• 著者: Michot JM, Bigenwald C, Champiat S, Collins M, Carbonnel F, Postel-Vinay S, Berdelou A, Varga A, Bahleda R, Hollebecque A, Massard C, Fuerea A, Ribrag V, Gazzah A, Armand JP, Amellal N, Angevin E, Noel N, Boutros C, Mateus C, Robert C, Soria JC, Marabelle A, Lambotte O
  • Corresponding author: J.M. Michot (Drug Development Department, Gustave Roussy Comprehensive Cancer Center, Villejuif, France)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-01-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 26765102

背景

がん免疫療法は、腫瘍細胞そのものを直接標的とする従来の化学療法や分子標的薬とは異なり、患者自身の免疫細胞を活性化してがんを攻撃させるという、腫瘍学における決定的なパラダイムシフトをもたらした。この新時代の先駆者となったのが、免疫チェックポイント分子を阻害するモノクローナル抗体である。2011年には、細胞傷害性Tリンパ球移行抗原4 (CTLA-4) を標的とするipilimumabが、転移性悪性黒色腫患者を対象とした第III相試験において、全生存期間 (OS) を有意に延長することを示した (Hodi et al. NEnglJMed 2010)。続いて、programmed cell death protein 1 (PD-1) を標的とするnivolumabやpembrolizumabが、悪性黒色腫 (Robert et al. NEnglJMed 2015Robert et al. NEnglJMed 2015) や非小細胞肺がん (NSCLC) (Garon et al. NEnglJMed 2015) において極めて高い抗腫瘍活性を示し、その適応は「PDLoma」と呼ばれるほど広範な腫瘍種へと急速に拡大していった (Mellman et al. Nature 2011Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。

しかし、これらの薬剤は免疫系の抑制シグナル (ブレーキ) を解除するという作用機序を有するため、自己反応性T細胞の活性化を招き、全身の正常組織において自己免疫疾患に類似した過剰な免疫反応を引き起こす。これが免疫関連有害事象 (irAE) である。irAEは従来の化学療法の毒性プロファイルとは根本的に異なり、その発現形式や管理法について臨床現場での理解は不十分であった。特に、臨床試験における有害事象の報告用語 (terminology) が統一されておらず、発症時期、可逆性、治療介入後の経過などの詳細なデータ記述が不足しているという深刻な課題 (knowledge gap) が存在していた。また、重症 (Grade 3-4) のirAEに対する段階的な免疫抑制療法 (副腎皮質ステロイドからinfliximab、mycophenolate mofetil (MMF)、azathioprineへの移行基準) を体系化した包括的な参照基準が手薄であり、臨床医は経験的な判断に依存せざるを得ない状況であった。このように、臓器横断的な irAE の発症機序や詳細な管理アルゴリズムを網羅した包括的な指針が不足していることが臨床上の大きな課題であった。

目的

本総合レビュー (comprehensive review) は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、および抗PD-L1抗体による免疫チェックポイント阻害薬治療に伴う免疫関連有害事象 (irAE) について、以下の5点を体系的に整理・構築することを目的とした。

  1. 自己反応性T細胞の活性化、腫瘍ネオアンチゲンと正常組織抗原との交差反応性、および腸内細菌叢の関与を含むirAEの発症機序の解明。
  2. 免疫チェックポイント阻害薬の種類によるirAEの全体的および臓器別の発現頻度、重症度分布、および発現タイムラインの比較。
  3. 皮膚、粘膜、消化管、内分泌、肝臓、肺、神経、眼、関節、腎臓、血液などの各臓器における詳細な診断手順と、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) グレードに応じた段階的な管理アルゴリズムの提示。
  4. irAEの発現と抗腫瘍効果 (治療有効性) との相関性 (toxicity-efficacy relationship) に関するバイオマーカーとしての意義の検証。
  5. 有害事象発現時における免疫療法の休薬・永久中止基準、およびステロイド減量プロトコルの標準化。

結果

抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の発現頻度比較: 免疫関連有害事象 (irAE) の発現頻度は、使用する薬剤の標的分子によって大きく異なる。抗CTLA-4抗体 (ipilimumab) で治療された患者では、全グレードのirAEが約 90% に発生し、Grade 3-5 の重症有害事象は約 25% に達する (Fig 2)。これに対し、抗PD-1/PD-L1抗体 (nivolumab、pembrolizumabなど) では、全グレードのirAEが約 70% であり、Grade 3-5 の重症例は約 5% から 10% と、抗CTLA-4抗体に比べて有意に低頻度かつ軽症である (Topalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。発現タイムラインについては、抗CTLA-4抗体では投与開始後 3-6 ヶ月以内に大部分のイベントが発生するが、抗PD-1抗体では投与開始後 1 年以上経過した後に発症する遅発性irAEも報告されている。抗PD-1抗体では長期投与に伴う累積毒性 (cumulative toxicity) は観察されないが、内分泌障害などの一部のirAEは永続的な機能低下を招くことが多い (Fig 1)。

CTCAEグレードに基づく段階的全身管理: irAEの管理は、CTCAEグレードに応じて厳格に規定される (Table 3)。

  • Grade 1: 外来管理が可能であり、ステロイド投与は推奨されず、免疫チェックポイント阻害薬の治療を継続する。
  • Grade 2: 外来管理を基本とし、局所ステロイドまたは経口プレドニゾン 0.5-1 mg/kg/day の全身投与を行い、免疫療法は一時休薬する。
  • Grade 3: 原則として入院管理とし、経口または静脈内プレドニゾン 1-2 mg/kg/day を 3 日間投与した後に 1 mg/kg/day に減量する。3-5 日以内に症状の改善が見られない場合は、二次免疫抑制薬 (infliximab、MMF、azathioprineなど) の追加を速やかに検討し、臓器専門医と連携する。免疫療法は中断し、リスク・ベネフィットを個別に判断して再開を検討する。
  • Grade 4: 入院管理とし、必要に応じて集中治療室 (ICU) への入室を考慮する。メチルプレドニゾロン 1-2 mg/kg/day の静脈内投与を 3 日間行い、その後徐々に減量する。免疫チェックポイント阻害薬は永久中止とする。 全身性ステロイドを 1 mg/kg/day 以上の用量で 4 週間以上投与、あるいはテーパリングを行う場合は、日和見感染症を予防するためにスルファメトキサゾール・トリメトプリム (ST合剤) による Pneumocystis jirovecii 肺炎 (PCP) の予防投与が必須である。また、ステロイドの急速な減量はirAEの再燃を招くため、少なくとも 1 ヶ月以上かけて段階的に減量 (tapering) する必要がある。

消化管障害における大腸炎の診断と治療: 消化管毒性は、抗CTLA-4抗体治療において最も頻度が高く、かつ重篤化しやすいirAEである。Ipilimumab投与患者の約 30% に下痢が発生し、約 10% が Grade 3-4 の重症大腸炎 (colitis) に進展する (Fig 2)。抗PD-1/PD-L1抗体では、全グレードの下痢・大腸炎の頻度は極めて低い。単なる下痢と、腹痛や画像上・内視鏡上の炎症所見を伴う大腸炎を鑑別することが極めて重要である。病理組織学的には、粘膜の紅斑、潰瘍形成、陰窩炎 (cryptitis)、陰窩膿瘍 (crypt abscess)、および肉芽腫を伴うCrohn病に類似したびまん性T細胞浸潤が特徴である。診断にあたっては、便培養、Clostridium difficile 毒素検査、およびサイトメガロウイルス (CMV) 再活性化のスクリーニングにより感染性腸炎を除外する。腹部CT検査、糞便中カルプロテクチン測定、および生検を伴うS状結腸鏡検査が推奨される。Grade 1-2 の大腸炎にはブデソニドの局所投与を行い、Grade 3-4 の重症例には全身性ステロイドを投与する。ステロイド開始後 3 日以内に改善が得られない難治例に対しては、infliximab 5 mg/kg の単回または複数回静脈内投与が極めて有効である。

内分泌障害の臓器別特徴とホルモン補充: 内分泌関連のirAEは、全患者の約 5% から 10% に発現する (Fig 3)。

  • 甲状腺機能障害: 最も頻度が高く、甲状腺機能低下症が甲状腺機能亢進症よりも多く見られる。TSHレベルが 10 mIU/L を超える場合は、レボチロキシンによるホルモン補充療法を開始する。一時的な甲状腺中毒症の後に低下症へ移行するパターンが多い。
  • 下垂体炎 (hypophysitis): 抗CTLA-4抗体治療において特徴的であり、最大 10% の患者に発現する。頭痛、倦怠感、体重減少などの非特異的症状を呈し、ACTH、TSH、LH/FSH、GH、プロラクチンなどの下垂体前葉ホルモンの低下を伴う。ガドリニウム造影下垂体MRIにおいて、下垂体の腫大や不均一な造影効果を確認することで診断する。治療は、ヒドロコルチゾンおよびレボチロキシンによる生涯にわたるホルモン補充療法が必要となる。
  • 副腎不全: 低コルチゾール血症および高ACTH血症を特徴とする原発性副腎不全、または下垂体炎に伴う二次性副腎不全が起こる。急性副腎クリーゼは脱水や低血圧を招く緊急事態であり、直ちに入院の上、ヒドロコルチゾンの静脈内投与を行う。
  • 1型糖尿病: 急激な高血糖とケトアシドーシスを伴って発症する。インスリン補充療法が必須であり、ステロイド投与は代謝異常を悪化させるため禁忌である。

呼吸器障害における免疫関連肺炎の管理: 免疫関連肺炎 (pneumonitis) は、抗PD-1/PD-L1抗体治療において特に重要であり、発現頻度は約 1% と低いものの、致死的な経過をたどり得る重篤な毒性である。乾性咳嗽、進行性の呼吸困難、および微細な捻髪音 (crackles) が初発症状となる。胸部CT検査では、下葉優位のすりガラス影 (ground-glass opacity) や浸潤影、あるいは器質化肺炎 (organizing pneumonia) やサルコイドーシス様の結節性病変を呈する。診断時には、心不全や、Pneumocystis jirovecii、インフルエンザウイルスなどの感染症を気管支肺胞洗浄 (BAL) 等で除外する。Grade 2 以上の肺炎に対しては、直ちに全身性ステロイド治療を開始し、ステロイド抵抗性の場合はinfliximabの追加を考慮する。

肝障害における免疫関連肝炎の診断手順: AST/ALTの上昇を伴う免疫関連肝炎は、患者の 5% 未満に発生する。多くは無症状であり、定期的な血液検査で発見される。診断にあたっては、A型、B型、C型、およびE型肝炎ウイルス感染、ならびに肝転移や胆石症を除外する。自己抗体 (ANA、抗平滑筋抗体、anti-LKM1など) は陰性であることが多い (Table 2)。確定診断には肝生検が有用であり、小葉内のびまん性T細胞浸潤や類洞内の組織球浸潤、内皮炎を伴う中心静脈障害が観察される。治療は全身性ステロイドを用い、難治例にはazathioprineまたはMMFを追加する。

その他の稀なirAEの臨床的特徴:

  • 皮膚・粘膜: 悪性黒色腫患者において白斑 (vitiligo) が約 11% に発生し、治療効果との相関が示唆されている。その他、斑状丘疹状皮疹や、稀にStevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症 (TEN) などの重症皮膚障害が起こる。
  • 神経障害: Guillain-Barré症候群、無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎、末梢神経障害などが報告されており、早期のステロイド投与や免疫グロブリン大量療法 (IVIG) が必要となる。
  • 眼障害: 葡萄膜炎、強膜上炎、結膜炎などが発生し、局所または全身性ステロイドで治療する。
  • 関節炎・筋肉痛: 約 5% に関節リウマチ様または多発性筋痛症様の症状が現れ、低用量プレドニゾン (0.5 mg/kg/day) が奏効する。
  • 腎障害: 間質性腎炎が約 1% に発生し、腎生検で尿細管間質への炎症細胞浸潤を確認の上、ステロイドで治療する。
  • 血液毒性: 赤芽球癆、自己免疫性好中球減少症、溶血性貧血、後天性血友病Aなどの重篤な血球減少や凝固異常が稀に報告されている。

irAEと治療効果の相関分析: 悪性黒色腫において、抗PD-1抗体治療中にirAE (特に皮膚毒性や白斑) を発現した患者では、irAEを発現しなかった患者と比較して客観的奏効率 (ORR) や生存期間 (OS) が有意に良好であるという「toxicity-efficacy positive correlation」が複数の臨床試験データから示されている。この機序として、腫瘍細胞のネオアンチゲン (neoantigen) と正常組織の自己抗原との間でT細胞受容体 (TCR) の交差反応性 (cross-reactivity) が生じている可能性が示唆されている。また、特定のHLA型や自己抗体プロファイル、さらには腸内細菌叢の組成が、抗腫瘍免疫の活性化とirAEの発現感受性の両方に深く関与していることが明らかになりつつある。

考察/結論

先行研究との違い: 本総合レビューは、2016年当時、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の普及に伴って臨床現場で急増していた免疫関連有害事象 (irAE) に対し、最も体系的かつ実践的な管理フレームワークを提示した画期的な文献である。それまでの先行研究は、特定の臓器障害 (例: 大腸炎のみ、あるいは下垂体炎のみ) に関する個別の症例報告や、単一薬剤の安全性プロファイルの記述に留まっていた。これに対し、本論文は抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、および抗PD-L1抗体の全データを統合し、CTCAEグレードに基づいた「全身共通の段階的免疫抑制アルゴリズム (Table 3)」を提示した点で、従来の個別的なアプローチと異なり、極めて包括的な内容となっている。

新規性: 本研究で初めて、irAEを単なる「回避すべき薬剤毒性」として捉えるのではなく、免疫系が活性化している生物学的指標、すなわち「抗腫瘍効果の代替バイオマーカー (toxicity-efficacy correlation)」として再定義した点を新規に提唱した。悪性黒色腫における白斑 (vitiligo) の発現頻度 (11%) と治療奏効率の相関を提示し、腫瘍ネオアンチゲンと正常組織抗原の交差反応性、および腸内細菌叢 (microbiome) が宿主の免疫応答と毒性発現の双方を規定するという最先端の免疫学的仮説を臨床データと結びつけて包括的に解説した。

臨床応用: 本論文で提示された臓器別管理アルゴリズムは、ASCO、ESMO、NCCN、SITC、および日本臨床腫瘍学会 (JSMO) などの主要な学会ガイドラインの骨格として直接的に臨床応用され、がん薬物療法の安全性向上に決定的な臨床的含意をもたらした。腫瘍内科医のみならず、消化器内科、内分泌内科、呼吸器内科などの臓器専門医との多職種連携 (multidisciplinary team) の重要性を提唱し、実臨床における「bench-to-bedside」の橋渡しを完成させた。

残された課題: 当時の limitation として、(1) 自己免疫疾患の既往を持つ患者における ICI 投与の安全性データの不足、(2) 臓器移植後患者や HIV 感染者、妊婦などの特殊背景患者における安全性、(3) 二次免疫抑制薬 (infliximab や MMF) の追加が長期的な抗腫瘍効果に与える影響の定量化、(4) ICI 併用療法 (例: ipilimumab + nivolumab) における毒性の相乗的増加への対応、(5) 症状改善後の ICI 再開タイミングの最適化、が挙げられた。今後の検討課題として、(1) 糞便微生物移植 (FMT) などを応用した腸内細菌叢の制御による irAE 予防、(2) 治療開始前における HLA タイピングや自己抗体プロファイルを用いた個別化予測バイオマーカーの同定、(3) 予防的免疫抑制療法の検証、が今後の研究方向性として示された。

方法

本論文は、フランスの主要ながんセンターであるGustave Roussy Comprehensive Cancer Centerの薬物開発部門、腫瘍内科、および内科・臨床免疫学部門の多職種専門家チームの連携によって執筆された総合ナラティブレビュー (comprehensive narrative review) である。系統的レビュー (systematic review) の手法は用いていないが、主要な第II相および第III相臨床試験の安全性データ、自己免疫疾患領域における確立されたエビデンス、および著者らの豊富な臨床経験を統合した。

文献検索データベースとして主に PubMed を用いて網羅的な検索を実施し、免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験、症例報告、症例シリーズ、および自己免疫疾患の病態生理に関する重要文献を含む計79件の文献を精査・引用した。文献の選定にあたっては、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体の単剤および併用療法に関する安全性データを有する臨床試験を網羅する inclusion/exclusion criteria (選択除外基準) を設定し、信頼性の高いデータのみを抽出した。特に、CTCAEグレードに基づく全身管理アルゴリズムの策定においては、各製薬会社の安全管理ガイドラインや自己免疫疾患の治療ガイドラインを参考に、患者管理の場所 (外来または入院)、ステロイドの投与経路・用量、二次免疫抑制薬 (TNF-α阻害薬など) の適応、および免疫療法の継続・中止判断をマトリックス化して体系的に整理した。統計解析手法や特定の臨床試験登録番号 (NCT番号) は本レビュー自体には直接存在しないが、引用された主要な臨床試験データ (例: ipilimumabの第III相試験など) の生存解析におけるログランク検定 (log-rank test) やコックス比例ハザード回帰モデル (Cox regression model) の結果を基盤として、臨床的有用性と安全性の評価を行った。