• 著者: Ying Wang, Antti Arjonen, Jeroen Pouwels, Haisen Ta, Patrick Pausch, Gert Bange, Ulrike Engel, Xiaoyu Pan, Oliver T. Fackler, Johanna Ivaska, Robert Grosse
  • Corresponding author: Robert Grosse (University of Marburg)
  • 雑誌: Developmental Cell
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-08-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26256210

背景

インテグリン受容体の動的エンドサイトーシスと再循環 (endocytic recycling) は細胞接着・遊走・分裂に不可欠であり、α5β1インテグリンなどの再循環の乱れはがん浸潤と転移を促進することが示されている (Hamidi et al. NatRevCancer 2018)。β1-インテグリントラフィックへのPKC (protein kinase C) の関与として、PKCα (protein kinase C alpha) がβ1-インテグリンの内在化を媒介し、PKCε (protein kinase C epsilon) が膜への再循環を制御することは示されていた (Ng et al. 1999、Ivaska et al. 2002)。一方、アクチン核重合因子であるフォーミン (formin) ファミリーは、糸状仮足形成・細胞伸展・非アポトーシス性ブレビング・食作用など多様なアクチン依存的膜プロセスに関与することが知られていたが、インテグリンのトラフィックにおける役割は全く不明であった。FMNL2 (formin-like protein 2) はいくつかの転移性がん (大腸癌・乳癌・メラノーマ) で過剰発現し、RhoC (Rho family small GTPase C) 下流でアメーバ様浸潤性遊走を促進することが報告されており (Yoshimura et al. CancerRes 2009)、また大腸癌細胞での上皮間葉転換 (epithelial-to-mesenchymal transition、EMT) 誘導と浸潤能増強をもたらすことも示されていた (Li et al. 2010)。しかし、FMNL2ががん浸潤を促進する分子機序は解明されていなかった。PKCαのインテグリントラフィックにおける下流エフェクターの実体、すなわちβ1-インテグリンの内在化を直接駆動する因子が同定されていないことが本研究の gap in knowledge であり、フォーミンファミリーがインテグリン輸送に関与するかどうかも不明であった。インテグリン内在化に必要な具体的分子の欠如が、がん浸潤機構の理解に手薄な領域を形成していた。

目的

全ヒトフォーミンを標的とするRNAiスクリーニングによりβ1-インテグリン内在化調節フォーミンを同定し、PKCα依存的リン酸化によるFMNL2の活性化機序・α-インテグリン細胞質テールへの直接結合能・エンドソームへの局在変化、およびがん細胞浸潤における機能的意義を包括的に解明することを目的とした。

結果

siRNAスクリーニングによるFMNL2の同定とβ1-インテグリン内在化への寄与:細胞スポットマイクロアレイプラットフォームを用いた全ヒトフォーミン対象siRNAスクリーニングにより、FMNL2のサイレンシングがHeLa細胞においてβ1-インテグリン内在化を有意に減少させることが2種の独立siRNAで確認された (Fig S1A)。shFMNL2安定発現HeLa細胞でもビオチン-IP法により15分・30分の各時点でβ1-インテグリン内在化の有意な抑制が確認された (n=4 independent experiments、p<0.001、Fig 1A)。同様の内在化障害はMDA-MB-231乳癌細胞でも観察され、FMNL2がβ1-インテグリンエンドサイトーシスの選択的制御因子として機能することが示された。他の15種のヒトフォーミンではFMNL2と同等の効果は認められなかった。FMNL2のアミノ酸配列解析により、DAD領域内のS1072がRRSVRモチーフ内に位置し、種間 (ヒト・マウス・アフリカツメガエル・ゼブラフィッシュ) で保存された古典的PKCリン酸化コンセンサス配列を持つことが判明した (Fig 1B)。

PKCαによるFMNL2 S1072特異的リン酸化と自己阻害解除:10種のPKCアイソフォームに対するsiRNAノックダウン実験から、PKCαのサイレンシングのみがTPA刺激下でのFMNL2リン酸化を有意に減少させ (Fig 1F, 1G)、ドミナントネガティブPKCα発現で抑制・恒常活性型PKCαで増強された (Fig 1H)。Gö6976 (PKCα/β選択的阻害薬) でも同様にFMNL2リン酸化が阻害された。TPA (20 nM) 刺激後、S1072A変異体では抗リン酸化抗体による検出が消失し、S1072がPKCα標的リン酸化部位であることが確認された (Fig 1C)。TPA刺激は5 nMの低濃度から完全なFMNL2リン酸化を誘導し、用量依存的であった (Fig 1E)。FMNL2の自己阻害複合体 (DID-DAD結合) 評価では、HA (hemagglutinin)-FMNL2-NT (DID含む) はWT・S1072A型のHis-FMNL2-CT (DAD含む) とは結合したが、S1072E変異体とは結合せず (Fig 1J)、PKCα依存的リン酸化によりFMNL2自己阻害が解除されることが示された。また、BIM-1処理でFMNL2とPKCαの共免疫沈降が増強されたことから (Fig 1I)、ATP競合的阻害薬がキナーゼをFMNL2結合に有利なコンフォメーションに固定することも示された。

ライブセルイメージングによるFMNL2の迅速・可逆的な膜局在変化とエンドソーム局在:GFP-PKCαとFMNL2-mCherryの二色ライブイメージングにより、TPA (200 nM) 添加後にPKCαが原形質膜へ移行するのと同時にFMNL2が原形質膜から解離する現象が時系列で明確に可視化された (n=11 cells, Fig 2A, 2B)。BIM-1 (2 μM) 前処理ではFMNL2の膜解離が完全に阻害された一方でPKCα移行は影響を受けず (n=4 cells, Fig 2D, 2E)、S1072リン酸化がFMNL2再局在に必須であることが示された。Ca2+イオノフォアA23187 (8 μM) による一過性PKCα活性化実験では、PKCα膜解離後の約500秒後にFMNL2の原形質膜局在が完全に回復し (Fig 2G)、動的なリン酸化スイッチの完全な可逆性が実証された。非リン酸化型S1072A-GFP変異体はTPA刺激後も再局在したものの速度論が有意に遅く (n=8 cells vs. n=9 cells, Fig 2F)、S1072リン酸化が適切な時空間ダイナミクスに重要であることが確認された。膜フロテーション分画では、TPA刺激後にFMNL2は細胞質可溶性画分ではなく膜画分のまま存在し (Fig 2H)、N末端ミリストイル化に依存した内部膜区画への再局在が示唆された。コロカリゼーション解析でFMNL2はTPA処理後にRab4+・Rab5+早期エンドソームおよびRab7+後期エンドソームへ有意に多く局在し (Fig 3A、Fig S3A)、ERやゴルジ体とのコロカリゼーションは有意ではなかった。

α-インテグリン細胞質テールへのリン酸化依存的直接結合とインテグリン選択的内在化制御:ビオチン化インテグリン細胞質テールペプチドを用いたプルダウンアッセイにより、FMNL2はα5-インテグリン細胞質テールには特異的に結合したがβ1-インテグリン細胞質テールには結合しなかった (Fig 3B)。FMNL2-FH2 (formin homology 2)-CT (C-terminal) 断片 (DADドメイン含む) がα-インテグリン保存膜近傍GFFKR配列に直接・強く結合し、FMNL2-NT (N-terminal) 断片 (GBD (GTPase-binding domain)・FH3 (formin homology 3 domain) 含む) との結合は弱かった (Fig 3D)。S1072A変異体ではα5-インテグリンテールへの結合能が消失し、S1072E変異体では結合が増強され (Fig 3C)、リン酸化依存的なα-インテグリンテール認識が確認された。ライブイメージングでは、TPA添加後にFMNL2-mCherryがα5-インテグリン-GFP陽性小胞と共局在して共輸送される様子が観察された (Fig 3F)。FMNL2ノックダウンはα5β1インテグリン内在化 (n=3 independent experiments、p<0.05、Fig 4A) およびα2β1インテグリン内在化 (n=3 independent experiments、p<0.05、Fig 4B) を有意に抑制したがTfR (transferrin receptor) 内在化には影響を与えず (Fig 4C)、インテグリン選択的な制御機構であることが示された。蛍光イメージングベースのエンドサイトーシスアッセイ (n=4 independent experiments, 100-150 cells per group) では、野生型FMNL2過剰発現でβ1-インテグリン内在化が増強したのに対し、S1072A型・S1072E型・ILI3A型変異体はいずれも内在化を抑制または促進できなかった (Fig 4E)。また、TPA誘導β1-インテグリン内在化の増強はFMNL2ノックダウン細胞では消失し、PKCαの効果がFMNL2依存的であることが明確に示された (Fig 4D)。

A375M2メラノーマ細胞でのPKCα-RhoC依存的がん浸潤促進:フィブロネクチン (100 μg/ml) 含有Matrigelを用いたinverted transwell浸潤アッセイにおいて、A375M2メラノーマ細胞での野生型FMNL2過剰発現は浸潤能を有意に促進した (n=3、Fig 4F)。この促進効果はRhoC siRNAおよびBIM-1 (2 μM) 処理によりいずれも消失し、PKCα・RhoC依存的であることが確認された。一方、非リン酸化型S1072A・リン酸化擬似型S1072E・アクチン重合不活性型ILI3A変異体はいずれも浸潤を有意に促進できず、動的なリン酸化サイクル (on/offの繰り返し) とアクチン重合能の両方が浸潤促進に必須であることが示された。ILI3A変異体はGFP対照比でFMNL2ノックダウン背景での浸潤をむしろ有意に抑制し、優性阻害的効果を示した。これらの知見は複数の転移性がんでのFMNL2高発現との機能的整合性を示す。

考察/結論

本研究はアクチン重合因子FMNL2がPKCα下流でβ1-インテグリントラフィックを調節する機序を本研究で初めて解明した。これまで哺乳類フォーミンがインテグリンエンドサイトーシスに関与するという報告はなく、フォーミンファミリーメンバーがインテグリン内在化の直接的制御因子として同定されたことは新規な発見である。既報ではPKCαがβ1-インテグリントラフィックに関与することは示されていたが、その下流エフェクターの実体は不明であり、本研究はこれまでの研究と異なり、FMNL2を具体的な実行分子として同定し、S1072リン酸化によるDAD-DID自己阻害解除とα-インテグリンGFFKR保存テールへの直接結合という分子メカニズムを明示した。

分子機構として特筆すべきは「動的リン酸化スイッチ」の概念である。非リン酸化型S1072Aのみならずリン酸化擬似型S1072Eも正常なβ1-インテグリン内在化を媒介できなかった事実は、PKCα活性化時のリン酸化と不活性化後の脱リン酸化の繰り返しサイクルそのものが精密な時空間制御に不可欠なスイッチ機能を担うことを示している。A23187による一過性PKCα活性化実験でFMNL2膜局在が約500秒で完全に回復した知見は、この可逆的なリン酸化スイッチが生理的に機能することを直接実証するものであり、定常的リン酸化状態では正常なトラフィックサイクルが成立しないことを裏付ける。

臨床的意義として、FMNL2が大腸癌・メラノーマ・乳癌など複数の転移性がんで過剰発現し浸潤・転移と相関する事実は、PKCα-FMNL2-β1インテグリン軸をがん浸潤の臨床応用上の有望な治療標的として位置づける (Chen et al. BiomedPharmacother 2022)。PKCα選択的阻害薬の投与やFMNL2-α-インテグリンテール結合界面を標的とした低分子の開発は、転移抑制戦略として臨床現場への橋渡し研究 (bench-to-bedside) として考えられる。また、FMNL2がRac1 (Rho family GTPase 1) 下流で上皮細胞の接合部アクチン重合を制御するという先行研究と合わせると、がん進行においてFMNL2の調節モードが切り替わることが示唆される。すなわち、正常上皮ではRac1依存的な細胞間接着制御を担うFMNL2が、がん進行に伴いRhoC・PKCα依存的な細胞外マトリクス浸潤の実行因子へと転換し、EMT過程との分子的連続性を形成すると考えられる。

今後の検討として、FMNL2がインテグリン内在化後のどの輸送経路 (Rab4陽性の急速リサイクル、Rab5→Rab7を経た後期エンドソームへの転送等) でどのように機能するかの詳細解析が残された課題である。さらに、FMNL2高発現を制御するmiRNA (microRNA-137によるFMNL2抑制が大腸癌で報告されている) や転写因子、そして他のがん種 (NSCLC (non-small cell lung cancer)・膵癌等) でのPKCα-FMNL2-β1インテグリン軸の普遍性と薬理学的阻害効果の検証も更なる検討を要する。本研究でRhoCがPKCαによるFMNL2リン酸化・膜標的化を促進することが示されたが、三者の相互制御の時空間的詳細と腫瘍微小環境依存的な活性化機序は未解決のままである。

方法

細胞・変異体: HeLa (cervical carcinoma) 細胞、MDA-MB-231 (triple-negative breast cancer) 細胞、HEK293 (human embryonic kidney 293) 細胞、A375M2 (bone-metastatic melanoma subline) メラノーマ細胞を使用した。FLAG/GFP/myc/mCherryタグ付きFMNL2野生型 (WT)・S1072A (非リン酸化型)・S1072E (リン酸化擬似型)・ILI3A (actin polymerization-inactive triple mutant: I704A/L1028A/I1029A) を発現させた。FMNL2安定ノックダウン細胞にはshRNA、一過性サイレンシングには独立した2種のsiRNA (HeLa・MDA-MB-231両細胞で検証) を用いた。PKC活性化にはフォルボールエステルTPA (12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate, 5-200 nM) およびCa2+イオノフォアA23187 (8 μM)、阻害にはBIM-1 (bisindolylmaleimide I、2 μM、汎PKC)・Gö6976 (selective PKCα/β inhibitor, PKCα/β選択的阻害薬) を用いた。

スクリーニング・内在化アッセイ: 細胞スポットマイクロアレイプラットフォームで全ヒトフォーミンを対象にsiRNAスクリーニングを実施した。ビオチン-ストレプトアビジン結合β1-インテグリン内在化アッセイ (Pellinen et al. 2008) と蛍光イメージングベースエンドサイトーシスアッセイ (Gu et al. 2011) で定量評価した (n=3-4、内在化量は全表面量で正規化)。α5β1・α2β1インテグリンおよびトランスフェリン受容体 (TfR) の内在化を30分時点で評価した。

生化学的解析: PKCアイソフォーム特異的siRNA・ドミナントネガティブ/恒常活性型PKCαと抗リン酸化Ser-PKC基質抗体 (anti-phospho-Ser-PKC substrate antibody, α-pS-PKC sub) による免疫沈降でFMNL2リン酸化を定量した。GST (glutathione S-transferase)/His精製タンパク質を用いてFMNL2 DID (Diaphanous inhibitory domain)-DAD (diaphanous autoregulatory domain) 自己阻害相互作用を評価した。ビオチン化α-インテグリン細胞質テールペプチド (GFFKR保存配列含む) を用いたビオチン-ストレプトアビジンプルダウンアッセイでFMNL2とインテグリンテールの直接結合を証明した。統計はSEM (standard error of the mean)/SD (standard deviation) で表示し、群間比較にはStudent’s t検定を実施した。

ライブセルイメージング: LSM (laser scanning microscope) 700共焦点顕微鏡 (Zeiss) の63X/1.4 oil対物レンズを用い37°C・CO2チャンバー内で5-10秒間隔でライブイメージングを実施した。MATLABのSobel edge detectionで原形質膜領域を抽出し、蛍光強度の時系列定量とPearsonの相関係数によるコロカリゼーション解析を行った。Rab4/Rab5/Rab7 (エンドソームマーカー) とFMNL2の定量的コロカリゼーションを評価した。

浸潤アッセイ: フィブロネクチン (100 μg/ml) 含有Matrigelを用いたinverted transwell浸潤アッセイ (Kitzing et al. 2010) でA375M2細胞浸潤能を評価した (n=3、invadedセル比率を正規化、ImageJで画像解析)。