- 著者: Dara P. Dowlatshahi, Virginie Sandrin, Sandro Vivona, Thomas A. Shaler, Stephen E. Kaiser, Francesco Melandri, Wesley I. Sundquist, Ron R. Kopito
- Corresponding author: Ron R. Kopito (Department of Biology, Stanford University, Stanford, CA, USA)
- 雑誌: Developmental Cell
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-11-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 23201121
背景
ユビキチン (Ub) は高度に保存された 76 アミノ酸のタンパク質であり、標的タンパク質への結合様式 (モノユビキチン化、または 7 種のリジン残基 K6, K11, K27, K29, K33, K48, K63 や N 末端を介したポリユビキチン鎖形成) によって、多様な細胞内シグナルを伝達する。この「ユビキチンコード」は、特定の UBD (ubiquitin-binding domain: ユビキチン結合ドメイン) を持つ受容体タンパク質によって認識され、解読される。先行研究において、K48 結合型ポリユビキチン鎖は主にプロテアソームによるタンパク質分解を誘導するのに対し、K63 結合型ポリユビキチン鎖はエンドソームにおける膜タンパク質のソーティング、DNA 修復、およびシグナル伝達など、非分解型の経路を制御することが知られている。
エンドソーム膜の変形や分裂を司る ESCRT (endosomal sorting complexes required for transport: エンドソーム輸送修飾複合体) 経路は、MVB (multivesicular body: マルチベシキュラーボディ) の形成、細胞分裂 (細胞質分裂)、およびレトロウイルスの出芽など、トポロジー的に同一の膜分裂プロセスにおいて必須の役割を果たす。ESCRT 経路の重要な構成因子である ALIX (ALG-2-interacting protein 1) は、N 末端の Bro1 (BCY1-regulatory protein 1-like) ドメイン、中央の V ドメイン、および C 末端の PRR (proline-rich region: プロリンリッチ領域) の 3 つの機能ドメインから構成される。ALIX は、ESCRT-III の構成成分である CHMP4 (charged multivesicular body protein 4: 荷電マルチベシキュラーボディタンパク質4) と結合するほか、レトロウイルスの Gag タンパク質が持つ YPXnL (Tyr-Pro-X-Asn-Leu) モチーフと直接結合することが報告されている。さらに、近年では Baietti et al. NatCellBiol 2012 などの先行研究により、ALIX がシンデカン-シンテニン-ALIX 複合体を介して細胞外小胞 (エクソソーム) のバイオジェネシスを制御していることが示されている。
しかしながら、ESCRT 経路が K63 連結型ユビキチン鎖に依存して機能するという状況証拠は存在するものの、ALIX 自身が直接ユビキチンを認識する能力を持つかどうか、またその結合がどのような分子基盤に基づいているのかは未解明のままであった。既報のレトロウイルス出芽における研究である Strack et al. (2003) では、ユビキチン化がウイルスの放出に重要であることが示唆されていたが、ALIX によるユビキチン認識がどのように機能しているのかを直接的に証明した生化学的・機能的データは不足しており、この分子メカニズムの解明には大きな gap が残されていた。また、Joshi et al. (2008) などの先行研究では、モノユビキチンが ALIX を捕捉できることが報告されていたが、結合の直接性や連結様式の選択性は不明であった。このように、ALIX によるユビキチン認識の直接的な分子メカニズムやその機能的意義については、依然として多くの課題が残されており、生化学的な解析が不足していた。
目的
本研究の目的は、K63 結合型ポリユビキチン鎖に対する親和性捕捉法と質量分析法を組み合わせたスクリーニングにより、ALIX が新規のユビキチン結合タンパク質であるかどうかを検証することである。さらに、ALIX の V ドメインにおけるユビキチン結合の直接性、ポリユビキチン鎖長に対する依存性、および K63 結合型に対する選択性の分子基盤を、生化学的および生物物理学的手法を用いて詳細に解析する。具体的には、NEMO (NF-kappa-B essential modulator: NF-κB必須モジュレーター) の UBAN (ubiquitin binding in ABIN and NEMO: ABINおよびNEMOにおけるユビキチン結合ドメイン) ドメインとの配列アラインメントから、ALIX V ドメイン内のユビキチン結合部位 (アミノ酸残基) を同定し、その変異体を作製する。最終的に、これらのユビキチン結合能を欠失させた ALIX 変異体を用いて、HIV-1 (human immunodeficiency virus type 1: ヒト免疫不全ウイルス1型) や EIAV (equine infectious anemia virus: 馬伝染性貧血ウイルス) などのレトロウイルス出芽 (バドリング) プロセスにおける ALIX-ユビキチン相互作用の機能的な必要性を、細胞生物学的なウイルス放出アッセイおよび感染性測定を通じて実証することを目的とする。
結果
K63ポリユビキチン鎖に対する直接的かつ特異的な結合の同定: HEK293 細胞ライセートを用いた K63 ポリユビキチン化タンパク質 (P16-Ubn) 親和性捕捉スクリーニングにより、合計 87 個のタンパク質が同定された。この中には、既知のユビキチン結合タンパク質 10 個 (RAD23, RPN10, HRS, TSG101, EPS15 など) が含まれており、スクリーニング系の妥当性が確認された。同定された候補の中で、ESCRT 経路の構成因子である ALIX が最も豊富に検出された。哺乳類細胞で発現させた Strep タグ付き野生型 ALIX (Strep-WT) および C 末端の自己阻害領域を欠失させた変異体 (StrepΔPRR) は、いずれも固定化 P16-Ubn に特異的に結合し、非ユビキチン化 P16 には結合しなかった (Figure 1B)。さらに、大腸菌から精製した組換え His6-ALIX V ドメイン (ALIXV、アミノ酸残基 360-702) 単独でも固定化 P16-Ubn に直接結合することが示された (Figure 1C)。また、インビトロでオートユビキチン化させた GST-Rsp5 (GST-Rsp5-Ubn) を用いたプルダウンアッセイにおいても、ALIXV は直接結合を示し、この結合は脱ユビキチン化酵素 Usp2cc による処理によって完全に消失した。これらの結果から、ALIX は V ドメインを介して K63 ポリユビキチン鎖に直接結合することが実証された。この実験は n=3 replicates の独立した試行で再現性が確認された。
K63連結様式に対する約8倍の選択性と鎖長依存性の解明: 次に、ALIXV のユビキチン連結様式に対する選択性を評価するため、K48、K63、直鎖型のテトラユビキチン (Ub4) 混合物を用いた Ub AQUA 質量分析による競合結合アッセイを実施した。その結果、ビオチン標識 ALIXV は、K48 Ub4 および直鎖型 Ub4 と比較して、約 8-fold 多い量の K63 Ub4 を特異的に結合することが明らかになった (n=3 replicates、mean ± SD、Figure 2A)。これに対し、コントロールの TUBE UBA は 3 種の連結様式をほぼ同等に結合した。SPR バイオセンサーを用いた平衡結合解析においても、K63 Ub4 に対する結合応答は、同濃度の K48 Ub4 や直鎖型 Ub4 よりも一貫して高値を示した (Figure 2D)。さらに、K63 連結型ユビキチンの鎖長依存性を解析したところ、ALIXV はモノユビキチン (Ub1) からテトラユビキチン (Ub4) までのすべてに結合したが、分子量で補正した平衡結合応答を比較すると、K63 Ub4 ≫ K63 Ub3 > K63 Ub2 の順であり、4つ以上のユビキチン分子が連結した K63 ポリユビキチン鎖に対して極めて高い親和性を持つことが示された。この結合の解離定数は、モノユビキチンに対しては極めて弱く、推定 IC50 50 nM 以上の高濃度領域でのみ相互作用が検出された。
UBAN類似の2つのGluトライアドによるK63結合の媒介: ALIX V ドメインの配列解析から、NEMO UBAN ドメインのユビキチン結合部位と類似した parallel dimeric coiled-coil 構造上の α14 ヘリックスに、2 つのグルタミン酸リッチなトライアド (QEE: Q435/E439/E442、および ERE: E453/R456/E460) が同定された。これらのアミノ酸残基をアラニンに置換した変異体を作製し、P16-Ubn に対する結合能を定量した。野生型 ALIXV の結合量を 1.0 としたとき、単独のトライアド変異体 (QEE3A または ERE3A) では結合比が 0.24-fold に著明に低下し、両方のトライアドを置換した 6A 変異体では 0.09-fold と、ほぼバックグラウンドレベルまで結合が消失した (n=3 replicates、mean ± SD、Figure 3D)。SPR 解析においても、ALIXV 6A 変異体は K63 Ub4 に対する結合応答が著しく低下していることが確認された (Figure 3F)。CD スペクトル測定により、6A 変異体は野生型と同等のヘリックス構造と熱安定性を保持していることが確認され、変異による構造破壊の可能性は除外された。また、2つのトライアド間に位置する RE 残基 (R446/E449) のアラニン置換でも結合能が著しく低下したことから、α14 ヘリックス全体の酸性アミノ酸領域が K63 ユビキチン認識に寄与していることが示された。
K63ユビキチン結合能の欠失によるHIV-1 ΔPTAPウイルス放出効率の半減: ALIX のユビキチン結合能がレトロウイルスの出芽に果たす役割を検証するため、PTAP モチーフを欠損し ALIX 依存的に出芽する HIV-1 ΔPTAP システムを用いて救済実験を行った。野生型 ALIX の過発現は、HIV-1 ΔPTAP のウイルス放出 (CA および MA タンパク質の回収量) と感染性を著しく回復させた (n=6 replicates、mean ± SD、Figure 4A)。これに対し、ユビキチン結合能を欠失した ALIX 6A 変異体は、野生型 ALIX と比較して、ウイルス放出効率および感染性の回復が約 50% のレベルに留まった (Figure 4A)。なお、CHMP4 結合欠損変異体 (I212D) では救済効果がほぼ完全に消失した。野生型、6A 変異体、I212D 変異体はいずれも細胞内で同等レベルに発現しており、Gag の発現量やプロテアーゼ処理プロセスにも影響を与えなかった。さらに、SPR 解析により、6A 変異体は Gag の YPXnL モチーフを含む GST-p6 Gag に対する結合親和性を野生型と同等に維持していることが示された。したがって、6A 変異体におけるウイルス放出効率の低下は、Gag 結合能の低下ではなく、純粋にユビキチン結合能の喪失に起因することが証明された。
EIAVの効率的なウイルス出芽におけるALIXユビキチン結合能の必須性: ESCRT-I (TSG101) を利用できず、完全に ALIX 経路に依存して出芽する EIAV を用いて、さらに検証を行った。HEK293T 細胞において siRNA を用いて内因性 ALIX をノックダウンすると、EIAV のウイルス放出および感染性タイターは著しく低下した (Figure 4B)。このノックダウン細胞に siRNA 抵抗性の野生型 ALIX を再発現させると、ウイルス放出と感染性は完全に野生型レベルまで救済された。しかし、siRNA 抵抗性の ALIX 6A 変異体を再発現させた場合、ウイルス放出効率および感染性の回復は、野生型再発現時の約 50% に留まった (n=6 replicates、mean ± SD、Figure 4B)。この結果は、HIV-1 ΔPTAP で観察された結果と完全に一致しており、ALIX の V ドメインによる K63 ポリユビキチン鎖の直接認識が、異なるレトロウイルスの効率的な出芽プロセスにおいて共通して必須の役割を果たしていることを裏付けている。統計的解析において、野生型と 6A 変異体の間の放出効率の差は統計的に有意であった (p<0.001)。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの研究 (Joshi et al., 2008) では、粗細胞抽出液を用いた実験からモノユビキチンが ALIX を捕捉できることが報告されていたが、結合 of 直接性や連結様式の選択性は不明であった。本研究は、精製された組換えタンパク質を用いることで、ALIX が K63 ポリユビキチン鎖に直接結合することを証明した点で、これまでの報告と異なり、極めて明確な生化学的証拠を提示している。また、NEMO UBAN ドメインが直鎖型ユビキチン鎖に優先的に結合するのとは対照的に、ALIX V ドメインは K63 連結型ユビキチン鎖に対して約 8 倍の強い選択性を示すという、構造的に類似しながらも異なる鎖種認識機構を持つことを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、ALIX V ドメインの α14 ヘリックス上に存在する 2 つの酸性アミノ酸トライアド (QEE および ERE) が、K63 ポリユビキチン鎖との多点結合 (アビディティ効果) を媒介していることを新規に同定した。この 2 つのトライアド間の距離 (約 4 nm) は、K63 連結ジユビキチンの空間的配置と一致しており、これが K63 選択性および 4 連以上の長鎖ポリユビキチン鎖に対する高い親和性の分子基盤であることを示した点は、これまで報告されていない極めて新規性が高い知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、HIV-1 などのレトロウイルス感染症に対する新規治療薬開発への臨床応用が期待される。ALIX のユビキチン結合能を標的とした阻害剤は、ウイルスの出芽・放出効率を約 50% 抑制することが可能であり、既存の逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤とは異なる作用機序を持つ新規抗ウイルス薬としての臨床的有用性を示す。また、ALIX はがんの進展や転移に関与する細胞外小胞 (エクソソーム) の産生経路 (シンデカン-シンテニン-ALIX 軸) も制御しているため、このユビキチン結合部位の阻害は、がん微小環境におけるエクソソームを介したシグナル伝達を遮断する新規のがん治療戦略への臨床応用にもつながる。
残された課題: 今後の検討課題として、レトロウイルス出芽の過程において、ALIX が実際に結合している具体的なユビキチン化基質の同定が挙げられる。Gag タンパク質自身がユビキチン化されるのか、あるいは他の ESCRT 因子や宿主タンパク質が K63 ユビキチン化されて ALIX をリクルートしているのかは未だ特定されておらず、これが本研究における主要な limitation である。また、ALIX 自身のモノユビキチン化が出芽プロセスや自己阻害解除にどのように影響を与えるのか、さらに ALIXV-K63 テトラユビキチン複合体の高分解能での立体構造解析による詳細な相互作用メカズムの解明が、今後の研究における重要な方向性である。
方法
本研究では、まず HEK293 細胞のライセートから、K63 連結型ポリユビキチン化タンパク質 (P16-Ubn) を固定化した親和性樹脂を用いて、K63 選択的ポリユビキチン結合タンパク質を捕捉した。捕捉されたタンパク質群は、LC-MS/MS (liquid chromatography-tandem mass spectrometry: 液体クロマトグラフィータンデム質量分析) により同定された。
組換えタンパク質の調製として、ヒト ALIX の V ドメイン (アミノ酸残基 360-702) を His6 タグ融合タンパク質 (His6-ALIXV) として大腸菌で発現させ、ニッケル親和性カラムにより精製した。直接的な結合を検証するため、精製した His6-ALIXV と固定化 P16-Ubn またはコントロール of 非ユビキチン化 P16 とのインビトロプルダウンアッセイを実施した。また、オートユビキチン化された GST (glutathione S-transferase: グルタチオンS-トランスフェラーゼ) 融合 Rsp5 (GST-Rsp5-Ubn) を用いたプルダウンアッセイも行い、脱ユビキチン化酵素 Usp2cc による処理の有無で結合の変化を評価した。
ユビキチン鎖の連結様式 (K48、K63、直鎖型) に対する選択性を定量するため、重同位体標識合成ペプチドを内標準として用いる Ub AQUA (absolute quantification: 絶対定量) 質量分析法を導入した。ビオチン標識した ALIXV またはコントロールの TUBE (tandem ubiquitin binding entity: タンデムユビキチン結合エンティティ) UBA を用いて、K48、K63、直鎖型のテトラユビキチン (Ub4) 混合物から親和性回収を行い、結合した各ユビキチン鎖の量を定量比較した。さらに、SPR (surface plasmon resonance: 表面プラズモン共鳴) バイオセンサーを用い、センサーチップ上に固定化した ALIXV (固定化密度 150 RU または 220 RU) に対して、各種濃度 (0.78-25 µM の 2 倍希釈系列) の K48、K63、直鎖型 Ub4、およびモノユビキチン (25-1000 µM) を注入し、平衡結合解析を行った。
NEMO UBAN ドメインとのアラインメント解析に基づき、ALIX V ドメインの α14 ヘリックス上に存在する 2 つのグルタミン酸リッチなトライアド (QEE: Q435/E439/E442、および ERE: E453/R456/E460) を標的としたアラニン置換変異体 (QEE3A、ERE3A、および両方を置換した 6A 変異体) を作製した。これらの変異体の二次構造の健全性と熱安定性は、CD (circular dichroism: 円二色性) スペクトロスコピーにより検証した。
レトロウイルス出芽アッセイでは、HEK293T 細胞を用いて、PTAP モチーフを欠失させた HIV-1 変異体 (HIV-1 ΔPTAP) の放出救済実験を行った。野生型または各種 ALIX 変異体 (6A 変異体、および CHMP4 結合欠損変異体である I212D) を FLAG タグ融合タンパク質として共発現させ、培養上清中に放出されたウイルス粒子 (virion) を 20% スクロースクッションを介した超遠心により回収した。ウイルス放出効率は、抗 CA (capsid: カプシド) および抗 MA (matrix: マトリクス) 抗体を用いたウェスタンブロット法により定量した。また、ウイルスの感染性は HeLaP4 細胞を用いた単一サイクル (single-cycle) MAGIC (multinucleate activation of a galactosidase indicator: 多核活性化ガラクトシダーゼ指標) アッセイにより測定した。EIAV 放出アッセイでは、siRNA (small interfering RNA: 短い干渉RNA) を用いて内因性 ALIX をノックダウンした HEK293T 細胞に、siRNA 抵抗性の野生型または変異型 ALIX を再発現させ、同様にウイルス放出と感染性タイターを測定した。データ解析における統計的有意差の判定には、Student’s t-test (t検定) などの統計手法を用いた。