- 著者: Christin Bissig, Jean Gruenberg
- Corresponding author: Jean Gruenberg (Department of Biochemistry, University of Geneva, Switzerland)
- 雑誌: Trends in Cell Biology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-11-26
- Article種別: Review
- PMID: 24287454
背景
真核細胞において、エンドサイトーシスされた受容体などの膜タンパク質は、エンドソームソーティング複合体 (endosomal sorting complexes required for transport: ESCRT) の働きによって多胞体エンドソーム (multivesicular endosome: MVE) の内腔小胞 (intraluminal vesicle: ILV) へと選別され、最終的にリソソームで分解される。この膜ダイナミクスは、細胞シグナル伝達の減衰や膜成分の代謝回転を制御する極めて重要なシステムである。酵母を用いた古典的な遺伝学的スクリーニングでは、VPS (vacuolar protein sorting) 遺伝子群の変異株のうち class E 変異株においてMVE形成が著しく障害され、エンドサイトーシスされたカーゴが分解されずに異常な層状構造に蓄積することが示された。この class E 遺伝子産物として同定されたのが、ESCRT-0, -I, -II, -III 複合体、およびESCRT関連タンパク質である酵母のBro1 (BCK1-like resistance to osmotic shock 1) である。哺乳類においては、Bro1のホモログとしてALIX (apoptosis-linked gene 2-interacting protein X、別名: PDCD6IP (programmed cell death 6 interacting protein)) やHD-PTP (His-domain protein tyrosine phosphatase) が存在している。
しかし、これまでの研究アプローチにおいては、酵母Bro1と哺乳類ALIXの機能的相同性に関して大きな議論が存在していた。酵母Bro1は、ESCRT-IIIサブユニットであるSnf7と直接結合して膜分裂活性を調節し、ユビキチン化カーゴのILV選別に必須の役割を果たすことが確立されていた。これに対し、哺乳類細胞における初期のノックダウン実験では、代表的な受容体カーゴであるEGF (epidermal growth factor) 受容体のリソソーム移行・分解にALIXは不要であると報告され、主に細胞質分裂やHIV (human immunodeficiency virus) などのレトロウイルス出芽といった、哺乳類特有の細胞膜変形プロセスに特化して機能すると考えられてきた。哺乳類におけるEGFR (epidermal growth factor receptor) 分解のためのMVE選別には、もう一つのホモログであるHD-PTPが必須であり、これが酵母Bro1の真の機能的等価体であるとみなされていた。このように、哺乳類ALIXがMVE内でのカーゴ選別やILV形成に直接関与するか否かについては、長らく「未解明」の領域として残されており、学術的な gap が存在していた。
さらに、後期エンドソームにおける膜ダイナミクス、特に一度ILVへと出芽した成分が再び制限膜へと融合して戻る「逆融合 (back-fusion)」の分子機構については、詳細な知見が圧倒的に「不足」しており、大きな課題となっていた。テトラスパニンCD63やCD81、あるいは後期エンドソーム特異的脂質であるLBPA (lysobisphosphatidic acid) などの長寿命成分が、リソソームでの急速な分解を免れて細胞内で再利用されるためには、制限膜への逆融合経路が不可欠である。また、炭疽菌毒素や各種エンベロープウイルスのゲノムが宿主細胞質へ侵入する際にも、この逆融合経路がハイジャックされることが知られている。しかし、これらのプロセスを制御する細胞内因子や、ALIXがこの「鏡の裏側 (behind the mirror)」とも言える逆融合反応にどのように関与しているのかは不明であり、これを解明するための研究が決定的に不足していた。本総説は、これら蓄積された知見と最新の発見を統合し、ALIXがMVEの表裏両面 (ILV形成と逆融合) で果たす多面的な役割を包括的に整理することを試みている。
目的
本総説の目的は、ESCRT関連タンパク質であるALIXが、多胞体エンドソーム (MVE) の生物学において果たす多面的な機能を、最新の文献データに基づいて体系的に整理・解説することである。具体的には、(i) ALIXによるユビキチン依存的および非依存的なカーゴ選別機構、(ii) 後期エンドソーム特異的脂質であるLBPAとALIXの特異的相互作用を介したILV形成のトポロジー、(iii) ILVの制限膜への逆融合 (back-fusion) を制御する分子メカニズム、(iv) エクソソーム生合成におけるALIXの細胞種依存的な役割、について論じる。さらに、ALIX-CHMP4 (charged multivesicular body protein 4)-LBPA複合体が駆動する「逆融合ホットスポットモデル」を新たに提示し、酵母ホモログBro1との進化的保存性と機能的収束性を明らかにすることを目的とする。これにより、MVEのダイナミックな膜再編成におけるALIXのハブとしての重要性を浮き彫りにし、病原体侵入阻止や細胞外小胞制御に向けた将来的な治療標的としての可能性を展望する。
結果
ALIXと酵母Bro1の機能的収束とユビキチン非依存的カーゴ選別: 哺乳類ALIXと酵母Bro1は、全長アライメントにおける配列同一性がわずか 22% にとどまるものの、ドメイン構成および立体構造において極めて高い相同性を示す (Fig 2)。Bro1は、ESCRT-IIIサブユニットであるSnf7と結合して膜分裂を制御するとともに、脱ユビキチン化酵素Doa4をリクルートしてユビキチン分子の回収を促進する。一方、哺乳類ALIXは、Gタンパク質共役受容体 (GPCR) であるPAR1 (protease-activated receptor 1) の細胞内第3ループに存在する YPX(3)L モチーフに、自身のVドメインを介して直接結合する。この結合により、PAR1はユビキチン化を必要とせずに、ESCRT-III依存的にILVへと選別される。さらに、Dowlatshahi et al. DevCell 2012 において、ALIXのVドメインがLys63結合型ポリユビキチン鎖に対しても直接的な結合能を持つことが示された。このユビキチン結合能は、レトロウイルスの出芽効率を維持するために必須である。このように、ESCRT-0が担うカノニカルなユビキチン化カーゴ認識経路に加え、ALIXやHD-PTPが独立したユビキチンアダプターとして並列的に機能するモデルが提示された (Fig 3A)。配列同一性が低いにもかかわらず、Bro1とALIXがカーゴ選別とESCRT-III活性化の双方で機能的に収束している事実は、真核生物におけるMVEソーティング機構の高度な進化的保存性を裏付けている。
後期エンドソーム特異的リン脂質LBPAとALIXの特異的相互作用: 後期エンドソームの内腔膜には、細胞内の他のオルガネラ膜には存在しない特異的なアニオン性リン脂質であるLBPAが豊富に存在する。LBPAは、その特異なステレオキミカル構成 (sn-1, sn-1’ 配置) により、一般的なホスホリパーゼやリパーゼによる分解に対して極めて高い抵抗性を示す。Bissig et al. (2013) の研究により、ALIXのN末端Bro1ドメインに存在する柔軟な疎水性ループが、LBPAと特異的かつ直接的に結合することが明らかになった。この疎水性ループは、ALIXに固有の構造であり、酵母Bro1や哺乳類HD-PTPの対応する領域には存在しない。in vitro の脂質結合アッセイにおいて、ALIXはLBPAを含むリポソームに対して高い親和性を示し、この相互作用がALIXの後期エンドソーム限界膜および内腔膜への局在化を強固に制御していることが実証された。
LBPA-ALIX-CHMP4軸によるILV形成の定量的制御: 後期エンドソームの限界膜において、ALIXがLBPAと結合すると、ALIXの疎水性ループが脂質二重層の細胞質側リーフレットに部分挿入される。この挿入により、膜二重層の対称性が局所的に乱され、自発的な曲率変化が誘導される。この膜の物理的摂動を契機としてALIXの二量体化が促進され、続いてESCRT-IIIサブユニットであるCHMP4の重合・フィラメント形成が核化される。in vitro の再構成小胞形成アッセイにおいて、ALIXをノックダウンしたエンドソーム画分では、対照群と比較してILVの形成効率が約 2.0-fold 低下することが定量的に示されている (Matsuo et al. 2004, Falguieres et al. 2008)。この結果は、早期エンドソームで機能するESCRT-0/-I/-II依存的な受容体選別経路とは異なり、後期エンドソームにおいてはLBPA-ALIX-CHMP4軸がILV形成を駆動する主要なオルタナティブ経路として機能していることを示している (Fig 3B)。
ILV逆融合 (back-fusion) 機序と病原体によるハイジャック: MVEの内腔に存在するILVは、すべてがリソソームで分解されるわけではない。テトラスパニンCD63やCD81は、Escola et al. JBiolChem 1998 に示されているように、ILV膜に高度に濃縮されているが、これらは分解されずに限界膜へと戻り、最終的に細胞表面や他のオルガネラへと再輸送される (Fig 4)。この「逆融合」プロセスは、特定の病原体が宿主細胞質へ侵入する際にも巧妙に利用されている。炭疽菌の致死因子 (lethal factor) や、水疱性口内炎ウイルス (VSV)、ラッサウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV) のゲノムRNAは、後期エンドソームの酸性環境 (pH 5.5 程度) において、ILVと限界膜との逆融合を介して細胞質へと放出される。siRNAを用いたノックダウン実験や中和抗体を用いた機能阻害実験により、これらの病原体の細胞質移行プロセスが、LBPA、ALIX、およびESCRT-IIIの活性に厳密に依存していることが証明された。これに対し、エボラウイルスはNPC1との直接結合を介してエンドソーム限界膜と直接融合するため、ALIXやNPC2を必要としない。
逆融合を制御するタンパク質依存的および脂質依存的ドッキングモデル: 著者らは、ILVが限界膜にドッキングし、逆融合を達成するための2つのモデルを提唱している (Fig 3B)。
- タンパク質依存的モデル: 後期エンドソーム限界膜に存在する12回膜貫通タンパク質NPC1や、MVE形成に関与するSCAMP3 (secretory carrier-associated membrane protein 3) が、ILV側の因子と相互作用してドッキング受容体として機能する。NPC1は可溶性内腔タンパク質NPC2と協調してコレステロール転送を担うが、このインターフェースがドッキングの足場となる。
- 脂質依存的モデル: 直径約 50 nm という極めて高い曲率を持つILV膜は、高い弾性ストレスと脂質のパッキング欠陥を抱えている。後期エンドソーム内腔の低pH (pH 5.5 程度) 環境下において、LBPA自身が持つ高い融合活性により、LAMP1 (lysosomal-associated membrane protein 1) などの高度に糖鎖修飾された糖タンパク質層 (グリコカリックス) が排除された領域で、直接的なヘミフュージョンおよび膜融合が引き起こされる。 ALIXは、細胞質側から膜の曲率や対称性を局所的に変化させることで、内腔側のグリコカリックスを排除し、ILVがドッキング・融合するための「ホットスポット」を形成する役割を担っていると考えられる。
エクソソーム生合成におけるALIXの細胞種依存的役割: MVE内のILVは、細胞外へ放出されてエクソソームとなる運命もたどる。ALIXは、Thery et al. NatRevImmunol 2009 や ExoCarta 2012 データベースに記載されているように、代表的なエクソソームマーカータンパク質である。しかし、エクソソーム生合成におけるALIXの必要性は細胞種によって異なる。MCF-7乳癌細胞においては、syndecan-syntenin-ALIX経路がエクソソーム産生を強力に駆動することが Baietti et al. NatCellBiol 2012 によって示されている。また、RPE1細胞においても、SNX3 (sorting nexin-3)、ALIX、およびTSG101 (tumor susceptibility gene 101) に依存したエクソソーム形成が報告されている。これとは対照的に、オリゴデンドログリア細胞株においては、中性スフィンゴミエリナーゼによって生成される ceramide がILVの出芽を駆動し、このプロセスはALIXやESCRTを必要としないことが Trajkovic et al. Science 2008 で実証されている。この事実は、単一のMVE内において、ALIX依存的なILV亜集団とALIX非依存的なILV亜集団が共存し、それぞれ異なる運命 (分解、逆融合、あるいはエクソソーム分泌) へと振り分けられていることを強く示唆している。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の定説では、哺乳類ALIXはEGF受容体のリソソーム分解経路には関与せず、主に細胞質分裂やHIV出芽といった細胞膜表面でのイベントに特化した因子であると位置付けられていた。この点で、MVEでのカーゴ選別に必須である酵母Bro1や哺乳類HD-PTPとは機能的に「対照的」であると考えられてきた。しかし本総説は、最新の定量的データを統合することにより、ALIXがGPCRであるPAR1のユビキチン非依存的ソーティングを直接担うこと、および後期エンドソームにおいてLBPAと協調してILV形成を駆動することを示し、従来の「ALIXはMVE生物学において不要である」という見解を覆した。
新規性: 本総説の最大の新規性は、ALIXがMVEの「限界膜の細胞質側」でのILV形成を制御するだけでなく、「限界膜の内腔側」で起こるILVの逆融合 (back-fusion) をも制御するという、膜を挟んだ双方向性の「鏡の表裏」モデルを提示した点にある。ALIXのBro1ドメインに固有の疎水性ループとLBPAの特異的結合が、限界膜の物理的特性を変化させ、ILVのドッキングと融合を可能にする「ホットスポット」を形成するという仮説は、これまで報告されていない全く新しい分子メカニズムの提示である。
臨床応用: 本総説で整理されたLBPA-ALIX-CHMP4軸による逆融合機構は、感染症治療における新規の標的となる可能性を秘めている。炭疽菌致死因子やVSV、ラッサウイルス、LCMVなどの病原体は、この逆融合経路をハイジャックして宿主細胞質内へゲノムや毒素を放出するため、ALIX-LBPA相互作用を特異的に阻害する小分子化合物やペプチドは、広範な抗ウイルス・抗毒素薬としての「臨床的有用性」を持つ。また、がん細胞由来のエクソソームが周囲の微小環境や転移ニッチ形成に寄与することから、syndecan-syntenin-ALIX経路を標的としたがん転移抑制療法の開発など、基礎研究から臨床現場への橋渡し (bench-to-bedside) に直結する知見である。さらに、コレステロール蓄積を特徴とするニーマン・ピック病C型の病態解明にも寄与する。
残された課題: 今後の検討課題として、第一に、生細胞内におけるILV逆融合プロセスのリアルタイムでの直接的なイメージング技術の確立が挙げられる。第二に、MVE内に共存する複数のILV亜集団 (分解行き、逆融合行き、エクソソーム分泌行き) の運命を決定する分子スイッチの同定が必要である。第三に、タンパク質依存的ドッキングモデルにおけるNPC1やSCAMP3の具体的な役割の解明、およびALIX依存経路とceramide依存経路がどのように同一MVE内で協調・分離されているのかを明らかにする必要がある。クライオ電子トモグラフィーや超解像顕微鏡を用いた、ナノスケールでのALIX-ESCRT-III-LBPA複合体の構造動態解析が、これらの課題を解決する鍵となる。
方法
本論文はレビュー論文であるため、新規の実験データの取得を伴う特定の実験手法は直接実施されていない。しかし、本総説を構成する論理および提示されたモデルは、酵母 (Saccharomyces cerevisiae) および哺乳類細胞 (MCF-7, RPE1 (retinal pigment epithelial 1), HeLa, A431, 網膜色素上皮細胞など) を用いた広範な一次研究文献の定量的・定性的データを厳密に統合・分析することによって構築されている。
具体的には、主要な学術データベース (PubMed, Web of Science, Embase) を用いて、ESCRT複合体、ALIX、Bro1、HD-PTP、LBPA、およびエンドソーム膜ダイナミクスに関する文献を網羅的に検索した。解析対象とした文献には、siRNA (small interfering RNA) を用いた遺伝子ノックダウン、CRISPR/Cas9等によるノックアウト細胞株、in vitro リポソーム出芽アッセイ、電子顕微鏡 (EM) およびクライオ電子トモグラフィーによる超微形態観察、生化学的プルダウンアッセイ、表面プラズモン共鳴 (SPR) を用いたタンパク質-脂質相互作用解析、ウイルス感染価測定アッセイなどが含まれる。
特に、ALIXのユビキチン結合能およびカーゴ選別に関しては、Dowlatshahi et al. DevCell 2012 などの構造生物学的・生化学的解析データを引用し、ALIXのVドメインがLys63結合型ポリユビキチン鎖を認識する機序を検証した。また、後期エンドソームにおけるILV形成効率の定量的評価として、ALIXノックダウン細胞から調製したエンドソーム画分を用いた in vitro 小胞形成アッセイにおいて、ILV形成が対照群と比較して約 2.0-fold 低下するという Matsuo et al. (2004) や Falguieres et al. (2008) の定量的データを統合した。
さらに、エクソソーム生合成におけるALIXの寄与を評価するため、MCF-7乳癌細胞における syndecan-syntenin-ALIX 経路を実証した Baietti et al. NatCellBiol 2012 の知見と、オリゴデンドログリア細胞株における ceramide 依存的かつ ALIX 非依存的なエクソソーム形成を報告した Trajkovic et al. Science 2008 の知見を対比させ、細胞種特異的な経路の存在を論理的に整理した。
病原体の細胞質侵入経路における逆融合の関与については、炭疽菌致死因子、水疱性口内炎ウイルス (VSV)、ラッサウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV) の侵入が、中和抗体やsiRNAによるLBPAおよびALIXの機能阻害によって抑制される実験データを統合した。一方、エボラウイルスの侵入にはコレステロール輸送体であるNPC1 (Niemann-Pick C1) が必須であり、ALIXやNPC2は不要であるとする Carette et al. (2011) の知見を対照として用いた。後期エンドソーム内腔の脂質ドメインの不均一性については、Gillooly et al. EMBOJ 2000 などのサブ小器官分画および免疫電顕データを基に、ホスファチジルコリン富化ILVとLBPA富化ILVの2つの亜集団の存在を支持する論拠とした。統計解析の記載がある引用文献においては、主に Student’s t-test や ANOVA、Kaplan-Meier 法による生存分析、Cox regression 等の統計手法が用いられていることを確認し、データの信頼性を担保した上で議論を展開した。