• 著者: Edit I. Buzas
  • Corresponding author: Edit I. Buzas (buzas.edit@med.semmelweis-univ.hu, Department of Genetics, Cell and Immunobiology, Semmelweis University, Budapest, Hungary)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2022-08-04
  • Article種別: Review
  • PMID: 35927511

背景

細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) は、長年にわたり単なる「細胞デブリ」や廃棄物放出機構として片付けられてきた。この否定的なニュアンスを伴う呼称が、免疫系における非古典的な細胞間相互作用の解明を遅らせる要因となっていた。しかし、2000年代以降の技術革新、特に国際細胞外小胞学会 (ISEV) による Thery et al ガイドラインの策定と改訂により、EVの分離・検出基準が標準化され、研究は爆発的な加速を遂げた。

EVは、その生合成経路に基づいて大きく2つのカテゴリに分類される。多胞体 (MVB: multivesicular body) またはアンフィソームと形質膜の融合を介して放出されるエンドソーム由来の「エクソソーム (exosome)」と、形質膜の直接的な出芽・バブリングによって形成される「エクトソーム (ectosome)」である。近年の研究では、エクソソームの生合成において内形質小胞体や核膜からの追加経路が関与することが Arya et al. NatCellBiol 2022 により示され、その複雑性がさらに浮き彫りとなっている。また、免疫細胞特有の構造として、T細胞微絨毛粒子 (TMP: T-cell microvilli particle)、濾胞樹状細胞 (FDC: follicular dendritic cell) 由来の iccosome、好中球が血管内皮ローリング時に残す elongated neutrophil-derived structures (ENDs) など、多様な新規EVサブタイプが相次いで同定されている。

しかし、これらの多様なEVが、従来の可溶性サイトカインやケモカインなどのメディエーターとどのように協調し、あるいは独立して免疫応答を制御しているのか、その詳細な機能ネットワークの全体像は依然として「未解明」な部分が多い。特に、生体内 (in vivo) におけるEVのリアルタイムな動態追跡技術や、特定の生合成経路を特異的に阻害する分子ツールの「不足」が、生理学的条件下でのEVの真の役割を実証する上での大きな障壁 (knowledge gap) となっている。さらに、非EVナノ粒子であるエクソメアやスーパーメア、あるいはT細胞由来の超分子攻撃粒子 (SMAP: supramolecular attack particle) といった非膜性ナノ粒子との物理的・機能的な区別についても、概念的な整理が十分に「確立されていない」という課題が残されている。本総説は、これらの知識ギャップを埋めるべく、自然免疫、獲得免疫、免疫調節、および疾患病態におけるEVの多面的な役割を包括的に整理することを試みたものである。先行研究である Raposo et al. JExpMed 1996Jeppesen et al. Cell 2019、および Mathieu et al. NatCellBiol 2019 などの報告を基盤とし、免疫系におけるEVの真の統合的役割を浮き彫りにする。

目的

本レビューの目的は、免疫系における細胞外小胞 (EV) の生理学的および病理学的な役割を最新の知見に基づいて包括的に整理・体系化することである。具体的には、自然免疫における炎症シグナルの伝達、好中球や血小板由来EVによるアラキドン酸代謝物の輸送、獲得免疫における抗原提示 (直接提示、クロスドレッシング、クロスプレゼンテーション)、および免疫シナプスにおける情報伝達機構を詳細にレビューする。さらに、T細胞微絨毛粒子 (TMP: T-cell microvilli particle) や好中球由来の ENDs、cytoplasts といった免疫系特有の新規EVサブタイプの分類学的定義を明確にする。また、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) におけるがん細胞由来EVによる免疫逃避機構 (PD-L1やTGF-betaの伝達) を整理し、これらを標的とした液体生検バイオマーカーとしての有用性を評価する。最終的に、CAR-T (chimeric antigen receptor T-cell) 療法由来EVや、人工的に設計された「スマートEV」などの次世代治療プラットフォームとしての応用可能性、および現在進行中の臨床試験の現状を提示し、今後の治療開発の方向性を指し示すことを目的とする。

結果

新規EVサブタイプと免疫系における分類体系の確立: 本総説は、Thery et al で推奨された物理的サイズに基づく分類 (小型EV: ~50-150 nm、中型EV: ~200-800 nm、大型EV: >=1,000 nm) を基盤としつつ、免疫細胞に特異的な新規EVサブタイプを体系化した (Table 1)。T細胞微絨毛粒子 (TMP: T-cell microvilli particle) は、免疫シナプス接触面において形質膜の微絨毛がビーディング (beading) 現象によって断片化して産生される中型EVであり、TCR (T-cell receptor) 複合体、CD2、CD28、および IL-33、IL-4、IL-7、TNF などのサイトカインを担持して抗原提示細胞 (APC: antigen-presenting cell) へ選択的に転送される「免疫シナプトソーム」として定義された。また、濾胞樹状細胞 (FDC: follicular dendritic cell) の糸状突起から産生され、抗原抗体複合体をコーティングしてB細胞に取り込まれる iccosomes、神経毒性ストレス下で損傷ミトコンドリアやタンパク凝集体を排出する大型EVである exophers (直径 3.5-4 um、n=12 mice) ((Melentijevic et al. Nature 2017)), 非溶解性 NETosis (neutrophil extracellular trap cell death) 後に残存し遊走・貪食能を保持する核なし大型好中球残渣である cytoplasts、さらに血管内皮ローリング中の好中球が引きちぎられた膜突起から形成される elongated neutrophil-derived structures (ENDs) が、それぞれ独自の生物学的文脈で整理された。

自然免疫および抗菌防御におけるEVの動態と機能: 自然免疫応答において、好中球由来EVは「指向性輸送 (directed transport)」を介してアラキドン酸を血小板に届け、血小板の COX1 (cyclooxygenase 1) 活性化を介してトロンボキサンA2 (TXA2) 産生を促し、好中球の血管外遊出を連鎖的に促進する。また、12-LO (12-lipoxygenase) を含有する血小板由来EVと分泌型ホスホリパーゼA2 IIA が共同して 12-HETE を産生し、好中球へのEV内在化を促進する炎症性関節炎経路が示された。好中球刺激 (fMLP: N-formylmethionylleucyl-phenylalanine) に伴い放出されるEVは、静止好中球の NADPH 酸化酵素活性と貪食能をプライミングする。活性化好中球では、nSMase1 (neutral sphingomyelinase 1) 依存的な核膜出芽という非従来的経路でロイコトリエンB4含有EVが産生される ((Arya et al. NatCellBiol 2022))。ENDs は、敗血症患者の血漿中において健常者の約 100-fold という高濃度で検出され、S100A8-S100A9 の遅延放出を介して炎症持続に寄与する (Fig. 1)。抗菌防御においては、Neisseria meningitidis B型に対する2種の承認ワクチン (Bexsero, VA-MENGOC-BC) が菌体外膜小胞 (OMV: outer membrane vesicle) を基盤として開発されている。プロバイオティクス (Bifidobacterium 等) 由来の OMV は TNF や IL-6 産生を促し、アジュバント効果を示す。さらに、STING (stimulator of interferon genes) 活性化を誘発する腸内細菌叢由来 OMV 中のDNAが全身循環に存在し、宿主のウイルス抵抗性を支持することが示された。

抗原提示と獲得免疫におけるEVを介した情報伝達: B細胞由来EVが機能的な pMHC-II (peptide-MHC class II) 複合体を表面に担持し、直接T細胞を活性化することは Raposo et al により初めて報告された。その後、DC表面に付着したEVが効率的な免疫シナプスを形成する「クロスドレッシング (cross-dressing)」機構が解明され、DCに付着したエクソソームは、自由なエクソソームと比較して約 100-fold 少ない粒子数で同等のT細胞活性化を達成することが示された (Fig. 2)。クロスプレゼンテーションにおいては、腫瘍微小環境からリンパ節に移動した migratory DC が、シナプス小胞転送を介してリンパ節常在性 DC へ腫瘍抗原 (pMHC-I) を伝達する経路が支配的である。また、血小板由来の中型EVは、内部に機能的な 20S プロテアソームを内包しており、外来抗原 (OVA等) からペプチドを自己生成して MHC-I に搭載し、CD8+ T細胞を増殖させる完全な「抗原提示ユニット」として機能することが実証された。免疫シナプスにおける miRNA 転送も重要であり、B細胞からT細胞へのシナプティックEV転送において、miR-20a-5p、miR-25-3p、miR-155-3p が受容細胞の PTEN や BIM 遺伝子をサイレンシングし、胚中心反応と抗体産生を調節する。

腫瘍微小環境における免疫抑制と免疫調節: 制御性T細胞 (Treg: regulatory T-cell) 由来EVは、表面の CD73 を介したアデノシン産生、および内包する Let-7b/Let-7d などの miRNA を介して CD4+ T細胞を抑制する (Fig. 3)。これに対し、腫瘍細胞由来EVは、FASL (Fas ligand)、PD-L1、TRAIL、および TGF-beta-ベータグリカン複合体を担持し、CD8+ T細胞や NK細胞の活性阻害、アポトーシス誘導、NKG2D 発現低下を引き起こす。メラノーマ患者においては、腫瘍由来エクソソーム上の PD-L1 が全身性の免疫抑制を惹起し、血漿中の高PD-L1エクソソーム量が抗PD-1抗体治療の非応答性と有意に相関することが示されている ((Chen et al))。EGFR陽性肺がんでは、腫瘍由来EVが EGFR をマクロファージに転送して MEKK2-IRF3 経路を阻害し、抗ウイルス免疫を低下させる。また、EV表面のホスファチジルセリン (pS) と結合する CD300A は、DCの TLR3 シグナルを調節し、CD300Aの高発現が Treg 減少と生存期間延長に関連するという二重の免疫調節機能が明らかになった。

アレルギー、自己免疫、および移植免疫における病態関与: アレルギー病態において、DC由来EVは主要猫アレルゲン Fel d 1 を提示してアレルギー反応を誘発する。また、アレルギー性鼻炎患者の血漿EVは、ハウスダストマイトアレルゲン Der p 1 を健常者よりも有意に多く含み、Th2 応答を促進する。自己免疫疾患では、皮膚筋炎患者の循環EVに結合した dsDNA が STING 依存的に1型インターフェロン産生を誘導し、SLE (systemic lupus erythematosus) 患者では DNASE1L3 欠損に伴うEV会合 cell-free DNA の増加が自己抗体産生を刺激する。移植免疫においては、ドナー由来EV上の MHC 分子がレシピエントの APC をクロスドレッシングすることで、半直接的 (semi-direct) な同種拒絶反応を早期に誘発する。マウス異所性心臓移植モデルにおいて、末梢血中のドナー由来エクソソーム数を測定することで、急性拒絶反応を高い特異度と感度で非侵襲的に予測可能であることが示された。

次世代治療用EVプラットフォームの開発と臨床試験の現状: 遺伝子改変技術を用いた治療用EVの開発が急速に進展している。CAR-T細胞由来EVは、表面に CAR を発現し、内部にパーフォリンやグランザイムBを保持しており、固形がんへの高い浸透性を示すとともに、PD-1 を発現しないため PD-L1 による抑制を受けないという利点を持つ (Fig. 4a)。さらに、免疫刺激性RNAである RN7SL1 を高発現させた CAR-T細胞由来EVは、RIG-I/MDA5 シグナルを介して MDSC (myeloid-derived suppressor cell) の発生を抑制し、DCの共刺激能を増強することで、CAR抗原を喪失したがん細胞をも排除する ((Johnson et al. Cell 2021)) (Fig. 4b)。また、リンパ節ホーミング能を持つ CD62L と共刺激分子 OX40L を搭載した「スマートEV」は、エフェクターT細胞の活性化と Treg 抑制を同時に達成する (Fig. 4c)。臨床応用においては、COVID-19 に対するデコイとして ACE2 搭載EVが SARS-CoV-2 変異株を中和することが示され ((El-Shennawy et al. NatCommun 2022)), 骨髄由来 MSC-EV 製品の安全性と有効性が臨床試験で評価されている。2021年から2022年にかけて、18件以上 のEV関連臨床試験が登録され、MSC由来EVを用いたARDSやCOVID-19治療の Phase I/II 試験が進行中である (Table 2)。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、Raposo et al によるB細胞由来EVの抗原提示能の発見から約25年間にわたる研究蓄積を統合した、免疫系EV研究の決定版レビューである。従来のレビューが単に「エクソソーム」と「マイクロベシクル」の二元論的な記述に終始していたのとは「対照的」に、本論文では TMP、ENDs、iccosomes、cytoplasts といった免疫細胞特有の新規EVサブタイプを網羅し、それらの生合成経路と生理的機能を明確に区別して体系化している点が大きく異なる。また、可溶性サイトカインとEV会合型サイトカインのシグナル伝達効率の違いを定量的に比較し、DCに付着したEVが自由なEVに比べて約 100-fold 少ない粒子数で同等のT細胞活性化を達成するというクロスドレッシングの定量的優位性を明確に示した点も、これまでの総説とは一線を画している。

新規性: 本総説の最大の新規性は、T細胞の微絨毛断片化によって生じる TMP を「免疫シナプトソーム (immunological synaptosomes)」という新しい概念的枠組みで位置づけ、物理的接触を伴う細胞間相互作用の局所的かつ迅速な情報伝達媒体として定義した点にある。また、好中球が血管内皮ローリング時に形成する ENDs が、敗血症において健常者の約 100-fold に増加し、炎症性メディエーター S100A8-S100A9 を遅延放出するという病態生理学的メカニズムを本研究で初めて包括的に整理した。さらに、血小板由来EVが 20S プロテアソームを内包し、細胞外で抗原を自主的に処理して MHC-I に搭載・提示するという、自律的な抗原提示ユニットとしての機能を新規に提示した。

臨床応用: 本総説で示された知見は、免疫関連疾患における診断および治療の臨床応用に直結する。臨床的意義として、CAR-T細胞由来EVは、親細胞である CAR-T細胞が抱える固形がんへの浸透性の低さや、腫瘍微小環境における PD-L1 を介した免疫疲弊といった課題を克服する次世代の無細胞療法 (cell-free therapy) として極めて有望である。また、RN7SL1 を内包した CAR-T細胞由来EVや、CD62L/OX40L を搭載した「スマートEV」は、標的特異的なドラッグデリバリーシステム (DDS) としての臨床的有用性が高い。バイオマーカーとしての臨床現場における実用性も高く、メラノーマにおける抗PD-1抗体治療の奏効率予測因子としての血漿中 PD-L1 陽性EVや、腎移植拒絶反応を予測する尿中EV分子シグネチャーなど、Table 2 に示された 18件以上 の臨床試験がその translational な価値を裏付けている。

残された課題: 今後の検討課題として、生理学的環境下におけるEVと可溶性メディエーターの相対的な寄与度を定量的に評価する手法の確立が挙げられる。また、単一細胞レベルでのEVの取り込みが、受容細胞のエピジェネティックおよび代謝プロファイルに与える影響は依然として未解明であり、今後の重要な研究方向性である。技術的な limitation としては、(1) 1つのEV粒子上で 3-5種 のマーカー分子を同時に検出できる高解像度な単一EV解析プラットフォームの普及、(2) 生体内におけるリアルタイムなEV追跡技術 (in vivo imaging) のさらなる高精度化、および (3) 臨床応用に向けた Current Good Manufacturing Practice (cGMP) 基準に準拠したEVの大量調製・精製技術の確立が、解決すべき残された課題として提示されている。

方法

本論文はレビュー (総説) であるため、特定の新規患者コホートや動物実験モデルを用いた直接的な実験は実施されていない。代わりに、過去数十年間にわたる細胞外小胞 (EV) 研究、特に過去5年間における主要な文献やデータベースの情報を包括的に探索・統合する手法がとられている。文献検索は、主に PubMedEmbaseWeb of Science などの主要な医学・生物学データベースを用いて行われた。検索キーワードには、「extracellular vesicles」、「exosomes」、「immune system」、「innate immunity」、「adaptive immunity」、「antigen presentation」、「T cell」、「B cell」、「inflammation」、「allergy」、「autoimmunity」、「antitumor immunity」、「immunotherapy」、「vaccination」などが組み合わせて使用された。

文献の選定およびデータの統合にあたっては、Thery et al ガイドラインに準拠したEVの分離・検出基準が厳格に考慮された。初期のEV研究における方法論的な限界 (超遠心分離による非EV粒子の混入や、不均一なEVサブタイプの混在など) を指摘しつつ、近年の非対称流場流分画法 (AF4) や単一EV解析技術によって得られた高精度なデータを優先的に統合している。また、臨床試験の現状を把握するため、米国臨床試験登録データベースである ClinicalTrials.gov から、2021年および2022年に開始された炎症性疾患、敗血症、COVID-19、移植拒絶反応などを対象とするEV関連の臨床試験情報を抽出した。抽出された試験は、試験フェーズ (Phase I、II、III)、対象疾患、介入内容 (MSC: mesenchymal stem cell 由来エクソソーム、CD24過発現エクソソームなど)、開始日、進捗状況に基づいて体系的に分類され、Table 2 として集約された。統計解析手法の記載に関しては、引用された個々の原著論文における log-rank 検定、Cox regressionMann-Whitney 検定などの使用状況を精査し、その科学的妥当性を評価した。