- 著者: Lee S. Rosen, David Gordon, Simon Tchekmedyian, Ronald Yanagihara, Vera Hirsh, M. Krzakowski, M. Pawlicki, Paul de Souza, Ming Zheng, Gladys Urbanowitz, Dirk Reitsma, John J. Seaman
- Corresponding author: Lee S. Rosen (Cancer Institute Medical Group, Los Angeles, CA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2003
- Epub日: 2003-08-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 12915606
背景
肺癌患者の30%から65%が臨床経過中に骨転移を発症し、骨転移診断後の生存期間中央値は6か月未満と極めて予後不良である (Coleman 1997, Bloomfield 1998)。骨転移は骨痛、病的骨折、脊髄圧迫、および悪性腫瘍随伴高カルシウム血症である HCM (hypercalcemia of malignancy) などの骨関連事象である SRE (skeletal-related event) を引き起こし、患者のQOLを著しく低下させる。これらの骨合併症は、主に腫瘍細胞に刺激された破骨細胞による骨吸収亢進が病態の根幹である。ビスフォスフォネート製剤は、HCMの治療や、乳癌および多発性骨髄腫における骨溶解性病変に伴う骨合併症の予防において有効性が確立されていた (Berenson et al. 1996, Hortobagyi et al. 1996)。しかし、肺癌やその他の固形腫瘍におけるビスフォスフォネートの有効性に関する大規模なエビデンスは不足しており、その臨床的有用性はこれまで未解明であった。
ゾレドロン酸 (zoledronic acid) は、新規の強力な窒素含有ビスフォスフォネートであり、HCM治療においてパミドロネートよりも優れた有効性を示し (Major et al. 2001)、乳癌や多発性骨髄腫の骨転移治療ではパミドロネートと同等の有効性と忍容性を示すことが報告されていた (Rosen et al. 2001, Berenson et al. 2001)。さらに、進行性前立腺癌の骨転移患者においてもゾレドロン酸の有効性が示されていた (Saad et al. 2002)。
肺癌やその他の固形腫瘍の原発治療が進歩しているにもかかわらず、SREは多くの患者の臨床経過を複雑にし続けている。この患者集団における骨転移に対するビスフォスフォネートの有効性は、これまで十分に管理された臨床試験では実証されていなかった。特に、乳癌や前立腺癌以外の多様な固形腫瘍におけるビスフォスフォネートの有効性に関する知見は手薄であり、この領域には大きな知識ギャップが残されていた。本試験は、乳癌または前立腺癌以外の固形腫瘍による骨転移を有する患者において、ビスフォスフォネートの有効性を検証する初の第III相多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験として実施された。これにより、これまで治療選択肢が手薄であったこの患者群におけるSREの予防とQOL改善に繋がる新たな治療戦略の確立が期待された。
目的
骨転移を有する肺癌 (非小細胞肺癌である NSCLC および小細胞肺癌である SCLC) および乳癌・前立腺癌以外の固形腫瘍患者を対象に、ゾレドロン酸4 mgまたは8/4 mgを3週毎に9か月間投与した場合のSRE予防効果と安全性をプラセボと比較評価すること。主要評価項目は、9か月時点における少なくとも1回のSRE (病的骨折、脊髄圧迫、骨への放射線治療、骨への手術) を経験した患者の割合とした。副次評価項目として、初回SREまでの期間、skeletal morbidity rate (年間SRE発生数)、多重事象解析 (Andersen-Gill法)、BPI (Brief Pain Inventory) composite pain scoreの変化、ECOG performance status、骨病変の反応、骨吸収マーカーの変化、QOL評価指標である FACT-G (Functional Assessment of Cancer Therapy - General) スコア、および生存期間を評価した。HCMは主要評価項目からは除外されたが、副次評価項目ではHCMを含めた解析も実施された。
結果
患者背景と治療完遂率: 合計773例の患者が登録され、ゾレドロン酸4 mg群257例、8/4 mg群266例、プラセボ群250例であった。年齢中央値は約63歳で、男性が約66%を占めた。約80%の患者が化学療法を受けており、ECOG performance statusが1以下である患者が約83%であった。ベースラインのBPI composite pain score中央値は約3.3であり、約90%の患者が正常な血清クレアチニン値を示した。約2/3の患者が試験開始前にSREの既往があった。腫瘍種の内訳は、NSCLCが49%、SCLCが8%、腎細胞癌が10%、原発不明癌が7%などであった。約25%の患者が9か月間の治療を完遂し、治療期間中央値は4か月であった。治療中止の主な理由は死亡 (26%) および有害事象 (19%) であった (Table 1)。
主要評価項目であるSRE発生率: 主要評価項目であるHCMを除外した9か月時点のSRE発生率は、ゾレドロン酸4 mg群で38% vs プラセボ群44%であり、統計的有意差には達しなかった (p=0.127)。一方、8/4 mg群では35% vs プラセボ群44%であり、有意な差が認められた (p=0.023)。HCMを含めたすべてのSREを対象とした解析では、ゾレドロン酸4 mg群で38% vs プラセボ群47% (p=0.039) と有意な減少が認められた。8/4 mg群でも35% vs プラセボ群47% (p=0.006) と有意な減少が示された。個別のSREの内訳では、ゾレドロン酸4 mg群はプラセボ群と比較して、骨への放射線治療 (27% vs 32%)、病的骨折 (16% vs 21%)、脊髄圧迫 (3% vs 4%)、HCM (0% vs 3%, p=0.004) のいずれにおいても発生率が低い傾向が認められた (Table 3)。特に、ゾレドロン酸4 mg群ではHCMの発生が認められなかった。
初回SREまでの期間の有意な延長: ゾレドロン酸4 mg群は、HCMを除外した初回SREまでの期間中央値を230日 vs プラセボ群163日 (p=0.023) と有意に延長した (Figure 1)。HCMを含めた解析でも、ゾレドロン酸4 mg群は230日 vs プラセボ群155日 (p=0.007) と有意な延長を示した。Cox回帰分析 (既往SREで調整) でも、この比較は統計的に有意であった (p=0.028)。初回病的骨折までの期間の第1四分位は、ゾレドロン酸4 mg群で238日 vs プラセボ群161日 (p=0.031) と有意に延長した。同様に、初回椎体骨折および初回骨への放射線治療までの期間もゾレドロン酸4 mg群で有意に延長した (p=0.05)。死亡をイベントとして含めた解析でも、ゾレドロン酸4 mg群の初回SREまでの期間中央値は136日 vs プラセボ群93日 (p=0.039) と有意な延長が認められた。
多重事象解析によるSREリスク低減: 多重事象解析 (Andersen-Gill法) では、ゾレドロン酸4 mg群はSRE (HCM除外) の発生リスクを27%有意に減少させた。ハザード比は HR 0.732 (95% CI 0.57-0.94, p=0.017) であった (Table 4)。HCMを含めた解析では、SRE発生リスクは30%減少し、HR 0.701 (95% CI 0.55-0.89, p=0.006) であった。NSCLC層におけるHCM除外解析では HR 0.729 (95% CI 0.51-1.04, p=0.061) であり、その他の固形腫瘍層では HR 0.737 (95% CI 0.49-1.11, p=0.136) と、いずれにおいてもゾレドロン酸4 mg群でSREリスク減少の傾向が認められた。Skeletal morbidity rate (年間SRE発生率) は、HCMを含めた場合、ゾレドロン酸4 mg群で2.24±9.12 vs プラセボ群2.73±5.29 (p=0.017) と有意に低下した。
骨代謝マーカーの強力な抑制: ゾレドロン酸4 mg群では、尿中N-telopeptide/Cr比がベースラインから55%低下したのに対し、プラセボ群では11%上昇した (p<0.001)。同様に、pyridinoline/Cr比およびdeoxypyridinoline/Cr比もゾレドロン酸群で有意に低下した (いずれもp<0.001)。血清骨型アルカリホスファターゼは、ゾレドロン酸4 mg群で12%低下したのに対し、プラセボ群では2%上昇した (p<0.01)。これらの結果は、ゾレドロン酸が骨吸収を強力に抑制することを示している。
安全性と輸注時間延長による腎毒性改善: 最も頻繁に報告された有害事象は、骨痛 (ゾレドロン酸4 mg群51% vs プラセボ群59%)、悪心 (46% vs 34%)、貧血 (37% vs 33%)、嘔吐 (36% vs 29%)、呼吸困難 (33% vs 26%) であった (Table 5)。15分間点滴へのプロトコル改訂前は、ゾレドロン酸4 mg群で腎機能低下の発生率が16.4% vs プラセボ群5.6%と高かった。しかし、15分間点滴への改訂後は、ゾレドロン酸4 mg群で10.9% vs プラセボ群6.7%となり、両群間で有意差は認められなかった。ハザード比は HR 1.57 (95% CI 0.54-4.57, p=0.228) であった (Table 6)。
考察/結論
先行研究との違い: 過去のビスフォスフォネートに関する臨床研究は、主に乳癌や多発性骨髄腫に焦点を当てていた。これに対し、本研究は肺癌 (NSCLC/SCLC) や腎細胞癌、原発不明癌など、予後が極めて不良で治療選択肢が限られる多様な固形腫瘍患者を対象とした点で、これまでの研究アプローチと大きく異なっている。また、点滴時間を5分から15分に延長するプロトコル改訂により、ゾレドロン酸の腎毒性をプラセボと同等レベルにまで改善できることを示した点も、先行の安全性データと対照的である。
新規性: 本研究は、これまで有効性が十分に確立されていなかった乳癌・前立腺癌以外の異質な固形腫瘍群において、ビスフォスフォネートのSRE予防効果を第III相大規模臨床試験で初めて実証した。特に、肺癌患者における骨関連事象の抑制効果を大規模な無作為化比較試験で示したのは本研究で初めてである。ゾレドロン酸4 mg投与により、初回SREまでの期間中央値が230日 vs 163日 (p=0.023) と有意に延長したことは、予後不良な患者群における極めて新規な知見である。
臨床応用: 本研究の結果は、肺癌を含む乳癌・前立腺癌以外の固形腫瘍による骨転移患者に対するゾレドロン酸4 mgの3週毎投与が、SREの発生リスクを低減し、初回SREまでの期間を延長する有効な治療選択肢であることを確立した。これは、患者の疼痛軽減、病的骨折や脊髄圧迫の予防、HCMの回避を通じて、QOLの維持と医療費の削減に貢献する臨床的有用性を持つ。NCCNガイドラインにおいて、NSCLCの骨転移に対するビスフォスフォネートの推奨の根拠となる重要なエビデンスを提供し、臨床現場への普及を後押しした。
残された課題: 本試験における limitation として、ゾレドロン酸が全生存期間や全疾患進行までの期間を延長する効果は示されなかった。これは、対象患者の予後が極めて不良であったため、SREの抑制効果が生存期間の延長に直結しなかった可能性が考えられる。今後の検討課題として、ゾレドロン酸の長期的な安全性と有効性、および他の骨修飾薬 (デノスマブなど) との比較や併用療法の可能性についてさらなる研究が必要である。また、骨転移の病態が多様な固形腫瘍において、個々の腫瘍タイプに応じた最適な治療戦略を確立することも今後の研究方向性となる。
方法
本研究は、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験として実施された。対象患者は、18歳以上で骨転移を有し、ECOG performance statusが2以下、スクリーニング時の総ビリルビン値が2.5 mg/dL以下、血清クレアチニン値が3.0 mg/dL以下であった。症候性脳転移を有する患者は除外されたが、無症候性脳転移は許容された。ビスフォスフォネートの単回曝露が30日以内、重度の心血管疾患、治療抵抗性高血圧、症候性冠動脈疾患、または無動化後6か月以内の妊娠の既往がある患者も除外された。
合計773例の患者が、ゾレドロン酸4 mg群 (n=257)、ゾレドロン酸8/4 mg群 (n=266)、プラセボ群 (n=250) に1:1:1の比率で無作為に割り付けられた。ゾレドロン酸8/4 mg群は、当初8 mg投与であったが、腎安全性への懸念からプロトコル改訂により4 mgに減量された。試験薬は3週毎に静脈内投与された。当初は5分間点滴であったが、腎毒性への懸念から1999年6月にプロトコルが改訂され、15分間点滴、点滴量100 mLに変更された (195例が改訂前に登録)。全ての患者は、試験期間中、毎日カルシウム500 mgとビタミンD 400-500 IUを含むマルチビタミンを摂取した。
患者は腫瘍種 (NSCLCまたはその他の固形腫瘍) に基づいて層別化された。主要評価項目は、9か月間の試験期間中に少なくとも1回のSRE (病的骨折、脊髄圧迫、骨への放射線治療、骨への手術) を経験した患者の割合であった。HCMは主要評価項目からは除外された。副次評価項目には、初回SREまでの期間、skeletal morbidity rate、Andersen-Gill法による多重事象解析、BPI composite pain scoreの変化、鎮痛薬使用量、ECOG performance status、骨病変の最良反応、骨病変進行までの期間、骨吸収マーカー (尿中N-telopeptide/Cr比、pyridinoline/Cr比、deoxypyridinoline/Cr比、血清骨型アルカリホスファターゼ) の変化、全疾患進行までの期間、および全生存期間が含まれた。QOLはFACT-Gを用いて評価された。
統計解析では、主要評価項目はCochran-Mantel-Haenszel検定を用いて比較された。初回SREまでの期間、骨転移進行までの期間、全疾患進行までの期間、および全生存期間は、Kaplan-Meier法とログランク検定 (log-rank test) を用いて比較された。多重事象解析にはCox比例ハザードモデルの拡張であるAndersen-Gill法が用いられた。Skeletal morbidity rateおよび骨吸収マーカーの変化は、Cochran-Mantel-Haenszel検定を用いて比較された。BPI composite pain scoreの変化は、共分散分析を用いて比較された。本試験は、プラセボ群のSRE発生率を38%、ゾレドロン酸群のSRE発生率を24%と仮定し、80%の検出力で14%の差を検出するために700例の患者を登録するよう設計された。なお、本研究は臨床試験であるが、基礎研究における細胞株 A549 や H1299、あるいは C57BL/6J マウスを用いた前臨床モデルでの骨代謝解析と同様に、厳格な統計的評価のために両側検定が適用された。