• 著者: Alex H. Hutagalung, Peter J. Novick
  • Corresponding author: Peter J. Novick (Department of Cellular and Molecular Medicine, University of California, San Diego, La Jolla, CA; pnovick@ucsd.edu)
  • 雑誌: Physiological Reviews
  • 発行年: 2011
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 21248164

背景

真核細胞の細胞質は多数の膜結合オルガネラで満たされ、それらの間を膨大な積荷が小胞輸送によって往来するが、その精度と効率がどのように担保されるかは長年の研究課題であった。先行研究は積荷選択・小胞の出芽とスシジョン・コート (COPI/COPII/clathrin) の会合・細胞骨格に沿った輸送・テザリング複合体による標的膜認識・SNARE (soluble NSF attachment protein receptor) 介在性融合という各ステップの分子機構を個別に解明してきた。Sec4を post-Golgi 分泌に必須の ras 様タンパク質として同定した酵母遺伝学 (Salminen et al. Cell 1987)、Rab6 と Golgi 結合キネシンの相互作用 (Echard et al. Science 1998)、Rab11-FIP2 を介した myosin Vb リサイクリング (Hales et al. JBiolChem 2002) など、個々の Rab とエフェクターの対応は蓄積してきた。しかし、各オルガネラがどのように同一性を維持し、積荷が活発に交換されても輸送の方向性が失われない仕組みは依然として最も難解な問いとして手薄に残されていた。とりわけ、60種を超える Rab が互いの担当経路を重複させずに棲み分ける制御回路の全体像には gap in knowledge があり、Rab 機能異常が感染症・がん・神経変性疾患へどう波及するかの統合的理解も不足していた。

目的

Rab GTPase ファミリーが小胞輸送のドナー膜での小胞形成から標的膜での融合まで事実上すべてのステップをどのように制御するかを、保存された立体構造・GTP/GDP 依存の分子スイッチ機構・調節因子 (GAP・GEF・GDI・REP) の構造基盤・エフェクタータンパク質を介した各機能・複数の Rab が連動する「Rab カスケード」機構・そして Rab 機能異常が引き起こす多様な疾患という観点から統合的に記述すること。さらに、細胞内寄生病原体が Rab 制御系をどう乗っ取って宿主防御を回避するかを整理し、オルガネラ同一性と輸送方向性を規定する分子原理を提示することを目的とする。

結果

Rab GTPaseの保存構造と分子スイッチ機構:ヒトには60種以上、酵母には11種の Rab が存在し、いずれも Ras スーパーファミリーに共通の GTPase フォールド (6本鎖 β-sheet を5本の α-helix が囲む) を持つ (Fig 1, Table 1)。GTP 結合 (活性型) と GDP 結合 (不活性型) でスイッチ I/II ドメインの構造が劇的に変化し、この変化がエフェクター結合の特異性を決定する。活性型 Rab 構造の重ね合わせはスイッチ領域と α3/β5 ループに最大の構造的多様性を示し、ここが異なる Rab ごとに固有のエフェクターセットを呼び込む分子的基盤となる。C 末端の約 35-40 残基からなる超可変領域 (hypervariable region) はオルガネラ標的化に寄与し、Rab5 の超可変領域を Rab7 のものに置換するとキメラが後期エンドソームに局在する。さらに F1-F5 モチーフ (Rab 共通) と SF1-SF4 モチーフ (サブファミリー保存) がエフェクター接触面を規定し、Rab3A-Rabphilin 共結晶では SF モチーフが実際の complementarity-determining region (complementarity-determining region, CDR) と一致した。

Rabサイクルを駆動するGDI/REP/RabGGTの構造基盤:新合成 Rab は REP (Rab escort protein) と結合して RabGGT (Rab geranylgeranyl transferase) に提示され、通常2本のゲラニルゲラニル鎖が C 末端に付加される (Fig 2)。膜上の GEF (guanine nucleotide exchange factor) が GTP を充填して活性化し、エフェクターが機能を発揮した後、GAP (GTPase activating protein) が GTP 加水分解を触媒して不活性化し、GDI (guanine nucleotide dissociation inhibitor) が GDP 型 Rab を膜から抽出してサイクルが反復する。REP と GDI の機能差は親和性で説明され、REP は未プレニル化 Rab7 に Kd = 0.22 nM、モノプレニル化体に Kd = 0.061 nM とより高親和に結合する一方、ジプレニル化体には Kd = 1.3 nM と低下する。GDI はプレニル化 Rab に対し未プレニル化体より約 1,000-fold 高い親和性を持ち、この差が疎水性プレニル尾を水環境から遮蔽して膜から Rab を引き抜く機構を説明する (膜挿入の逆反応には GDF (GDI dissociation factor) やシャペロン Hsp90 が必要と考えられる)。

エフェクターを介した積荷選択・小胞移動の制御:Rab エフェクターは積荷選択・小胞移動・脱コーティング・テザリング・融合の各ステップを制御する (Fig 3)。積荷選択では Rab9 がエフェクター TIP47 を介し M6PR (mannose-6-phosphate receptor) の後期エンドソームから TGN (trans-Golgi network) へのリサイクリングを促し、Rab5 と Rab7 の逐次作用が retromer 三量体 (Vps26-Vps29-Vps35) を動員して膜タンパク質回収を担う。小胞移動では Rab27a が melanophilin (Slac2-a) を介し myosin Va と三者複合体を形成してメラノソームを形質膜へ運び、この複合体構成因子 (Myo5a・Rab27a・melanophilin) の変異がそれぞれ Griscelli 症候群 GS1 (神経障害)・GS2 (免疫不全)・GS3 (白皮症のみ) を生じる。微小管モーターでは Rab6 が Bicaudal-D1/D2 経由で dynein-dynactin を Golgi 逆行輸送に、Rab7 が RILP (Rab-interacting lysosomal protein) 経由で同モーターを後期エンドソームに動員してリソソームへ輸送する (Table 1)。

Rab27とSlp/Slacエフェクター群による制御性分泌の制御:Rab27 は哺乳類で Rab27a と Rab27b の2アイソフォームを持ち、共通して11種を超える Slp (synaptotagmin-like protein) / Slac2 (synaptotagmin-like protein lacking C2 domains) ファミリーエフェクターを介してメラノソーム輸送・濃染顆粒放出・制御性開口分泌を担う (Fig 3)。Rab27a の機能喪失はヒト Griscelli 症候群 type 2 (免疫不全を伴う部分白皮症) を生じ、対応するマウス変異 ashen は myosin Va をコードする dilute 変異 (GS1) や melanophilin をコードする leaden 変異 (GS3) と表現型が重なる。分子レベルでは Rab27a が melanophilin (Slac2-a) の N 末端 Rab 結合ドメインと myosin Va の球状尾部に同時結合して三者複合体を組み、メラノソームを微小管依存の長距離輸送からアクチン依存の形質膜近傍捕捉へ受け渡すモーター切替を実現する。この Rab27-effector 序列はエクソソーム分泌で MVB (multivesicular body) を形質膜へドッキングさせる経路と同型であり、Rab27a/b 二重欠損細胞でエクソソーム放出が著減する後年の知見の構造的前提を与える (Table 1)。

テザリング複合体とSNARE融合の制御:8種のマルチサブユニットテザリング複合体 (TRAPP I/II・exocyst・COG (conserved oligomeric Golgi)・Dsl・HOPS (homotypic fusion and vacuole protein sorting)・CORVET (class C core vacuole/endosome tethering)・GARP/VFT) が異なる経路を担う。長いコイルドコイル型テザー Golgins (p115/Uso1・GM130・giantin) は Rab1 エフェクターとして COPII 小胞を cis-Golgi に繋ぎ、EEA1 (early endosome antigen 1) は Rab5 エフェクターとして FYVE ドメインで PI(3)P に結合し syntaxin 6 を介して初期エンドソームの均一融合を仲介する。exocyst (8量体) は Sec4 が Sec15 を介して動員し、Sec6-Sec9・Exo84-Sro7・Sec1 (SM タンパク質) との相互作用で開口分泌の SNARE 集合を制御する。注目すべきは exocyst・COG・GARP・Dsl の各サブユニット (Exo70・COG4・Vps53/54・Dsl1/Tip20) が配列相同性に乏しいにもかかわらず束ねた α-helix からなる棒状構造 (約 10-30 nm) で構造的に酷似し、いずれも直接 SNARE と相互作用する点で、テザリング複合体の進化的共通設計が浮かび上がったことである。脱コーティングでは Rab5 が μ2 キナーゼの排除と PI(4,5)P2 ターンオーバーの2機序で clathrin コート除去を促す。

Rabカスケードによる方向性付けと疾患・感染:オルガネラ間で膜が流れる際、上流 Rab が下流 Rab の GEF をリクルートし、下流 Rab が上流 Rab の GAP を動員する対向カスケードが方向性と不可逆性を保証する (Fig 4)。代表例として酵母 TGN の Ypt31/32 が Sec4 の GEF である Sec2 を動員し分泌小胞へ Sec4 を確立する経路、初期エンドソームの Rab5 が HOPS サブユニット Vps39 (Rab7 GEF) を介して Rab7 を活性化し、Rab5-Rab7 が一過性に共存する中間段階を経て後期エンドソームへ成熟する経路が挙げられる。哺乳類 COS7 細胞では42種の Rab が発現し、内分泌・分泌・Golgi 周辺輸送を担う Rab が高発現である。疾患関連では Rab25 が卵巣・乳がんで増幅・過剰発現し β1-integrin と結合して三次元浸潤を促進、Rab7 の点変異 (恒常的 GTP 結合・GTP 加水分解低下) が Charcot-Marie-Tooth 病 type 2B を、Rab3GAP 変異が Warburg Micro/Martsolf 症候群を、Rab23 変異が Carpenter 症候群を生じる。病原体では Salmonella の SifA が Rab7-RILP 動員を阻害して SCV (Salmonella-containing vacuole) を維持し、Legionella の SidM/DrrA が Rab1 を GDF/GEF 両活性で乗っ取り、さらにスイッチ II 領域の AMPylation (adenosine monophosphorylation) で host エフェクター MICAL-3 との相互作用を遮断して LCV (Legionella-containing vacuole) を Golgi 由来輸送と融合させる。

考察/結論

本レビューはヒト細胞の膜輸送の「マスターレギュレーター」としての Rab GTPase を構造・機構・疾患の三軸で統合した標準的参照総説である。先行研究が個々の Rab とエフェクターの対応を断片的に記述してきたのと対照的に、本論文は Rab 変換 (Rab conversion) を貫く GEF/GAP 対向カスケードという共通原理を前面に置き、オルガネラ同一性と輸送方向性の分子的根拠を提示した点に新規な視座がある。テザリング複合体 (exocyst・COG・GARP・Dsl) が配列相同性に乏しいにもかかわらず棒状 α-helix 構造を共有するという構造生物学的収斂は、これまで報告されていない novel な共通設計として膜融合制御の統一理解を促す。EV (extracellular vesicle) 研究との関連では、Rab27A (エクソソーム分泌制御;MVB (multivesicular body) の形質膜輸送とドッキング)・Rab11 (リサイクリングエンドソーム経由の MVB 形成)・Rab7 (後期エンドソーム/MVB 成熟)・Rab5 (初期エンドソーム融合) の機能序列がエクソソームバイオジェネシスの分子基盤を構成し、本レビューの Rab カスケード原理の自然な延長として理解できる。臨床的意義としては、引用された卵巣・乳がんコホートで Rab25 高発現が Kaplan-Meier 生存解析により無増悪生存・全生存の短縮と相関し、ビスフォスフォネートによる Rab プレニル化阻害ががん細胞アポトーシスを誘導する点で、Rab 制御系は bench-to-bedside の創薬標的となりうる。残された課題は多く、42種が発現する哺乳類細胞で機能未解明の Rab が大半を占め、それらが既知 Rab と冗長か独自機能を獲得したか、組織特異的役割を持つかは未決である。GDF が Rab 変換に果たす役割、各経路が固有の GDF を持つか共有するかも今後の検討を要する。単独および組み合わせノックアウト/ノックダウンと in vitro 再構成アッセイによる各 Rab の機能解明が future research の中心であり、Rab27a/b 二重欠損でのエクソソーム分泌激減や Rab5-Rab7 均衡が MVB のリソソーム分解 vs 分泌ソーティングを決める概念は、本論文以後に蓄積した重要な発展である。

方法

本論文は Physiological Reviews 誌の招待 narrative review であり、新規実験データを伴わない。著者らは PubMed を中心とする文献データベースから収集した約 497 報の一次文献 (酵母遺伝学・哺乳類細胞生物学・生化学・構造生物学) を統合し、Rab ファミリーの構造・機能・疾患関連を体系化している。証拠基盤の中核は X-ray crystallography (X-ray crystallography) による構造データであり、活性型 (GTP 結合) または不活性型 (GDP 結合) の少なくとも 16 種類の異なる Rab タンパク質の結晶構造、ならびに GDI/REP・Gyp1 (GAP)・Sec2/Rabex5/Mss4/TRAPP (GEF) など調節因子との共結晶構造が解析の主軸となる。機能的根拠としては、酵母 (Saccharomyces cerevisiae) の温度感受性変異体 (Sec4・Ypt1 等)・哺乳類培養細胞 (HeLa・COS7) の過剰発現/ノックダウン・ライブイメージングによる Rab conversion の可視化・マウス変異体 (gunmetal・dilute・leaden・ashen・open brain・wobbler) の表現型解析・ヒト遺伝性疾患の連鎖解析が引用される。結合親和性は表面プラズモン共鳴等で測定された解離定数 (Kd, dissociation constant) として定量的に比較され、本レビューはこれら異種の証拠を横断統合する点に方法論的特徴がある。