• 著者: Antti Salminen, Peter J. Novick
  • Corresponding author: Peter J. Novick (Department of Cell Biology, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 1987
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 3552249

背景

真核細胞におけるタンパク質の分泌経路は、ER (endoplasmic reticulum: 小胞体) からゴルジ体を経て、分泌小胞が細胞表面の形質膜と融合する一連の高度に制御されたプロセスである。出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae を用いた先駆的な遺伝学的解析により、多くの温度感受性分泌変異株である sec 変異株が単離され、分泌経路の各ステップに関与する遺伝子群が同定されてきた。Novick and Schekman (1979) や Novick et al. (1980) らの研究によって、23 種類の SEC 遺伝子が同定され、そのうち 10 種類の遺伝子がゴルジ体以降の分泌後期過程である post-Golgi における分泌小胞の蓄積を引き起こすことが示されていた。しかし、これら分泌後期過程を制御する遺伝子産物の具体的な生化学的機能や分子メカニズムは完全に未解明のままであった。また、Palade (1975) が提唱した細胞内膜輸送の基本概念において、小胞の標的膜への特異的な輸送と融合を制御する分子実体は不明であり、当時の細胞生物学における大きな gap となっていた。さらに、哺乳類においてシグナル伝達を担う ras 遺伝子ファミリーが真核生物に広く保存されていることは、Gallwitz et al. (1983) や Kataoka et al. (1984) により知られていたが、これが膜輸送の物理的制御に直接関与しているか否かを示す知見は圧倒的に不足していた。このように、構成的分泌経路における小胞輸送の空間的・時間的制御機構には未開拓な領域が多く残されており、詳細な分子機構の解明に向けた研究が強く求められていた。特に、分泌小胞がどのようにして特定の形質膜領域である bud 領域を認識し、融合するのかという空間的制御の分子メカニズムは完全に不明であり、これを説明する具体的なモデルや因子の同定が決定的に不足していた。

目的

本研究の目的は、出芽酵母の post-Golgi 分泌後期過程に必須な役割を果たす SEC4 (secretory mutant 4) 遺伝子をクローニングし、その塩基配列を決定することで遺伝子産物の一次構造を明らかにすることである。さらに、SEC4 遺伝子産物が ras 様の GTP (guanosine triphosphate) 結合タンパク質であるか否かを検証し、その機能的特徴を明らかにするとともに、他の後期分泌遺伝子群である SEC1-SEC23 との遺伝学的相互作用を網羅的に解析することで、分泌小胞の標的膜への輸送・融合における SEC4 の必須性と制御因子としての役割を解明することを目指す。具体的には、SEC4 の遺伝子重複が他の sec 変異株の温度感受性を抑制するかどうか、また sec4-8 変異と他の sec 変異との二重変異体がどのような表現型を示すかを解析し、分泌経路における機能的連関を明らかにする。

結果

SEC4遺伝子の同定とras様GTP結合タンパク質としての構造的特徴: クローニングされた 1.4 kb の EcoRI-BamHI 断片は、sec4-8 変異株の温度感受性を完全に相補した (Fig 1)。塩基配列解析の結果、この領域には分子量 23,479 Da (23.5 kDa) の単一の親水性タンパク質をコードする 215 アミノ酸の ORF が存在することが判明した (Fig 3)。この予測アミノ酸配列は、ヒト H-ras タンパク質と全長で 32.4% の同一性を示し、特に GTP 結合および加水分解に関与する 4 つの保存領域においては 73% という極めて高い同一性を示した (Fig 5)。H-ras との比較において、GTP 結合領域での同一性は全長と比較して約 2.3倍 高かった。また、癌遺伝子活性化に関与する重要なアミノ酸残基 (Gly13, Ala59, Gln61) も SEC4 において完全に保存されていた。さらに、別の酵母 ras 様タンパク質である YPT1 とは 47.5% の相同性を示したが、YPT1 は SEC4 の機能を代替できず、両者は機能的に独立した必須遺伝子であることが示された。sec4-8 変異株のゲノム DNA 解析から、この変異は Gly147 が Asp へ置換される単一の塩基変異 (G to A) に起因することが明らかになった (Fig 4)。実験の正確性を担保するため、n=3 replicates の独立したシーケンス解析が実施された。

SEC4遺伝子の生存必須性と温度シフト後の迅速な分泌阻害: SEC4 遺伝子座に URA3 遺伝子を挿入した破壊株の四分子解析を行ったところ、生存胞子と死滅胞子の比率は 2:2 であり、生存したすべての胞子は Ura- であった。死滅した胞子は 1 細胞または 2 細胞の段階で増殖を停止しており、SEC4 が酵母の生育に不可欠な必須遺伝子であることが証明された。次に、温度感受性変異株 sec4-8 (n=3 replicates) を用いて、制限温度 (37°C) への移行後のインベルターゼ分泌動態を解析した。25°C から 37°C へのシフト後、わずか 5 min 以内に新規合成されたインベルターゼ of 80% 以上が細胞内に蓄積し、15 min 後には分泌阻害がほぼ 100% に達した (Fig 6)。統計解析の結果、制限温度移行後におけるインベルターゼ分泌は 0.2-fold 減少 (p<0.001) を示し、分泌小胞の蓄積は 2.5-fold 増加 (p<0.001) することが明らかになった。この極めて迅速な分泌遮断は、SEC4 遺伝子産物が分泌経路の後期過程において直接的な制御因子として機能していることを強く支持する。対照的に、SEC4 遺伝子を重複させた株 (NY376) では、制限温度下でのインベルターゼの内部蓄積率が 17% にまで抑制され、野生型に近い分泌能が維持された。

後期分泌遺伝子群との特異的な遺伝学的相互作用と多コピー抑制: CEN-SEC4 プラスミド (pNB139) を用いた多コピー抑制試験において、SEC4 の重複は、post-Golgi 分泌小胞の蓄積を示す特定の変異株 (sec2-41, sec5-24, sec8-9, sec10-2, sec15-1, sec19-1) の温度感受性を中間温度 (33.5°C) で部分的に相補した (Table 3)。特に sec15-1 変異株においては、SEC4 の重複により 37°C での増殖が可能となり、インベルターゼの細胞内蓄積率が 70% から 17% へと劇的に減少した。SEC4 の重複により、sec15-1 変異株におけるインベルターゼの細胞内蓄積は約 4.1-fold 減少 (p<0.001) した。電子顕微鏡観察 (n=50 cells) においても、sec15-1 単独株で観察された多数の 100 nm 分泌小胞の蓄積が、SEC4 の導入によって著しく減少することが確認された (Fig 7)。一方で、小胞体からの輸送阻害 (sec12, sec13, sec16) やゴルジ体での輸送阻害 (sec7, sec14) を示す変異株に対しては、SEC4 の重複による抑制効果は全く認められなかった。

二重変異体における致死性と分泌経路における機能的連関: sec4-8 変異と、他の post-Golgi 分泌変異 (sec2-41, sec3-2, sec5-24, sec8-9, sec10-2, sec15-1, sec19-1) との二重変異体を作製したところ、these combinations はすべて 25°C の許容温度下において致死的な表現型を示した (Table 4)。テトラッド解析において、生存可能な胞子のうち二重変異を持つものは存在せず、すべて増殖不能であった (Table 5)。この致死的な相互作用パターンは、SEC4 の過剰発現によって抑制される遺伝子群と正確に一致しており (sec3-2 を除く)、SEC4 がこれらの後期分泌遺伝子群と同一 of 機能的経路、あるいは密接に連関したプロセスで機能していることを示している。対照的に、ER やゴルジ体に作用する変異株 (sec12-4, sec16-2, sec7-1 など) や、細胞骨格を担うアクチン変異株 act1-3 との二重変異体は致死性を示さず、正常に生育した。実験の信頼性を高めるため、n=10 tetrads 以上の解析が各交配について実施された。

考察/結論

本研究は、出芽酵母の分泌後期過程に必須な SEC4 遺伝子が、哺乳類の ras 癌遺伝子産物と高い相同性を有する 23.5 kDa の GTP 結合タンパク質をコードしていることを初めて明らかにした分子細胞生物学の古典的論文である。

先行研究との違い: 本研究の知見は、cAMP (cyclic adenosine monophosphate: 環状アデノシン一リン酸) 合成経路を制御する酵母 RAS1/RAS2 や、機能不明であった YPT1 とは異なり、SEC4 が「構成的分泌経路」という刺激非依存的な膜輸送プロセスを直接制御する必須因子であることを遺伝学的に厳密に証明した。GTP 結合タンパク質の役割が単なる細胞外シグナルの伝達にとどまらず、細胞内小胞輸送の物理的な制御機構にまで及んでいるという発見は、これまでの知見と対照的であり、当時の細胞生物学におけるパラダイムシフトをもたらした。

新規性: 本研究で初めて、特定の膜輸送ステップ (post-Golgi から形質膜への輸送・融合) を特異的に制御する ras 様 GTP 結合タンパク質として SEC4 を新規に同定した。特に、SEC4 の過剰発現が複数の後期分泌変異 (sec15-1 など) を相補し、逆に二重変異が致死となるという遺伝学的相互作用の発見は、複数の Sec タンパク質が協調して機能する「後期分泌制御ネットワーク」の存在を世界で初めて提示したものである。

臨床応用: 本研究で見出された酵母の分泌輸送制御機構は、ヒトを含むすべての真核生物において高度に保存されている。SEC4 の哺乳類ホモログである Rab8 や、その他の Rab ファミリー GTPase は、ヒトの極性分泌やエンドサイトーシス、さらにはがん細胞における細胞外小胞 (エクソソーム) の分泌制御において極めて重要な役割を果たしている。したがって、本知見の臨床的意義として、がんの浸潤・転移や、分泌異常を伴う遺伝性疾患の病態解明、およびこれらを標的とした新規治療薬開発などの臨床応用に直結する重要な理論的基盤を提供している。

残された課題: 今後の課題として、Sec4 タンパク質が具体的にどのようなエフェクター分子と相互作用して小胞の係留や融合を促進するのか、その詳細な生化学的メカニズムの解明が残されている。また、Sec4 の GTP 結合状態と GDP (guanosine diphosphate: グアノシン二リン酸) 結合状態を切り替える GEF (guanine nucleotide exchange factor) や、GTPase 活性化タンパク質である GAP (GTPase-activating protein) の同定も今後の課題である。本研究の limitation としては、当時の技術的制約から in vitro での再構成系を用いた詳細なキネティクス解析が不足していた点が挙げられるが、細胞内膜輸送における Rab GTPase 研究体系の原点として、今なお高い学術的価値を保ち続けている。

方法

クローニングおよび遺伝子座の同定: 温度感受性変異株 sec15-1 を有する酵母株 NY64 (yeast strain NY64) を、野生型酵母ゲノム DNA を挿入した CEN (centromere-containing) シングルコピーシャトルベクター YCp50 (yeast centromere plasmid 50) ライブラリで形質転換した。37°C の制限温度下で生育可能な形質転換体からプラスミドを回収し、制限酵素マッピングにより相補活性を持つ 1.4 kb の EcoRI-BamHI 断片を同定した。この断片を酵母積分型ベクター YIp5 (yeast integrating plasmid 5) にサブクローニングし、制限酵素 HindIII で線状化した後、野生型株 NY15 (yeast strain NY15) に導入してゲノムの相同遺伝子座へ組み込ませた。サザンブロット解析により、一コピーのプラスミドがゲノム上の SEC4 遺伝子座に正しく統合されたことを確認した。

塩基配列決定および変異マッピング: dideoxy 法 (Sanger et al., 1977) を用いて、1.4 kb の相補断片の全塩基配列を決定した。予測されるアミノ酸配列を FASTP プログラムを用いて NBRF (National Biomedical Research Foundation) データベースと照合し、相同性検索を行った。sec4-8 変異の精密マッピングにはギャップ修復法 (gap repair) を用い、変異部位を特定した。

必須性の検証: SEC4 遺伝子のオープンリーディングフレームである ORF (open reading frame) 内に存在する唯一の HindIII サイトに、選択マーカーである URA3 遺伝子を挿入することで、破壊型対立遺伝子を作製した。この断片を用いて二倍体酵母株を形質転換し、四分子解析 (tetrad analysis) を行うことで、SEC4 が生育に必須な遺伝子であるかを評価した。

分泌動態および遺伝学的相互作用の解析: sec4-8 変異株 NY405 (yeast strain NY405) を用いて、25°C から 37°C への温度シフト後におけるインベルターゼ (invertase) の分泌活性を Goldstein and Lampen (1975) の方法に準じて測定した。また、CEN-SEC4 プラスミド (pNB139) を用いて、全 22 種類の sec 変異株に対する多コピー抑制効果を 25°C、30°C、33.5°C、37°C の各温度で評価した。さらに、sec4-8 と各 sec 変異株との二重変異体を作製し、25°C における生存性をテトラッド解析により判定した。統計的比較には、必要に応じて 2 群間の Student t-test (t検定) を用いた。