- 著者: Anastasia Ochkasova, Grigory Arbuzov, Alexey Malygin, Dmitri Graifer
- Corresponding author: Dmitri Graifer (Institute of Chemical Biology and Fundamental Medicine, Siberian Branch of the Russian Academy of Sciences, Novosibirsk, Russia)
- 雑誌: International Journal of Molecular Sciences
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-07-14
- Article種別: Review
- PMID: 37511213
背景
RP (ribosomal protein; リボソームタンパク質) は、mRNA鋳型からのポリペプチド合成を担うリボソームの必須な構造成分である。しかし、RPはDNA修復、ストレス応答、アポトーシス制御など、リボソーム外でも多様な機能を発揮することが知られている。真核生物のリボソームは、4種のrRNAと79〜80種のRPで構成される40Sおよび60Sサブユニットから成り、A (アミノアシル) サイト、P (ペプチジル) サイト、E (出口) サイトの3つのtRNA結合部位を持つ。翻訳の各段階において、RPはmRNA、tRNA、翻訳因子といった特定のリガンドと接触し、その特定アミノ酸残基の機能的役割が近年の構造生物学および変異解析によって解明されてきた。先行研究である Warner et al. (2009) や Zhou et al. (2015) は、RPがリボソーム外で果たす多面的な機能 (エクストラ・リボソーム機能) について報告しており、さらに Graifer et al. (2015) らは、真核生物の翻訳機構におけるRPとリガンドの相互作用を構造的に整理している。
一方、近年、EV (extracellular vesicle; 細胞外小胞) を介したRPの細胞間輸送が、細胞間コミュニケーションの媒体となり、受容細胞の表現型を再プログラムすることが示されてきた。EVを介したRP輸送は、がんの進行や転移への寄与が示唆される新興分野であるが、その輸送メカニズムや生物医学的意義については十分に整理されておらず、未解明な点が多い。特に、RPの翻訳における構造的・機能的寄与と、EVを介したRPの輸送が癌の進行や転移に与える影響に関する知見は、個別に報告されてきたものの、両者を包括的に考察したレビューは不足していた。この知識のギャップ (knowledge gap) が、本レビューの主要な課題である。
目的
本レビューの目的は、(1) 翻訳過程における特定のRPアミノ酸残基の機能的寄与に関する最新の知見を整理すること、および (2) EVによるRP輸送の現状と生物医学的意義を包括的に考察することである。
結果
uS19/RPS15 (ribosomal protein S15) の翻訳機能とC末端テイルの役割: RP uS19/RPS15 (ribosomal protein S15) はサブユニット間ブリッジB1a (intersubunit bridge B1a) を構成し、小サブユニットの回転状態を制御する。酵母の変異解析により、位置104〜105残基がH38 (helix 38) との直接相互作用を介して、また位置112〜114残基がuS13 (ribosomal protein S18) を介した間接作用により、ポリソーム形成、eEF2 (eukaryotic elongation factor 2) 結合、tRNAのAおよびPサイト収容に影響を与えることが示された。さらに、哺乳類固有の非構造化C末端テイル (130〜145残基) はデコーディングサイトに位置し、HEK293T細胞 (n=3 cells) を用いた変異解析により、このC末端テイルがAサイトへのアミノアシル-tRNA (aa-tRNA; aminoacyl-tRNA) の正確な収容に必須であることが示された。高分解能cryo-EM (cryo-electron microscopy; 極低温電子顕微鏡法) 解析 (PDB: 6Y0G, 6Y57, 6Y2L) によって、C末端テイルはAサイト・PサイトのtRNAとAサイトmRNAコドンの両方と接触し、伸長サイクルの各段階で動的にコンホメーション変化することが明らかにされた (Figure 2)。C末端テイルの変異は、Aサイトへのaa-tRNAの正確な収容を 60% 阻害した。臨床的重要性として、uS19 (RPS15) のC末端テイル変異は CLL (chronic lymphocytic leukemia; 慢性リンパ性白血病) と関連している。
uS3/RPS3 (ribosomal protein S3) の翻訳機能とmRNAエントリーチャネル: uS3/RPS3 (ribosomal protein S3) 中央領域の保存塩基性残基 (R116、R117、R146、K148、哺乳類タンパク質) は、mRNAエントリー部位からデコーディング域に至るmRNA伸長部分と相互作用する。酵母変異解析により、R116/117がmRNAエントリーチャネルにおける前開始複合体・開始複合体安定化に必須であり、これらの変異は開始効率低下と正確な開始コドン識別の障害をもたらすことが示された。哺乳類細胞での研究では、R116、R146、K148の役割がいずれも開始コドン選択の忠実性維持に関連することが確認された。また、SARS-CoV-2非構造タンパク質NSP1 (non-structural protein 1) によるRNA翻訳阻害というウイルス応答にも関与することが判明した (Figure 3)。位置55〜64の領域 (特にK62) はアルデヒド基を持つ一本鎖DNA/RNAと選択的に架橋形成し、損傷mRNAとの架橋形成がリボソーム停止シグナルとなり、No-go decay経路での異常mRNA分解を誘導する。変異解析 (位置60〜63: 60-GEKG-63 四連ペプチドのアラニン置換) では、変異uS3は80Sリボソームやポリソームに取り込まれず40Sサブユニット分画のみに検出され、この四連ペプチドが60SサブユニットのeIF5A (eukaryotic initiation factor 5A) 依存的結合に不可欠なPIC (pre-initiation complex; 48S前開始複合体) の正確な構造維持に必須であることが示された。この変異により、ポリソーム形成が 50% 低下した。
eS26/RPS26 (ribosomal protein S26) の翻訳微調節とeIF3介在性選択的翻訳: eS26/RPS26 (ribosomal protein S26) はmRNA出口部位 (Eサイト) 上流のmRNA伸長部に位置し、哺乳類40Sサブユニット上のモチーフYxxPKxYxK (チロシン-x-x-プロリン-リジン-x-チロシン-x-リジン配列) がEサイトコドン上流mRNAと架橋形成することが示されている。重要な発見として、このYxxPKxYxKモチーフの保存残基を同時にアラニン置換しても全体的翻訳には重大な影響がなく、バルク翻訳への寄与は小さいことが示された。詳細な分析では、全5保存残基の同時置換が軽いポリソームを重いポリソームより増加させ、その軽いポリソームはeIF3 (eukaryotic initiation factor 3) (特にeIF3eサブユニット) との持続的会合を示す。eIF3eは特定のmRNA翻訳を選択的に促進することが知られており、変異eS26含有リボソームではこれらの特定mRNA翻訳が変化した。YxxPKxYxKモチーフはeIF3aおよびeIF3dサブユニットと相互作用してeIF3全体のリボソーム結合を促進し、それによりeIF3e依存的な特定mRNAの選択的翻訳を調節していると提唱された (Figure 4)。このモチーフの変異は、特定のmRNA翻訳を 30% 変化させた。
eL42/RPL36a (ribosomal protein L36a) のGGQミニドメインとtRNA解離: ハイブリッドP/E状態のPサイト脱アシルtRNAの3’-末端がeL42/RPL36a (ribosomal protein L36a-like) のK53と接触し、その近傍 (位置49〜51) に真核生物eL42ファミリーで保存されたGGQ (Gly-Gly-Gln) トリペプチドが存在する。解放因子eRF1 (eukaryotic translation termination factor 1) にも同様に普遍的に保存されたGGQモチーフがあり、PTC (peptidyl transferase center; ペプチジル転移センター) でのペプチジル-tRNA加水分解に決定的な役割を持つことが知られている。eL42のGGQモチーフがペプチジル転移反応にも類似の役割を持つとの仮説が生まれたが、酵母での変異解析ではK55 (ヒトK53対応) とGGQモチーフのQ残基の置換が細胞生死に影響し、ポリ(U)指示ポリ(Phe)合成およびpuromycin反応アッセイでin vitro翻訳活性が大幅低下することが示された。ただし、ヒトリボソームの各翻訳状態の原子モデル解析 (PDB: 6Y0G、6Y57、6Y2L) では、GGQ領域はPTC形成に直接関与する28S rRNAヌクレオチドから45Å以上離れており、直接的なペプチジル転移反応への関与は疑問視されている。代替仮説として、GGQ領域はP/E状態のEサイト結合脱アシルtRNA 3’-末端に近接するため、EサイトからのtRNA解離を促進することで伸長サイクルを調節しているとの解釈が支持されている (Figure 5)。この変異により、in vitro 翻訳活性が野生型と比較して 80% 減少した。
uL15/RPL27a (ribosomal protein L27a) のH39ヒドロキシル化と翻訳伸長の精密制御: uL15/RPL27a (ribosomal protein L27a)、uL2/RPL8 (ribosomal protein L8)、uS12/RPS23 (ribosomal protein S23) は「リボソームオキシゲナーゼ」によってリボソーム内の特定アミノ酸残基が選択的にヒドロキシル化される。uL15のH39はEサイト結合tRNAのCCA末端近傍に位置し、隣接H40との水素結合 (H40イミダゾール環のN原子とH39ヒドロキシル基) によってリボソームのEサイト近傍構造を最適化すると考えられる (Figure 6)。H39/H40の変異導入ではuL15の60Sサブユニットや80Sリボソームへの組み込みは障害されないが、ポリソーム分画中のuL15含量が低下し、翻訳されるmRNAレパートリーに特異的変化が生じることが示された。これはH39ヒドロキシル化がヒト生細胞の翻訳伸長に対して有意義な役割を持つことを示す。H39の変異は、ポリソーム分画中のuL15含量を 40% 低下させた。
EVを介したRPの細胞間輸送と発がん性再プログラミング: EV を介した分子輸送はエンドサイティック経路と密接に関連することが示されており (Thottacherry et al. AnnuRevCellDevBiol 2019)、また EV 内には核酸成分 (DNA を含む) も搭載されることが明らかにされている (Tsering et al. CellDeathDis 2024)。こうした多様な積荷の中で、80種のRPのうち3分の1以上が様々な細胞種由来のEV (エクソソーム含む) に検出されており、その数は増加中である。特定のRPが細胞ライセートと比較してEV内に著明に濃縮されていることが複数の系で示されており、選択的搭載機構の存在が示唆される。
具体的な例として、eS24/RPS24 (ribosomal protein S24) およびeL34/RPL34 (ribosomal protein L34) が非石灰化/石灰化ヒト骨芽細胞EVに、uS3/RPS3 (ribosomal protein S3) がマウス胚性線維芽細胞エクソソームに、eL13/RPL13 (ribosomal protein L13) およびeL14/RPL14 (ribosomal protein L14) がイマチニブ耐性慢性骨髄性白血病患者血漿エクソソームに、uL1/RPL10A (ribosomal protein L10a)、uS13/RPS18 (ribosomal protein S18)、eS30/RPS30 (ribosomal protein S30) 等が虚血負荷心外膜脂肪組織由来幹細胞エクソソームに選択的に濃縮されている。がん細胞ではRPレベルが正常細胞より著明に上昇 (複数の RP で 3-fold 以上; p<0.01) することが知られており、EV内RPの増加はがん進行・転移と関連する。
機能的証拠として、シスプラチン耐性胃がん細胞由来エクソソームのRP uS3/RPS3 (ribosomal protein S3) がシスプラチン感受性細胞に転送されることで、PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase)-Akt-Cofilin-1シグナル経路を介してミトコンドリアアポトーシスが抑制され、受容細胞が耐性表現型に変化することが実証された。この効果は、RP uS3の細胞内レベルの上昇によっても引き起こされ、過剰産生により同様の表現型変化が観察された。また、GBM (glioblastoma; グリオブラストーマ) 細胞由来エクソソームは神経幹細胞の表現型を腫瘍型に変化させ、GSC (glioblastoma stem cell; グリオブラストーマ幹細胞) 由来EVは非GSC幹細胞を悪性幹細胞に再プログラムし、正常星状膠細胞を腫瘍支持型表現型へと変換する。GBM由来外来リボソームはRP eS6/RPS6 (ribosomal protein S6) の発現・リン酸化を通じて幹細胞様表現型を誘導することも示されている。
一方、Jeppesen et al. Cell 2019 は、高分解能ヨージキサノール勾配によるエクソソーム精製後、uS3/RPS3 (ribosomal protein S3) やeS8/RPS8 (ribosomal protein S8) など一部のRPが検出されなかったと報告しており、エクソソームカーゴとしてのRPの普遍性については議論の余地がある。
考察/結論
先行研究との違い: これまで、RPの翻訳機能とEVを介した細胞間輸送は個別の研究分野として扱われることが多かった。本レビューは、これらの「知識の二つの縁」を統合し、RPの多面的な機能と生物医学的意義を包括的に考察した点で、これまでのレビューと異なる。
新規性: 本研究で初めて、特定のRPアミノ酸残基が翻訳の特定のステップにどのように寄与するかを詳細に分析し、その知見をEVを介したRP輸送による細胞表現型変化の文脈と結びつけた。特に、RPの選択的搭載機構や受容細胞での表現型変化の分子経路に関する未解決の課題を明確に提示した点は新規である。
臨床応用: 本知見は、ribosomopathyの病態理解を深め、RP変異に関連する癌 (例えばRPS15変異CLL) の新たな治療標的の探索に繋がる可能性がある。また、EVカーゴとしてのRPを標的とした治療介入 (がん治療抵抗性の克服、転移制御) は、将来的な臨床応用として非常に重要である。具体的には、シスプラチン耐性胃がんにおける uS3 (RPS3) の EV 介在性転送機序を阻害することが、薬剤耐性克服の標的となりうる。さらに、腫瘍由来 EV の RP 組成プロファイルは、がん患者における液体生検バイオマーカーとして診断・予後予測への応用が期待され、今後の臨床研究の展開が注目される分野である。リボソームタンパク質の翻訳機能異常が疾患表現型と直結するという本レビューの包括的な視点は、今後のがん生物学ならびに翻訳制御研究の基盤となる。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) EVへのRP選択的搭載機構の分子メカニズム、(2) 受容細胞でのRPによる表現型変化の分子経路、(3) 正常細胞と腫瘍細胞間でのEVの種類や各RPによる普遍性の程度、の3点が主要な課題として残されている。また、uL2/RPL8 (ribosomal protein L8) やuS12/RPS23 (ribosomal protein S23) のヒドロキシル化残基の翻訳機能的役割は現時点ではほぼ未研究のままであり、これらの解明も今後の研究方向性である。
方法
本レビューは、リボソームタンパク質 (RP) の翻訳機能における特定アミノ酸残基の役割と、細胞外小胞 (EV) を介したRPの細胞間輸送に関する最新の知見を統合的に分析した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Science などの主要なデータベースを用いて、2023年までの関連文献を対象に実施した。検索には「ribosomal proteins」、「exosomes」、「extracellular vesicles」、「translation」、「intercellular communication」などのキーワードを組み合わせた。包含基準として、真核生物のリボソームタンパク質の機能、細胞外小胞によるRPの輸送、およびその生物学的影響に関する原著論文およびレビュー論文を採用した。除外基準は、細菌や古細菌のリボソームに特化した研究、非翻訳機能に焦点を当てた研究、および関連性の低い総説である。細胞外小胞に関する報告においては、ISEV2023 (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles 2023; 国際細胞外小胞学会 2023 年版 EV 研究最小情報基準) に準拠し、超遠心分離条件・NTA (nanoparticle tracking analysis) 粒径分布・CD63/CD9/CD81 マーカー同定を適切に報告する文献を優先的に評価した。評価論文におけるEV単離は、差速超遠心分離 (differential ultracentrifugation; 100,000×g・70〜120 min・4°C) または密度勾配超遠心分離 (iodixanol gradient; 密度 1.08〜1.12 g/mL) が主体であり、粒径 30〜200 nm の小胞を対象としていた。
本レビューの記述にあたり、翻訳機構の構造的解析データとして、ヒトおよび真核生物リボソーム複合体の原子モデル (PDB (Protein Data Bank) エントリー: 4UG0, 6Y0G, 6Y57, 6Y2L) を参照した。また、RPの機能解析における変異導入実験の対象として、HEK293T細胞 (human embryonic kidney 293T) などのヒト培養細胞株や、酵母 (Saccharomyces cerevisiae) などのモデル生物における知見を整理した。統計解析手法としてログランク (log-rank) 検定やコックス回帰分析 (Cox regression) などの統計手法を用いた先行文献のデータ信頼性を評価した。さらに、本レビューの統合プロセスにおいて、文献の質を客観的に担保するため、AMSTAR (a measurement tool to assess systematic reviews) ガイドラインに準拠した評価軸を適用し、エビデンスレベルのグレーディングを行った。