• 著者: Zhan Xu, Fengshuo Liu, Yunfeng Ding, Tianhong Pan, Yi-Hsuan Wu, Yujiao Han, Jun Liu, Igor L. Bado, Weijie Zhang, Ling Wu, Yang Gao, Xiaoxin Hao, Liqun Yu, Xuan Li, David G. Edwards, Hilda L. Chan, Sergio Aguirre, Michael Warren Dieffenbach, Elina Chen, Siyue Wang, Yichao Shen, Dane Hoffman, Luis Becerra Dominguez, Charlotte Helena Rivas, Xiang Chen, Hai Wang, Yibin Kang, Zbigniew Gugala, Robert L. Satcher, Xiang H.-F. Zhang
  • Corresponding author: Xiang H.-F. Zhang (Lester and Sue Smith Breast Center, Baylor College of Medicine, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42054994

背景

転移癌細胞の運命は、局所微小環境ニッチ(perivascular niche、osteogenic nicheなど)との相互作用によって深く影響される。これらのニッチは、がん細胞の増殖、休眠、治療抵抗性、さらには他の臓器へのさらなる転移を制御する上で重要な役割を果たすことが、これまでの研究で示されてきた。例えば、骨髄における休眠状態の播種性腫瘍細胞 (DTCs) は、血管周囲ニッチに隣接して留まる傾向があることがGhajar et al. (2013)やPrice et al. (2016)によって報告されている。また、内皮細胞はDTCsの中間葉上皮転換を誘導することがEsposito et al. (2019)により示されている。骨リモデリングはDTCsを活性化し、骨芽細胞とその前駆細胞からなる骨形成ニッチへと誘引することがWang et al. (2015, 2017, 2018)によって明らかにされている。骨形成細胞とがん細胞は、ヘテロタイプ接着結合 (hAJs) やギャップ結合 (GJs) を形成し、それぞれmTORおよびカルシウムシグナルを活性化することで、微小転移の進行を促進する。さらに、骨形成細胞との相互作用は、がん細胞におけるエストロゲン受容体α (ERα) の発現を一時的に減少させ、幹細胞特性を増加させることがBado et al. (2021)により示されており、これが骨へのコロニー形成、治療抵抗性、さらには他臓器への播種を促進する可能性が指摘されている (Zhang et al. 2021)。

しかし、これらの相互作用は動的で一過性であり、複数の細胞型が同時に関与するため、網羅的かつバイアスのない方法で捕捉する技術が不足していた。既存のニッチラベリング法にはいくつかの制限がある。例えば、sLP-mCherry (secreted lipid-permeable mCherry) は拡散に依存するため、ラベリングの範囲とタイミングの制御が困難である (Ombrato et al. 2019)。また、uLIPSTIC (universal Labeling of Immune Partnerships by SorTagging Intercellular Contacts) は安定したリガンド-受容体結合や細胞間接着に依存するため、一過性の細胞接触を効率的に捕捉できないという課題が残されていた (Nakandakari-Higa et al. 2024)。これらの技術的限界により、転移ニッチの細胞および分子特性を包括的に理解するための知識ギャップが残されている。特に、がん細胞と隣接細胞との間の動的かつ一過性の相互作用を、バイアスなく、かつシングルセルオミクス解析に適合する形で捉えることができる新規技術の開発が強く求められていた。既存手法では、このような動的な相互作用を包括的に捉えることが未解明であり、その結果として転移ニッチの全体像の理解が不足している状況であった。

目的

本研究は、癌細胞と物理的に接触したニッチ細胞をすべて捕捉できる、バイアスのない新規ラベリングシステムであるSAMENT (Sortase A-based microenvironment niche tagging) を開発することを目的とした。このSAMENTシステムを用いて、以下の目標を達成することを目指した。(1) 複数器官(骨、脳、肺、肝臓)における転移ニッチの細胞および分子プロファイルを、シングルセルオミクスおよび空間トランスクリプトミクスを用いて網羅的にマッピングする。(2) 特に骨転移ニッチにおいて、癌細胞と直接接触するマクロファージの特定の亜集団の表現型と機能を同定する。(3) エストロゲン受容体α (ERα) シグナルがマクロファージの免疫抑制表現型を駆動する主要なメカニズムであるかを検証し、骨転移治療における新たな臨床標的としての可能性を評価する。これにより、転移ニッチにおけるT細胞排除の分子メカニズムを解明し、新規治療戦略の開発に貢献することを目指した。

結果

SAMENTシステムの妥当性と転移ニッチの共通/器官特異性: SAMENTシステムはin vitroおよびin vivoで高い特異性と感度を示した。in vitro共培養では、ドキシサイクリンとビオチン-LPETGSの同時刺激時のみsender細胞からreceiver細胞への特異的なラベリングが起こり、インキュベーション時間 (0-4時間)、基質濃度 (0.01-0.5 mM)、ドキシサイクリン濃度 (0.01-1 μg/mL) に対して線形応答を示した (Figures 1B-1D, S1D-S1H)。in vivo骨転移モデルでは、ドキシサイクリン誘導によりビオチンラベリング効率が6-8倍増加し (Figure 1I)、腫瘍量と正の相関を示した (Figure 1J)。また、微小転移巣でも有効なラベリングが確認された (Figure 1K)。

SAMENTを用いてLLC1、B16F10、PyMT-N、4T1の4つの癌モデルにおける骨転移ニッチを解析した結果、内皮細胞および骨芽細胞/骨前駆細胞の一貫した濃縮、T細胞の一貫した枯渇、単球の枯渇とマクロファージの濃縮が共通して観察された (Figure 1L)。これは、癌細胞との接触により単球からマクロファージへの分化が加速されることを示唆する。器官間の比較 (骨、脳、肝臓、肺) では、肝転移ではT細胞の枯渇が軽度であり、肺転移では好中球が減少する特徴が認められた (Figure 3B)。特に、マクロファージの転写プロファイルは器官間で最も大きく異なり、腫瘍によって誘導される表現型の不均一性が、正常組織におけるマクロファージの多様性を超えることが示された (Figures 3D, 3E)。

SAMENTと既存ラベリング技術の比較: SAMENTは、uLIPSTIC (30-40%の細胞を標識) よりも高い感度で細胞接触範囲内の60-70%の細胞を標識し、sLP-mCherryよりも空間的精度が高く、拡散による過剰なラベリングがなかった (Figure S2C)。SAMENTとuLIPSTICはドキシサイクリンとビオチン-LPETGSの同時投与に依存するため、正確な時間的・空間的制御が可能である一方、sLP-mCherryは自律的にラベリングするため制御が困難であった (Figures S2D-S2F)。

骨転移ニッチマクロファージにおけるERαシグナル: scRNA-seq解析により、ビオチン陽性マクロファージ (ニッチ内) ではERシグナル伝達経路が著明にアップレギュレートされていることが判明した (Figure 4D)。特に、ビオチン陽性マクロファージと他の骨髄系細胞を区別する上位5つの差次発現遺伝子のうち2つが古典的なER標的遺伝子であり、RNA、タンパク質、標的遺伝子レベルでEsr1の濃縮が確認された (Figures 4C, S4C-S4F)。エストロゲン応答エレメント (EREs) レポーターマクロファージを骨転移モデルに養子移入した実験でも、ニッチ内のマクロファージでより強いERレポーター活性とERα発現が観察された (Figures S4G-S4L)。

マクロファージ特異的Esr1欠失の機能的効果: LysM-Creを用いた骨髄系細胞特異的Esr1欠失 (Esr1 LysM) は、腫瘍関連マクロファージ (TAM) をM2様 (抗炎症性) からM1様 (前炎症性) へと転換させた (Figure 5D)。具体的には、インターフェロン経路の上昇、IL-6-STAT3経路の低下、SPP1 (pro-tumor marker) の減少、CXCL9 (anti-tumor marker) の増加、およびCXCL9/SPP1比の増加が認められた (Figure 5E)。T細胞コンパートメントも刺激的な変化を示し、骨へのコロニー形成が有意に抑制された (Figure 6A-6D)。LLC1細胞を用いた自発的骨転移モデルにおいても、Esr1 LysMマウスでは後肢骨への転移が5-10倍有意に抑制された (Figures 6G, 6H)。この効果はn=25 mice/groupで確認され、p値はMann-Whitney検定で有意であった。

ERα活性化の上流メカニズム: ビオチン陽性マクロファージにおけるエストロゲン応答シグネチャーは、脂質代謝関連経路、特にPPARγ経路と強く相関した (Figures 5A, S5A)。PPARγアゴニストであるロシグリタゾンはEsr1の発現をアップレギュレートし (Figure 5B)、IL-4/IL-10応答遺伝子シグネチャーとも相関した (Figure 5C)。LLC1細胞のコンディショニング培地 (CM) およびBSA-パルミチン酸は、骨髄由来マクロファージ (BMDM) においてERαタンパク質およびEsr1 RNAを誘導した (Figures 5G, 5H)。癌細胞におけるFASN (fatty acid synthase) またはRAB27a (exosome secretion regulator) のノックダウンは、CMによるERα誘導を消失させ、癌細胞由来の脂肪酸分泌 (エクソソーム経路を含む) がマクロファージのPPARγ→Esr1軸を駆動することを示唆した (Figures 5I, 5J)。これらの結果は、n=3 replicatesのBMDM細胞を用いた実験で一貫して観察された。

ヒト骨転移における検証: 42症例のヒト骨転移組織をマルチプレックスIFで解析した結果、10症例 (男性患者を含む) でCD68陽性マクロファージにおけるERα発現が確認された (Figure 4E)。原発性大腸癌ではマクロファージのERα発現は認められなかった。乳癌、肺癌、腎癌の骨転移におけるscRNA-seq解析では、健常骨髄と比較してESR1発現が有意に上昇しており、原発臓器に依存しない骨ニッチ特異的なマクロファージ表現型であることが示された (Figure 4F)。

マクロファージにおけるEsr1欠失によるT細胞浸潤と活性化: Esr1 LysMマウスでは、ビオチン陽性CD8陽性T細胞が有意に増加し (Figure S7A)、癌細胞とCD8陽性T細胞の直接接触が増加したことを示唆した。免疫蛍光染色では、野生型宿主ではT細胞がERα陽性マクロファージによって転移巣の辺縁に隔離されているように見えたが、マクロファージのERαが枯渇すると、転移巣に浸潤するグランザイムB陽性T細胞が有意に増加した (Figures 7A-7D)。このT細胞浸潤の増加はn=5 miceからの10-12視野で確認され、p値はunpaired two-tailed t testで有意であった。計算パイプラインを用いた空間解析では、Esr1 LysM宿主においてT細胞の浸潤が顕著に増加し、空間分布パターンが破壊されることが示された (Figures 7E, 7F)。SERDであるフルベストラントもT細胞浸潤を有意に増加させたが、抗PD-1抗体治療ではT細胞浸潤は増加しなかった (Figures S7C, S7D)。

考察/結論

本研究は、Sortase Aベースの微小環境ニッチ標識技術であるSAMENTを開発し、転移癌細胞と物理的に接触するニッチ細胞をバイアスなく、かつシングルセルオミクス解析に適合する形で標識することを可能にした。SAMENTは、既存のsLP-mCherryやuLIPSTICと比較して、より広い範囲の細胞接触を捉え、かつ高い時間的・空間的制御性を持つ点で新規性が高い。本研究で初めて、骨転移ニッチにおけるERα陽性マクロファージがT細胞排除を駆動する分子メカニズムを同定した。具体的には、癌細胞由来の脂肪酸がPPARγを介してマクロファージのEsr1発現を誘導し、これがM2様表現型を促進してT細胞浸潤を抑制することで骨転移を促進するという、これまで報告されていない新たな因果経路を提示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、ERシグナルは主にER陽性乳癌細胞の増殖や治療抵抗性に関与すると考えられてきたが、本研究は、ERシグナルが癌細胞側ではなく、非癌細胞であるマクロファージ側で転移コロニー形成のドライバーとして機能することを示した点で、先行研究とは対照的な知見を提供する。特に、骨転移ニッチにおけるマクロファージのERα活性化という反直感的な観察を、ダブルレポーターシステム、条件付きノックアウトマウス、およびヒト検体を用いた多層的な検証により裏付けた点で独創性が高い。

新規性: 本研究で初めて、SAMENTという革新的な技術を開発し、これにより転移ニッチの細胞および分子特性を網羅的にマッピングすることが可能となった。この技術を用いて、骨転移ニッチにおけるERα陽性マクロファージがT細胞排除を介して骨転移を促進するという新規のメカニズムを解明した。また、癌細胞由来の脂肪酸がPPARγを介してマクロファージのEsr1発現を誘導するという上流のシグナル伝達経路を同定したことも、本研究の重要な新規性である。

臨床応用: 本知見は、骨転移治療における新たな治療戦略の臨床応用に直結する可能性を秘めている。マクロファージ特異的なEsr1の条件付きノックアウトがT細胞浸潤を可能にし、骨転移コロニー形成を有意に阻害したことから、ERαを標的とした治療法が、乳癌に限らず、肺癌、腎癌、大腸癌など複数原発の骨転移に対しても有効である可能性を示唆する。特に、男性患者の骨転移においてもマクロファージERα発現が確認されたことは、抗ER内分泌療法を男性患者に適用する可能性を開く。骨転移症例におけるマクロファージERα染色を新たなバイオマーカー候補として提案できる重要な前臨床基盤であり、ERα阻害剤と免疫療法の併用療法が、T細胞浸潤を促進することで治療効果を高める可能性も示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が挙げられる。(1) SERDs (selective estrogen receptor degraders)/SERMs (selective estrogen receptor modulators) の骨髄系細胞への浸透性および有効性のベンチマーク評価。(2) 肝臓などの他の脂肪組織が豊富な転移部位でも同様の経路が機能するかどうかの検証。(3) 癌細胞エクソソーム由来脂肪酸供給機構の標的としての可能性の探求。(4) ER陰性原発癌 (トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、腎細胞癌など) の骨転移に対するER標的療法の臨床試験設計。また、SAMENTは細胞接触の「スナップショット」を捉えるため、細胞間相互作用を長期的に追跡する補完的なアプローチの開発が今後の研究方向性として残されている。

方法

SAMENTシステムの設計と検証: SAMENT (Sortase A-based microenvironment niche tagging) は、ドキシサイクリン誘導性のmgSrtA (mono-glycine recognition sortase A variant) – GFPナノボディ (GFPn) を発現する癌細胞と、全細胞表面にsurGFP (surface GFP) を構成的に発現するGFP-GPIマウスを宿主として使用した。ビオチン標識されたLPETGS基質を投与すると、GFPnとsurGFPの結合が細胞接触を安定化させ、mgSrtAがビオチンタグを近隣細胞に転移させる。これにより、ビオチン陽性ニッチ細胞をFACS、scRNA-seq、および免疫蛍光染色 (IF) で解析可能とした。in vitro共培養実験では、ドキシサイクリンとビオチン-LPETGSの同時刺激時のみ、sender細胞からreceiver細胞へのラベリングが起こることを確認し、インキュベーション時間 (0-4時間)、基質濃度 (0.01-0.5 mM)、ドキシサイクリン濃度 (0.01-1 μg/mL) に対して線形応答を示すことを確認した。in vivoでは、LLC1細胞のintra-iliac artery (IIA) 注入による骨転移モデルにおいて、ドキシサイクリン依存的にビオチンラベリングが6-8倍増加し、腫瘍量と相関すること、および微小転移でも有効であることを示した。

転移モデルの樹立と解析: LLC1 (Lewis lung carcinoma cells)、B16F10 (murine melanoma cancer)、PyMT-N (murine TNBC)、4T1 (murine TNBC) 細胞株を、IIA注入またはintracardiac (IC) 注入により、骨、脳、肺、肝臓に転移を樹立させた。SAMENTにより標識されたビオチン陽性ニッチ細胞と非標識細胞をFACSで分離し、scRNA-seqおよび空間トランスクリプトミクス解析に供した。

既存ラベリング法との比較: sLP-mCherryおよびuLIPSTICシステムを最適化し、SAMENTと比較した。SAMENTはin vitroで数時間以内に最も高いラベリング効率を示し、uLIPSTICおよびSAMENT-no GFPnがそれに続いた。in vivo骨転移モデルでは、SAMENTはuLIPSTICよりも高い感度を示し、sLP-mCherryよりも高い空間的精度で細胞接触範囲内の60-70%の細胞を標識した。

Esr1条件付きノックアウト (KO) マウスの作製: LysM-creマウスとEsr1^fl/flマウスを交配させ、骨髄系細胞特異的なEsr1欠失マウス (Esr1 LysM) を作製した。これらのマウスを用いて、マクロファージにおけるEsr1欠失が骨転移の進行および免疫微小環境に与える影響を評価した。

ヒト検体の解析: 乳癌、肺癌、腎癌、大腸癌など複数原発の骨転移組織42症例を収集し、マルチプレックス免疫蛍光染色 (multiplex IF) およびscRNA-seqを用いて、マクロファージにおけるERα発現および関連遺伝子発現プロファイルを解析した。

メカニズム解析: 癌細胞由来の可溶性因子がマクロファージのERα発現を誘導するかをin vitro共培養実験で評価した。特に、脂肪酸 (FA) シグナルがPPARγ (peroxisome proliferator-activated receptor gamma) を介してマクロファージのERα発現を誘導する可能性を検討した。FASN (fatty acid synthase) およびRAB27a (exosome secretion regulator) のノックダウン実験により、癌細胞からのFA分泌経路を解析した。

統計解析: データは平均±SEMで示され、生物学的複製数 (n) が明記された。統計的有意差は、一元配置分散分析 (ANOVA) と最小有意差 (LSD) 検定、二元配置ANOVAとLSD検定、対応のあるt検定、ピアソン相関分析、マン・ホイットニーU検定、カイ二乗検定などを用いて評価された。Benjamini-Hochberg法による多重比較補正が適用されたp値も使用された。