• 著者: ZhongBin Deng, Ziqiang Cheng, Xiaoyu Xiang, Jun Yan, Xiaoying Zhuang, Cunren Liu, Hong Jiang, Songwen Ju, Lifeng Zhang, William Grizzle, James Mobley, Jesse Roman, Donald Miller, Huang-Ge Zhang
  • Corresponding author: Huang-Ge Zhang (Brown Cancer Center, University of Louisville, KY)
  • 雑誌: The American Journal of Pathology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2011-11-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22067905

背景

エクソソームは、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を担う小胞であり、タンパク質、mRNA、miRNAなどを近隣細胞や遠隔細胞に輸送することで、免疫機能、血管新生、細胞増殖、腫瘍細胞浸潤などを調節することが知られている Thery et al. NatRevImmunol 2009。悪性細胞から放出されるエクソソームは、血管新生、細胞増殖、腫瘍細胞浸潤、免疫回避を促進する可能性が複数の研究で示唆されている。しかし、これまでの研究の多くは、in vitroで培養された細胞から分離されたエクソソームに焦点を当てており、生体内の腫瘍微小環境 (TME) において、エクソソーム産生細胞が周囲の細胞と相互作用する状況下で放出されるエクソソームの実際の機能や特性については、十分に解明されていない点が課題として残されている。

TMEは、腫瘍細胞だけでなく、CD25+制御性T細胞 (Treg) やGr-1+骨髄由来抑制細胞 (MDSC)、内皮細胞、線維芽細胞など、様々な宿主由来細胞で構成される複雑で動的な環境である。これらの細胞は、慢性炎症を介して腫瘍の発生と進行に寄与することが臨床的および実験的研究で確立されている CancerRes et al. Basic 2026Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009。しかし、腫瘍促進的な白血球の細胞および分子経路は、抗腫瘍免疫とは対照的に、まだ完全に理解されているとは言えない。特に、これらの免疫細胞が腫瘍エクソソームの組成や機能にどのように影響を及ぼすかについては、知識ギャップが残されている。

フィブロネクチン (FN) は、腫瘍細胞の増殖と生存を制御する細胞外マトリックス分子である。FNシグナル伝達はインテグリンを介して行われ、最終的に細胞の形状、移動、増殖に対する細胞応答を決定する。いくつかのFN受容体 (インテグリン) はFNに結合して細胞を接着させ、その後、非受容体型チロシンキナーゼであるFAK (focal adhesion kinase) とSrcを活性化する。これらは、癌細胞の増殖と浸潤を促進することで腫瘍形成において重要な役割を果たすことが知られている AmJPathol et al. Basic 2012。しかし、エクソソームとFNの関連性、特にTMEにおける免疫細胞との相互作用がエクソソームのFN含有量や機能にどのように影響するかについては、これまで報告された研究が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、腫瘍組織に浸潤した白血球 (TAL) と腫瘍細胞とのクロストークが、腫瘍エクソソームへのフィブロネクチン (FN) の取り込み (Exo^FN+) を誘導するかどうかを検証することである。TALはtumor-associated leukocytesの略語である。さらに、Exo^FN+を吸収したレシピエント腫瘍細胞において、FAK/Srcシグナル経路の活性化、炎症性サイトカインおよびマトリックスメタロプロテイナーゼ-9 (MMP-9) の産生、in vitroでの浸潤能、およびin vivoでの転移能にどのような影響を与えるかを詳細に評価することを目的とした。具体的には、TALとの共培養がエクソソームのFN含有量を増加させるか、その誘導がTALの特定のサブセット (CD25+細胞およびGr-1+細胞) に依存するか、そしてExo^FN+が腫瘍細胞のFAK/Srcシグナル伝達、MMP-9産生、浸潤、および肺転移を促進するかどうかを明らかにすることを目指した。

結果

腫瘍組織由来エクソソームにおけるFNの含有: in vitroで培養した4T1細胞から分離されたエクソソームにはFNが検出されなかったが、ex vivoで培養した4T1腫瘍細胞 (腫瘍組織由来細胞) から分離されたエクソソームでは、ウェスタンブロット解析およびLC-MS/MS解析によりFNの存在が確認された (Table 2)。LC-MS/MS解析では、FN EDAを含む22種類のユニークなタンパク質が同定された。同様に、AT-3乳癌モデルおよびCT26結腸癌モデルにおいても、ex vivo由来エクソソームにFNが確認されたが、in vitro由来エクソソームでは陰性であった。特に、4T1エクソソームの表面FN発現はフローサイトメトリー解析で30.2%と、AT-3エクソソームの6.2%と比較して有意に高かった (Fig. 2C, p<0.001)。これは、4T1エクソソームが最も強力なFN提示能を持つことを示唆する。この結果は、腫瘍微小環境がエクソソームの組成に影響を与えることを明確に示している。

Exo^FN+による腫瘍細胞浸潤の促進: ex vivo培養4T1細胞由来エクソソームで前処理した4T1腫瘍細胞は、in vitro培養エクソソームで前処理した細胞と比較して、in vitro Matrigel浸潤アッセイにおいて有意な浸潤能の増加を示した (Fig. 3A)。CT26およびAT-3由来のex vivoエクソソームでは、このアッセイにおける浸潤増加は限定的であった。FN siRNAを用いて4T1細胞のFN発現をノックダウンすると、エクソソーム中のFN量が減少し、それに伴い腫瘍細胞の浸潤が抑制された (Fig. 3B)。このFNノックダウン群では、コントロールと比較して浸潤細胞数が約40%減少した。さらに、ex vivo培養4T1細胞由来エクソソームを抗β1インテグリン中和抗体で前処理すると、4T1腫瘍細胞の浸潤が減弱した (Fig. 3C)。これは、エクソソーム表面のFNがβ1インテグリンを介して腫瘍細胞の浸潤を促進することを示唆する。補足データでは、FNノックダウンがFAKおよびSrcの活性化も減少させることが示された。

TALとの相互作用によるExo^FN+の誘導: 4T1腫瘍細胞を腫瘍組織由来のTALと共培養すると、エクソソーム中のFN量が用量依存的に増加した (共培養比率1:0.5、1:0.25、1:0.125)。一方、ナイーブBALB/cマウスの末梢血白血球 (PBL) との共培養ではFNの誘導は認められなかった (Fig. 4A)。この結果は、エクソソームへのFN誘導が腫瘍組織由来の白血球に特異的であることを示している。共培養比率1:0.5のTAL共培養群では、FN発現がコントロールの約2.5-fold増加した。

CD25+およびGr-1+細胞の協調的寄与: TALからCD25+細胞とGr-1+細胞の両方を枯渇させると (抗CD25抗体と抗Gr-1抗体による処理)、エクソソーム中のFN量が有意に減少した (Fig. 4B)。しかし、いずれかの細胞サブセットを単独で枯渇させた場合には、エクソソームFNに有意な影響は認められなかった (データは示されていない)。このFNの減少は、IL-6、MMP-9、VEGF、IL-1αなどの炎症性サイトカインおよびMMP-9のmRNA発現の減少 (Fig. 4C)、ならびにFAKおよびSrcキナーゼの活性化の低下 (Fig. 4D) を引き起こした。これらの遺伝子およびキナーゼはFNを介したシグナル経路によって調節され、腫瘍転移に寄与することが知られている。両細胞を枯渇させた群では、MMP-9 mRNA発現がコントロールの約0.4-foldに低下した (p<0.01)。

Exo^FN+によるin vivo肺転移の促進: 4T1-Luc細胞を静脈内注射したBALB/cマウス (n=5 mice/群) を用いた肺転移モデルにおいて、TALと共培養したエクソソームで前処理した細胞は、肺転移を増加させた。エクソソームを抗FN EDA抗体で前中和すると、肺転移が有意に減少した (IgG対照と比較、Fig. 5、10日目のイメージング)。抗FN EDA抗体処理群では、ルシフェラーゼ活性が約30%減少した (p<0.05)。さらに、CD25+およびGr-1+細胞を枯渇させたTAL由来のエクソソームで前処理した細胞では、肺転移がさらに減少した。この結果は、エクソソーム表面のFNとは独立したメカニズムでCD25+およびGr-1+細胞が転移に寄与する可能性を示唆している。対照として用いたSP6-28Z CARエクソソーム群は、HBSS群と同等の転移レベルを示した。これらのデータは、4T1エクソソーム上のFNを中和することで、腫瘍エクソソームが媒介する腫瘍転移の促進が部分的に逆転することを示しており、さらに、CD25+およびGr-1+白血球との共培養によって誘導される他のエクソソームタンパク質や内部のFNも、腫瘍エクソソームが媒介する腫瘍転移の促進に寄与する可能性があることを示唆している。

考察/結論

エクソソーム研究における主要な課題の一つは、多くの研究がin vitro由来のエクソソームに基づいており、これらがin vivoの微小環境から得られるエクソソームとは異なる挙動を示す点である。本研究では、腫瘍組織から分離した白血球と共培養した腫瘍細胞由来のエクソソームを用いることで、in vivoの生理学的・病理生理学的特性をより忠実に再現するモデルを確立した。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍関連CD25+T細胞とGr-1+骨髄由来抑制細胞の協調的な機能が、腫瘍エクソソームへのフィブロネクチン (FN) の取り込みを誘導するために必要であることを実証した。このExo^FN+は、レシピエント腫瘍細胞においてFAK/Srcシグナル経路を活性化し、MMP-9や炎症性サイトカインの産生を増強することで、in vitroでの腫瘍細胞浸潤およびin vivoでの肺転移を促進する。これは、腫瘍微小環境における免疫細胞と腫瘍エクソソームの相互作用が、腫瘍の進行と転移に重要な役割を果たすという新規のメカニズムを明らかにしたものである。

先行研究との違い: これまでの研究の多くがin vitro培養細胞由来のエクソソームに焦点を当てていたのと異なり、本研究は腫瘍微小環境における免疫細胞とのクロストークがエクソソームのカーゴに与える影響を直接的に評価した点で画期的である。特に、FNがエクソソーム表面に提示されるという発見は、過去の文献で「可溶性FN」とされてきたものが、実際にはエクソソームに結合したFN EDAを指す可能性を示唆しており、FNの生物学的役割の再解釈を促すものである。

残された課題: 本研究の限界として、BALB/cマウス同系4T1モデルを用いた点が挙げられる。ヒトTMEにおける同様のメカニズムの検証や、FNがエクソソームにソーティングされる分子メカニズム (mRNAからエクソソームへの経路) は未解明である。また、抗FN抗体による中和が部分的な転移抑制に留まったことから、エクソソーム内部のFNや、TGF-βなどの共封入された免疫抑制分子も転移促進に寄与している可能性があり、これらの役割の解明が今後の課題である。エクソソーム上のタンパク質がレシピエント細胞の細胞内コンパートメントを介さずに直接作用するのか、あるいは内部のタンパク質が放出されてから作用するのかといった、タンパク質のソーティングおよび作用メカニズムのさらなる調査が必要である。さらに、腫瘍細胞と間質細胞や内皮細胞といった他の細胞とのクロストークが、腫瘍エクソソームのタンパク質ソーティングに影響を与えるかどうかも今後の検討課題である。

臨床応用: 本研究の知見は、腫瘍関連白血球-エクソソーム軸を標的とした新たな治療戦略開発に重要な臨床的意義を持つ。特に、エクソソームFNの機能阻害 (例: FN中和抗体) や、Treg/MDSCの枯渇は、腫瘍転移を抑制する可能性を秘めている。このアプローチは、複数の免疫抑制分子を同時に標的とするエクソソームのユニークな特性を活用することで、単一分子を標的とする治療よりも効果的な転移抑制効果をもたらす可能性がある。

方法

腫瘍モデルとTALの分離: BALB/c雌マウスの側腹部に4T1乳癌細胞 (1.2×10^5 cells) を皮下注射し、15日後に腫瘍組織を摘出した。摘出した腫瘍組織は、1 mg/mLコラゲナーゼIと0.05 mg/mL DNaseで消化した後、Percollグラジエント遠心分離 (90%/70% Percoll、2000×g、30分) によりTALを分離した。対照として、ナイーブBALB/cマウスの末梢血白血球 (PBL) を用いた。

共培養とエクソソームの収集: 4T1腫瘍細胞をTALまたはナイーブPBLと1日間共培養した。その後、白血球を除去し、接着した腫瘍細胞をさらに24時間培養してエクソソームを収集した。エクソソームはショ糖密度勾配遠心分離により精製し、BCAアッセイキットでタンパク質濃度を定量した。

エクソソーム処理と細胞浸潤アッセイ: 腫瘍細胞を10 μgのエクソソーム/1×10^6腫瘍細胞の濃度で30分間、37°Cで前処理した。細胞浸潤能は、8.0 μmポアサイズのトランスウェルチャンバー (Costar) を用いて評価した。上部チャンバーには5 mgのMatrigelをコーティングし、1×10^5個の細胞を播種して24時間培養した。メンブレンの下部に浸潤した細胞はDAPIで核染色し、蛍光顕微鏡下で5視野の核数をカウントして定量した。

in vivo転移モデル: 4T1-Luc細胞 (5×10^5個/マウス) をBALB/cマウスの尾静脈に静脈内注射した。エクソソーム前処理は、in vitro浸潤アッセイと同様に行った。注射後5日目と10日目に、IVIS-100カメラシステム (Xenogen) を用いて生物発光イメージングにより肺転移を評価した。ルシフェリン (2.2 mg) を腹腔内注射し、ピーク時の発光強度をLiving Imageソフトウェア (Xenogen) で定量した。

FN操作と白血球枯渇: FNの発現を抑制するため、FN siRNAを用いた。エクソソームのFN機能を阻害するため、抗FN EDA抗体 (1 μg/mgエクソソーム) を用いて前中和した。EDAはextra domain Aの略語である。TALからのCD25+細胞およびGr-1+細胞の枯渇は、抗CD25抗体 (PC-61) および抗Gr-1抗体を用いたMACSビーズ法により行った。

プロテオミクス解析: in vitro培養4T1細胞由来エクソソームとex vivo培養4T1細胞由来エクソソームのタンパク質プロファイルを比較するため、LC-MS/MS解析を実施した。SDS-PAGEで分離したタンパク質バンドを切り出し、トリプシン消化後、Agilent Technologies社のSpectrum Mill Proteomics Workbenchソフトウェアを用いてタンパク質を同定した。

フローサイトメトリー解析: エクソソーム表面のFN発現を評価するため、エクソソームをアルデヒド硫酸ラテックスビーズにコーティングし、抗マウスFN EDA抗体で染色後、BD Biosciences FACSCaliburで解析した。

リアルタイムPCRとウェスタンブロット解析: 4T1腫瘍細胞からRNAを抽出し、IL-6、MMP-9、VEGF、IL-1αのmRNA発現をリアルタイムPCRで定量した。エクソソームライセートおよび細胞ライセート中のFN、CD9、CD63、Tsg101、リン酸化FAK、FAK、リン酸化Src、Srcタンパク質の発現はウェスタンブロット解析で評価した。統計解析には、適切な統計手法 (例: Mann-Whitney U検定) を用いて群間比較を行った。