- 著者: Mauro Poggio, Tianyi Hu, Chien-Chun Pai, Brandon Chu, Cassandra D. Belair, Anthony Chang, Elizabeth Montabana, Ursula E. Lang, Qi Fu, Lawrence Fong, Robert Blelloch
- Corresponding author: Robert Blelloch (University of California San Francisco, San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 30951669
背景
PD-L1/PD-1軸は腫瘍免疫回避の主要機構であり、腫瘍細胞表面PD-L1が腫瘍浸潤T細胞のPD-1と結合することでTCR下流シグナルを抑制し、エフェクターT細胞の活性化を阻害する。抗PD-L1/PD-1抗体療法はメラノーマ・非小細胞肺がん・腎がんで奏効を示すが、奏効率は10-30%にとどまり、前立腺がんではほとんど奏効しない。この治療抵抗性の機序は大きく不明であった (Sharma et al. Cell 2017)。
腫瘍細胞がPD-L1を細胞外小胞 (extracellular vesicle; EV) 表面に放出することは複数の先行研究で報告されており、頭頸部がんやメラノーマ患者血漿中のエクソソームPD-L1レベルが腫瘍進行と関連すること、またanti-PD-1抵抗性メラノーマ患者では治療前エクソソームPD-L1が高値であることが示されていた (Chen et al. NatMed 2018)。エクソソームはRAB27A (Ras-associated protein Rab27A) 依存的な多小胞体 (multivesicular body; MVB) の形質膜融合とnSMase2 (neutral sphingomyelinase 2) 依存的な内腔小胞budding の2経路で生合成されることが知られており (Jeppesen et al. Cell 2019)、これらの遺伝子操作によりエクソソーム生合成を選択的に遮断できる。
しかしながら、エクソソームPD-L1が所属リンパ節 (draining lymph node; DLN) をはじめとする遠隔部位でT細胞機能を全身性に抑制できるか、遺伝的ノックアウトにより腫瘍細胞のエクソソームPD-L1分泌を選択的に阻害した際に治療的抗腫瘍免疫が誘導されるか、またエクソソームPD-L1が抗PD-L1抗体療法とは独立して免疫抑制に寄与するかについては、エクソソームPD-L1の全身免疫抑制機能と治療標的としての可能性に関する知見が手薄であり、gap in knowledge として残されていた。特に前立腺がんモデルでの体系的in vivo検証はなされていなかった。
目的
腫瘍エクソソームPD-L1がDLNおよび遠隔部位でCD8+T細胞活性を全身性に抑制する機序を解明し、CRISPR/Cas9によるRAB27A・nSMASE2・PD-L1ノックアウトでエクソソームPD-L1分泌を選択的に阻害した際の抗腫瘍免疫応答・全身性免疫記憶形成・遠隔腫瘍抑制効果、および既存抗PD-L1抗体療法との相補性を前立腺がん・大腸がんsyngeneicモデルで評価すること。
結果
PD-L1はエクソソームに選択的に分泌される: PC3細胞はSK-MEL-28に比べPd-l1 mRNAが約15-fold高いにもかかわらず、細胞タンパク質量は同等であった (Fig 1A-B)。タンパク質分解経路 (リソソーム阻害BafA1・プロテアソーム阻害MG132) では差異が説明できず、条件培地の100k×g分画においてPC3のPD-L1量はSK-MEL-28の2-3-fold多かった (Fig 1C)。NanoSightによる粒子数は両者でほぼ同等であったため、この差異はPC3がより多くのPD-L1を各エクソソームに搭載することに起因する (Fig 1D)。スクロース密度勾配でPD-L1はCD63・HRSと共に20-40%分画に共局在し、エクソソームへの特異的包含が示された (Fig 1F)。IFN-γ刺激はPD-L1の細胞分画・分泌分画を比例的に増加させたが、エクソソームへのPD-L1選択的動員には影響しなかった。Rab27a KO細胞ではCD63陽性エクソソームの分泌がほぼ完全に消失し、nSMase2 KO細胞でも100k×g分画のPD-L1が著明に低下した一方、両KO細胞で細胞表面PD-L1・増殖能は野生型と同等に保存された (Fig 2E-F)。
エクソソームPD-L1はin vitroでPD-1依存的にT細胞を抑制する: Raji B細胞/Jurkat T細胞 (PD-1過発現) のスーパー抗原提示系において、PC3由来100k×g分画はIL-2産生を用量依存的に抑制した (Fig 2H, 第3バー)。これはRaji細胞へのPD-L1外因性発現と同等の抑制効果を示した。Pd-l1 KO PC3細胞の同分画ではIL-2産生が回復したことから、T細胞抑制活性はエクソソームPD-L1に特異的であることが確認された (Fig 2H, 第4バー)。これはエクソソームPD-L1が細胞膜PD-L1と同様にPD-1シグナルを介してT細胞活性化を抑制できることを直接示す in vitro 証明である。外因性エクソソームPD-L1がT細胞プライミングを抑制するという本結果は、DLNでの全身性免疫抑制の生化学的基盤を提供した。
TRAMP-C2前立腺がんモデルでのエクソソームPD-L1による腫瘍増殖促進: C57BL/6 syngeneicマウスにWT TRAMP-C2細胞を移植した群 (n=10) は全例が35日前後で腫瘍形成し、40-71日以内に安死が必要となった。これに対し、Rab27a KO・Pd-l1 KO・nSMase2 KO群はいずれも同期間内に触知可能な腫瘍を形成せず、大多数が90日後も生存した (p<0.001、log-rank test; Fig 3E)。nSMase2 KO群では8/10例が90日時点で生存。一方、NSG免疫不全マウスでは4遺伝型すべてが同等の速度で腫瘍を形成・進行させ (Fig 3F)、RAB27A・nSMASE2のエクソソーム分泌促進作用が免疫系を介して腫瘍増殖に寄与することが証明された。
所属リンパ節でのT細胞活性化と免疫抑制解除: 腫瘍移植14日後のDLN免疫表現型解析 (n=5 mice/群) では、Rab27a KO・Pd-l1 KO群でWT群と比較して顕著な変化が認められた。CD8+T細胞分画が有意に増加し (Fig 4C)、疲弊マーカーTim3+細胞割合が低下、活性化マーカーGranzyme B+ CD8+T細胞が増加した (p<0.01; Fig 4H-4K)。さらにKi67+増殖マーカー陽性CD8+T細胞の割合も上昇した (Fig 4L)。脾臓重量 (mean ± SD) もWT群に比べKO群で有意に増大し、全身性免疫活性化が示唆された (Fig 4B)。Tregの割合は3群間で一定であり、特異的なエフェクターT細胞の活性化機構であることが示された。外因性WT TRAMP-C2エクソソームをRAB27A KO腫瘍移植マウスに尾静脈注射すると、Pd-l1 KOエクソソーム群と比べて脾臓重量が約50%減少し (Fig 7B)、DLNでTim3上昇・Granzyme B低下・CD8/CD4比低下が再現された (Fig 7F-K)。これらの変化はWT exosomeのみで観察され、Pd-l1 KO exosomeでは認められなかった。
全身性免疫記憶の形成とabscopal-like遠隔効果: Rab27a KO・Pd-l1 KO TRAMP-C2細胞で初回免疫されたマウス (n=5/群) に90日後に対側フランクへWT TRAMP-C2細胞を再チャレンジすると、全例で腫瘍増殖が完全に拒絶された (p<0.001; Fig 4O)。未感作齢対照マウスではWT腫瘍が正常増殖したことから、エクソソームPD-L1欠失腫瘍への初回露出により強固な長期抗腫瘍免疫記憶が形成されることが示された。遠隔効果を検証する実験では、WT TRAMP-C2細胞と Rab27a KO (またはPd-l1 KO・nSMase2 KO) 細胞を両フランクに同時移植した場合、KO側が存在するだけでWT側の腫瘍増殖が著明に抑制された (p<0.001; n=5 per condition; Fig 6B)。CD8+T細胞枯渇抗体投与でこの効果は消失し、CD8依存性が確認された。WT腫瘍の組織学的解析ではKO腫瘍が対側にある場合にリンパ球浸潤が劇的に増加しており (Fig 6E)、DLNで活性化されたT細胞が全身循環を介して遠隔腫瘍を攻撃することが示された。
MC38大腸がんモデルでの治療相補性: MC38モデルでは抗PD-L1抗体単独でも部分的な生存延長が得られたが、Rab27a KO単独の効果はPd-l1 KO単独より小さく (p<0.05)、細胞膜PD-L1とエクソソームPD-L1の両プールが免疫抑制に寄与することが示された (Fig 5E-F)。Rab27a;Pd-l1 double KO細胞の増殖曲線はPd-l1 single KOと同等であり、エクソソームがPD-L1を介して腫瘍増殖を促進していることの遺伝的上位性解析が確立した。Rab27a KOに抗PD-L1抗体を併用するとPd-l1 KO単独と同等の生存延長が得られ (p<0.05; Fig 5G)、エクソソームPD-L1と細胞膜PD-L1が加算的・非冗長的に免疫抑制に寄与し、エクソソームPD-L1が現行抗体療法の届かない抵抗性プールとして機能することが証明された。外因性MC38 WT exosomeをRAB27A KO MC38移植マウスに注射すると腫瘍増殖が有意に促進し生存が短縮されたが (p<0.01; Fig 7L-M)、Pd-l1 KO exosomeでは認められず、エクソソームはPD-L1提示を主要機序として腫瘍増殖を促進することが確証された。
考察/結論
本研究は腫瘍エクソソームPD-L1が腫瘍局所を超えてDLNに到達し、CD8+T細胞活性化を全身性に抑制する独立した免疫回避経路であることを遺伝的アプローチで体系的に証明した。既報のエクソソームPD-L1研究は患者血漿での存在や腫瘍進行との相関記述にとどまっており、抗PD-1抵抗性患者での高値を示した程度であった。本研究はこれと異なり、(1) 遺伝的ノックアウトによる因果的機能証明、(2) 選択的エクソソームPD-L1阻害 vs. 細胞膜PD-L1保存の分離解析、(3) DLNでのT細胞プライミング促進の直接示唆、(4) 全身性抗腫瘍免疫記憶の誘導という4軸で、本研究で初めて体系的な in vivo 証拠が示された。
既存の抗PD-L1抗体療法と対照的に、エクソソームPD-L1は現行抗体で中和されにくい抵抗性プールとして機能することがTRAMP-C2 (抗PD-L1完全抵抗性) ・MC38 (部分感受性) の両モデルで示された。TRAMP-C2ではPd-l1 KOがほぼ完全な腫瘍抑制をもたらすが、高用量抗PD-L1抗体単独では同効果が得られない。MC38ではRab27a KO+抗PD-L1の組み合わせがPd-l1 KO単独と同等の効果を示し、両プールが加算的であることを遺伝的上位性解析で証明した。この新規な「加算的・非冗長的相補性」は、エクソソームPD-L1が既存抗体戦略に対してのみならず単独でも有効な治療標的であることを示している。
臨床応用として、RAB27AおよびnSMASE2阻害薬 (GW4869・Nexinhib-20等) の改良版開発、PD-L1膜貫通ドメインを標的とするsiRNA/低分子による選択的エクソソームPD-L1遮断、転移性前立腺がん患者血漿エクソソームPD-L1の抗PD-1/PD-L1奏効予測バイオマーカーとしての臨床的有用性評価が期待される。さらに、エクソソームPD-L1阻害が単一腫瘍部位の局所治療で全身性持続免疫と遠隔腫瘍抑制をもたらすabscopal-like効果は、放射線照射や局所免疫療法との組み合わせという bench-to-bedside 戦略に直接つながる可能性がある。
残された課題として、RAB27A/nSMASE2全身阻害が正常組織のエクソソーム分泌に与える副作用・安全性の評価が不可欠である。既存の低分子阻害薬はin vitroおよびMC38 in vivoモデルで十分な効果を示さず、より有効な薬剤開発がfuture researchとして必要である。エクソソームPD-L1が現行抗体で中和されにくい理由 (エクソソーム上のPD-L1提示様式・分泌量超過による競合・抗体到達困難な区画) の分子機序解明、腫瘍種間での表面PD-L1・エクソソームPD-L1比率を規定する分子機構の同定、NSCLC・肝細胞がん等での汎用性検証、ならびにヒト臨床試験デザイン構築に向けた今後の検討が残された課題として挙げられる。
方法
細胞株・遺伝子改変: ヒト前立腺がん細胞株PC3 (androgen-independent prostate carcinoma)・DU145 (androgen-insensitive prostate carcinoma)・LNCaP (Lymph node Carcinoma of the Prostate)、ヒトメラノーマSK-MEL-28 (human melanoma)、マウス前立腺がんTRAMP-C2 (Transgenic Adenocarcinoma of Mouse Prostate)、マウス大腸がんMC38 (mouse colon adenocarcinoma) を使用。CRISPR/Cas9によりRab27a KO、nSMase2 KO、Pd-l1 KO、Rab27a;Pd-l1 double KOを各細胞株で樹立。各KO細胞株では細胞増殖・細胞膜PD-L1発現が野生型と同等であることをflow cytometryと増殖曲線で確認した。
EV単離・解析 (ISEV準拠): 段階的超遠心分離法 (differential ultracentrifugation; 200g→2,000g→10,000g→100,000g) による分画後、100k×g pelletをスクロース密度勾配遠心 (20-40% sucrose fractions) でエクソソームを精製。特性評価はナノ粒子追跡解析 (nanoparticle tracking analysis; NTA, NanoSight)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、Western blot (exosome markers: CD63・CD81・HRS (hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate)) で実施。PD-L1の細胞表面由来を確認するためビオチン-ストレプトアビジン細胞表面標識アッセイを実施。CD63-GFP過発現系でエクソソーム産生をflow cytometryで追跡した。
in vitro T細胞抑制アッセイ: Raji B細胞によるスーパー抗原提示系にJurkat T細胞 (PD-1過発現) を加え、PC3由来100k×g分画のIL-2産生抑制活性をELISAで定量。Pd-l1 KO PC3分画を対照として使用した。
in vivoモデル: C57BL/6 syngeneicマウスおよびNOD-SCID IL2rg null (NSG) 免疫不全マウスにWT・各KO TRAMP-C2またはMC38細胞を1×10^6個皮下移植。腫瘍体積の経時測定・生存解析を実施。
免疫表現型解析: 腫瘍移植14日後の脾臓・DLN・腫瘍組織をflow cytometryで解析。CD45+CD3+細胞中のCD8+/CD4+/Treg比率、ならびにCD8+/CD4+ T細胞のTim3 (T cell immunoglobulin and mucin domain 3)、Granzyme B (activation)、Ki67 (proliferation)、PD-1高発現を定量した (n=5 mice/群)。
免疫記憶・遠隔効果: (1) 初回移植90日後に対側フランクへWT TRAMP-C2細胞を再チャレンジ。(2) 両フランク同時移植 (WT+KO各側) で遠隔腫瘍に対する免疫クロストークを評価。(3) RAB27A KO TRAMP-C2/MC38移植マウスにWT・Pd-l1 KOエクソソームを週3回尾静脈注射でレスキュー実験。
統計解析: 腫瘍体積はtwo-way ANOVA、生存解析はlog-rank test、免疫表現型はStudent’s t-testで評価。