• 著者: Shirish M. Gadgeel, Rimas V. Lukas, Jerome Goldschmidt, Paul Conkling, Keunchil Park, Diego Cortinovis, Filippo de Marinis, Achim Rittmeyer, Jyoti D. Patel, Joachim von Pawel, Vamsidhar Velcheti, Dariusz M. Kowalski, Daniel Morgensztern, Shunichi Sugawara, Kazuo Kasahara, Jong-Seok Park, Wen X, Morris S, Pennica D, Ballinger M, Gandara DR, Satouchi M, Cortot AB
  • Corresponding author: Shirish M. Gadgeel (University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30642441

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、脳転移は疾患の進行に伴い20%から40%の頻度で発生し、しばしば診断後2年以内に認められる。脳転移は患者の生存期間を短縮させ、生活の質を著しく低下させる主要な要因である Bearz et al. LungCancer 2010。しかし、脳転移を有するNSCLC患者に対する全身療法は限られており、特に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の脳転移病変への有効性に関するデータは不足している。これまでの主要な臨床試験では、未治療または症候性の脳転移を有する患者は安全性への懸念から除外される傾向にあったため、この重要な患者集団におけるICIの治療効果と安全性プロファイルは未解明な点が多かった。

アテゾリズマブは、プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1) とプログラム細胞死1 (PD-1) およびB7.1との相互作用を選択的に阻害する抗PD-L1モノクローナル抗体であり、抗腫瘍免疫を再活性化・増強すると同時に、免疫恒常性を維持する可能性が示されている Herbst et al. Nature 2014Chen et al. Immunity 2013。第III相OAK試験は、PD-L1発現状況を問わない既治療の進行または転移性NSCLC患者を対象に、アテゾリズマブとドセタキセルの有効性および安全性を比較した試験である Rittmeyer et al. Lancet 2017。OAK試験の主要解析では、アテゾリズマブ群がドセタキセル群と比較して全生存期間 (OS) を有意に延長することが示され (ハザード比 [HR] 0.73, 95%信頼区間 [CI] 0.62-0.87, p=0.0003)、良好な安全性プロファイルが確認された Rittmeyer et al. Lancet 2017。これらの結果に基づき、アテゾリズマブはプラチナ製剤を含む化学療法後に病勢進行した転移性NSCLC患者(EGFRまたはALK遺伝子変異を有する場合は承認された治療後に進行した患者)の治療薬として承認された。

しかし、OAK試験の主要解析では、既治療の無症候性脳転移を有する患者サブグループにおけるアテゾリズマブの有効性評価は事前計画外の探索的解析であり、データが不足していた。脳転移を有する患者におけるPD-L1/PD-1阻害薬単独療法の有効性と安全性に関するランダム化試験のデータは依然として限られている。例えば、CheckMate 063, 017, 057試験の統合解析では、既治療の中枢神経系 (CNS) 転移を有する進行NSCLC患者において、ニボルマブとドセタキセルのOSは同程度であったと報告されている (Goldman et al. J Clin Oncol 2016)。このような背景から、既治療の無症候性脳転移を有するNSCLC患者におけるアテゾリズマブの治療効果と安全性プロファイルを詳細に評価することは、この患者集団の治療選択肢を拡大する上で極めて重要である。本研究は、OAK試験の探索的サブ解析として、ベースライン時点で無症候性既治療脳転移既往を有するNSCLC患者におけるアテゾリズマブの有効性、安全性、および新規脳転移発生リスクをドセタキセルと比較することを目的とした。これにより、これまでデータが不足していたこの患者集団に対するICIの適用可能性に関する貴重なエビデンスを提供することが期待される。

目的

本研究の目的は、第III相OAK試験において、ベースライン時点で無症候性かつ既治療の脳転移を有する進行NSCLC患者サブグループにおけるアテゾリズマブの有効性および安全性を評価することである。具体的には、このサブグループにおけるアテゾリズマブとドセタキセルを比較し、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、新規症候性脳病変の放射線学的同定までの期間 (TTI to new symptomatic CNS lesions)、および神経系有害事象 (AEs) の発生率を解析する。TTI to new symptomatic CNS lesionsは、新規の症候性脳転移が放射線学的に確認されるまでの期間を指す。また、AEs (adverse events) は有害事象、SAEs (serious adverse events) は重篤な有害事象を意味する。脳転移既往のない患者集団における結果と比較することで、両サブグループ間でのアテゾリズマブの治療効果の一貫性を評価することも目的とする。この探索的解析を通じて、既治療の無症候性脳転移を有するNSCLC患者に対するアテゾリズマブの臨床的有用性と、中枢神経系における疾患制御への影響を明らかにすることを目指す。

結果

患者背景: 本解析のデータカットオフは2017年1月23日であり、主要解析と比較して約7ヶ月の追加フォローアップ期間が含まれた。ベースライン時点で無症候性既治療脳転移既往を有する患者は、アテゾリズマブ群で61例 (14%)、ドセタキセル群で62例 (14%) であった。脳転移既往あり集団における患者背景は両群間で概ねバランスが取れていた。アテゾリズマブ群の脳転移既往あり患者の年齢中央値は59.0歳 (範囲: 39-79歳) であり、ドセタキセル群では62.5歳 (範囲: 39-83歳) であった。ECOGパフォーマンスステータス0の患者は、アテゾリズマブ群で37.7%、ドセタキセル群で45.2%であった。PD-L1発現レベル (TC0およびIC0) は、アテゾリズマブ群で42.6%、ドセタキセル群で50.0%であった (Table 1)。

全生存期間 (OS) の延長傾向: 既治療脳転移既往あり集団 (n=123) では、アテゾリズマブ群のOS中央値は16.0ヶ月、ドセタキセル群は11.9ヶ月であり、ハザード比 (HR) は0.74 (95% CI: 0.49-1.13, p=0.1633) であった (Fig. 1A)。統計的有意差には至らなかったものの、アテゾリズマブ群でOS延長傾向が認められた。脳転移既往なし集団 (n=727) では、アテゾリズマブ群のOS中央値は13.2ヶ月、ドセタキセル群は9.3ヶ月であり、HRは0.74 (95% CI: 0.63-0.88, p=0.0007) で有意なOS延長を示した (Fig. 1B)。両サブグループ間での治療効果の相互作用検定は有意ではなく (p-interaction > 0.05)、アテゾリズマブのOSベネフィットは脳転移既往の有無にかかわらず一貫していることが示唆された。ランドマーク解析では、脳転移既往あり患者において、24ヶ月時点のOS推定値はアテゾリズマブ群で26.6% (95% CI: 15.1-38.1)、ドセタキセル群で19.3% (95% CI: 8.2-30.4) であった (Table 3A)。脳転移既往なし患者では、24ヶ月時点のOS推定値はアテゾリズマブ群で31.6% (95% CI: 26.7-36.5)、ドセタキセル群で21.4% (95% CI: 16.9-25.9) であった。

新規症候性脳病変の放射線学的同定までの期間 (TTI to new symptomatic CNS lesions) の延長: 既治療脳転移既往あり集団において、新規症候性脳病変の放射線学的同定までの期間中央値はアテゾリズマブ群で未到達、ドセタキセル群で9.5ヶ月であった (HR 0.38, 95% CI: 0.16-0.91, p=0.0239) (Fig. 2A)。この結果は、アテゾリズマブがドセタキセルと比較して、既存の脳転移病変の進展または新規脳転移の発生を抑制する可能性を示唆する。脳転移既往なし集団では、両群ともにTTI中央値は未到達であった (HR 0.99, 95% CI: 0.50-1.97, p=0.9803) (Fig. 2B)。ランドマーク解析における新規脳病変非発生確率は、脳転移既往あり患者のアテゾリズマブ群で、ドセタキセル群と比較して全ての時点 (6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月) で高かった (Table 3B)。例えば、24ヶ月時点での新規脳病変非発生確率は、アテゾリズマブ群で76.6% (95% CI: 62.0-91.3) であったのに対し、ドセタキセル群では0% (95% CI: 0-NE) であった。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (AEs)、重篤な有害事象 (SAEs)、および治療関連神経系AEsの発生頻度は、脳転移既往の有無にかかわらず、アテゾリズマブ群でドセタキセル群よりも少なかった (Table 2)。脳転移既往ありサブグループにおける治療関連神経系AEsの発生率は、アテゾリズマブ群で11例 (18.3%)、ドセタキセル群で15例 (27.3%) であった。Grade ≥ 3の治療関連神経系AEは、アテゾリズマブ群で3例 (5.0%) (めまい、頭痛、意識レベル低下)、ドセタキセル群で1例 (1.8%) (末梢神経障害) であった。治療関連のGrade 4または5の神経系AEは、いずれの治療群でも認められなかった。最も一般的な治療関連神経系AEは、アテゾリズマブ群では頭痛、ドセタキセル群では末梢神経障害であった。放射線壊死の発生率は正式には追跡されなかったが、アテゾリズマブ治療を受けた脳転移既往患者において、臨床的に懸念されるシナリオや病理学的に証明された放射線壊死の症例は認められなかった。

アテゾリズマブの曝露量と治療継続: 脳転移既往ありのアテゾリズマブ群患者は、中央値で2.89ヶ月 (範囲: 0-30.8ヶ月) の治療を受け、中央値で5.0回の投与を受けた。脳転移既往なしの患者では、中央値で3.53ヶ月 (範囲: 0-32.0ヶ月) の治療を受け、中央値で6.0回の投与を受けた。病勢進行後のアテゾリズマブ継続治療は、脳転移既往の有無にかかわらず、ほぼ同程度の割合で実施された (脳転移既往あり群で56.9% [29/51]、脳転移既往なし群で49.5% [139/281])。

考察/結論

本探索的サブ解析は、第III相OAK試験において、既治療の無症候性脳転移既往を有する進行NSCLC患者に対するアテゾリズマブの有効性と安全性を評価した、これまでで最も詳細な解析である。本研究は、この患者集団においてアテゾリズマブがドセタキセルと比較してOS延長傾向 (HR 0.74, 95% CI: 0.49-1.13) を示し、新規症候性CNS病変の発生を抑制する可能性を明らかにした。脳転移既往のない患者集団で観察されたOS効果 (HR 0.74, 95% CI: 0.63-0.88, p=0.0007) と実質的に同等のハザード比が得られたことは、既治療脳転移患者へのICI適応の妥当性を強く支持する。

新規性: 本研究で初めて、大規模なランダム化第III相試験のサブ解析として、既治療の無症候性脳転移を有するNSCLC患者におけるアテゾリズマブの有効性と安全性を詳細に評価した。特に、新規症候性脳病変の放射線学的同定までの期間がアテゾリズマブ群で有意に延長したことは (HR 0.38, 95% CI: 0.16-0.91, p=0.0239)、全身免疫賦活が中枢神経系病変にも波及し、脳転移の進展または新規発生を抑制する可能性を示唆する新規の知見である。これは、免疫チェックポイント阻害薬が脳転移の治療だけでなく、予防的効果も持ちうるという仮説を支持する。

先行研究との違い: 従来の臨床試験では、脳転移患者は安全性懸念から除外されることが多かったが、本研究はこのような患者集団におけるICIの有効性を示した点で、これまでの報告と異なる。例えば、ニボルマブに関する統合解析では、既治療CNS転移患者におけるOSはドセタキセルと同程度であったと報告されているが (Goldman et al. J Clin Oncol 2016)、本研究ではアテゾリズマブがOS延長傾向と新規脳病変抑制を示した。また、アテゾリズマブの神経学的安全性プロファイルは許容可能であり、治療関連のGrade 4-5神経系AEは認められなかった点は、ICIが脳転移患者に対しても安全に投与可能であることを示唆する。

臨床応用: 本知見は、既治療の無症候性脳転移を有する進行NSCLC患者に対するアテゾリズマブの臨床応用を支持する重要なエビデンスを提供する。これまで治療選択肢が限られていたこの患者集団において、アテゾリズマブが有効な治療選択肢となりうることを示唆する。新規症候性脳病変の発生抑制効果は、患者の神経学的症状の悪化を防ぎ、生活の質の維持に貢献する可能性があり、臨床的意義は大きい。

残された課題: 本研究は探索的かつ事後解析であるため、統計的有意性を主張することはできないというlimitationがある。また、ベースライン後の脳スキャンは症状に基づいて実施されたため、フォローアップ頻度が不均一であった可能性があり、新規症候性脳病変の同定までの期間の評価に影響を与えた可能性がある。未治療または症候性脳転移を有する患者におけるアテゾリズマブの安全性と有効性は未検証であり、今後の前向き試験での検討が残された課題である。さらに、血液脳関門を越えるICIの薬力学的根拠や、ステロイド併用患者における免疫療法効果減弱の影響、アテゾリズマブと放射線治療の最適な併用戦略なども今後の研究課題として挙げられる。脳転移病変からの分子解析 (腫瘍変異負荷、PD-L1発現など) のデータが不足している点も、今後の研究で補完すべき点である。本研究は、OAK試験の結果を既治療脳転移患者にも拡張する重要なエビデンスであり、Atezo-BrainやCheckMate-012などの前向き試験の補完データとして位置付けられる。

方法

OAK試験 (NCT02008227) は、既治療の進行NSCLC患者 (1~2ライン以降の治療歴を有する) を対象とした、オープンラベル、無作為化、国際共同第III相試験である。患者はアテゾリズマブ1200 mgを3週間ごとに静脈内投与する群、またはドセタキセル75 mg/m²を3週間ごとに静脈内投与する群に1:1で無作為に割り付けられた。治療は許容できない毒性、病勢進行、またはアテゾリズマブの臨床的ベネフィットの消失まで継続された。

本探索的解析では、OAK試験の主要解析集団である最初の850名の無作為化患者が対象とされた。ベースライン時点での脳転移の定義は、当初のプロトコルにおける「ベースライン時の転移部位」に加え、脳放射線治療歴の有無も考慮して拡張された。これにより、既治療の無症候性脳転移既往を有する患者 (アテゾリズマブ群 n=61, ドセタキセル群 n=62) と、脳転移既往のない患者 (アテゾリズマブ群 n=364, ドセタキセル群 n=363) の2つのサブグループが特定された。適格基準として、中枢神経系外に測定可能な病変が存在すること、無症候性のテント上転移のみが許容されること (テント下、脊髄、軟髄膜病変は不可)、頭蓋内出血の既往がないこと、ステロイドの継続的な使用がないことなどが含まれた。スクリーニングスキャンで新規の無症候性CNS転移が検出された患者は、放射線治療または手術を受けている必要があった。

主要評価項目はOS (intention-to-treat [ITT] 集団およびPD-L1発現別層別) であった。副次評価項目はPFS、ORR、新規症候性脳病変の放射線学的同定までの期間 (TTI to new symptomatic CNS lesions)、および神経系有害事象 (AEs) であった。OSおよびTTI to new symptomatic CNS lesionsのイベント発生までの期間の差は、非層別ログランク検定を用いて比較された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は、層別化Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。治療効果の一貫性は、相互作用検定によって評価された。

患者は登録前に脳スキャンを受けたが、登録後のフォローアップスキャンは臨床的に必要と判断された場合にのみ実施された。既存の治療済み脳転移病変は非標的病変として分類されたため、頭蓋内病変の奏効および進行はRECIST v1.1基準では評価されなかった。ベースライン脳転移の評価は、肺がん病歴の症例報告書 (CRF) の「ベースライン時の転移部位」と、腫瘍評価 (スクリーニング) CRF のRECIST v1.1ベースライン病変に基づき行われた。本解析の追加患者は、過去のがん放射線治療CRFにおける脳放射線治療歴の記載によって特定された。有害事象 (AEs) はNational Cancer InstituteのCommon Terminology Criteria for Adverse Events version 4.0を用いてグレード分類された。本解析はすべて探索的かつ事後解析であり、脳転移の有無による層別化は行われなかった。