- 著者: Helena C. Christianson, Katrin J. Svensson, Toin H. van Kuppevelt, Jin-Ping Li, Mattias Belting
- Corresponding author: Mattias Belting (mattias.belting@med.lu.se, Department of Clinical Sciences, Section of Oncology, Lund University, Sweden)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-10-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 24101524
背景
細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) の一種であるエクソソームは、細胞間における核酸やタンパク質の輸送を担う重要なメディエーターとして注目されている。特にがんの進行、転移、微小環境の再編成において、がん細胞由来のエクソソームが受容細胞へ機能的分子を伝達する役割が報告されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。エクソソームは、多胞体 (MVB: multivesicular body) と細胞膜の融合を介して放出される直径約50〜150 nmの膜小胞であり、ドナー細胞の膜トポロジーを維持したまま受容細胞へと取り込まれる Raposo et al. JExpMed 1996、Ratajczak et al. Leukemia 2006。
しかし、放出されたエクソソームがどのような分子メカニズムを介して受容細胞に認識され、内在化 (internalization) されるのか、その具体的な受容体構造は未解明であった。これまでの研究では、エクソソームの生合成や分泌経路に関する分子群(Rab27aやシンデカン-シンテニン-ALIX複合体など)の関与は徐々に明らかになりつつあったが Ostrowski et al. NatCellBiol 2010、Baietti et al. NatCellBiol 2012、受容細胞側における取り込み受容体の実体については決定的な知見が不足していた。この受容体メカニズムの不足が、がん治療やドラッグデリバリー分野におけるEV標的化の大きな障壁となっていた。
細胞表面に豊富に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG: heparan sulfate proteoglycan) は、シンデカン (syndecan) やグリピカン (glypican) などのコアタンパク質にヘパラン硫酸 (HS: heparan sulfate) 鎖が結合した糖タンパク質であり、ウイルスやリポタンパク質、成長因子などの細胞内取り込みを媒介することが知られている。本研究グループは、がん細胞由来エクソソームがこのHSPG依存的エンドサイトーシス経路を共用して受容細胞に内在化されるのではないかという仮説を立てた。膠芽腫 (GBM: glioblastoma multiforme) 由来細胞株および各種遺伝子欠損細胞株を用いて、HSPGがエクソソームの機能的取り込み受容体として機能するかどうかを検証した。
目的
本研究の目的は、がん細胞(特に膠芽腫細胞)由来のエクソソームが受容細胞へ取り込まれるプロセスにおいて、細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) が内在化受容体として機能することを遺伝学的および生化学的に実証することである。さらに、取り込みに必要とされるヘパラン硫酸 (HS) 鎖の特異的な硫酸化パターン(2-O硫酸化およびN-硫酸化)を特定し、HSPGを介したエクソソームの取り込みが、受容細胞におけるERK1/2(extracellular signal-regulated kinase 1/2)シグナル伝達経路の活性化や細胞遊走能の亢進といった生物学的機能発現に不可欠であることを明らかにすることを目指す。
結果
HSPGとの共局在と飽和性取り込み: U-87 MG細胞由来のエクソソームは、受容細胞に対して用量依存的かつ飽和可能な取り込み特性を示した (Fig. 1C)。この取り込みは4°Cでのインキュベーション、または10倍量 (100 μg/mL) の未標識エクソソームの共存によって有意に抑制された (Fig. 1D)。共焦点顕微鏡観察において、内在化されたPKH標識エクソソームは、細胞表面のHSPGであるシンデカン-2 (Sdc2-GFP) およびグリピカン-1 (Gpc1-GFP) と明確に共局在した (Fig. 1E)。また、エクソソームの添加に伴い、細胞表面の特定のHSエピトープ (AO4B08抗体で認識される活性型HSPG構造) が消費され、細胞表面での検出レベルが低下した (Fig. 1F)。ポリアミン合成阻害剤 DFMO (difluoromethylornithine) (5 mM) 処理により、HSPG依存的エンドサイトーシスが活性化され、エクソソームの取り込み量が有意に増加した (Fig. 1G)。
外因性糖鎖によるサイズ・電荷依存的競合阻害: 遊離のヘパリンは、エクソソームの細胞内取り込みを用量依存的に阻害し、10 μg/mL の濃度で取り込みを約55%抑制した (p<0.05, n=3 replicates) (Fig. 2A)。対照的に、コンドロイチン硫酸 (CS) は 100 μg/mL の高濃度でも阻害効果を示さなかった (Fig. 2B)。硫酸化密度の異なるHSを用いた実験では、高硫酸化HS (HS-6) および低硫酸化HS (HS-2) のいずれも有意な阻害活性を示した (Fig. 2C)。しかし、化学的にN-脱硫酸化されたヘパリン、および完全脱硫酸化ヘパリンは阻害活性を完全に消失した (Fig. 2D)。低分子量ヘパリン (LMWH) である enoxaparin、dalteparin、tinzaparin も同様に取り込みを阻害したが、8糖以下の短いヘパリンオリゴ糖では阻害効果が著しく減弱し、相互作用におけるサイズ依存性が示された (Fig. 2E, F)。また、エクソソームとヘパリン-agaroseビーズとの結合実験から、この相互作用には 2 mM CaCl2 の存在(Ca2+依存性)が必要であることが明らかになった (Fig. 2G, I)。
HSPG合成および硫酸化修飾欠損による取り込み低下: プロテオグリカン欠損変異株である pgsA-745 (PG-deficient) 細胞におけるエクソソーム取り込み量は、野生型 CHO-K1 細胞と比較して 2.5-fold decrease (2.5倍低下) した (p<0.05, n=3 replicates) (Fig. 3B, C)。さらに、HSのN-硫酸化修飾を欠く pgsE (NS-deficient) 細胞、および2-O-硫酸化修飾を欠く pgsF (2OS-deficient) 細胞においても、野生型と比較してエクソソームの取り込みが有意に低下した (Fig. 3D)。受容細胞をヘパリナーゼ I/III で酵素処理して細胞表面のHSPGを分解すると、取り込みは約50%減少した (Fig. 3E)。一方、コンドロイチナーゼ ABC によるCSPGの分解は、取り込みを阻害せず、むしろわずかに増加させる傾向を示した (Fig. 3E)。これらの知見は、他の膠芽腫細胞株 U118 MG および LN18 由来のエクソソームを用いた検証でも再現された (Fig. S2)。
エクソソーム随伴HSPGの生化学的解析: [35S]硫酸代謝標識およびアニオン交換クロマトグラフィーにより、単離されたエクソソーム自体にも完全なプロテオグリカン (PG) 分子が含まれていることが生化学的に証明された (Fig. 4A)。3G10抗体を用いたウェスタンブロット解析により、エクソソーム画分にシンデカンおよびグリピカンコアタンパク質が検出された (Fig. 4B)。しかし、エクソソーム側のHSPGをヘパリナーゼ処理によってあらかじめ除去しても、受容細胞への内在化効率に有意な変化は認められなかった (Fig. 4C)。この結果から、エクソソームの取り込みプロセスにおいては、受容細胞側の細胞表面HSPGが受容体として機能することが決定的に重要であり、エクソソーム側のHSPGは内在化を直接媒介しないことが示された。
HSPG依存的なERK1/2シグナル活性化と細胞遊走: 野生型 CHO-K1 細胞にエクソソームを添加すると、下流のシグナル伝達分子である ERK1/2 のリン酸化が約6倍 (6-fold increase) に著明に活性化されたが、HSPG欠損 pgsA-745 細胞ではこの活性化がほぼ完全に消失した (Fig. 5D)。Transwellアッセイを用いた細胞遊走試験において、エクソソームは膠芽腫細胞およびCHO細胞の遊走を有意に刺激した (Fig. 5A, C)。しかし、この遊走促進効果は、共存させたヘパリン (10 μg/mL) や、受容細胞側の遺伝学的HSPG欠損 (pgsA-745) によって有意に抑制された (p<0.05, n=3 replicates) (Fig. 5A, C)。さらに、小分子PG合成阻害剤である PNP-Xyl で受容細胞を前処理すると、エクソソームの取り込みが約50%減少し (Fig. 6A)、それに伴ってエクソソーム誘導性の細胞遊走 (Fig. 6B) および ERK1/2 活性化 (Fig. 6C, D) が著明に抑制された。
考察/結論
本研究は、がん細胞由来のエクソソームが受容細胞へ内在化し、その生物学的機能を発揮するプロセスにおいて、細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) が必須の取り込み受容体として機能することを実証した。
先行研究との違い: 従来の知見では、HSPGは主にウイルス(HIVやヘルペスウイルスなど)やリポタンパク質、成長因子などの外因性リガンドが細胞表面に吸着する際の足場として機能すると考えられていた。これら従来の報告と異なり、本研究は、内因性の細胞間情報伝達キャリアであるエクソソームが、HSPGを特異的な内在化受容体ハブとして利用していることを明らかにした。エクソソームが細胞表面のHSPGと共局在し、エンドサイトーシスに伴って細胞表面のHSPGエピトープを消費するという発見は、HSPGが単なる付着因子ではなく、能動的な内在化受容体として機能していることを強く支持している。
新規性: 本研究で初めて、エクソソームの内在化が単なる非特異的な膜融合やマクロピノサイトーシスではなく、HS鎖の特定の硫酸化構造(2-O硫酸化およびN-硫酸化)を厳密に認識する受容体介在性プロセスであることを、遺伝学的な変異細胞株 (pgsE, pgsF) を用いて新規に証明した。さらに、エクソソーム自体にもHSPG(シンデカンやグリピカン)が内包・随伴しているという生化学的事実を提示しつつも、内在化の駆動には受容細胞側のHSPGのみが必須であるという非対称的な役割分担を明確にした。
臨床応用: 本研究の成果は、がんの治療戦略および薬物送達システム (DDS) の開発において極めて高い臨床的意義を持つ。がん細胞由来エクソソームによる微小環境の悪性化(細胞遊走やシグナル活性化)を阻止するために、低分子量ヘパリン (LMWH) やHSPG模倣小分子、あるいはPG合成阻害剤 (PNP-Xyl) を用いてエクソソームの取り込みを標的治療的に阻害する臨床応用アプローチが考えられる。また、治療用エクソソームを設計する際、特定のHS修飾パターンを持つ標的組織へ選択的に送達するためのドラッグデリバリー技術への応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、第一に、がん細胞以外の正常生理環境におけるHSPG依存的エクソソーム取り込みの普遍性の検証が挙げられる。第二に、エクソソーム側の表面に存在し、受容細胞側の負に帯電したHS鎖と相互作用する対受容体(リガンドタンパク質)の同定が必要である。第三に、シンデカンやグリピカンといった個々のHSPGサブタイプが、エクソソームのシグナル伝達においてどのように異なる役割を果たしているのか、詳細な分子メカニズムの解明が待たれる。Limitation として、HSPGを完全に欠損または分解させても、約40〜50%のエクソソーム取り込みが残存したことから、HSPG非依存的な代替経路の存在も示唆されており、これらの協調的経路の解明も残された課題である。
方法
細胞培養およびエクソソームの単離・標識: ヒト膠芽腫細胞株である U-87 MG、U118 MG、LN18 (patient-derived glioblastoma cell lines)、およびチャイニーズハムスター卵巣 (CHO: Chinese hamster ovary) 細胞株である野生型 CHO-K1、各種糖鎖合成変異株を使用した。U-87 MG細胞の培養上清から超遠心法によりエクソソームを単離した。単離した小胞は電子顕微鏡 (EM: electron microscopy) 観察、およびウェスタンブロット法によるマーカータンパク質(CD63、CD81、RAB5 (Ras-related protein Rab-5) 陽性、GM130 (cis-Golgi matrix protein of 130 kDa) およびα-tubulin陰性)の検出により品質を評価した。エクソソームの脂質二重膜は蛍光色素 PKH26 または PKH67 を用いて標識した。
エクソソーム取り込み定量アッセイ: 標識エクソソームを標的細胞に添加し、フローサイトメトリー (mean cell fluorescence) および共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞内取り込みを定量した。取り込みの特異性は、4°Cでの処理、または過剰量の未標識エクソソームとの競合実験により検証した。
糖鎖変異細胞株を用いた遺伝学的解析: HSPGの役割を特定するため、以下のCHO変異株を使用した。
- pgsA-745: キシロシルトランスフェラーゼ (XYLT: xylosyltransferase) 欠損により、プロテオグリカン (PG: proteoglycan) 合成が野生型の約5%に低下した株。
- pgsE: N-デアセチラーゼ/N-スルホトランスフェラーゼ (NDST: N-deacetylase/N-sulfotransferase) 欠損により、HSのN-硫酸化が欠損した株。
- pgsF: 2-O-スルホトランスフェラーゼ (2OST: 2-O-sulfotransferase) 欠損により、HSの2-O-硫酸化が欠損した株。
薬理学的・酵素的阻害実験: 細胞をヘパリナーゼ I/III (heparinase I/III) またはコンドロイチナーゼ ABC (chondroitinase ABC) で前処理し、細胞表面のHSPGまたはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CSPG: chondroitin sulfate proteoglycan) を選択的に分解した。また、PG合成阻害剤である4-nitrophenyl β-D-xylopyranoside (PNP-Xyl) を用いて薬理学的にPG合成を抑制した。さらに、外因性のヘパリン、各種硫酸化パターンのヘパラン硫酸 (HS-2, HS-6)、コンドロイチン硫酸 (CS-4, CS-6)、低分子量ヘパリン (LMWH: low molecular weight heparin) である enoxaparin、dalteparin、tinzaparin を用いた競合阻害実験を行った。
統計解析: 実験データは 3 回以上の独立した実験から得られた平均値 ± 標準偏差 (mean ± SD) として表記した。2群間の比較には Student’s t-test を使用し、p<0.05 をもって統計学的に有意と判定した。