- 著者: Théry C, Amigorena S, Raposo G, Clayton A
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Current Protocols in Cell Biology
- 発行年: 2006
- Epub日: N/A
- Article種別: Protocol
- PMID: 18228490
背景
エクソソームは、ほぼすべての細胞型が培養条件下で分泌する直径50〜90 nmの小型膜小胞である。その形成機構は、後期エンドサイトーシス区画の限界膜の内向き出芽であり、内腔小胞を含む多小胞体 (MVB: multivesicular body) が形成される。MVBが形質膜と融合することで、内腔小胞がエクソソームとして細胞外に放出される。エクソソームの生理的機能については、当初、網状赤血球においてトランスフェリン受容体やインテグリンなど、分化した赤血球には不要なタンパク質を排除する機構として記述された (Pan et al. JCellBiol 1985)。しかし、その後の研究で、エクソソームが免疫系における細胞間コミュニケーションの媒体としての機能を持つことが注目されるようになった。特に、樹状細胞やB細胞由来のエクソソームがMHC-ペプチド複合体や抗原を運搬し、抗原提示細胞間での交換を可能にすることが示された (Raposo et al. JExpMed 1996)。また、腫瘍由来エクソソームは免疫逃避やがん進展に関与するとも報告されている (Wolfers et al. NatMed 2001、Zitvogel et al. NatMed 1998)。
しかし、細胞培養上清には、大型の死細胞、細胞デブリ、各種膜断片、小胞など多様な成分が含まれるため、機能実験に先立つ純度の担保が不可欠であった。本プロトコールが発表された当時、エクソソーム研究は急速に発展しつつあった一方で、精製・特性化手法の標準化が不十分であり、研究間の再現性と比較可能性が課題となっていた。特に、エクソソームと他の細胞外小胞やタンパク凝集体との明確な区別が未解明であり、その純度を評価するための包括的な基準が不足していた。本プロトコールの原型は、Raposo et al. JExpMed 1996 によるBリンパ球由来エクソソームの精製法であり、Théry らがこれを体系化・詳細化することで、事実上の標準プロトコールとして広く採用されるに至った。これにより、エクソソーム研究の信頼性と再現性が向上し、その後の細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicle) 研究の発展に大きく貢献した。本プロトコールは、エクソソームの同定と機能解析に不可欠な、高純度で機能的なエクソソームを安定して供給するための基盤を提供した点で、当時の研究における重要な知識ギャップを埋めるものであった。
目的
本研究の目的は、細胞培養上清および尿、血漿、気管支肺胞洗浄液などの生理的液体からエクソソームを精製し、特性評価するための再現性の高い標準手順を提供することである。特に、複数の方法論を選択可能な形で詳述し、研究者が自身の実験系に最適なプロトコールを選択できるよう支援することを目指した。また、精製されたエクソソームの純度を確認するための複数の特性化手法(電子顕微鏡、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーなど)を組み合わせた包括的なプロトコール体系を確立し、エクソソーム研究における標準的な純度評価基準を提示することを目的とした。これにより、エクソソームの生理機能や病態生理における役割を解明するための信頼性の高い基盤を提供し、研究間の比較可能性と再現性を向上させることを意図した。本プロトコールは、エクソソームの密度、形態、およびタンパク質組成といった主要な物理化学的特性に基づいた厳密な評価基準を確立することで、エクソソーム研究の信頼性を高め、将来的な臨床応用への道筋をつけることを目指した。
結果
形態学的特性と純度評価: TEMにより、精製されたエクソソームは直径50〜90 nmのカップ型膜小胞として観察された (Figure 3.22.2A)。調製物中には、しばしば10〜20 nmの小型脂質粒子が混在することがある。クライオ電子顕微鏡を用いた非固定観察では、エクソソームは球形の膜小胞として確認され、化学固定やメチルセルロース包埋によるカップ型アーティファクトの可能性が示唆された。免疫ゴールド標識により、MHC-IIなどの表面マーカーがエクソソーム表面に局在していることが可視化された (Figure 3.22.2A挿入図)。これは、エクソソームが特定の膜タンパク質を表面に発現していることを裏付ける。また、100,000×gペレットの電子顕微鏡レベルでの分析は、細胞溶解に起因する他の膜や夾雑物の評価に不可欠であるとされた。
タンパク組成の特性: エクソソームは、全細胞ライセートとは異なる固有のタンパクプロファイルを持つことが示された。SDS-PAGE後クマシー染色により、少なくとも数十種類以上のタンパクバンドが検出され、その多くは全細胞ライセートのタンパク質とは異なるパターンを示した (Figure 3.22.2B)。確立されたエクソソームマーカーとして、テトラスパニンファミリー(CD9、CD63、CD81)、HSP70、TSG101、MHC-Iが多くの細胞型由来エクソソームで検出された (Table 3.22.2)。特に抗原提示細胞由来エクソソームではMHC-IIおよびHLA-DRが豊富に存在した。一方、小胞体マーカーであるCalnexinの陰性は、エクソソーム調製物における小胞体由来夾雑物の不在を示す重要な指標となる。これは、エクソソームが細胞内小胞体とは異なる起源を持つことを支持する。
浮遊密度による分離: ショ糖密度勾配遠心分離により、エクソソームは1.15〜1.19 g/mlの密度範囲に集積することが確認された。この密度は、小胞体由来の小胞 (1.18〜1.25 g/ml) やゴルジ体由来の小胞 (1.05〜1.12 g/ml) とは異なるため、エクソソームの同定および他の細胞内小胞との分離に有用である。エクソソームは通常、ショ糖勾配の3〜5画分に分散するため、解析には十分な量のタンパク質(検出に必要な量の5倍以上)を用いることが推奨された。例えば、免疫ブロット解析でターゲットを検出するために3 µgのエクソソームタンパク質が必要な場合、ショ糖勾配には15〜20 µgのエクソソームタンパク質を用いるべきであるとされた。
精製収量の目安: 最終的なエクソソーム懸濁液の量は、初期条件培地量の1/2,000以下が目標とされた。これ以上の量が得られた場合は、汚染の可能性を疑い、タブレット超遠心によるさらなる濃縮が必要であると指摘された。著者らは、未熟樹状細胞10^6個あたり24時間で0.5 µgのエクソソームが得られることを報告しており、これは他の細胞株と比較して変動が大きいものの、一般的な目安として示された。例えば、マウス線維肉腫やメラノーマ細胞株 (B16F10など) からのエクソソーム収量も同程度であった。しかし、マウス肥満細胞腫 (P815) や胸腺腫 (EL4) からは非常に少量のエクソソームしか得られず、腸管上皮腺癌細胞株からは約0.05 µg/10^6 cellsとさらに少ない収量であった。この収量の変動は、細胞種特異的なエクソソーム産生メカニズムの存在を示唆する。
免疫分離法による特性評価: 免疫分離法は、特定の表面マーカー(例: MHC Class II)を持つエクソソームのサブポピュレーションを迅速に分離し、フローサイトメトリー (FACS) で解析するのに有用である。例えば、MHC Class II抗体でコートされたDynabeads M-450を用いて樹状細胞由来エクソソームを捕捉し、その後蛍光標識抗体で染色することで、MHC Class IやCD81などの共発現を評価することが可能であった。この方法では、ビーズへのエクソソーム結合効率がビーズとエクソソームの比率に依存し、最適な結合には通常100細胞あたり1ビーズ以上の比率が推奨された。FACS解析により、エクソソームの表面表現型を半定量的に評価できることが示された。しかし、この方法はエクソソーム集団全体を網羅的に解析するのには限界があることも指摘された。
考察/結論
本プロトコールは、差分超遠心分離法を基本としたエクソソーム精製を標準化したものであり、その後の細胞外小胞 (EV) 研究における事実上の標準手順 (de facto standard) として、引用数10,000件を超える最も影響力のある方法論論文の一つとなった。
先行研究との違い: 本プロトコールは、Raposo et al. JExpMed 1996 のBリンパ球由来エクソソーム精製法を基盤としつつ、細胞培養上清や生体液からの精製に特化した詳細な手順と、複数の特性評価法を統合した点で、これまでの断片的な報告と異なり、エクソソーム研究の再現性と信頼性を飛躍的に向上させた。特に、ショ糖密度勾配遠心分離による高純度化や、免疫磁気分離法といった代替手法の提示は、研究者が自身の目的に合わせて最適な精製法を選択できる柔軟性を提供した点で画期的であった。
新規性: 本研究で初めて、エクソソームの形態学的、生化学的、物理的特性を多角的に評価するための包括的なプロトコール体系を新規に確立した。特に、電子顕微鏡による形態確認、ショ糖密度勾配による浮遊密度測定、ウェスタンブロットによる特異的マーカーの検出、FACSによる表面抗原解析を組み合わせることで、エクソソームと他の細胞外小胞やタンパク凝集体との明確な区別を可能にした。Calnexinを陰性対照マーカーとして用いることで、小胞体由来の夾雑物がないことを確認する手法も新規に導入された。
臨床応用: 本プロトコールは、血漿や尿などの生体液からのエクソソーム精製法も詳述しており、エクソソームのバイオマーカーとしての臨床応用や、治療薬としての活用に向けた基盤を提供した。例えば、腫瘍由来エクソソームが免疫逃避やがん進展に関与するとの報告 (Wolfers et al. NatMed 2001) を踏まえ、本プロトコールで精製されたエクソソームは、がん診断や治療標的の同定、さらには細胞フリーワクチン開発など、様々な臨床応用への道を開くものである。
残された課題: 今後の検討課題として、超遠心分離法ではエクソソームと類似の物理的特性を持つ非小胞成分が夾雑する可能性が残されている。また、免疫分離法は特定の表面マーカーを持つエクソソームサブポピュレーションのみを回収するため、エクソソーム集団全体を網羅的に解析するには不向きであるというlimitationがある。さらに、エクソソームの機能解析には、その純度と活性を維持したまま大量に精製する技術のさらなる向上が必要である。超濾過法など、より穏やかな精製法の開発も今後の研究方向性として挙げられる。本プロトコールは、後にISEVのMISEV2014・MISEV2018ガイドラインの前身となる概念的基盤を提供し、エクソソームのみならず現在「細胞外小胞 (EV)」と総称される各種小胞の精製・特性化研究においても引き続き参照される基本文献として位置づけられている。
方法
本プロトコールは、エクソソームの精製と特性評価のための段階的な手順から構成される。すべての遠心分離は4℃で実施された。
培養上清の調製 (Support Protocol 1・2): 細胞は70〜80%コンフルエント時点で通常培養液をエクソソーム産生培地 (FBS由来エクソソームを除去した血清含有培地、または無血清・1% BSA培地) に交換し24〜48時間培養した。FBS由来エクソソームの除去は、20% FBSを100,000×gで一晩超遠心することで行った。回収した条件培地は4℃で最大1週間保存可能であるが、速やかな処理を推奨した。細胞ライセートは、エクソソームと比較するための対照として、細胞数1〜5 × 10^7個から調製し、−20℃で最大6ヶ月保存した。
基本プロトコール1: 差分超遠心分離法 (最標準法): 段階的遠心により細胞、死細胞、デブリの除去を行った。(1) 2,000×gで20分間遠心しペレットを廃棄、(2) 10,000×gで30分間遠心しペレットを廃棄(各ステップで上清を次のステップに使用)。最終上清を100,000×gで少なくとも70分間超遠心してエクソソームをペレット化する。ペレットは大量のPBSで再懸濁し、100,000×gで1時間の洗浄遠心を実施した。最終ペレットは50〜100 µlのPBSまたはTBSに再懸濁し、−80℃で最長1年保存した(凍結融解の繰り返しは避ける)。すべての遠心は4℃で実施した。遠心チューブとローター情報は表に詳述されており (Table 3.22.1)、SW41/28、70Ti/45Ti、TLA-100.3など各種ローターに対応したRPM設定が提供された。
代替プロトコール: 濾過法: 0.22 µmフィルターによる一段階濾過で初期遠心ステップ (Basic Protocol 1のsteps 1〜6) を代替可能である。マウス樹状細胞 (例えば、BALB/cマウス由来の骨髄由来樹状細胞) など一部の細胞種に適用可能だが、並行して基本プロトコール1を実施し、電子顕微鏡およびウェスタンブロットで同等性を確認することが必須である。
基本プロトコール2: 粘性液体 (血漿等) からの精製: 血漿などの粘性液体はPBSで等量希釈後、2,000×gで30分間、次に12,000×gで45分間、最後に110,000×gで2時間超遠心した。ペレットをPBSで再懸濁後、0.22 µmフィルタリングを行い、さらに110,000×gで70分間の洗浄遠心を2回実施した。最終ペレットは50〜200 µlのPBSに再懸濁した。
Support Protocol 3: ショ糖クッションによる精製: 部分精製エクソソームペレットを25 ml PBSで希釈し、30% Tris/sucrose/D2O溶液 (4 ml) のクッション上に重層後、100,000×gで75分間超遠心した。ショ糖クッション内のエクソソームを回収し、PBS希釈後60 ml PBSで100,000×gで70分間洗浄した。この方法は、共沈したタンパク凝集体や大型タンパク質集塊を除去するため、基本プロトコール1/2に追加できる。
基本プロトコール3: 免疫分離法 (MHC Class II抗体被覆磁気ビーズ): 抗体被覆Dynabeads M-450 (4.5 µm常磁性ビーズ) を前洗浄後、前清浄化した条件培地に添加した。4℃または室温で24時間ローリング混和後、磁石でビーズを回収し、PBS-BSAで最低3回洗浄した。ビーズと細胞の比率の最適化が必要であり、通常100細胞/ビーズ以上が推奨された。フローサイトメトリー、ウェスタンブロット、電子顕微鏡解析に用途応じて処理した。MHC Class II陽性細胞専用であり、陰性細胞ではCD81やCD63などのテトラスパニン抗体が代替選択肢となる。ただし、表面マーカー依存のためエクソソームサブポピュレーションのみが回収され、大量精製には不向きである。
特性化法 (Support Protocols 4〜10):
- Support Protocol 4 (TEM・全マウント法): エクソソームを2% PFA (パラホルムアルデヒド) でグリッドに固定後、PBS洗浄、1%グルタルアルデヒドで5分固定、ウラニル-オキサレート (pH7) で5分、メチルセルロース-UA (酢酸ウラニル) 混合液で10分間処理し、風乾後80 kVで観察した。
- Support Protocol 5 (TEM・免疫ゴールド標識): PFA固定グリッドを一次抗体、必要に応じてブリッジング抗体、プロテインA-ゴールド結合体 (10 nm金粒子) で標識後、1%グルタルアルデヒド固定し、Support Protocol 4の手順で対比・包埋した。
- Support Protocol 6 (Formvar-炭素コートグリッドの作製): 0.6% Formvarクロロホルム溶液でスライドガラスをコートし、剥離後グリッドへ転写、炭素蒸着を行った。
- Support Protocol 7 (ショ糖密度勾配): 連続ショ糖密度勾配 (0.25〜2.5 M) 上でSW41ローターにて100,000×gで16時間遠心した。エクソソームは密度1.15〜1.19 g/mlに集積し、小胞体由来 (1.18〜1.25 g/ml) やゴルジ体由来 (1.05〜1.12 g/ml) の小胞と区別される。屈折率計で各画分の密度を測定した。統計解析には、各画分のタンパク質濃度を比較するため、Student t-testを用いた。
- Support Protocol 8 (ウェスタンブロット): エクソソームと全細胞ライセートを並行してSDS-PAGEで分離・ブロッティングした。推奨マーカーは、抗原提示細胞由来ではMHC-II・HSP70、すべての細胞型でCD9・CD63・TSG101 (ALIX/CD63も代替可) である。Calnexin (小胞体マーカー) の陰性は、エクソソーム調製物における非小胞体夾雑の確認に有用な陰性対照となる。
- Support Protocol 9 (タンパク定量): BCA (Bicinchoninic acid assay) またはBradfordアッセイを用いる。洗剤を最小化した条件で実施した。
- Support Protocol 10 (FACS解析): エクソソームを抗体被覆ビーズに結合後、蛍光抗体で染色しフローサイトメトリー解析を行った。これにより蛍光強度の半定量的評価が可能となる。