• 著者: Yoshimura K, Meckel KF, Laird LS, Chia CY, Park JJ, Olino KL, Tsunedomi R, Harada T, Iizuka N, Hazama S, Kato Y, Keller JW, Thompson JM, Chang F, Romer LH, Jain A, Iacobuzio-Donahue C, Oka M, Pardoll DM, Schulick RD
  • Corresponding author: Richard D. Schulick (rschulick@jhmi.edu, Department of Surgery, Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, MD)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-09-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19738067

背景

がん患者の死因の大部分は転移による疾患負担によって規定されており、転移メカニズムの解明は腫瘍生物学における最重要課題のひとつである。特に腫瘍細胞が特定の臓器に優先的に転移する現象である臓器選択的転移 (organotropism) は、Stephen Paget (1889) の「種と土壌」仮説以来の重要問題であるが、その詳細な分子基盤の解明は依然として不完全であった。転移プロセスは、原発腫瘍からの脱出、リンパ系または血管系への侵入、循環系での生存、宿主防御機構の回避、新たな部位での定着、組織への血管外遊出、および最終的な新たな部位での増殖という一連の段階から構成される。これらの各段階において、腫瘍細胞固有の因子と宿主因子との複雑な相互作用が関与している。

大腸がんや膵臓がん等の消化器系腫瘍では、肝臓が最も重要な転移標的臓器であり、しばしば唯一の転移巣となる。門脈系を通じた解剖学的ドレナージが消化管腫瘍の高い肝転移率の一因であることは理解されていたが、すべての消化器腫瘍が等しく肝転移を生じるわけではなく、腫瘍細胞固有の分子的特性が肝転移選択性を規定していると考えられた。しかし、この臓器選択的転移を媒介する細胞表面分子の同定とその機能的役割の解明は、依然として未解明な点が多く、分子標的治療の開発に向けた大きな知識ギャップとなっていた。

細胞接着分子は、細胞接着、遊走、シグナル伝達を制御する上で重要な役割を果たす。中でもインテグリン (integrin) はα鎖とβ鎖からなるヘテロ二量体膜貫通受容体であり、細胞外マトリクス (extracellular matrix: ECM) 成分への結合を介して細胞の挙動を制御する。先行研究において、インテグリンα6β4、αvβ3、α4β1等が肝転移との関連を示唆されていたが、いずれもブロッケードと強制発現の双方からの厳密な因果的証明が不足していた。インテグリンα2 (CD49b) はβ1サブユニットと結合してVLA-2 (Very Late Antigen-2) を構成し、I型、II型、IV型コラーゲンへの結合能を持つ。肝臓類洞はIV型コラーゲンが豊富な環境であることが知られており、インテグリンα2とIV型コラーゲンとの相互作用が肝臓選択的な定着に寄与する可能性が仮説として提示できた。

これまでの先行研究、例えば Yoshimura et al. CancerRes 2006Yoshimura et al. CancerRes 2007 では、肝転移モデルを用いた治療法の開発が進められてきたが、特定のインテグリンが臓器選択的転移を直接的に媒介する分子メカニズムは未確立であった。この臓器選択性を規定する分子実体の解明において、機能的な裏付けを伴う直接的な因果関係の証明が決定的に不足しているという課題が存在した。

目的

本研究の目的は、古典的 in vivo 反復選択法で樹立した肝転移選択サブラインを用いて、肝臓選択的転移を付与する細胞表面分子を体系的スクリーニングにより同定することである。さらに、同定した分子の因果的役割を複数の相補的実験系 (FACSソート、抗体ブロッケード、遺伝子導入による強制発現) で証明し、その分子メカニズム (細胞外マトリクス結合、下流シグナル伝達) を解明する。最終的に、ヒト大腸がん患者の転移組織における臨床的関連性を検証し、インテグリンα2 (CD49b) が肝転移選択性を規定する重要な分子標的となりうることを示す。

結果

B16-KY8の肝転移選択性の確立: B16-F0 (B16 melanoma parental line) メラノーマ細胞を8回の in vivo 選択に供し、肝転移選択サブライン B16-KY8 (8回継代、高肝転移能) を樹立した (Fig 1A)。脾内注射17日後の解剖において、B16-KY8 を接種したマウスは、B16-F0、B16-F10 (肺転移選択ライン)、B16-KY4 (4回継代、中等度) と比較して有意に多い肝転移結節数と高い肝重量を示した (p<0.02)。具体的には、B16-KY8群の肝重量は他の群と比較して顕著に高かった (Fig 1D)。B16-KY8 は腹膜播種をほとんど認めなかったのに対し、B16-F0 および B16-F10 では広範な腹膜播種が優勢であった (Fig 1B)。B16-KY4 は中間的な転移パターンを示した。4つの細胞株間で in vitro での増殖速度に有意差はなく、転移能の差異は細胞増殖能によるものではないことが確認された。

細胞表面分子スクリーニングによるインテグリンα2の同定: 30種超の細胞表面マーカーを網羅的にフローサイトメトリーで解析した結果、インテグリンα2 (CD49b) のみが B16-KY8 で特異的に高発現しており、他の3ライン (B16-F0、B16-KY4、B16-F10) との間で一貫した差異を示した。インテグリンα2 はβ1鎖 (CD29) と結合して VLA-2 (Very Late Antigen-2) 複合体を形成するが、β1鎖の発現は4ライン間で差がなかったことから、VLA-2 複合体におけるα2鎖の発現量が肝転移表現型の規定因子であることが示唆された (Fig 2A)。

インテグリンα2高発現細胞と低発現細胞における転移パターンの逆転: B16-KY8 から FACSソートしたインテグリンα2高発現細胞群 (n=10 mice) では、hemispleen 注射21日後に100%のマウスが肝転移を発症し、腹膜播種は30% (3/10例) にとどまった。一方、低発現細胞群 (n=11 mice) では100%のマウスが腹膜播種を発症した (p=0.001)。肝転移結節数も high群が low群より有意に多く、low群の腹膜結節数は high群より有意に多かった (high群 0.7 ± 0.5 vs low群 31.1 ± 6.4、Fig 2B)。尾静脈注射モデルでは、high群の27%が肝転移を発症したが、low群では肝転移を認めなかった (100%が肺転移)。肺転移結節数は両群で有意差なく、インテグリンα2の効果が肝臓に選択的であることが示された。

抗インテグリンα2抗体ブロッケードによる肝転移抑制と腹膜播種増加: B16-KY8 細胞への抗体ブロッケードにより、肝転移結節数が有意に減少し (isotype群 27 ± 6 vs blocked群 18 ± 6、p=0.013)、同時に腹膜播種が増加した (isotype群 2 ± 3 vs blocked群 24 ± 17)。この結果は、インテグリンα2 が転移の総量を減らすのではなく、転移臓器の選択を制御することを示唆する。CT26 (BALB/c由来大腸腺がん細胞) (n=10 mice) では、抗体ブロッケードにより肝転移結節数が12.5 ± 2.4から3.8 ± 1.5に有意減少し (p=0.009)、腹膜播種が3.2 ± 1.9から11.7 ± 2.4に増加した (p=0.014、Fig 4A, B)。4T-1 (BALB/c由来乳がん細胞) (n=10 mice) でも、肝転移が60.4 ± 11.8から13.2 ± 9.4に有意減少した (p=0.03、Fig 4C)。いずれの腫瘍種においても肺転移結節数は変化せず、インテグリンα2 が転移の総量を変えずに転移臓器の選択を制御するという一貫した証拠が示された。

インテグリンα2強制発現による肝転移能の獲得: B16-F0 細胞にα2 cDNAを導入することで、インテグリンα2高発現細胞株 B16-SKY を樹立した。Hemispleen 注射後、B16-SKY は B16-F0 より有意に多い肝転移を示した (p=0.0023、Fig 3A)。B16-SKY への抗体ブロッケードは肝転移結節数を減少させ (11.6 ± 1.1 vs 7.1 ± 1.3、p=0.02)、腹膜播種を増加させた (5.1 ± 9.8 vs 17.8 ± 6.1、p=0.0011)。B16-SKYP (中等度発現、B16-KY8と同等レベル) も B16-SKY と同数の肝転移を形成し (12.3 ± 1.8 vs 11.6 ± 1.1、統計的有意差なし)、生理的レベルのα2発現で十分な肝転移誘導効果が得られることが示された (Fig 3C)。

IV型コラーゲン結合の特異的増強: IV型コラーゲンコートプレートへの接着は、B16-F0 の 138 ± 17 cells (n=4 cells) に対して B16-KY8 は 881 ± 95 cells (n=4 cells) と、約6.3-fold increase(6.3倍の接着能向上)を達成した (p<0.001、Fig 5A, B)。抗インテグリンα2抗体処置により、B16-KY8 の接着は 786 ± 30 から 163 ± 42 に (p<0.0001)、B16-SKYP は 829 ± 28 から 142 ± 39 に (p<0.0001) 完全抑制された (Fig 5C)。I/III型コラーゲンおよびフィブロネクチンへの接着増強はごくわずかであり、肝臓類洞に豊富なIV型コラーゲンへの特異的結合がインテグリンα2依存的に増強されることが明確に示された。

IV型コラーゲン結合を介したFAK Y397リン酸化活性化: B16-KY8 および B16-SKY をIV型コラーゲンコートプレート上にプレーティングすると、FAK (focal adhesion kinase) Y397リン酸化が経時的に増加し、90分でピークに達した (Fig 6B)。一方、B16-F0 ではIV型コラーゲン上でも FAK 活性化は観察されなかった (Fig 6A)。AKT (protein kinase B) および phospho-AKT (S473) リン酸化は全ライン・全条件間で差がなく、FAK 活性化がα2/IV型コラーゲン特異的シグナルであることが確認された。

ヒト大腸がん組織におけるインテグリンα2発現と肝転移の相関: 同時性肝・肺転移を有する大腸がん患者 (n=7 patients) の切片を免疫染色したところ、7例中6例 (86%) で肝転移巣がインテグリンα2陽性 (Hスコア高値) であり、対応する肺転移巣より染色強度が有意に高かった (p=0.0075)。2例では肝転移巣が極めて強陽性で、対応する肺転移巣がほぼ陰性という顕著なコントラストを呈した。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、インテグリンα6β4やαvβ3などの他の接着分子に着目した従来の報告と異なり、古典的 in vivo 反復選択法と30種超の包括的細胞表面分子スクリーニングを組み合わせることにより、肝転移選択性を付与する単一の細胞表面分子としてインテグリンα2を同定した。Haierら (1999) はヒト大腸がん細胞株においてα2発現と肝転移能の相関を認めなかったと報告したが、これはFACS非使用による定量の不正確さや異種移植系での種間相互作用の差異が影響した可能性があり、同種 (syngeneic) モデルを用いた本研究の結果とは対照的である。

新規性: 本研究は、インテグリンα2が腫瘍細胞の全体的な転移能ではなく「臓器の選択」を担う分子として機能することを本研究で初めて実証した。インテグリンα2阻害が転移の総量を減らすのではなく、転移先を肝臓から腹腔・肺へシフトさせるという観察は極めて新規性が高い。肝臓類洞に豊富なIV型コラーゲンとインテグリンα2β1 (VLA-2) の相互作用がその臓器特異性を規定し、IV型コラーゲン結合後の FAK Y397活性化 (90分ピーク) を介して肝臓内での腫瘍定着と増殖を促進するという新しいメカニズムを解明した。

臨床応用: インテグリンα2は、大腸がんや乳がん等の肝転移予防における有望な治療標的となりうる。抗α2抗体や低分子インテグリン阻害薬の開発は、術後補助療法として肝転移予防を目指す治療の合理的根拠を提供する。また、肝転移巣での CD49b (インテグリンα2) 高発現は、転移臓器選択性のバイオマーカーとして臨床現場でのリスク層別化に貢献する臨床的有用性を持つ。

残された課題: 本研究の limitation として、免疫能正常マウスを用いた syngeneic 系であるものの、現代的な腫瘍免疫微小環境 (制御性T細胞、NK細胞、腫瘍関連マクロファージ等) の関与について詳細な評価が行われていない点が挙げられる。また、ヒト組織解析は7例と少数であり、大規模コホートでの検証が今後の検討課題である。今後は、インテグリンα2を介する FAK 下流シグナルの詳細な経路解析や、肝転移予防を目的とした前臨床治療試験が重要な課題となる。

方法

肝転移選択サブラインの樹立: B16-F0 (B16 melanoma parental line) メラノーマ細胞を雌 C57BL/6J マウスへの脾内 (hemispleen) 注射により肝転移を誘導した。その後、肝転移巣を回収し、機械的に分散して単一細胞懸濁液とし、in vitro で培養した。この手順を8回繰り返し、B16-KY8 (8回継代、高肝転移能) および B16-KY4 (4回継代、中等度) を樹立した。肺転移選択ライン (B16-F10) を対照として用いた。すべての動物実験は承認された動物使用プロトコルに従って倫理的に実施された。

細胞表面分子の網羅的フローサイトメトリースクリーニング: Fc受容体ブロック後、インテグリン (CD49a/b/d/e/f、CD29、CD51、CD11a/b/c)、接着分子 (CD44、CD54、CD62L、CD106)、ケモカイン受容体 (CD184/CXCR4、CCR10等)、共刺激分子、NK1.1、c-Met、Integrin α7を含む30種超の細胞表面マーカーを FACScan (BD Biosciences) で定量的に解析した。抗インテグリンα2抗体にはクローン HMα2 を使用した。

機能的検証実験:

  1. FACSソートによるインテグリンα2 high/low細胞の分離と転移実験: B16-KY8細胞からインテグリンα2高発現細胞群と低発現細胞群 (それぞれ上位・下位10%) を FACSVantage SE セルソーターで分離した。これらの細胞を hemispleen 注射または尾静脈注射によりマウスに投与し、転移パターンを評価した。
  2. 抗インテグリンα2抗体ブロッケードによる転移パターン評価: B16-KY8、B16-SKY (integrin α2 high-expressing B16-F0 transfectant)、CT26 (BALB/c由来大腸腺がん細胞)、4T-1 (BALB/c由来乳がん細胞) 細胞を抗インテグリンα2抗体 (clone HMα2、>99%ブロッキング効率確認済) で前処置し、hemispleen 注射後の肝転移および腹膜播種数を評価した。
  3. インテグリンα2 cDNA導入による強制発現と転移実験: B16-F0細胞にマウスインテグリンα2発現プラスミドを Lipofectamine 2000 を用いて導入し、B16-SKY および B16-SKYP (B16-KY8と同等レベルのα2発現) 細胞株を樹立した。これらの細胞を hemispleen 注射によりマウスに投与し、転移能を評価した。

コラーゲン結合アッセイ: 50 μg/mLのIV型、I/III型コラーゲン、フィブロネクチン、またはラミニンでコートしたプレートに細胞を播種し、2時間接着させた後、非接着細胞を除去し、接着細胞数を計数した (8 HPF/群)。

Western blotおよびFAK活性化解析: IV型コラーゲンコートプレート上または非コートプレート上で B16-F0、B16-KY8、B16-SKY細胞を30、60、90、120、240分間培養後、細胞ライセートを回収した。FAK (focal adhesion kinase) Y397リン酸化を抗FAK多クローン性抗体および抗phospho-FAK Y397抗体で定量的に評価した。AKTおよびphospho-AKT (S473) も並行して評価した。

ヒト組織解析: 同時性肝転移および肺転移を有する大腸がん患者7例のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 切片を収集した。これらの切片を抗CD49b抗体 (15 μg/mL) で免疫染色し、染色強度 (0-3) と陽性細胞率 (1-100%) を乗じたHスコアで評価した。

統計解析: 統計解析には Mann-Whitney U検定およびχ²検定を用いた。P値が0.05未満を有意差ありと判断した。結果は平均値±標準誤差 (mean ± SEM) で示した。