• 著者: Jason M. Aliotta, Mandy Pereira, Edmund H. Sears, Mark S. Dooner, Sicheng Wen, Laura R. Goldberg, Peter J. Quesenberry
  • Corresponding author: Jason M. Aliotta (Division of Hematology and Oncology / Division of Pulmonary, Sleep and Critical Care Medicine, Rhode Island Hospital / Brown University Alpert Medical School, Providence, RI, USA)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26385657

背景

多細胞生物における細胞間コミュニケーションは、直接的な細胞間接触や分泌分子の転送によって媒介されることが広く知られている。しかし、近年、細胞外小胞 (EV) の転送を介した新たな細胞間コミュニケーション機構が注目されている。EVは、起源細胞の細胞膜と同様の脂質二重膜に囲まれた球状の構造体であり、細胞質成分、mRNA、miRNA、タンパク質などを内包する。EVは自発的に放出されるだけでなく、低酸素、ずり応力、放射線、化学療法薬、サイトカインなどの外的ストレスに応答して分泌されることも報告されている Ratajczak et al. Leukemia 2006。血小板や赤血球由来のEVは数十年前から知られており、当初は細胞の老廃物と考えられていたが、その細胞源はほぼ全ての既知の細胞種に拡大し、その生物学的関連性も認識されつつある Thery et al. NatRevImmunol 2009

著者らのグループは以前、致死量放射線照射マウスの肺において骨髄細胞が肺上皮細胞成分に寄与しうることを示しており、その機序として、損傷した肺上皮細胞が放出するEVが骨髄細胞に取り込まれ、損傷した上皮の再構築を助ける可能性を提唱してきた。先行研究では、マウス肺細胞由来のEVであるLDEV (lung-derived extracellular vesicle) をWBM (whole bone marrow) 細胞と共培養すると、肺上皮細胞特異的遺伝子およびタンパク質の発現がin vitroで最長12週間持続することが示されている。さらに、LDEV処理WBM細胞を致死量放射線照射マウスに移植すると、未処理WBM細胞を移植したマウスと比較して、WBM由来II型肺胞細胞が肺に最大5倍多く形成されることが報告されている。また、ラット/マウスキメラ系を用いた以前の研究では、初期の共培養骨髄細胞から検出される肺上皮細胞mRNA転写産物がマウスとラットの両方に由来することから、起源細胞のmRNAと転写活性因子が転送されることが示唆された。しかし、2週間以降の共培養では、肺上皮細胞mRNA転写産物がマウス特異的となり、de novo転写が誘導されることが示唆されていた。

しかし、これらの先行研究では、骨髄内のどの特定の細胞集団 (造血幹/前駆細胞か、あるいは分化済み造血細胞か) がLDEVを安定的に取り込み、その結果として肺上皮細胞遺伝子の持続的発現を示すのかは未解明であった。細胞療法開発の観点から、移植に用いる最適な骨髄細胞集団を特定するためには、この知識ギャップを埋めることが必須である。特に、EVによる細胞表現型の安定的な変化は、細胞ベースの治療法開発において重要な考慮事項となるため、LDEVが骨髄細胞のどのタイプを安定的に修飾するのかを定義するデータが不足していた。このように、特定の骨髄細胞亜群における詳細な取り込み動態やエピジェネティックなリプログラミング能の有無については、依然として大きな知識ギャップが存在し、詳細な検証が不足していた。

目的

本研究の目的は、マウス骨髄由来の造血幹/前駆細胞であるLin-/Sca-1+ (lineage depleted, stem cell antigen-1 positive) 細胞と、分化済み造血細胞である赤血球系細胞であるTer119+ (ter-119 erythroid cells) 細胞、顆粒球であるGr-1+ (granulocyte-1) 細胞、B細胞であるCD19+ (cluster of differentiation 19) 細胞のそれぞれが、in vitroで肺由来細胞外小胞 (LDEV) を取り込む能力を評価することである。さらに、LDEV取り込みによって誘導される肺上皮細胞特異的遺伝子発現の安定性、持続性、およびde novo転写の有無を検証することを目的とする。具体的には、LDEV取り込み細胞と非取り込み細胞における肺上皮細胞遺伝子パネルの発現を比較し、長期培養における発現の持続性を評価する。加えて、ラット由来LDEVとC57BL/6マウス骨髄Lin-/Sca-1+細胞を用いたハイブリッド共培養系を構築し、LDEV由来mRNAの直接転送と、それに続く宿主細胞ゲノムからの新規転写 (de novo転写) の二段階機序を直接的に証明することを目的とした。これらの知見は、肺上皮表面の損傷を伴う疾患に対する細胞ベースの治療法において、最適な骨髄細胞タイプを決定するための基礎となる。

結果

骨髄細胞集団におけるLDEVの不均一な取り込み動態: CFSE標識LDEVを各骨髄細胞集団と48時間共培養した結果、Lin-/Sca-1+細胞、Ter119+細胞、CD19+細胞、Gr-1+細胞の全4集団において、LDEV取り込み細胞 (CFSE陽性細胞) がフローサイトメトリーで検出された (Figure 1)。蛍光顕微鏡観察では、CFSEシグナルがすべての細胞タイプにおいて核周囲のペリニュークリアパターンに局在していることが確認され (Figure 2)、LDEVがエンドソーム経路を通じて細胞内に取り込まれていることを示した。LDEV陽性細胞の割合は、Ter119+細胞で25.2% (標準誤差2.4%, n=6 replicates)、CD19+細胞で29.5% (標準誤差4.1%, n=6 replicates)、Gr-1+細胞で29.2% (標準誤差8.4%, n=6 replicates) であったのに対し、Lin-/Sca-1+細胞では15.3% (標準誤差1.1%, n=6 replicates) と有意に低かった (p<0.05, Wilcoxon rank sum test; Table I)。この結果は、幹/前駆細胞は分化済み細胞と比較してLDEVを取り込みにくいものの、一定割合の細胞は確実にLDEVを取り込むことを示している。

取り込み細胞における肺上皮特異的遺伝子の高発現誘導: フローサイトメトリーで分取直後のLDEV陽性細胞とLDEV陰性細胞におけるRT-PCR解析では、すべての4細胞集団において、LDEV陽性細胞がLDEV陰性細胞と比較して肺上皮細胞遺伝子パネル (Aqp5、sftpa1、sftpb、sftpc、sftpd、CCSP) を有意に高発現していた (多くの遺伝子でp<0.05, Student’s t-test; Figure 3)。LDEV陰性細胞でのこれらの遺伝子の発現は相対的に低いか、検出限界以下であった。例えば、n=3 cells (独立した実験バッチ) において、Lin-/Sca-1+ LDEV陽性細胞ではsftpcおよびsftpbが対応するLDEV陰性細胞と比較して約2.5〜3.0-fold increaseを示し、Gr-1+ LDEV陽性細胞でも同様に約2.0〜3.0-fold increaseが認められた (Figure 3)。また、クララ細胞マーカーであるCCSP (scgb1a1) もLDEV陽性集団で一貫して高発現していた。

長期培養における遺伝子発現持続と表現型リプログラミング: LDEV陽性およびLDEV陰性のLin-/Sca-1+細胞とGr-1+細胞を二次培養に移した実験では、LDEV陽性細胞において複数の肺上皮細胞遺伝子 (特にsftpc、sftpb、Aqp5) が2、4、6、8週間にわたって有意に高い発現を維持した (p<0.05, Student’s t-test; Figure 4)。LDEV陽性Lin-/Sca-1+細胞では、幹/前駆細胞遺伝子 (sca-1、CD150など) も持続的に高発現し、この表現型が長期的に維持されることが示された。一方、LDEV陽性Gr-1+細胞では、顆粒球マーカー遺伝子 (gr-1など) の発現が低下し、同時に幹/前駆細胞遺伝子 (sca-1、CD150) の発現が有意に上昇・維持された。このLDEV誘発による分化済み顆粒球の表現型リプログラミングは、EV転送が成熟細胞に対してもエピジェネティックな可塑性を誘導できることを示す顕著な知見である。

ラット/マウスキメラ実験によるde novo転写の直接的証明: C57BL/6Jマウス骨髄Lin-/Sca-1+細胞にFischer-344ラットLDEVを取り込ませた直後 (Day 0) のCFSE陽性細胞では、RT-PCR解析によりラット特異的Sp-BおよびSp-Cのみが検出され、LDEVからのmRNAが直接転送されることが確認された (Figure 5)。しかし、7日間の培養後 (Day 7) には、CFSE陽性細胞からマウス特異的Sp-BおよびSp-Cのみが検出され、ラット特異的転写産物は消失していた。これは、n=3 replicatesの独立した実験において、これらのmRNA種がマウスLin-/Sca-1+細胞によってde novoに産生されたことを示している。さらに、4週間の継代培養 (5継代) を通じて、LDEV陽性細胞では各継代でマウス特異的Sp-BおよびSp-Cの発現が維持されたのに対し、LDEV陰性細胞では継代を重ねるごとに発現が低下・消失していった (Figure 6)。この長期的なマウス特異的遺伝子の発現は、LDEVの取り込みが一時的なmRNAの供給にとどまらず、標的細胞のゲノム転写を恒久的に活性化することを示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、分画されていない全骨髄細胞を用いたLDEVによる表現型変化を示していたこれまでの研究と異なり、骨髄内の特定の細胞集団 (造血幹/前駆細胞および分化済み造血細胞) がLDEVを安定的に取り込み、肺上皮細胞遺伝子の持続的発現を示すことを初めて詳細に解析した。特に、Lin-/Sca-1+幹/前駆細胞よりも分化済み細胞 (Ter119+、CD19+、Gr-1+) の方がLDEVを有意に多く取り込むことが示された点は、細胞の取り込み効率と生物学的応答が必ずしも一致しないことを示唆しており、細胞固有の特性がLDEVに対する応答の多様性を規定することを示した。

新規性: 本研究で初めて、LDEVが分化済み顆粒球 (Gr-1+細胞) の表現型をリプログラミングし、顆粒球マーカー遺伝子の発現低下と幹/前駆細胞遺伝子の発現上昇を誘導することを新規に示した。このLDEV誘発による成熟細胞の可塑性誘導は、EV転送が細胞の運命決定に影響を与える新規なメカニズムを示唆する。また、ラット/マウスキメラ培養系を用いたde novo転写の直接的な証明は、LDEVが単なるmRNAのキャリアとしてだけでなく、宿主細胞の転写プログラムを安定的に活性化する因子を転送していることを明確に示した点で新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、肺損傷 (急性肺傷害、肺線維症など) の治療における骨髄細胞ベースの細胞療法において、LDEV前処理による肺上皮遺伝子の安定誘導がドナー細胞の治療効果を増強する可能性を示唆し、将来的な臨床応用に直結する。臨床的意義として、骨髄移植療法における最適な積荷細胞として、純化された幹細胞だけでなく、LDEVを効率的に取り込む分化細胞 (特に顆粒球系前駆細胞) が有望である可能性が考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、LDEVが肺細胞の混合集団から単離されており、どの特定のEV集団が骨髄細胞への作用を担うのかを特定する必要がある。また、LDEVに含まれる転写因子やエピジェネティック修飾因子がde novo転写を駆動する可能性が示唆されるが、その分子的詳細や候補因子の同定が今後の研究に必要である。8週間持続するde novo肺上皮遺伝子発現はエピジェネティック修飾 (クロマチンリモデリング、ヒストン修飾、DNAメチル化変化) の関与を強く示唆するが、そのメカニズムは未解明であり、これが本研究のlimitationである。

方法

実験動物: 全てのマウス研究は、ロードアイランド病院の動物実験委員会であるCMTT (committee on animal care and use) (承認番号: CMTT 0131-11, 0080-13) の承認を得て実施された。6〜8週齢の雄C57BL/6マウス (Jackson Laboratories) をすべての研究に使用した。

各細胞集団の分離: 全骨髄 (WBM) から単核細胞をOptiPrep密度勾配遠心 (1,000 g、30分) で分離した。Lin-細胞は、抗Ter119、B220、Mac-1、Gr-1、CD4、CD8抗体 (BD Biosciences) とDynabeads M450抗ラットIgGを用いて磁気カラムで除去した。Lin-/Sca-1+細胞は、APC標識抗Sca-1抗体 (BD Biosciences) で標識後、5レーザーBecton Dickinson Influx高速セルソーターで分取した。分化細胞は、WBM細胞を抗Ter119-APC (赤血球系)、CD19-Pacific Blue (B細胞)、Gr-1-APC (顆粒球) 抗体 (Invitrogen) で標識後、同様にソートした。死細胞はヨウ化プロピジウム (PI) 染色で排除した。

LDEV単離・標識: マウス肺細胞をディスパーゼで解離後、BEGM培地 (Lonza) で7日間培養した。培養上清から細胞を300 gで10分間遠心分離して除去し、無細胞培地を100,000 gで1時間、4°Cで2回超遠心分離してLDEVを単離した。LDEVはBCAアッセイとNanoSight NS500で定量した。蛍光標識はCFSE (カルボキシフルオレセインN-スクシンイミジルエステル、0.02 μM、37°C、15分) で行い、10%FBS/PBS添加後100,000 gで1時間遠心分離して過剰色素を除去した。

LDEV取り込み実験: 各骨髄細胞集団 (5 × 10^5個) を6ウェルプレートで48時間、1マウス肺相当のCFSE標識LDEV (BCAタンパク質アッセイで25 μg EVタンパク質) と共培養した。細胞は300 gで10分間遠心分離して回収し、5レーザーセルソーターでCFSE陽性 (LDEV取り込み群) とCFSE陰性細胞に分取した。蛍光顕微鏡 (Zeiss Axioplan 2、63倍対物レンズ) でCFSEシグナルの細胞内局在を確認した。

長期培養・RT-PCR: CFSE陽性、CFSE陰性、および未処理対照細胞をDMEM-glutamax (+15% FBS、1% PS、SCF 50 ng/mL、37°C) で2、4、6、8週間二次培養し、各時点でRNAを回収した。RT-PCR解析には10 ngのRNAを使用し、2-ΔΔCt法で相対的遺伝子発現を算出した。ハウスキーピング遺伝子としてβ2-microglobulinを使用した。統計解析はStudent’s t-testまたはWilcoxon rank sum testを使用し、p ≤ 0.05を統計的有意差とした。

ラット/マウスキメラ培養: Fischer-344ラット肺由来CFSE標識LDEV (25 μg) とC57BL/6マウス骨髄Lin-/Sca-1+細胞を48時間共培養後、フローサイトメトリーでCFSE陽性/CFSE陰性細胞を分取し、4週間培養 (5継代、各継代時にRNA回収) した。マウス特異的およびラット特異的プライマーを用いてsftpbおよびsftpcの発現を解析した。