- 著者: Yoshimura K, Jain A, Allen HE, Laird LS, Chia CY, Ravi S, Brockstedt DG, Giedlin MA, Bahjat KS, Leong ML, Slansky JE, Cook DN, Dubensky TW, Pardoll DM, Schulick RD
- Corresponding author: Richard D. Schulick (rschulick@jhmi.edu, Department of Surgery and Oncology, Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, MD 21231, USA)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2006
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 16424046
背景
進行大腸癌患者の多くは肝転移を来し、孤立性肝転移として経過する期間があるにもかかわらず、切除可能例は20%未満であり、切除施行患者でも5年生存率は30-40%に過ぎず、切除時に「治癒」できた患者の約半数に再発が認められる (Weiss et al. Cancer 1986 による剖検 1,541 例の解析が示す通り、大腸癌死因の 1/3 が肝転移のみに局在)。大腸癌・膵臓癌・胃癌・食道癌等消化器がんは特に肝転移の頻度が高く、進行例の死因として肝転移が占める割合も大きい。先行研究 (Dranoff et al. PNAS 1993 = PNAS 1993 が確立した GM-CSF 分泌腫瘍ワクチン GVAX、 Brockstedt et al. NatMed 2004 = NatMed 2004 による弱毒化Listeria免疫原性 vs 毒性分離技術) は腫瘍特異的T細胞の誘導に成功してきたが、これらの細胞が転移巣に効率よくホーミングして抗腫瘍効果を発揮できないという「T細胞トラフィッキング不全」が重要な治療限界として認識されていた。これまでに腫瘍ワクチンや養子T細胞移入により腫瘍特異的T細胞の生成は技術的に解決されつつあったが、これらの effector T cells を実際に肝転移巣に集積させる確立した戦略は存在せず、肝臓内の炎症性微小環境を介して T cell tracfficking を誘導する設計の検証が足りなかった。Listeria monocytogenes はグラム陽性通性細胞内寄生菌で全身投与後に肝臓 Kupffer 細胞・肝細胞に優先的に感染して proinflammatory cytokines/chemokines 産生を誘導する「肝臓指向性 (hepatotropism)」を持つことが知られていたが、この特性をがん免疫療法のための臓器特異的T細胞リクルートメントに応用した研究は本論文まで存在しなかった。さらに、複数の弱毒化Listeria株 (LM-actA、LM-LLO、LM-L461T) のどれが安全性と治療効果の最適なバランスを持つか、また Listeria 効果がT細胞 hepatic trafficking なのか直接的腫瘍細胞感染なのかの機序的区別も未検証であった。
目的
弱毒化Listeria monocytogenesの全身投与が腫瘍ワクチン (GVAX) 誘導の抗腫瘍免疫応答を選択的に肝臓にターゲティングして肝転移に対する治療効果を増強するかどうかを検証し、(1) 複数の弱毒化Listeria株 (LM-actA、LM-LLO、LM-L461T) の比較で最適安全性プロファイルを持つ株を同定する、(2) 治療効果が肝転移特異的か全身性かを肺転移モデルとの比較で確認する、(3) その免疫学的メカニズム (固有免疫動員・腫瘍特異的T細胞活性化・臓器特異性) を NK 細胞・CD8+T 細胞・NK T 細胞・dendritic cell の経時動態と Ld-AH1 tetramer による腫瘍抗原特異的 T 細胞定量で解明する、(4) NK 細胞・CD4+/CD8+T 細胞枯渇実験で各 immune cell の必須性を機能的に確認する、(5) 長期生存マウスの皮下再チャレンジで免疫記憶誘導能を評価する、ことを目的とした。
結果
所見1 — LM-actA + GVAX 併用が肝転移特異的に生存延長を達成し免疫記憶を誘導する: GVAX 単独では約 20% の長期生存率 (10 separate experiments で再現性確認) を示したが、GVAX + LM-actA 併用が最も高い生存改善を示し、P<0.01 vs 無治療 (NT)、P<0.05 vs GVAX 単独 (Fig 1A、n=10 mice/group)。LM-actA 単独では生存延長が認められず、野生型 Listeria (LM-Wild) との組合せも相乗効果なしであった。弱毒化株の LD50 は野生型に比べて 10³-10⁵倍高く (LM-Wild LD50 = 1×10⁴、LM-actA は ~10⁹、Fig 1C 表)、治療濃度域が著しく拡大していた。肺転移モデルでは LM-actA + GVAX 併用による相乗効果が認められず (Fig 1B、生存曲線で差なし)、効果が肝転移特異的であることが確認された。CT26 細胞は in vitro で LM-actA にほとんど感染しなかった (<0.01% at all MOI、Fig 2A) のに対し、対照マクロファージ J774 は効率よく感染し、Listeria-CT26 直接感染が抗腫瘍効果に関与しないことが in vitro で否定された。Day 60 以降まで生存した 6 匹に対して皮下再チャレンジ (CT26 2×10⁵) を行ったところ、6 匹中 5 匹で腫瘍増殖が完全に認められず (ナイーブ群 5 匹全例で増殖、Fig 1D)、P<0.005 (day 14・18 両時点)、免疫記憶 (memory response) の成立が確認された。
所見2 — LM-actA は肝臓内固有免疫細胞 (NK・NKT・pDC・mDC) を急速動員し、CD8+T cell は遅れてピーク: 肝転移担癌マウスを 4 群 (NT・GVAX 単独・LM-actA 単独・GVAX+LM-actA) に分け、腫瘍チャレンジ後 7, 9, 13, 17 日目 (LM-actA 投与後 1, 3, 7, 11 日) に肝浸潤リンパ球を collagenase 消化 + Percoll 勾配で分離 → flow cytometry で経時解析 (Fig 3A-E、n=3 livers/group pooled)。NK 細胞・NK T 細胞・形質細胞様樹状細胞 (plasmacytoid dendritic cells; pDC) は LM-actA 投与 3 日後から劇的に増加 (約 3-5 fold、対照比)、骨髄系樹状細胞 (myeloid dendritic cells; mDC) の増加は pDC よりやや遅い時間経過を示したが、やはり LM-actA 依存的であった。CD8+T 細胞浸潤は LM-actA 投与 7 日後 (day 13 after tumor challenge) にピークを迎え、GVAX+LM-actA 群で最も顕著に増加 (約 6-fold over NT、Fig 3B)。同時に脾臓では NK 細胞・NK T 細胞が約 50% 減少 (Fig 2C, D)、Listeria 治療によって固有免疫細胞が脾臓から肝臓へ再分布 (redistribution) することが示された。CFU enumeration では LM-actA i.v. 投与後の細菌量は肝臓と脾臓の両方で検出されたが、肝臓での感染期間が長く NK/NKT 拡張は肝臓に限局した (Fig 2B)。
所見3 — Ld-AH1 tetramer 解析と IFN-γ mRNA 定量で GVAX+LM-actA の腫瘍特異的 CD8+T cell 集積・活性化が最大化される: 免疫優位抗原 AH1 (CT26 に発現する gp70 由来 H-2L^d 拘束 peptide、配列 SPSYVYHQF) に対する Ld-AH1 tetramer を用いた解析では、GVAX+LM-actA 群において肝臓内 AH1 特異的 CD8+T 細胞の絶対数が全治療群中最高値を示し (day 13 にピーク、tetramer+ CD8+ frequency が GVAX 単独群の ~2-fold、Fig 4)、これに伴い脾臓での AH1 特異的 CD8+T 細胞は減少しており腫瘍特異的 T cells も同様に肝臓へ再分布した (Supplementary Data 2)。定量 PCR (qPCR、Taqman、18S 内部標準) により GVAX+LM-actA 群の腫瘍特異的 CD8+T 細胞の IFN-γ mRNA 発現が最高 (特に day 13、対照比 ~5-fold 上昇) であった。NK 細胞の IFN-γ mRNA 発現はより早期 (チャレンジ後 day 7、LM-actA 投与 1 日後) に増大し、GVAX と LM-actA 両方の投与で相乗的に高まった。NK T 細胞数は増加したが IFN-γ mRNA 発現の有意な増加はなかった。
所見4 — NK 細胞・CD8+T 細胞の枯渇が GVAX+LM-actA 効果を完全消失させる (機能的必須性の証明): 免疫細胞枯渇実験では、NK 細胞 (anti-asialo-GM1 抗体、脾 81% 枯渇) または CD8+T 細胞 (2.43 抗体、脾 99% 枯渇) を in vivo 枯渇した全マウスで GVAX+LM-actA 療法の生存改善効果が完全に消失 (生存率 0%、P<0.01 vs 非枯渇対照、n=10/group)。CD4+T 細胞枯渇群 (GK1.5 抗体、脾 99% 枯渇) では治療効果に有意な影響はなかったが、これは CD4+ サブセット内のヘルパー T 細胞除去と制御性 T 細胞 (Treg) 除去の効果が相殺した可能性が考えられた。CD1d ノックアウトマウス (NK T 細胞欠損) では治療効果の有意な消失はなく、NK T 細胞は補助的役割と推定された。
所見5 — 肝表面腫瘍結節数と組織学的所見で GVAX+LM-actA の物理的腫瘍縮小と局所性 T 細胞集積を確認: Day 17 での肝表面腫瘍結節数は 無治療群 8-17 個、GVAX 単独群 2-5 個、LM-actA 単独群 6-7 個、GVAX+LM-actA 群 0-1 個 と、併用群で有意に最少であった (P<0.001、n=5-6/group)。H&E 組織学的検索 (day 13) では、無治療群は大量の腫瘍病巣とリンパ球浸潤少、GVAX 群は腫瘍内リンパ球浸潤が増加するが効果は不完全、LM-actA 単独群は腫瘍縮小と肝全体への非特異的リンパ球浸潤、GVAX+LM-actA 群では腫瘍がほとんど消失または著明に縮小し、腫瘍局所への集簇性リンパ球浸潤フォーカス (focal lymphocytic infiltrate) が認められた。
考察/結論
本研究は、弱毒化 L. monocytogenes の hepatotropism を利用して抗腫瘍免疫応答を肝転移巣に選択的にリクルートするという「マイクロバイオーム免疫ターゲティング (microbe-based immune targeting)」戦略の概念実証 (proof-of-concept) を初めて示した点で意義深い。治療効果には少なくとも 3 つの協調したメカニズムが関与することが示唆された: 第 1 に、肝臓内での LM-actA 感染による NK 細胞・NK T 細胞・pDC 等の固有免疫エフェクターの急速活性化・動員、第 2 に、GVAX 誘導腫瘍特異的 T 細胞の全身循環から肝炎症巣への集積と増殖増強、第 3 に、この肝炎症環境での腫瘍特異的 T 細胞の活性化増強 (IFN-γ mRNA 高発現) である。これまでの研究 (Brockstedt et al. NatMed 2004 の弱毒化 Listeria 安全性証明、Dranoff et al. PNAS 1993 の GVAX 単独療法) と異なり、本研究は二つの異なる戦略 (細菌 vector による炎症誘導 + 腫瘍ワクチンによる抗原特異的 T cell 誘導) を組合せることで synergy を立証し、各単独療法では到達できない治療閾値を超えられることを示した点で対照的である。LM-actA 単独では治療効果が限定的であった点は、GVAX 誘導の腫瘍特異的 T 細胞が LM-actA 炎症環境の「受け皿 (T cell reservoir)」として必要であることを示す。肺転移では効果がなかった点は、L. monocytogenes の hepatotropism が治療選択性の決定因子であることを確認しており、この「臓器特異的病原体を利用した免疫ターゲティング」の概念は新規な戦略であり、他の臓器特異的マイクロバイオーム (腎臓指向性 Brucella、肺指向性 Mycobacterium、脳指向性 Trypanosoma など) を用いた拡張が期待される。臨床応用の観点では、大腸癌・膵臓癌・胆道癌等消化器原発の肝転移に対し、LM-actA + 腫瘍ワクチン (NeoVax 等の neoantigen-pulsed DC ワクチン、autologous tumor lysate-loaded GM-CSF gene-transduced cells) の併用は bench-to-bedside で展開可能な戦略であり、現行の chemo-immunotherapy (FOLFOX + bevacizumab + ICI) との上乗せ効果が期待される。Listeria-based vaccine platform (CRS-207 = Listeria expressing mesothelin、CRS-100、JNJ-64041757 等) はすでに臨床試験段階にあり、本研究の概念は実臨床への発展経路を持つ。残された課題として、(1) ヒト肝臓における LM-actA の hepatotropism と免疫応答動態のマウスとの相同性検証 (humanized mouse model または Phase I trial)、(2) ヒト primary hepatocyte ライセンス Listeria 株の安全性確認 (immunocompromised host での fatal listeriosis リスク)、(3) ICI (anti-PD-1 / anti-CTLA-4) との triple combination による effector T cell exhaustion 回避効果、(4) ヒト消化器原発肝転移の neoantigen 多様性に応じた personalized vaccine + LM-actA 投与戦略の最適化、(5) 治療抵抗性のメカニズム (Listeria 投与後の Treg / MDSC 動員、IL-10/TGF-β 高発現腫瘍微小環境)、(6) 本実験設計は翌 2007 年の Yoshimura et al. CancerRes 2007 (ワクチン非依存的 LM 単独療法 + Treg 除去) に発展しており、Treg depletion との組合せでさらなる治療効果増強が可能か、今後の検討課題である。actA 欠失弱毒化 L. monocytogenes (LM-actA) と GVAX の組合せは大腸癌肝転移に対する肝臓特異的免疫ターゲティング戦略として、消化器がん免疫療法の bench-to-bedside 開発に値する基盤的知見を提供した。
方法
動物・腫瘍モデル: BALB/c mice (female、8-10 weeks)、CT26 murine colon adenocarcinoma cell line (BALB/c 由来)。肝転移モデル: hemispleen injection法 — 脾臓を 2 半分に分割し片側に CT26 細胞 1×10⁵ を注入後 30 秒で同側脾臓切除 + splenic vein クリップで isolated hepatic metastases を確立。肺転移モデル: CT26 細胞 1×10⁵ を尾静脈 (tail vein) i.v. 投与。Listeria 株: Daniel Portnoy (UC Berkeley) 由来 — (i) actA欠失株 (LM-actA、cell-to-cell spread 不能、actA gene の in-frame deletion)、(ii) LLO欠失株 (LM-LLO、listeriolysin O = phagolysosome 脱出に必須、hly gene の in-frame deletion)、(iii) L461T 変異株 (LM-L461T、pH 非依存性 LLO 発現、感染細胞致死性、hly に site-directed mutation)。brain-heart infusion (BHI) medium で mid-log phase まで培養、PBS/8% DMSO に formulate して -80°C 保存、注射時は 0.1×LD50 用量 (LM-actA = 1×10⁷ colony-forming units; CFU)。GVAX ワクチン: GM-CSF 分泌 CT26 cells (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor、retroviral vector transduction、400 ng GM-CSF/24h/1×10⁶ cells 分泌) を 5,000 rad 照射後 1×10⁶ cells/300 μL を皮下 3 部位 (limbs) に day 3, 6, 13, 20 投与。LM-actA 投与: 0.1×LD50 = 1×10⁷ CFU を腫瘍 challenge 6 日後に i.p. 単回投与。Rechallenge: 60 日生存マウスに CT26 2×10⁵ cells を flank s.c. 注射し caliper 計測 (a×b²/2 公式)。肝浸潤リンパ球解析: 3 livers/group を 100 μm nylon mesh で機械的解離 + Percoll 勾配遠心、または Liberase Blendzyme 2 + DNase I 酵素消化 → flow cytometry (FACScan、CD4-FITC、B220-FITC、CD8-CyChrome、CD3-FITC、DX5-PE、CD11c-PE 標識)。Ld-AH1 tetramer: AH1 ペプチド (SPSYVYHQF、gp70 内在性 retroviral env 由来) を担持した tetramer で AH1 特異的 CD8+T 細胞を定量、negative control に β-galactosidase TPHPARIGL。MACS magnetic enrichment で CD8 純化。IFN-γ qPCR: Trizol RNA 抽出 → SuperScript II 逆転写 → Taqman ABI Prism 7700、18S rRNA で正規化、duplicate measurement。in vivo 細胞枯渇: anti-asialo-GM1 (NK、Wako、100 μL i.p. 週 1 回)、anti-CD4 (GK1.5、250 μg、Lofstrand Labs)、anti-CD8 (2.43、250 μg) を腫瘍 challenge 前 8/4/1 日と 6 日後から週 1 回。脾臓で 99% (CD4/CD8)、81% (NK) depletion を確認。組織学: day 7, 9, 13, 17 で肝臓を 10% NBF 固定、paraffin embed、4 μm 切片、H&E 染色。統計: 生存解析 log-rank test、tumor volume/nodules t-test、P<0.05 を有意とした。