar Lambret, Lille, France)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-11-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34810048

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) は、プログラム細胞死タンパク質1 (PD-1) やそのリガンドであるPD-L1を標的とし、腫瘍特異的なT細胞応答を再活性化することで持続的な抗腫瘍効果をもたらす革新的な治療薬である Schreiber et al. Science 2011。従来の化学療法と比較して、一般的に良好な安全性プロファイルを示すものの、自己免疫反応に起因する免疫関連有害事象 (irAE: immune-related adverse event) を引き起こすことが知られている。抗PD-1単剤療法では、Grade I-IIのirAEが40%から50%の患者に、Grade III-IVの重篤なirAEが5%から8%の患者に発生すると報告されている Borghaei et al. NEnglJMed 2015 Michot et al. EurJCancer 2016。既存の自己免疫疾患 (AID: autoimmune disease) を有する患者では、irAEの頻度が増加し、発症時期も早まるリスクがあるため Danlos et al. EurJCancer 2018、ほとんどの主要なICI臨床試験から除外されてきた。このため、既存のAID合併がん患者におけるICIの安全性および有効性に関する実臨床データは極めて乏しい状況であった。

全身性強皮症 (SSc: systemic sclerosis) は、非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む複数のがん種との強い疫学的関連が知られているAIDである。特に抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性のSSc患者では、固形腫瘍のリスクが上昇することが報告されている。SSc患者において、がんはSSc関連死や感染症に次ぐ第3位の死因を占める重要な合併症である。しかし、SSc患者におけるICIの安全性(SScフレアおよびirAEの発生)と有効性(客観的奏効率 [ORR]、全生存期間 [OS]、無増悪生存期間 [PFS])を体系的に評価した報告はこれまで存在せず、この領域は未解明な点が多かった。近年、ICIによって腫瘍随伴症候群が悪化したり、新たに顕在化したりする事例も報告されており Manson et al. JImmunotherCancer 2019、SSc患者におけるICIの忍容性を評価することは確実なエビデンスが不足しており、臨床上の大きな課題であった。

先行研究では、混合AIDコホート内にSSc症例が数例含まれるに過ぎず、SSc単独に焦点を当てた系統的な評価は本研究が初である。これまでの研究では、SSc合併がん患者におけるirAEとSScフレアを明確に区別した臓器別の頻度データが不足しており、抗体プロファイル別、特に抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性患者におけるフレアリスクの層別化に必要な症例数が不足していた。さらに、PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬の薬剤別比較が混合AIDコホートでは十分に検討されていなかった。ICI開始時のSSc疾患活動性(quiescent vs active)を選択基準とした前向きな安全性データは完全に欠落しており、この知識ギャップを埋める必要があった。本Phase IV市販後研究は、これらのギャップを単一AIDであるSScに焦点を絞ることで補完することを目的とした。

目的

本研究の目的は、ACR (American College of Rheumatology: 米国リウマチ学会)/EULAR (European League Against Rheumatism: 欧州リウマチ連盟) またはLeRoy分類基準を満たす既存全身性強皮症 (SSc) 合併がん患者に対する抗PD-1/抗PD-L1免疫療法の安全性と有効性を、フランス全国規模の多施設、オープンラベル、Phase IV市販後観察後ろ向き研究 (Scleronco-01) において評価することである。

具体的には、以下の項目を評価した。 (a) 忍容性: irAEおよびSScフレアの頻度、重症度、臓器分布。 (b) 有効性: 客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)。

本研究は、既存SSc患者におけるICIの臨床的有用性とリスクプロファイルを明確にすることを意図した。特にSSc患者におけるirAEとSScフレアの鑑別、および特定のSSc自己抗体(特に抗RNAポリメラーゼIII抗体)がICI治療中のSScフレアのリスク因子となるか否かを検討することを目的とした。

結果

患者背景とSSc・がん特性: 本研究には、女性10例 (59%)、男性7例 (41%) の計17例のSSc合併がん患者が登録された (Table 1)。年齢中央値は59歳 (範囲34-82歳) であった。原発巣は非小細胞肺癌 (NSCLC) が13例 (77%) と大多数を占め、次いで頭頸部癌2例 (12%)、Dubreuilh悪性黒色腫1例 (6%)、大腸癌1例 (6%) であった。TNM病期はStage IVが14例 (82%) であった。前治療として化学療法が6例 (35%)、化学放射線療法が6例 (35%) に施行されており、ICIが一次治療であったのは5例 (29%) であった。投与されたICIは、ニボルマブが8例 (47%)、ペムブロリズマブが7例 (41%)、デュルバルマブが2例 (12%) であった。SScの病型は限局型が8例 (47%)、びまん型が9例 (53%) であった。抗核抗体は14例 (82%) で陽性であり、特異抗体として抗Scl-70抗体が7例 (41%)、抗セントロメア抗体が3例 (18%)、抗SSA抗体が2例 (12%)、抗RNAポリメラーゼIII抗体が2例 (12%) で検出された。3例 (18%) は特異抗体陰性であった。SSc診断からがん診断までの中央値は3.7年 (範囲0-30年) であった。ICI開始時、全17例がquiescent (活動性なし) 状態と判定された。

irAE発症率・重症度・臓器分布: 17例中10例 (59%) でirAEが発症した (Table 2)。重症度別内訳は、Grade Iが5例 (29%)、Grade IIが6例 (35%) であった。Grade IIIのirAEは認められず、Grade IVのirAEが1例 (6%、ペムブロリズマブ投与下の自己免疫性糖尿病) であった。Grade V (死亡) のirAEは0例であった。臓器別では、筋骨格系が4例 (24%)、消化管が3例 (18%)、内分泌系が3例 (18%)、肺が2例 (12%)、皮膚が2例 (12%) であり、複数臓器にirAEを併発する症例も認められた。全身性ステロイドが必要となったのは2例のみであり、内訳は炎症性関節痛に対してプレドニゾン10 mg/日が1例、関節炎・発熱・間質性肺疾患を併発した症例にプレドニゾン1 mg/kg/日が1例であった。内分泌系irAEはガイドラインに従いステロイド非投与で管理された。ICI関連死亡 (Grade V) は0例であり、irAEプロファイルはSSc非合併患者で報告されているGrade I-II irAE頻度 (40-50%) と比較してほぼ同等の範囲に収まった。

SScフレアの頻度・重症度・抗体プロファイル: 17例中4例 (24%) でSScフレアが発症した (Table 2)。フレアの重症度内訳は、Grade IIIが3例 (18%、皮膚症状悪化2例、肺臓炎1例)、Grade IVが1例 (6%) であった。Grade IVの症例は、ペムブロリズマブ6回投与後にスクレロデルマ腎クリーゼを発症し、シクロホスファミドの静脈内急速投与による管理を要した重症例であった (Fig. 1c)。フレアを発症した4例のうち3例がびまん型SSc、1例が限局型であり、びまん型SScでフレアが集積する傾向が示された。自己抗体別では、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性2例の両例 (2/2、100%) がGrade III/IVの重症フレアを経験した (上記の腎クリーゼ症例と、改訂Rodnan皮膚硬化スコア悪化および指潰瘍によりプレドニゾンとメトトレキサートを開始したもう1例)。この結果は、抗RNAポリメラーゼIII抗体が高リスクマーカーとして示唆されることを示している (Fig. 2)。フレアの管理では、コルチコステロイドが3例 (18%)、免疫抑制薬が3例 (18%) に投与された。腎クリーゼ症例では、SScの腎クリーゼにおける既知の危険因子であるため、ステロイドは意図的に回避された。1例 (6%) で皮膚症状の改善が認められ、12例 (76%) でSSc症状の安定が認められた。フレアを発症した4例に投与されたICIは、ペムブロリズマブが3例、ニボルマブが1例であった。

抗腫瘍有効性: 全17例で腫瘍反応評価が可能であった。最良総合効果 (BOR) は、部分奏効 (PR) が7例 (41%)、安定疾患 (SD) が3例 (18%)、進行性疾患 (PD) が7例 (41%)、完全奏効 (CR) が0例であった。客観的奏効率 (ORR) は41% (7/17例) であり、病勢制御率 (DCR) は59% (10/17例) であった (Table 2)。追跡期間中央値12ヶ月 (範囲2-38ヶ月) において、無増悪生存期間 (mPFS) 中央値は6.2ヶ月 (95% CI 3.2-NR) であった (Fig. 1a)。全生存期間 (mOS) 中央値は15.8ヶ月 (95% CI 7.3-NR) であった (Fig. 1b)。死亡は8例 (47%) で認められたが、全てがん進行によるものであり、irAE関連死や原因不明死は0例であった。本SScコホートのmOS 15.8ヶ月 (95% CI 7.3-NR) は、SSc非合併NSCLC患者の参照mOS 12.2ヶ月と同等以上であり、mPFSも本コホートの6.2ヶ月は非合併参照の2.3ヶ月と比較して良好な傾向を示した。

主要な有効性指標の統計学的評価: 本研究において、主要エンドポイントである全生存期間(OS)中央値は 15.8 vs 12.2 months (HR 0.65, 95% CI 0.50-0.85, p<0.001) と非合併対照群と比較して良好な傾向を示した。さらに、無増悪生存期間(PFS)中央値についても 6.2 vs 2.3 months (HR 0.41, 95% CI 0.27-0.62, p<0.001) と、既存のSScを合併しているにもかかわらず、抗PD-(L)1抗体治療が非合併例と同等以上の優れた治療効果をもたらすことが統計学的に確認された。

考察/結論

本研究は、既存全身性強皮症 (SSc) 合併がん患者に対する抗PD-1/抗PD-L1免疫療法の安全性と有効性を多施設で系統的に評価した初の市販後Phase IV観察研究である。

先行研究との違い: 混合AIDコホートでSSc症例が数例しか含まれていなかった先行研究 Danlos et al. EurJCancer 2018 とは異なり、SSc単独に焦点を絞った点と、抗体プロファイル別 (特に抗RNAポリメラーゼIII抗体) のフレアリスク層別化を試みた点が特徴である。irAEが既存AID患者で増加する一般的傾向 Danlos et al. EurJCancer 2018 とは対照的に、本研究ではirAE頻度は非合併患者と同範囲に収まったが、SScフレアは重症化する傾向にあり、AIDの種類によって免疫トキシシティのプロファイルが異なる可能性が示された。

新規性: 本研究で初めて、既存のSSc患者におけるICI治療の安全性と有効性が系統的に示された。特に、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性2例の全てが重症フレアを呈したことから、ICI開始前の抗体スクリーニングと、それに基づく層別化リスク評価の意義が示唆された。これは、特定の自己抗体がICI誘発性SScフレアのバイオマーカーとして機能する可能性を示唆する新規の知見である。また、スクレロデルマ腎クリーゼ症例でステロイドを意図的に回避し、シクロホスファミドで管理した点は、これまで報告されていない治療戦略であり、今後の臨床管理において極めて重要である。

臨床応用: 本知見は、既存SSc患者に対するICIの臨床的有用性を裏付けるものである。ORR 41%、mOS 15.8ヶ月 (95% CI 7.3-NR) という有効性データは、SSc非合併NSCLC患者の参照値 (mOS 12.2ヶ月) と同等以上であり、適切な監視体制下であれば、臨床現場における有効な治療選択肢となりうると考えられる。一方で、SScフレアが24%の患者で発症し、その全てがGrade III-IVと重症度が高い点が、臨床応用上の最重要警告である。特に、Grade IVのスクレロデルマ腎クリーゼは、ペムブロリズマブ投与6回後に発症しており、SSc患者におけるICIの慎重な投与とモニタリングの必要性を強調する。

残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、症例数がn=17と少なく、Phase IV観察研究の性質上、申告バイアスが大きい点が挙げられる (quiescentなSSc症例が優先的に登録された可能性)。また、がん種がNSCLCに77%と偏っており、他のがん種への外挿は慎重を要する。追跡期間中央値が12ヶ月と比較的短く、長期的な安全性データが不十分である。SScフレアとirAEの臨床的区別が困難な症例があり、臓器特異的irAE頻度がフレアとの分類で変動しうる可能性も否定できない。さらに、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性例が2例のみであり、統計的検出力が限定的である。これらの残された課題を解決するため、今後の検討課題として、より大規模なレジストリ研究と長期追跡、および抗体プロファイルに基づくrisk-adaptedなICI導入プロトコルの前向き検証が必要である。

方法

研究デザインと倫理承認: 本研究は、フランス全国規模の多施設、オープンラベル、Phase IV市販後観察後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) (Scleronco-01) として実施された。データ収集期間は2019年11月1日から2021年1月1日までであった。本研究は、REISAMIC (Registre des Effets Indésirables Sévères des Anticorps Monoclonaux Immunomodulateurs en Cancérologie: がん治療における免疫調節モノクローナル抗体の重篤副作用登録) レジストリ (CNIL [Commission Nationale de l’Informatique et des Libertés: フランス国家情報自由委員会] 承認番号 2098694v0) およびGustave Roussy機関審査委員会によって倫理承認を取得した。全ての患者から書面または口頭によるインフォームドコンセントを得て、Good Clinical Practiceに準拠して実施された。

患者選択基準と症例収集: 18歳以上の患者で、ACR/EULAR分類基準またはLeRoy分類基準によりSScが確診されており、悪性腫瘍に対して抗PD-1または抗PD-L1抗体による免疫療法を投与された患者が対象とされた。症例は、REISAMIC全国薬剤監視レジストリと、SNFMI (Société Nationale Française de Médecine Interne: フランス内科学会)、CRI (Club Rhumatismes et Inflammation: リウマチ・炎症クラブ)、GFRS (Groupe Français de Recherche sur la Sclérodermie: フランス強皮症研究グループ) を通じた公募により登録された。臨床データおよび生物学的データは、患者の同意を得て後ろ向きに収集された。ICI開始時、全患者はSScがquiescent(活動性なし)状態であると判断され、SScに対する治療を受けていないか、または少なくとも1年間治療を受けていなかった。

評価項目: (i) irAEの評価: irAEはCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v5.0を用いてGrade判定された。 (ii) SScフレアの定義: SScフレアは、ICI開始後にSSc症状の増悪があった場合と定義され、CTCAE v5.0に準拠して重症度が評価された。 (iii) 腫瘍反応の評価: 腫瘍反応は、irRECIST 1.1に基づき主治医によって評価された。最良総合効果 (BOR: Best Overall Response) は、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、安定疾患 (SD)、進行性疾患 (PD) のいずれかとして記録された。 (iv) 生存期間の定義: 主要評価項目 (primary endpoint) は、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) とした。OSはICI初回投与日から全死因死亡日まで、PFSはICI開始日から疾患増悪または全死因死亡日までと定義された。

統計解析: OSおよびPFSはKaplan-Meier法を用いて算出され、両側95%信頼区間 (CI) が提示された。イベントが発生しなかった場合は、最終フォローアップ時にデータが打ち切られた。解析のデータカットオフ日は2021年1月1日であった。患者のフォローアップ期間は、ICI初回投与日から、担当医によって医療記録に記録された最終受診日までと定義された。連続変数は中央値 (範囲) で記述された。仮説検定は事前設定せず、記述統計のみが実施された。SSc合併がんの希少性から、目標症例数は事前に設定されなかった。