• 著者: Lorenza Landi, Federica D’Incà, Alain Gelibter, Rita Chiari, Francesco Grossi, Angelo Delmonte, Antonio Passaro, Diego Signorelli, Francesco Gelsomino, Domenico Galetta, Diana Giannarelli, Hector Soto Parra, Gabriele Minuti, Marcello Tiseo, Maria Rita Migliorino, Francesco Cognetti, Luca Toschi, Paolo Bidoli, Francovito Piantedosi, Luana Calabrò, Federico Cappuzzo
  • Corresponding author: Federico Cappuzzo (Department of Oncology and Hematology, AUSL Romagna, Ravenna, Italy)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-11-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31752994

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、骨転移 (BoM) は診断時に20〜30%の患者に認められ、さらに35〜40%が疾患経過中に発症する一般的な転移部位である。骨転移は患者の疼痛、パフォーマンスステータス (PS) の悪化、および生活の質の低下を引き起こし、全生存期間 (OS) を短縮させる負の予後因子として広く認識されている (Kuchuk et al. 2013, Santini et al. 2015)。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は進行NSCLCの治療に革命をもたらし、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブなどが標準治療として確立されている (例: Reck et al. NEnglJMed 2016Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015)。しかし、これらの第III相臨床試験では、転移部位による層別化が行われておらず、特に骨転移がICIの治療効果に与える影響については、大規模なコホートでの詳細な解析が不足していた。

骨は単なる転移先としてだけでなく、T細胞、B細胞、樹状細胞、NK細胞、骨髄由来抑制細胞 (MDSC)、間葉系幹細胞、制御性T細胞など、多様な免疫細胞が常在する造血および免疫調節臓器としての役割を担っている (Zhao et al. 2012)。骨髄微小環境は全身の免疫応答と細胞トラフィッキングを積極的に制御しており、この特殊な環境が免疫療法の効果に影響を与える可能性が指摘されている。いくつかの小規模な後ろ向き研究では、骨転移が免疫療法に対する抵抗性部位である可能性が示唆されていた。例えば、Tamiya et al. (2018) は、肝転移や肺転移がニボルマブ治療における無増悪生存期間 (PFS) の短縮と独立して関連することを示し、Schmid et al. (2018) は骨転移を有する患者の75%が腫瘍進行時に骨病変の進行を認めたと報告している。これらの知見は、臓器特異的な微小環境が免疫療法の効果を調節しうることを示唆するものの、骨転移がICIの効果に与える影響を明確に評価するための大規模な実臨床データは未解明な点が多かった。

本研究は、イタリアのニボルマブExpanded Access Program (EAP) に登録された既治療進行NSCLC患者1959例という大規模なコホートを用いて、ベースラインでの骨転移の有無がニボルマブ単剤療法の効果に与える影響を詳細に検証することを目的とした。これにより、骨転移がICIの治療効果を減弱させる独立した予後因子であるか否かを明らかにすることが期待された。この分野には、骨転移の免疫療法への影響に関する大規模なエビデンスが不足しており、本研究はそのギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、既治療の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者(非扁平上皮癌および扁平上皮癌)において、ベースラインでの骨転移 (BoM) の有無が、二次治療以降に投与されるニボルマブ単剤療法の有効性(客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS))に与える影響を評価することである。さらに、パフォーマンスステータス (PS)、肝転移、脳転移といった既知の予後因子を調整した後も、骨転移が独立した予後因子として機能するかどうかを検証することを目的とした。この大規模な実臨床データを用いることで、骨転移が免疫チェックポイント阻害薬の効果に与える影響を明確にし、将来的な治療戦略や臨床試験デザインにおける骨転移の重要性を確立することを目指した。本研究は、骨転移が免疫療法の効果に与える影響を包括的に評価し、その臨床的意義を明らかにすることを主眼としている。

結果

患者背景: Cohort A (非扁平上皮NSCLC, n=1588 patients) では、626例 (39%) が骨転移陽性 (BoM+) であり、962例 (61%) が骨転移陰性 (BoM-) であった。BoM+患者はBoM-患者と比較して若年傾向にあり (年齢中央値65歳 vs 67歳, p=0.001)、ECOG PS 0の割合が有意に低く (34% vs 45%, p<0.0001)、肝転移 (28% vs 16%, p<0.00001) および脳転移 (30% vs 23%, p=0.001) の頻度が有意に高かった。性別、喫煙状況、前治療ライン数に有意差は認められなかった。EGFR、KRAS、BRAF、ALK、ROS1変異の頻度は両群で同等であった。BoM+患者の42.1% (n=264 patients) が骨への緩和的放射線治療歴を有していた。 Cohort B (扁平上皮NSCLC, n=371 patients) では、120例 (32%) がBoM+であり、251例 (68%) がBoM-であった。BoM+患者とBoM-患者の間で、年齢、性別、PS、肝転移、脳転移の有無に有意差は認められなかった。BoM+患者の31.6% (n=38 patients) が骨への緩和的放射線治療歴を有していた。

ニボルマブの有効性 (非扁平上皮NSCLC, Cohort A): 骨転移の有無によるニボルマブの有効性には顕著な差が認められた。BoM+群では、客観的奏効率 (ORR) が12% vs 23% (p<0.0001) と有意に低く、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は3.0か月 vs 4.0か月 (p<0.0001) と有意に短かった。全生存期間 (OS) 中央値も7.4か月 vs 15.3か月 (p<0.0001) と、BoM+群で著しく不良であった (Figure 1a)。12か月PFS率はBoM+群で15% vs BoM-群で27% (p<0.0001)、12か月OS率はBoM+群で38% vs BoM-群で55% (p<0.0001) であった。これらの結果は、ニボルマブを二次治療として受けた患者 (n=615 patients) やEGFR変異を有する患者 (n=102 patients) のサブ解析においても同様の傾向を示した (Additional file 4 A,B; Additional file 5 A,B)。

ニボルマブの有効性 (扁平上皮NSCLC, Cohort B): 扁平上皮NSCLCにおいても、骨転移の有無はニボルマブの有効性に同様の悪影響を及ぼした。BoM+群では、ORRが13% vs 22% (p=0.04) と有意に低く、PFS中央値は2.7か月 vs 5.2か月 (p<0.0001) と有意に短縮した (Additional file 1B)。OS中央値も5.0か月 vs 10.9か月 (p<0.0001) と、BoM+群で有意に不良であった (Figure 1b)。12か月PFS率はBoM+群で15% vs BoM-群で31% (p=0.001)、12か月OS率はBoM+群で19% vs BoM-群で48% (p<0.0001) であった。

PS、肝転移、脳転移による調整後の影響: 骨転移が予後に与える悪影響は、PS、肝転移、脳転移といった他の重要な予後因子を調整した後も独立して認められた。 PS 0の非扁平上皮NSCLC患者において、BoM+群のOS中央値は12.0か月 vs BoM-群の20.9か月 (p<0.0001) であった (Figure 1c)。同様に、PS 0の扁平上皮NSCLC患者では、BoM+群のOS中央値は5.8か月 vs BoM-群の16.4か月 (p<0.0001) であった (Figure 1d)。 肝転移を有する非扁平上皮NSCLC患者では、BoM+群のOS中央値は4.0か月 vs BoM-群の8.4か月 (p<0.0001) であった (Figure 1e)。扁平上皮NSCLCの肝転移患者では、BoM+群のOS中央値は5.5か月 vs BoM-群の6.4か月 (p=0.48) であったが、これはBoM+群の症例数が少ないことに起因する可能性がある (Figure 1f)。脳転移の有無によるサブグループ解析でも、骨転移の悪影響は一貫して認められた (Additional file 3 A-D)。

多変量解析による予後因子の特定: 年齢、性別、ECOG PS、喫煙歴、脳転移、肝転移、骨転移、前治療ライン数を変数としたCox比例ハザード回帰モデルによる多変量解析を実施した (Table 3)。その結果、骨転移の有無は両コホートにおいて独立した死亡リスク因子であることが示された。非扁平上皮NSCLC (Cohort A) では、BoM+のハザード比 (HR) は1.50 (95% CI 1.30–1.73, p<0.0001) であり、扁平上皮NSCLC (Cohort B) ではHR 1.78 (95% CI 1.37–2.31, p<0.0001) であった。ECOG PS 2 vs 0のHRはCohort Aで3.09 (95% CI 2.38–4.02, p<0.0001)、Cohort Bで2.46 (95% CI 1.49–4.05, p<0.0001) であった。肝転移のHRはCohort Aで1.64 (95% CI 1.39–1.93, p<0.0001)、Cohort Bで1.43 (95% CI 1.01–1.95, p=0.03) であり、骨転移は肝転移よりも強い負の予後因子であることが示唆された。PFSおよびORRについても同様に、骨転移が独立した悪化因子であることが多変量解析で確認された (Additional file 8, Additional file 9)。

骨への放射線治療の影響: 骨転移を有する患者 (BoM+) のうち、骨への緩和的放射線治療 (RT) 既往のある302例 (n=302 patients) とRT未施行の444例 (n=444 patients) の間で、OS、PFS、ORRに有意差は認められなかった (Additional file 10)。また、全患者集団 (n=1959 patients) における早期死亡 (治療開始後3か月以内) および早期進行 (治療開始後3か月以内) の発生率は、BoM+群で有意に高かったが、この傾向は事前RTの有無によって改善されなかった (Additional file 11)。オンコジーンドライバー変異を有するNSCLC患者のMETROS試験コホートにおいても、BoM+患者でPFSおよびOSの悪化が確認され (p=0.02およびp=0.04)、本研究の知見が外部コホートでも検証された。

安全性プロファイル: 有害事象 (AE) の発生率は、骨転移の有無にかかわらず両群で類似していた (Additional file 12)。Cohort Aでは、任意グレードのAEがBoM+群で31% vs BoM-群で34%、グレード3-4のAEが7% vs 7%であり、統計的に有意な差はなかった。治療関連AEによる中止率はBoM+群で4% vs BoM-群で5%であった。主なグレード3/4の治療関連AEは、倦怠感/無力症 (2%)、貧血 (1%)、トランスアミナーゼ上昇 (2%)、リパーゼ/アミラーゼ上昇 (1%)、呼吸困難 (1%)、肺臓炎 (1%) であった。Cohort Bでも同様の結果が示されたが、グレード3-4の消化器系AEがBoM+群で3% vs BoM-群で<1%、内分泌系AEが5% vs <1%とわずかな差が認められた。治療関連死亡は報告されなかった。

考察/結論

本研究は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者における骨転移 (BoM) が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) であるニボルマブの治療効果を著しく減弱させることを、イタリアのニボルマブExpanded Access Program (EAP) の1959例という大規模な実臨床コホートを用いて初めて明確に示した。骨転移は、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) の全ての有効性評価項目において、一貫して有意な悪化因子であることが確認された。多変量解析においても、組織型、パフォーマンスステータス (PS)、肝転移、脳転移、前治療ライン数といった既知の予後因子を調整した後も、骨転移は独立した死亡リスク因子 (非扁平上皮NSCLCでHR 1.50 (95% CI 1.30–1.73, p<0.0001)、扁平上皮NSCLCでHR 1.78 (95% CI 1.37–2.31, p<0.0001)) であった。この結果は、CheckMate 057試験の再解析において、骨転移を有するニボルマブ群の患者でドセタキセル群よりも早期死亡率が高いことが示された報告 (Peters et al. 2017) とも整合する。

先行研究との違い: これまでの小規模な研究では骨転移が免疫療法抵抗性部位である可能性が示唆されていたが、本研究は、最大規模のコホートで骨転移がICIの効果を減弱させる独立した予後因子であることを確立した点で、これまでの報告と異なる。特に、PSや他の転移部位の影響を調整した後も骨転移の悪影響が持続することは、単なる全身状態の悪化や腫瘍量の多さだけでは説明できない、骨微小環境に起因するメカニズムの存在を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、骨転移がNSCLCの免疫療法における「actionableな予後/予測因子」として再定義された。骨髄は、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) や腫瘍関連マクロファージ (TAM) が免疫抑制的に機能し、RANKL/RANK経路や骨芽細胞-T細胞相互作用が免疫応答を調節し、破骨細胞の活性化が局所的なTGF-β放出を促進して免疫応答を抑制するなど、複雑な免疫調節機能を担う臓器である (Zhao et al. 2012)。これらの機序は、「骨微小環境が免疫療法抵抗性を生む」という新たな臓器特異的免疫抵抗性の概念を支持するものであり、本研究はこの仮説を大規模な臨床データで裏付けた点で新規性が高い。

臨床応用: 本研究の知見は、NSCLC患者の免疫療法における臨床的意義が大きい。第一に、免疫療法に関する臨床試験では、骨病変の評価を必須とし、骨転移の有無で患者を層別化すべきである。第二に、骨転移を有するNSCLC患者に対しては、従来のICI単剤療法に加えて、骨標的治療薬 (ビスフォスフォネートやデノスマブなど) や抗VEGF抗体 (ベバシズマブなど) との併用療法、あるいは化学療法との併用を検討する必要がある。前臨床マウス乳癌モデルでは、抗PD-1抗体とゾレドロン酸の併用により抗腫瘍効果が増強されることが報告されており (Li et al. 2018)、骨標的治療の追加が免疫療法抵抗性を克服する可能性を示唆する。また、IMPOWER 150試験 (Atezolizumab for First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC) でアテゾリズマブとベバシズマブの併用が肝転移患者のOSを延長した知見 (Socinski et al. NEnglJMed 2018) は、抗VEGF療法とICIの併用が骨転移患者にも有効である可能性を示唆する。第三に、骨転移は早期死亡 (3か月以内) や早期進行のリスクが高い患者を特定するための有用なマーカーとなりうる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、後ろ向き研究デザインであるため、因果関係の明確な特定には限界がある。第二に、EAPではPD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) のデータ収集が必須ではなかったため、これらのバイオマーカーが骨転移患者の予後や免疫療法効果に与える影響を評価できなかった。第三に、骨転移の評価方法が標準化されておらず、単発性か多発性かといった詳細な情報が欠落している。第四に、対照群 (非ICI治療) がないため、骨転移が予後因子であるのか、あるいは免疫療法の予測因子であるのかを明確に区別することはできない。第五に、本研究の患者は全て既治療であったため、一次治療における骨転移の影響については一般化できない。最後に、ビスフォスフォネートなどの骨標的治療薬の併用に関するデータが収集されておらず、これらの薬剤が免疫療法の効果に与える影響を評価できなかった。今後の検討課題として、これらのlimitationを克服するための前向き研究や、骨微小環境における詳細な免疫学的解析が残されている。

方法

本研究は、イタリア国内153施設で2015年4月から2016年9月にかけて実施されたニボルマブExpanded Access Program (EAP) の前向き単群オープンラベル試験のデータを用いた後ろ向き解析である。

患者選択と治療: 登録基準は、18歳以上、組織学的または細胞学的に診断された非扁平上皮 (Cohort A, n=1588 patients) または扁平上皮 (Cohort B, n=371 patients) NSCLC、進行期で少なくとも1レジメン以上の全身治療歴、ECOG PSが2未満であった。脳髄膜炎、HIV、HBV、HCV陽性、および過去の免疫チェックポイント阻害薬治療歴がある患者は除外された。ニボルマブは3 mg/kgを2週間ごとに最大24か月間静脈内投与された。解析対象は、少なくとも1回ニボルマブを投与された患者とした。本研究はヘルシンキ宣言およびICH-GCPガイドラインに従って実施され、各施設の倫理委員会によって承認され、全患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。

評価項目: 腫瘍反応はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 1.0基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、治験責任医師によって評価された。主要評価項目はORR、PFS、OSであった。有害事象 (AE) はNCI Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0を用いてモニタリングされた。

統計解析: 有効性および安全性解析は、ニボルマブを少なくとも1回投与された全患者を対象に実施された。ORR、PFS、OS、および安全性プロファイルが評価された。患者特性とORRの関連はカイ二乗検定で測定された。PFSはニボルマブ治療開始から病勢進行または死亡までの期間として定義され、OSは治療開始からあらゆる原因による死亡までの期間として定義された。PFSおよびOSはカプラン・マイヤー法を用いて推定され、95%信頼区間 (CI) はHosmer and Lemeshow法を用いて算出された。生存曲線間の差はログランク検定で評価された。患者特性と生存期間の関連を検討するため、Cox比例ハザード回帰モデルが使用され、ハザード比 (HR) と95% CIが報告された。多変量解析では、Wald統計量に基づいたステップワイズ法が用いられ、変数の投入および削除のp値はそれぞれ0.05および0.10に設定された。

サブグループ解析と追加解析: 骨転移陽性 (BoM+) 群と骨転移陰性 (BoM-) 群の間でORR、PFS、OSが比較された。さらに、PS、肝転移、脳転移、組織型 (非扁平上皮/扁平上皮)、およびEGFR/KRAS/BRAF/ALK/ROS1遺伝子変異の状態ごとのサブ解析が実施された。骨転移に対する事前放射線治療の有無による早期死亡 (治療開始後3か月以内) および早期進行 (治療開始後3か月以内) の解析も行われた。また、オンコジーンドライバー変異を有するNSCLC患者を対象としたMETROS試験 (MET deregulated or ROS1 rearranged pretreated non-small-cell lung cancer) のデータを用いて、本研究の知見の外部検証も実施された。安全性データは、BoM+群とBoM-群間で比較された。