- 著者: Lamiaa El-Shennawy, Andrew D. Hoffmann, Nurmaa Khund Dashzeveg, Kathleen M. McAndrews, Paul J. Mehl, Daphne Cornish, Zihao Yu, Valerie L. Tokars, Vlad Nicolaescu, Anastasia Tomatsidou, Chengsheng Mao, Christopher J. Felicelli, Chia-Feng Tsai, Carolina Ostiguin, Yuzhi Jia, Lin Li, Kevin Furlong, Jan Wysocki, Xin Luo, Carolina F. Ruivo, Daniel Batlle, Thomas J. Hope, Yang Shen, Young Kwang Chae, Hui Zhang, Valerie S. LeBleu, Tujin Shi, Suchitra Swaminathan, Yuan Luo, Dominique Missiakas, Glenn C. Randall, Alexis R. Demonbreun, Michael G. Ison, Raghu Kalluri, Deyu Fang, Huiping Liu
- Corresponding author: Raghu Kalluri (Department of Cancer Biology, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA); Deyu Fang (Department of Pathology, Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, IL, USA); Huiping Liu (Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, IL, USA)
- 雑誌: Nature communications
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-01-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 35058437
背景
SARS-CoV-2 (severe acute respiratory syndrome coronavirus 2) およびその変異株(α、β、δなど)は、宿主細胞表面のACE2 (angiotensin-converting enzyme 2) 受容体を介して感染することが知られている。COVID-19パンデミックは、急速に進化する変異株と世界的なワクチン接種の遅れにより、依然として大きな課題となっている。特に、α、β、δなどの変異株は、野生型(WT)株と比較して感染率や致死率が高いことが報告されている (Korber et al. 2020; Becerra-Flores & Cardozo 2020)。既存のモノクローナル抗体療法は、特定のウイルスエピトープに依存するため、変異株に対して効果が減弱する傾向がある (Planas et al. 2021)。このため、広範なSARS-CoV-2株および将来出現する可能性のあるコロナウイルスに対しても有効な、新規治療アプローチの開発が喫緊の課題である。
COVID-19患者の血液中には、循環細胞外小胞(EV)が豊富に存在することが知られている。これらのEVが細胞表面のACE2を膜タンパク質として搭載している可能性が示唆されていたが、その抗ウイルス機能についてはこれまで未解明であった。また、可溶性組換えヒトACE2(rhACE2)は、SARS-CoV-2感染を阻止する効果が比較的弱いことが報告されており (Monteil et al. 2020; Wysocki et al. 2021)、より効率的な中和戦略が求められていた。EVは、その多様な生理学的および病理学的機能、ならびに新規バイオマーカーおよび次世代の生物学的治療薬としての可能性が注目されている (Kibria et al. 2018)。特に、エクソソームは、細胞表面に多くのタンパク質を提示し、抗ウイルス免疫応答に影響を与えることが示されている (Chen et al. 2018; Poggio et al. Cell 2019)。本研究は、COVID-19患者血漿中のACE2発現EV(evACE2)の抗ウイルス機能に焦点を当て、その治療的応用可能性を探ることを目的とした。既存の治療法では対応しきれない変異株に対する広域スペクトルな防御機構の発見は、COVID-19対策において極めて重要である。このような背景から、evACE2の抗ウイルス機能の全容解明は、依然として不足している治療選択肢を補完する上で重要な課題である。
目的
本研究の目的は、COVID-19患者血漿中のACE2発現細胞外小胞(evACE2)の動態を詳細に解析することである。具体的には、evACE2がSARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)結合、ウイルス感染、および広範な変異株による感染を中和する機能をin vitroで検証する。さらに、hACE2トランスジェニックマウスモデルを用いて、evACE2の前臨床的な治療効果をin vivoで確認し、その広域スペクトル抗ウイルス機構としての可能性を評価する。最終的に、evACE2がCOVID-19に対する新規治療法として開発可能であるかどうかの根拠を提供することを目指す。
結果
COVID-19患者血漿中のevACE2増加: 高感度MFV (microflow vesiclometry) による1粒子分解能解析の結果、急性期COVID-19患者血漿中のACE2⁺EV(CD63⁺EVサブセット内)は、陰性対照と比較して有意に増加していることが明らかになった (p=0.038, p=0.0061, p=0.0016)。その動態は急性期に最も高く、回復期には減少する傾向を示した (Fig. 1a, b)。また、A549-ACE2過剰発現細胞をSARS-CoV-2に感染させると、ACE2⁺TSG101⁺EVの分泌が増加することが確認され、evACE2の産生がSARS-CoV-2感染に対する自然免疫応答の一部であることが示唆された。この結果は、COVID-19患者 n=89例の血漿サンプルを用いた解析に基づいている。
evACE2の特性解析と1小胞当たりACE2分子数: 精製されたevACE2は、エクソソームマーカーであるCD63、CD81、TSG101、Syntenin-1に陽性であり、小胞体マーカーGRP94には陰性であった (Fig. 1f)。免疫cryo-EM (cryogenic electron microscopy) による解析では、ACE2が約52%の小胞に検出された (Fig. 1g)。ELISAおよびウエスタンブロット解析により、各evACE2小胞には20〜40個のACE2分子が存在すると推定された。Optiprep密度勾配分画では、フルレングスACE2がCD81⁺小型EV画分に集中し、エクソメア画分(HSP90⁺)にはほとんど検出されないことが確認された。これは、evACE2が主に小型EVに濃縮されていることを示唆する。NTA (nanoparticle tracking analysis) 解析では、ACE2⁺EVは平均サイズが約180-200 nmであり、1 µgのEVタンパク質あたり6-8 × 10⁷個のEV粒子が存在した (Fig. 1e)。
RBD結合阻害のIC50(vs rhACE2との比較): RBD-AF647結合阻害アッセイにおいて、evACE2(HEK細胞由来ev1ACE2: IC50=77.06 pM; HeLa細胞由来ev2ACE2: IC50=87.16 pM)は、可溶性rhACE2(IC50=10.37 nM)と比較して、約120〜135倍高い効率でSARS-CoV-2 RBDの結合を阻害した (Fig. 2c)。ACE2⁻EVにはこの効果は認められなかった。この結果は、evACE2がrhACE2よりもはるかに強力なデコイ受容体として機能することを示唆している。このアッセイは、各条件につき n=2 experiments with two technical replicates で実施された。
偽ウイルス感染予防(60倍)および本物ウイルス感染予防(80倍): SARS-CoV-2 S⁺偽ウイルス感染に対する中和効果のIC50値は、ev1ACE2が8.01 pM、ev2ACE2が13.63 pMであったのに対し、rhACE2は459.50 pMであった (Fig. 2d)。これは、evACE2がrhACE2と比較して約34〜58倍高い効率で偽ウイルス感染を阻止することを示す。本物のWT SARS-CoV-2(400 pfu)を用いたVero-6細胞感染実験では、evACE2のIC50は41.92〜93.65 pMであったのに対し、rhACE2のIC50は7.24 nMであり (Fig. 2e)、evACE2が約80倍高い効率でウイルス感染を中和することが示された。感染細胞におけるウイルス量(PCR)も、evACE2処置群で有意に低下した (Supplementary Fig. 5i)。この実験は、n=3 biological replicates で実施された。
変異株(α、β、δ)に対するWT以上の中和効果: 偽ウイルスを用いたα(B.1.1.7)、β(B.1.351)、δ(B.1.617.2)変異株に対する中和試験では、evACE2はWT株と比較して4〜5倍高い中和効果を示した (Fig. 2g)。本物のαおよびβ変異株を用いたVero-6細胞感染実験でも、evACE2はWT株と同等またはそれ以上の効果を発揮することが確認された (Fig. 2h)。これは、Sタンパク質の変異によりRBDとACE2の親和性が高まることで、evACE2の競合阻害がより効果的になるというメカニズムと一致する。この結果は、evACE2が広範な変異株に対して有効な治療戦略となりうることを示唆する。
患者血漿EV由来evACE2の中和機能: 急性期COVID-19患者血漿から分離されたEV(RBD-IgGが検出されないCBB-007およびCBB-012を含む)は、Vero-6細胞のSARS-CoV-2感染による細胞死を完全に阻止した (Fig. 3d)。RBD磁気ビーズを用いてACE2⁺EVを除去すると、血漿EVの中和活性が有意に低下した (p=5.11×10⁻⁵) (Fig. 3f)。多変量回帰分析の結果、evACE2は血漿中和活性の6.7%に寄与していることが示された (p=0.027)。この分析には n=30 measurable data points が用いられた。
hACE2マウスモデルでの前臨床効果: 10,000 pfuのSARS-CoV-2を鼻腔内感染させたhACE2トランスジェニックマウスにおいて、コントロールEV処置群のマウスはほぼ全例が1週間以内に死亡したのに対し、evACE2(130 µg/mouse)処置群では80%のマウスが生存した (p<0.05) (Fig. 4a)。evACE2処置群では、肺ウイルス量、肺炎症スコア、肺胞出血/壊死スコアが有意に低下した (Fig. 4b, d, e)。具体的には、evACE2処置群 (n=10 mice) では肺ウイルス量が有意に低く (p=0.013)、炎症スコア (p=0.005) および肺胞出血/壊死スコア (p=0.003, p=0.0004) も有意に改善された。PKH67標識evACE2の経鼻投与後、その生体内分布は主に肺に限局しており (Supplementary Fig. 6g, h)、局所治療として機能することが示唆された。
考察/結論
本研究は、COVID-19患者血漿中に増加するACE2発現細胞外小胞(evACE2)が、SARS-CoV-2感染に対する新規の自然抗ウイルス機構として機能することを初めて系統的に実証した。この発見は、ウイルス受容体のデコイとして機能する小型EVの可能性を明確に示した点で新規性がある。
先行研究との違い: これまでの研究では、可溶性組換えヒトACE2(rhACE2)がSARS-CoV-2感染を阻害することが示唆されていたが (Monteil et al. 2020; Wysocki et al. 2021)、本研究の結果は、evACE2が可溶性rhACE2と比較して80〜135倍高い中和効果を発揮することを示した点で対照的である。この高い効率は、EV表面に膜タンパク質として提示されたACE2が、受容体結合に最適な立体配座を維持すること、および1小胞あたり20〜40個のACE2が集積することで空間的な阻害効果が増幅されるというメカニズムによって説明されると考えられる。
新規性: 本研究で初めて、evACE2がα、β、δ変異株を含む広範なSARS-CoV-2株に対して、野生型株と同等またはそれ以上の中和効果を示すことを明らかにした。これは、Sタンパク質のRBDとACE2の親和性が高まるにつれて、evACE2の競合阻害がより有効になるというメカニズムと一致し、evACE2が広域スペクトル抗ウイルス薬としての可能性を秘めていることを新規に示した。また、COVID-19患者血漿中のevACE2が独立した中和因子として機能することは、液体生検バイオマーカーとしての可能性も示唆する。
臨床応用: evACE2は、hACE2トランスジェニックマウスモデルにおいて、SARS-CoV-2による肺損傷と死亡を有意に阻止し、優れた前臨床的治療効果を示した。経鼻投与されたevACE2が主に肺に局所的に分布したことは、COVID-19に対する局所治療としての臨床応用が期待される。既存のワクチンやモノクローナル抗体療法では対応が難しい変異株に対しても有効であるため、evACE2は将来的なコロナウイルス感染症に対する広域スペクトルな治療薬として、臨床現場での有用性が高いと考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、evACE2の大量製造プロセスの最適化、経鼻投与以外の投与経路の検討、および他のACE2を利用するコロナウイルス(SARS-CoVやOC43など)への応用可能性の評価が残されている。また、evACE2の生体内での安定性、薬物動態、および長期的な安全性プロファイルの確立も今後の研究で必要である。これらの課題を克服することで、evACE2は広域スペクトル抗ウイルス治療薬として開発される可能性を秘めている。
方法
本研究では、COVID-19患者(急性期、回復期)および陰性対照の血漿サンプル(n=89例)から循環evACE2を検出するため、高感度マイクロフロー・ベシクロメトリー(MFV)を用いた1粒子分解能解析を実施した。evACE2の特性解析のため、HEK-293細胞およびHeLa細胞にACE2を安定発現させた細胞株を樹立し、その培養上清から超遠心分離(100,000×g)によりevACE2を精製した。精製されたevACE2は、ナノ粒子追跡解析(NTA)、ウエスタンブロット、免疫電子顕微鏡(cryo-EM)、ELISA、およびOptiprep密度勾配分画により、そのサイズ、表面マーカー(CD63, CD81, TSG101, Syntenin-1)、ACE2発現量、および純度を評価した。特に、cryo-EMおよびELISA/ウエスタンブロットを用いて、1小胞あたりのACE2分子数を推定した。
SARS-CoV-2 RBD (receptor binding domain) 結合阻害アッセイは、RBD-AF647結合阻害フローサイトメトリーアッセイを用いて実施し、evACE2と可溶性組換えヒトACE2(rhACE2)のRBD結合阻害能を比較し、IC50値をGraphPad Prism 9.0.2で算出した。ウイルス感染阻害アッセイには、SIV3由来SARS-CoV-2 S⁺偽ウイルス(Luc2-IRES-Cherryおよびルシフェラーゼレポーター搭載)を使用し、フローサイトメトリーおよびルシフェラーゼ活性測定により感染阻害効果を評価した。さらに、本物のWT SARS-CoV-2(400 pfu)を用いたVero-6細胞生存率アッセイおよびウイルス量(PCR)アッセイにより、evACE2の直接的な抗ウイルス効果を検証した。
SARS-CoV-2変異株に対する中和効果を評価するため、α(B.1.1.7)、β(B.1.351)、δ(B.1.617.2)変異株の偽ウイルスおよび本物ウイルスに対する中和試験を実施した。COVID-19患者血漿由来EVの中和機能については、cryo-EM、ウエスタンブロット、およびRBD磁気ビーズ枯渇実験により、ACE2⁺EVが中和活性に寄与していることを確認した。多変量回帰分析を用いて、evACE2が血漿中和活性に寄与する割合を算出した。
前臨床治療効果の評価には、hACE2トランスジェニックマウス(Jackson Laboratory)を用いた。マウスに10,000 pfuのSARS-CoV-2を鼻腔内感染させた後、evACE2(130 µg)またはコントロールEVを鼻腔内投与し、死亡率、肺ウイルス量、肺組織病理(H&E染色による炎症スコア、肺胞出血/壊死スコア)を評価した。PKH67標識evACE2の経鼻投与後の生体内分布も確認した。統計解析には、Microsoft Excel、R 4.0.2、およびGraphPad Prism 9.0.2ソフトウェアを使用し、t検定、一元配置ANOVA、Log-rank検定などを適用した。