- 著者: Jörg Votteler, Cassandra Ogohara, Sue Yi, Yang Hsia, Una Nattermann, David M. Belnap, Neil P. King, Wesley I. Sundquist
- Corresponding author: Neil P. King (neilking@uw.edu, Institute for Protein Design, University of Washington, USA); Wesley I. Sundquist (wes@biochem.utah.edu, University of Utah, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-11-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 27919066
背景
細胞外小胞 (EV: extracellular vesicles) は、細胞間コミュニケーションや物質輸送において重要な役割を担うナノスケールの膜小胞であり、内因性薬物デリバリービヒクルとして大きな潜在能力を持つ。しかし、EVの治療応用には、いくつかの根本的な技術的課題がこれまで未解明であった。第一に、治療用ペイロードの高効率かつ精密な搭載が困難であった。天然のエクソソームへの積載は非特異的で再現性に乏しく、特定の分子を効率的にEV内に導入する技術が不足していた。第二に、標的細胞へのエンドソーム脱出効率が低いという課題があった。EVが標的細胞に取り込まれても、多くの場合エンドソームに閉じ込められ、細胞質に到達できないため、治療効果が限定されることが多かった。第三に、EV産生の均一性が不足しており、EV組成のバッチ間変動が臨床応用の大きな障壁となっていた。これらの課題を克服するためには、EVの生合成経路を精密に制御し、その内容物と機能を設計する新たなアプローチが求められていた。
一方で、タンパク質工学の分野では、計算機設計により自己集合性のナノ構造体を構築する技術が近年大きく進展していた。特に、BakerおよびKingらのグループは、計算機設計によって均一な正二十面体ナノケージI3-01(60量体、直径約25 nm)の作製に成功していた (Hsia et al. Nature 2016)。このナノケージは内腔体積約3,000 nm³を持ち、理論上約60分子のBlaM-Vprのようなタンパク質を充填できる精密なコンテナとして機能することが期待された。また、HIV-1 Gagタンパク質がN-ミリストイル化により脂質膜に結合し、ESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) 複合体(TSG101/ESCRT-IやALIXなど)を動員して膜のくびれと出芽を触媒することで、ウイルス様粒子 (VLP: virus-like particle) を産生する機構が詳細に解明されていた (Votteler & Sundquist Cell Host Microbe 2013)。このESCRT経路は、多胞体形成や細胞外小胞の放出にも関与することが知られている (Thery et al. 2006)。Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006は、EVの分離と特性評価に関するプロトコルを確立し、EV研究の基盤を築いた。しかし、これらの先行研究では、EVのカーゴ搭載や標的化を精密に制御する技術は未開拓であった。また、Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013はEVの治療応用における可能性と課題を概説したが、設計されたナノケージをEVに搭載する具体的な方法は不足していた。
本研究は、これら2つの分野の知見、すなわち「計算機設計による精密なタンパク質ナノケージの構築」と「ウイルス出芽およびEV放出に関わるESCRT経路の利用」を統合するモジュラー設計戦略を考案した。具体的には、計算機設計ナノケージをHIV-1 Gag由来の膜アンカーおよびESCRT動員機能と組み合わせることで、ナノケージをEV内に効率的に搭載し、細胞から放出させることを目指した。これにより、EVのカーゴ搭載効率、エンドソーム脱出、および産生の均一性といった、これまでのEV治療応用における主要な課題を解決する新たなプラットフォームを確立することが期待された。
目的
本研究の目的は、HIV-1 Gag由来のN-ミリストイル化膜アンカー(Mドメイン)、計算機設計された60量体ナノケージI3-01(Iドメイン)、およびESCRT動員p6Gag配列(Lドメイン)という3つの機能要素を組み合わせたモジュラー融合タンパク質、すなわちナノケージ内包型細胞外小胞(EPN: enveloped protein nanocage)EPN-01を設計し、細胞からの放出を誘導することである。
具体的には、以下の点を検証することを目的とした。
- EPN-01が実際にHEK293T細胞から放出され、その放出がM、I、Lの各ドメインに機能的に依存することを示す。
- 放出されたEPNが膜で囲まれた小胞であり、その内部に設計されたタンパク質ナノケージが内包されていることを生化学的および構造生物学的に実証する。
- EPNがマクロ分子カーゴを搭載し、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質 (VSV-G: vesicular stomatitis viral glycoprotein) 膜融合タンパク質との組み合わせにより、標的細胞へ効率的にカーゴを送達できる機能的デリバリーシステムを構築する。
- 43種類のEPN設計バリアントのスクリーニングを通じて、EPNプラットフォームのモジュラー性と汎用性を実証し、多様な機能要素やタンパク質アーキテクチャに対応可能であることを示す。 これらの検証を通じて、細胞間分子輸送のための設計可能なナノ材料としてのEPNの可能性を確立することを目指した。
結果
EPN-01の三機能ドメイン設計と各ドメインの必須性: EPN-01は、N末端にHIV-1 Gag由来のN-ミリストイル化シグナル(Mドメイン)、中央に計算機設計された60量体正二十面体ナノケージI3-01(Iドメイン)、C末端にHIV-1 p6 Gag由来のESCRT動員ペプチド(Lドメイン)を配置した融合タンパク質として設計された(図1a)。HEK293T細胞での発現後、EPN-01タンパク質の13±3%が培養上清のペレット画分に回収された(n=3技術的反復)。ミリストイル化を阻害するΔM変異体では、EPNの放出が検出不可能なレベルまで消失した。同様に、Iドメインの自己集合を阻害するΔI(L33R)変異体もEPN産生が完全に消失した。LドメインのTSG101結合を阻害するΔL1変異体では、野生型EPN-01と比較して放出が18倍低下した。さらに、ΔL1とALIX結合部位変異であるΔL2を組み合わせた二重変異体では、放出が完全に消失した。これらの結果は、M、I、Lの各ドメインがEPNの細胞からの放出に機能的に必須であることを定量的に証明している。
EPN小胞の物理化学的特性とナノケージ内包の構造的実証: cryo-EM画像解析により、EPN-01発現HEK293T細胞の培養上清には多数の小胞が観察されたが、MドメインとLドメインを欠くI3-01-Myc対照ではほとんど観察されなかった(図2b)。EPN小胞の平均直径は107±44 nmであり、そのサイズは40-320 nmの範囲であった(Extended Data Fig. 3c)。トリプシン保護アッセイでは、EPN-01は洗剤なしでトリプシン耐性を示し、膜による内包が確認されたが、1% Triton X-100の存在下ではトリプシン感受性を示した(図2a)。非内包型EPN-01*ナノケージ(大腸菌で産生)は、洗剤の有無にかかわらずトリプシンにより分解された。cryo-ETトモグラフィーと3D再構成により、直径約160 nmのEPN小胞内部に28個の識別可能なナノケージが観察され、その多くが膜面に結合していた(図2c, d)。CHAPS洗剤処理によりEPNから放出されたナノケージの単粒子再構成(RELION、8,573粒子、Gold Standard FSC 0.143基準で5.7Å分解能)では、電子密度マップが計算機設計されたI3-01モデルのリボン構造と高精度で一致し、設計された二量体-三量体間の界面も再現されていた(図2e)。モデルとマップの一致分解能はFRC基準で7.1Å(FSC 0.378基準)であった。
ナノケージ1個あたりのBlaM-Vpr搭載量と細胞質デリバリー: EPN-01のナノケージ内腔体積は約3,000 nm³であり、BlaM-Vpr 1分子の推定体積約50 nm³から、理論上最大60分子のBlaM-Vprを充填可能である。ウエスタンブロットによる濃度計算の結果、EPN-01の60量体ナノケージ1個あたりに実際に搭載されたBlaM-Vprは平均約10分子であった。VSV-G偽型化により、EPN表面のスパイク密度は非偽型化EPNと比較して約4倍に増加した(Extended Data Fig. 7b)。VSV-G偽型化EPN-01を用いたHeLa細胞(n=2×10⁵ cells)へのBlaM-Vprデリバリー実験では、80%を超える標的細胞でCCF2-AM蛍光の緑から青へのシフトが確認され、β-ラクタマーゼが細胞質に効率的に到達したことが実証された(図3b)。VSV-G(P127D)膜融合阻害変異体を用いた場合、BlaM陽性細胞の割合は80%超から背景レベルまで大幅に低下し、エンドソーム脱出にVSV-G膜融合が必須であることが確認された。EPN-01*(LF45AA)(Vpr結合部位変異)では、BlaM-Vprの搭載量が低かったため(約10分子未満)、微弱な活性のみが観察された。これらのデリバリー効率の差は統計的に有意であった(p<0.001)。
43種のEPNバリアントスクリーニングによるモジュラー性の実証: EPN設計のモジュラー性と汎用性を評価するため、43種類のEPNバリアントを設計し、プロテアーゼ保護アッセイとアルドラーゼ活性アッセイの2基準で評価した(Extended Data Fig. 8, Supplementary Tables 1 and 2)。その結果、16種類のバリアントが両基準を満たし、良好なEPN産生を示した。さらに7種類のバリアントが、弱いながらも再現可能な洗剤依存性酵素活性を示した。Mドメインの代替として、HIV-1 Gag由来のミリストイル化シグナル以外に、パルミトイル化シグナルやphospholipase Cδ由来のPHドメイン(プラズマ膜結合)が機能することが示された(図4a)。自己組立ドメインとしては、I3-01以外に24量体正八面体ナノケージO3-33もEPN形成を支持した(図4b)。Lドメインの代替として、EIAV p9Gag(ALIX動員)やEbola VP40 N末端(TSG101/ESCRT-IおよびNEDD4動員)が機能することが確認された(図4c)。これらの代替ドメインを用いたEPNの放出は、VPS4A(E228Q)優性阻害変異体の過剰発現により強く阻害され、ESCRT依存性であることが示された。また、M、I、Lドメインの順序(N末端、中央、C末端の配置)を入れ替えたコンストラクトでもEPN産生が維持され、ESCRT依存性であることが確認された(図4d)。これらの結果は、EPN設計原理が堅牢で汎用性が高く、多様な機能要素やタンパク質アーキテクチャに対応可能であることを示している。
考察/結論
本研究は、タンパク質工学、構造生物学、およびEV生物学の3分野を統合し、「設計ナノケージを内包するEV」という新規の概念実証を示した点で、材料科学的なマイルストーンである。先行研究との違いとして、EV表面にタンパク質ドメインを提示するEngineering EV(例: Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013のRVGペプチド提示)や、EVへのRNAパッケージング法と比較して、本研究の独自性は、積載コンテナであるナノケージを精密に設計し、その内腔体積(約3,000 nm³)や搭載タンパク質数(約10 BlaM-Vpr/ナノケージ)を定量的に制御できる点にある。これは、これまでのEV工学とは対照的なアプローチである。
新規性は主に3点挙げられる。(1) タンパク質工学的に設計されたナノケージを、EV生合成機構(ESCRT)を利用して自律的にEV内腔へ搭載させる「膜バイオジェネシス活用型カーゴ搭載」の原理を本研究で初めて実証した。(2) クライオ電子顕微鏡による5.7Å分解能での内包ナノケージ構造確認という、設計タンパク質のEV内での構造的整合性を高精度で実証した。(3) 43種バリアントスクリーニングにより、3機能ドメイン(M/I/L)のモジュラー置換可能性を示し、設計原理の一般性を証明した。これは、これまで報告されていないEV工学の新たなアプローチである。
臨床応用の観点では、80%を超えるHeLa細胞への送達効率は、従来のLNP(脂質ナノ粒子)に匹敵する水準であり、EV内腔からのエンドソーム脱出を実現した初の工学EVシステムの一つである。この高い送達効率は、将来的な薬物デリバリーシステムとしてのEPNの臨床的有用性を示唆する。ただし、HIV-1 Gag由来配列の使用は生物学的安全性への懸念を伴うため、安全性最適化(Gag機能ドメインの非レトロウイルス由来配列への置換)が今後の課題である。本スクリーニングでPHドメイン、O3-33、EIAV p9などの代替ドメインが機能することを示したデータは、この安全性最適化への直接的な設計基盤となる。
残された課題として、(a) 核酸(siRNA、mRNA)のナノケージ内搭載法の確立(現状はタンパク質のみ)、(b) 動物モデル(n=10 miceなど)でのin vivo標的臓器デリバリー効率と毒性評価、(c) 産生細胞の大規模培養・GMP製造プロセスの確立、(d) 機能性リガンド付加による標的細胞指向性の付与、が挙げられる。これらの課題を解決することで、EPNは多様な治療応用が可能な次世代のナノ材料として、その可能性をさらに広げることが期待される。
方法
EPNの設計と発現には、HIV-1 Gag由来のN-ミリストイル化シグナル(Mドメイン)、計算機設計された60量体正二十面体ナノケージI3-01(Iドメイン)、およびHIV-1 p6 Gag由来のESCRT動員配列(Lドメイン)をコードする遺伝子を融合したEPN-01コンストラクトを構築した。Iドメインには、細胞内での自己集合を防止するためにL33R変異を導入した。これらのコンストラクトは、HEK293T細胞またはExpi293F細胞に一過性にトランスフェクションされ、EPNの産生を誘導した。
EPNの回収と精製は、培養上清を20%スクロースクッション遠心分離(21,000g、90分)することで行った。回収されたEPNタンパク質の定量は、抗Myc抗体を用いたウエスタンブロットとデンシトメトリーにより実施した。各機能ドメインの必須性を評価するため、Mドメインのミリストイル化を阻害するΔM変異体、Iドメインの自己集合を阻害するΔI変異体(L33R)、LドメインのTSG101結合を阻害するΔL1変異体(PTAP点変異)、およびALIX結合を阻害するΔL2変異体をそれぞれ作製し、EPN放出効率を比較した。ESCRT依存性の確認には、VPS4A(E228Q)優性阻害変異体を共発現させ、EPN産生への影響を評価した。これらの実験は3回の技術的反復で実施され、標準偏差を算出した。
EPNの構造的特性評価には、クライオ電子顕微鏡 (cryo-EM) を用いた。Tecnai F20 (200kV) とK2 Summit直接電子検出器、SerialEMソフトウェアを用いて小胞の画像を収集した。単粒子再構成はRELIONソフトウェアを用いて行い、8,573粒子から5.7Å分解能の電子密度マップを得た(Gold Standard FSC 0.143基準)。また、EPN小胞内のナノケージの配置を詳細に解析するため、クライオ電子顕微鏡トモグラフィー (cryo-ET) を実施した。双方向ティルトシリーズ(±60°)を収集し、IMODパッケージを用いてSIRT再構成を行った。
EPNの膜包含と透過性を確認するため、トリプシン保護アッセイとアルドラーゼ活性アッセイを実施した。トリプシン保護アッセイでは、0.05 mg/mlのトリプシンを±1% Triton X-100の条件下でEPNに作用させ、ウエスタンブロットでEPNタンパク質の分解を評価した。アルドラーゼ活性アッセイでは、I3-01ドメインのKDPGアルドラーゼ活性を、LDH共役NADH吸収(339 nm)の変化として測定し、洗剤の有無による活性変化を比較した。これらのアッセイは、独立した3回の生物学的複製で実施された。
カーゴデリバリー機能の評価には、β-ラクタマーゼ (BlaM) 酵素をHIV-1 Vprに融合させたBlaM-Vpr融合タンパク質をEPNに搭載させた。さらに、EPN表面にVSV-G膜融合タンパク質を偽型化させることで、標的細胞への融合能を付与した。HeLa細胞(n=2×10⁵ cells/ウェル)を標的細胞とし、VSV-G偽型化EPNを投与後、CCF2-AM FRET蛍光シフト(緑520nm→青447nm)をフローサイトメトリーで計測し、β-ラクタマーゼの細胞質デリバリー効率を評価した。VSV-G(P127D)膜融合阻害変異体やEPN-01*(LF45AA)(Vpr結合部位変異)を対照として用いた。デリバリーアッセイは3回の技術的反復で実施された。フローサイトメトリーデータはFlowJoソフトウェアで解析し、非形質導入細胞を対照としてMann-Whitney U testを用いて統計解析を行った。
EPNプラットフォームのモジュラー性を検証するため、43種類のEPN設計バリアントを作製し、プロテアーゼ保護とアルドラーゼ活性の2基準で評価した。これらのバリアントは、Mドメイン、Iドメイン、Lドメインの異なる組み合わせや、ドメインの順序変更を含んでいた。Mドメインの代替としてパルミトイル化シグナルやphospholipase Cδ由来PHドメイン、自己組立ドメインとして24量体正八面体ナノケージO3-33、Lドメインの代替としてEIAV p9GagやEbola VP40 N末端を用いたコンストラクトも評価対象とした。