• 著者: Anurag Purushothaman, Shyam Kumar Bandari, Jian Liu, James A. Mobley, Elizabeth E. Brown, Ralph D. Sanderson
  • Corresponding author: Anurag Purushothaman; Ralph D. Sanderson (アラバマ大学バーミンガム校 病理学科, Alabama, USA)
  • 雑誌: Journal of Biological Chemistry
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2015-11-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26601950

背景

多発性骨髄腫 (MM; multiple myeloma) は、骨髄における悪性形質細胞のクローン増殖を特徴とする血液腫瘍である。近年、治療法の進歩が見られるものの、依然として治癒が困難な疾患であり、新たな治療戦略の開発が求められている。腫瘍細胞間、および腫瘍細胞と宿主細胞間の細胞間コミュニケーションを標的とすることは、治療成績の改善に繋がる可能性が指摘されている。エクソソームは、直径 30〜150 nm のエンドソーム由来分泌小胞であり、腫瘍細胞から分泌されるエクソソームは、標的細胞の生存、アポトーシス、浸潤、血管新生、治療抵抗性、および転移前ニッシェ形成に影響を与えることが多くの研究で示されている。例えば、Peinado et al. NatMed 2012 は、メラノーマ由来エクソソームが骨髄前駆細胞を転移促進表現型へと教育することを示した。

特に、骨髄腫由来エクソソームは、骨芽細胞や破骨細胞機能の調節、血管内皮増殖因子 (VEGF) や肝細胞増殖因子 (HGF) の輸送、低酸素 MM 細胞からのエクソソームによる因子 HIF-1 阻害分子 (FIH1; factor inhibiting hypoxia-inducible factor 1) の発現抑制を介した血管新生促進など、骨髄腫の病態形成に中心的役割を果たすことが、本研究グループの先行研究 (Thompson et al. 2013) から明らかにされていた。この先行研究では、骨髄腫エクソソームがシンデカン-1 を豊富に含み、腫瘍細胞拡散や内皮細胞浸潤を促進することを示していたが、その相互作用の鍵となる分子メカニズムについては未解明な点が残されていた。

エクソソームが標的細胞と相互作用する機序の基盤として、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG; heparan sulfate proteoglycan) が受容体として機能することが示唆されていた。Christianson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2013 は、グリオブラストーマ細胞由来エクソソームが標的細胞表面のヘパラン硫酸を介して取り込まれること、およびヘパリン添加でこの取り込みが阻害されることを報告した。しかし、エクソソーム側にあってヘパラン硫酸に結合するリガンドはこれまで明確に同定されておらず、エクソソームと標的細胞の接着機序の分子的実体は未解明なままであった。この知識のギャップは、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションの全体像を理解する上で重要な課題として残されていた。フィブロネクチンはヘパラン硫酸 (特にシンデカンなどの HSPG) に対する高親和性リガンドであり、その C 末端 type III repeat 12〜14 に位置する Hep-II ドメイン (Heparin-binding domain II) が最も強いヘパリン/ヘパラン硫酸結合部位であることが知られていた。この Hep-II ドメインは、細胞接着やシグナル伝達において重要な役割を果たすことが報告されている。エクソソームの細胞間コミュニケーションにおける重要性が増す一方で、その結合メカニズムに関する知識が不足しており、特に骨髄腫の病態におけるエクソソームの役割を完全に理解するためには、このギャップを埋めることが不可欠であった。

目的

本研究の目的は、骨髄腫細胞由来エクソソームの表面にフィブロネクチンが存在するかを質量分析および生化学的手法で同定することである。さらに、エクソソーム表面のフィブロネクチンが、その Hep-II ドメインを介して受容細胞のヘパラン硫酸と結合することで、エクソソームと細胞間の相互作用を媒介するかを実証することを目指した。この相互作用が骨髄腫の進行を促進する下流のシグナル伝達経路を活性化し、腫瘍促進的遺伝子発現を誘導するかを明らかにすることも目的とした。具体的には、p38およびERKシグナル経路の活性化と、骨髄腫の進行に関連するDKK1およびMMP-9の発現誘導を評価する。最終的に、ヘパリンやヘパリン模倣体(ロネパルスタットなど)によるこの相互作用の遮断が、骨髄腫治療における新たな治療可能性を持つかを探索した。これらの知見を通じて、骨髄腫微小環境におけるエクソソームを介した細胞間クロストークの分子メカニズムを解明し、新たな治療標的を特定することを目指した。

結果

フィブロネクチンの骨髄腫エクソソーム表面への局在: 質量分析解析により、ヘパラナーゼ高発現(高侵攻性)CAG 細胞由来エクソソームにおいて、ヘパラナーゼ低発現対照エクソソームと比較してフィブロネクチンが最も顕著に増加したタンパク質として同定された (Fig. 1A)。ペプチド数で明らかな差異が認められ、ローディング対照としての免疫グロブリン軽鎖量は同等であった。Western blot および ELISA の結果も質量分析と一致し、高侵攻性エクソソームのフィブロネクチン含量が対照より有意に高いことが確認された (p<0.05)。具体的には、ELISA では対照エクソソームと比較して約 2.5-fold の増加を示した (Fig. 1B, 1C)。フローサイトメトリーでは、抗 CD63 ビーズおよびヘパリン-アガロースビーズ双方に捕捉したエクソソームで表面フィブロネクチンが検出された (isotype 対照と比較して明確なシフト) (Fig. 2A)。ヘパリチナーゼ処理によるヘパラン硫酸除去により、エクソソーム表面フィブロネクチンの大部分が除去され (ELISA で有意減少, p<0.05)、フィブロネクチンがエクソソーム表面のヘパラン硫酸(主にシンデカン-1)に結合した状態で存在することが確認された (Fig. 2B)。

エクソソーム-標的細胞相互作用とフィブロネクチンの役割: 高フィブロネクチン含量の高侵攻性エクソソームは、低侵攻性エクソソームと比較して標的骨髄腫細胞 (RPMI-8226) への結合能が有意に高かった (蛍光強度比で約 3-fold increase; p<0.05) (Fig. 1D, 1E)。エクソソームから表面フィブロネクチンをヘパリチナーゼで除去すると、標的細胞との結合が著明に低下した (Fig. 2C)。同様に、標的細胞表面のヘパラン硫酸をヘパリチナーゼで除去した場合も、エクソソーム-細胞結合が著明に低下した (Fig. 3B)。CAG 細胞を極性化(ウロポッドへのヘパラン硫酸集積)させると、CD63-RFP エクソソームはヘパラン硫酸の局在パターンに一致してウロポッドに優先的に結合し、ヘパラン硫酸が受容体として機能することを形態学的に支持した (Fig. 3A)。これらの実験は、n=3 の独立した実験で実施された。

Hep-II ドメインの特異的関与と阻害実験: フィブロネクチンの Hep-II 断片 (40 kDa) で標的細胞を前処理すると、CD63-RFP および PKH67 標識エクソソーム双方の結合が有意に阻害された (p<0.05)。フローサイトメトリーによる定量では、エクソソーム結合が約 60% 減少した (Fig. 4A)。A32 抗体(Hep-II ドメイン特異的)をエクソソームに前処理すると、エクソソーム-標的細胞結合が有意に低下し、内皮細胞浸潤能も有意に阻害された (p<0.05)。内皮細胞浸潤は、A32 抗体処理により約 50% 阻害された (Fig. 4B, 6D)。これらの阻害効果は、Hep-II ドメインがエクソソームと標的細胞間の相互作用において重要な役割を果たすことを強く示唆する。

ヘパリン模倣体による相互作用阻害: ヘパリン (10 μg/mL)、ロネパルスタット (10 μg/mL)、完全硫酸化 12 量体ヘパリン (100 μg/mL) は、いずれもエクソソーム-標的細胞相互作用を有意に阻害した (p<0.05) (Fig. 3C)。ヘパリンとロネパルスタットは同一濃度 (10 μg/mL) で有効であったのに対し、12 量体は 100 μg/mL が必要であった。この結果は、ロネパルスタットがヘパリンと同等の結合阻害効果を持つことを示している。N-硫酸化、2O-硫酸化、6O-硫酸化のいずれかが欠損した 12 量体は、完全硫酸化体ほど効果的でなく、硫酸化パターンが結合に重要であることが示された。これらの実験は n=3 replicates で実施された。

患者エクソソームでの検証: 3 名全ての未治療 MM 患者血清エクソソームでフィブロネクチンが ELISA で検出され (Fig. 5B)、フローサイトメトリーでシンデカン-1 と共に表面局在が確認された (Fig. 5C)。患者エクソソームもヘパリチナーゼ処理でフィブロネクチンの大部分が除去された (ELISA および Western blot で確認, p<0.05) (Fig. 5D, 5E)。具体的には、ヘパリチナーゼ処理によりフィブロネクチンレベルが約 70% 減少した。患者エクソソーム (PKH26 標識) の HS-5 骨髄間質細胞との相互作用は、A32 抗体前処理によって阻害された (Fig. 5F)。健常者血清エクソソームにもフィブロネクチンが検出され、このメカニズムが腫瘍細胞のみならず正常細胞由来エクソソームにも共通する可能性が示唆された。患者由来エクソソームのサイズは 50〜200 nm の範囲であり、大部分が 150 nm 未満であった (Fig. 5A)。

下流シグナルと腫瘍促進的遺伝子発現: 高侵攻性エクソソームを処理した RPMI-8226 細胞では、Phosphokinase Array で p38 および ERK のリン酸化増加が確認された (Fig. 6A)。高侵攻性エクソソームと対照エクソソームの比較 Western blot でも p38 リン酸化増加が示され、これは標的細胞のヘパラン硫酸除去によってブロックされた (p<0.05) (Fig. 6B)。DKK1 (Wnt 阻害・骨溶解促進因子) および MMP-9 mRNA が、PCR でエクソソーム処理後に有意に上昇した (p<0.05) (Fig. 6C)。DKK1 mRNA は約 2.5-fold、MMP-9 mRNA は約 2-fold の増加を示した。A32 抗体によるフィブロネクチン-Hep-II ドメインの遮断は、内皮細胞の Matrigel 浸潤を有意に阻害した (p<0.05) (Fig. 6D)。これらの結果は、エクソソームを介したフィブロネクチン結合が、骨髄腫の進行を促進するシグナル伝達と遺伝子発現を誘導することを示している。

考察/結論

本研究は、エクソソームと標的細胞の相互作用を仲介するリガンドとして表面フィブロネクチンを初めて同定し、エクソソーム-標的細胞接着の分子機構として「エクソソーム表面のヘパラン硫酸がフィブロネクチンを捕捉 → フィブロネクチン Hep-II ドメインが標的細胞のヘパラン硫酸に結合 → エクソソーム接着・取り込み → p38/ERK シグナル活性化」という連鎖を実証した。ヘパラン硫酸がエクソソーム上(フィブロネクチン結合を通じて)と受容細胞上の双方でこの相互作用に関与するという「二重の役割」が明らかになった点は、HSPG 生物学における新規な知見である。

先行研究との違い: Christianson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2013 はグリオブラストーマエクソソームの取り込みに標的細胞 HSPG が必要であることを報告していたが、エクソソーム側のリガンドは未同定であった。本研究はその空白を埋めるものであり、エクソソーム表面フィブロネクチンがそのリガンドであることを明確に示した点で、これまでの報告と異なる。また、本研究グループの先行研究 (Thompson et al. 2013) では、骨髄腫エクソソームがシンデカン-1 を豊富に含み、腫瘍細胞拡散や内皮細胞浸潤を促進することを示していたが、今回フィブロネクチンがその相互作用の鍵分子であることが明らかになった。

新規性: 本研究で初めて、エクソソーム表面のフィブロネクチンが、その Hep-II ドメインを介して標的細胞のヘパラン硫酸と結合し、エクソソーム-細胞間相互作用を媒介するという新規なメカニズムを同定した。この結合が p38 および ERK シグナル経路を活性化し、骨髄腫の進行を促進する DKK1 と MMP-9 の発現を誘導することも、これまで報告されていない重要な知見である。これらの発見は、エクソソームを介した細胞間クロストークの理解を深める上で極めて重要である。

臨床応用: ロネパルスタット (SST0001) は第 I 相臨床試験中の改変ヘパリンであり、ヘパラナーゼ阻害と HSPG 機能阻害の双方向的な抗腫瘍作用が期待されている。本研究でエクソソーム-細胞間相互作用の遮断という新たな作用機序が示されたことで、この薬剤の多発性骨髄腫における臨床的価値が補強される。DKK1 (Wnt アンタゴニスト) の誘導は骨髄腫に特徴的な骨溶解機序として重要であり、エクソソームを介した DKK1 産生促進は骨病変形成の新たな経路を示唆する。これらの知見は、骨髄腫治療における新たな治療標的としてフィブロネクチン-ヘパラン硫酸相互作用を標的とすることの臨床的意義を強調する。

残された課題: 今回は血清エクソソームが全て腫瘍細胞由来とは言えない点(CD138 陽性比率から多くが腫瘍由来と推定されるが)が本研究の limitation である。in vivo での骨髄腫モデルにおけるエクソソーム-細胞相互作用阻害の治療効果の検証、フィブロネクチン以外の表面リガンドの探索、細胞外マトリックスへのエクソソーム結合(コラーゲン・HS 捕捉フィブロネクチン)の意義の解明が今後の課題である。また、フィブロネクチンが健常者エクソソームにも発現することは、この分子機構が腫瘍エクソソームに特有ではなく普遍的な細胞間コミュニケーション基盤である可能性を示すため、正常生理機能における役割の解明も重要である。

方法

細胞株とエクソソーム単離: RPMI-8226 および CAG ヒト骨髄腫細胞を培養に用いた。CAG 細胞は、ヘパラナーゼ高発現(高侵攻性)と低発現(対照)の 2 表現型に分離済みである。エクソソームは、差速遠心(デブリ除去)後、ヨードキサノール (40%) クッション上での 28,000 rpm 16 時間超遠心によりサイズ排除精製し、その後 100,000 × g で 70 分間超遠心してペレット化した。蛍光追跡のため、CD63-RFP (red fluorescent protein) レンチウイルスベクターを導入し、RFP エクソソーム分泌細胞株を樹立した。患者血清エクソソームは、3 名の未治療 MM 患者 (iMAGE 研究登録) から ExoQuick 沈殿と抗 CD63 磁性ビーズを用いて精製した。エクソソームのサイズと粒子数は、ナノパーティクルトラッキング解析 (NTA; NanoSight 300) で測定した。

タンパク質同定と定量: エクソソームタンパク質の網羅的解析は、液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS/MS; LTQ Velos Pro Orbitrap) を用いて実施した。エクソソームタンパク質は 10% Bis-Tris ゲルで分離後、トリプシン消化し、LTQ Velos Pro Orbitrap を用いた LC-MS/MS で解析した。フィブロネクチンは、ELISA (競合阻害法; Millipore) および Western blot (抗フィブロネクチン抗体; R&D Systems) により定量的に確認した。ローディングコントロールとしてクラトリンまたはフロチリンを用いた。

エクソソーム表面フィブロネクチンの局在証明: 抗 CD63 磁性ビーズまたはヘパリン-アガロースビーズにエクソソームを捕捉し、フローサイトメトリーで抗フィブロネクチン-PE 抗体染色によって表面フィブロネクチンを検出した。シンデカン-1 の検出は、ヘパリチナーゼ処理(ヘパラン硫酸鎖除去によりコアタンパク質エピトープを露出)後に抗シンデカン-1 抗体で検出した。

エクソソーム-細胞間相互作用の定量: サブコンフルエントな RPMI-8226 骨髄腫細胞または HS-5 (human bone marrow stromal cell line) 骨髄間質細胞に、CD63-RFP または PKH (lipophilic dye) 標識エクソソーム (100 μg/mL) を 2 時間インキュベーション後、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリー(メジアン蛍光強度)で相互作用を定量した (3 回独立実験)。

機能阻害実験:

  • ヘパリチナーゼ処理: エクソソームまたは標的細胞のヘパラン硫酸を酵素的に除去した。エクソソームは 1.5 millunits/ml ヘパリチナーゼで 3 時間処理後、酵素を追加して一晩インキュベートした。細胞は 5 millunits/ml ヘパリチナーゼで 2 時間処理した。
  • Hep-II 阻害: A32 抗体(フィブロネクチン Hep-II ドメイン特異的; Thermo Fisher; 25 μg 抗体/100 μg エクソソーム)をエクソソームに事前添加した。
  • フィブロネクチン Hep-II 断片: フィブロネクチン Hep-II ドメインを含む 40 kDa 断片 (Millipore) を標的細胞に前処理 (50 μg/ml) し、ヘパラン硫酸結合部位をブロックした。
  • ヘパリン模倣体: ヘパリン (10 μg/mL)、完全硫酸化 12 量体ヘパリン (100 μg/mL; 化学酵素的合成)、ロネパルスタット (SST0001; 10 μg/mL; MM 患者第 I 相試験中, ClinicalTrials.gov identifier NCT01764880) を用いた。

シグナル伝達と遺伝子発現: Human Phosphokinase Array (R&D Systems; 43 種のリン酸化キナーゼを検出) を用いて、RPMI-8226 細胞にエクソソームを 2 時間添加後の細胞内シグナルを解析した。p38 リン酸化は Western blot で評価し、ヘパラン硫酸除去の影響も検討した。DKK1 および MMP-9 mRNA 発現は SYBR Green qRT-PCR で定量した。内皮細胞浸潤能は Biocoat Matrigel チャンバーを用いて評価した。統計解析には、Student’s t-test を用いて群間比較を行った。