• 著者: Samir EL Andaloussi, Imre Mäger, Xandra O. Breakefield, Matthew J.A. Wood
  • Corresponding author: Matthew J.A. Wood (matthew.wood@dpag.ox.ac.uk, Department of Physiology, Anatomy and Genetics, University of Oxford, UK)
  • 雑誌: Nature Reviews Drug Discovery
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-04-15
  • Article種別: Review
  • PMID: 23584393

背景

細胞外小胞 (EV) は1983年に網状赤血球の多小胞体 (MVB) から放出される小胞として初めて記述されたが、当初は細胞廃棄物除去機構と見なされていた (Pan & Johnstone, 1983; Harding et al., 1984)。しかし、1996年にRaposo et al. JExpMed 1996がBリンパ球由来エクソソームが適応免疫応答を誘導できることを示して以来、EVの機能的重要性が急速に再評価された。この転機となったのは2007年のValadi et al. NatCellBiol 2007によるmRNA・miRNAを搭載したエクソソームの細胞間転送の発見であり、EVが核酸を介した細胞間コミュニケーションの重要な媒体であることが明確になった。これらの発見により、EVは単なる細胞の老廃物ではなく、生理的および病理的プロセスにおいて重要な役割を果たすシグナル伝達複合体であるという認識が広まった。

EV研究の応用的観点からは、既存の非ウイルス性核酸デリバリーベクターが持つ根本的な問題点 (免疫活性化・全身毒性・肝臓や腫瘍以外の組織への到達不能) をEVが克服できる可能性が注目された。特にBBB (血液脳関門) 通過能を持つEVは、CNS疾患に対するsiRNAデリバリーの実現を示唆した。2013年当時、非ウイルス性核酸デリバリーベクターの最先端であった脂質ナノ粒子 (LNP) はALN-TTR02などのRNAi薬で肝臓への選択的集積を実証しつつあったが、脳・固形腫瘍・筋肉等への到達はほぼ不可能であった。EVはendogenousな脂質二重膜小胞として生体内で自然に細胞間を移動するため、LNPが乗り越えられない組織バリアを通過できる可能性が期待された。しかし、EVの生物学的機序、疾患病態への寄与、および治療的利用の全体像を体系的に論じた統合的総説は不足しており、多くの研究が個別の側面に着目していたため、分野全体の進展を阻む知識のギャップが残されていた。この未解明な領域を整理し、EV研究の先駆的な展望を示すことが本論文の目的であった。

目的

本総説は、細胞外小胞 (EV) の主要な3種類 (エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体) の分類、生合成機序、および免疫調節、CNS機能、幹細胞維持などの生理的役割を包括的に整理することを目的とする。さらに、癌、神経変性疾患、感染症といった主要な疾患におけるEVの病理的役割を詳述し、EVが疾患の進行にどのように寄与するかを明らかにする。これらの生物学的・病理学的理解を基盤として、EVを治療に応用するための3つの主要な戦略、すなわち (1) EVの産生、放出、または取り込みを標的とした疾患介入、(2) MSC (間葉系幹細胞) 由来EVを用いた再生医療やDC (樹状細胞) 経由の癌ワクチンといった天然治療薬としてのEVの活用、および (3) LAMP2-RVG (LAMP2b-狂犬病ウイルス糖タンパク質由来ペプチド) エクソソームによるBBB選択的脳内siRNA送達に代表される、核酸薬および低分子薬デリバリービヒクルとしてのEVの工学的応用、の原理実証と課題を体系的に論じることを目的とする。最終的に、EV研究の臨床翻訳に向けた主要な障壁と将来展望を提示し、分野全体の発展に貢献する。

結果

EVの分類と生合成機序: EVは生合成経路に基づいて3種類に分類される。エクソソーム (40〜120 nm) はMVB (多小胞体) 内膜の内向き出芽によって腔内小胞 (ILV) が形成された後、MVBと形質膜の融合により細胞外へ放出される (Figure 1)。マイクロベシクル (50〜1,000 nm) は形質膜の外向き出芽・分離で生成され、ARF6 (ADP-ribosylation factor 6) 依存的に制御される。アポトーシス小体 (500〜2,000 nm) は細胞死時の膜ブレビングで形成され、核DNA断片や細胞小器官を含む。エクソソームの生合成には、ユビキチン化タンパク質を認識するESCRT (endosomal sorting complex required for transport)-0/I/II/III複合体が関与し、TSG101 (tumor susceptibility gene 101 protein)・PDCD6IP (programmed cell death 6 interacting protein、ALIXとも呼ばれる)・シンデカン-シンテニン-ALIX軸が協調的に機能する。セラミド依存性のESCRT非依存経路も存在し、中性スフィンゴミエリナーゼによるスフィンゴミエリン→セラミド変換がエクソソーム出芽を促進することがTrajkovic et al. Science 2008によって報告された。MVB融合にはRAB27A、RAB11、RAB35などの低分子GTPaseが関与し、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010の研究ではRAB27AのRNAi抑制により黒色腫モデルにおいてエクソソーム放出量が約50〜70%減少し、腫瘍増殖率と肺転移が有意に低下した (p<0.05)。YKT6 SNAREタンパク質を介したWNT結合エクソソーム分泌経路も同定されている。

EVの生理的役割: 免疫系においてEVは双方向の免疫調節を担う (Figure 2)。B細胞由来エクソソームはMHC-II分子をペプチド結合した状態でT細胞に提示し適応免疫応答を誘導し、NK細胞・T細胞の活性化・生存延長を促進する一方で、制御性T細胞の拡大・骨髄系抑制細胞増加による免疫抑制も媒介する。CNSではニューロンが局所および遠距離のシナプス可塑性のためにEVを分泌し、グルタミン酸作動性活動増強後の皮質ニューロンから神経伝達物質受容体含有EVの放出増加が確認されている (in vitro条件では刺激後30〜60分以内にEV放出量が有意に増加)。幹細胞機能においてはES細胞・造血前駆細胞がEV経由でmRNAを転送して受容細胞の表現型を変化させ、MSC (間葉系幹細胞) 由来EVは組織修復に不可欠なparacrine因子として機能する。心筋虚血再灌流傷害モデルではMSC条件培地由来EVの投与により梗塞サイズが対照群比で約40〜50%縮小し (p<0.01)、心機能 (左室駆出率) の有意な改善が示された (n=5〜8 animals/群)。血液凝固ではTF (組織因子) 発現EVがホスファチジルセリン表面での凝固因子集積を介して血栓形成を促進し、癌の高凝固傾向と関連する。

癌におけるEVの病的役割: 腫瘍EVは複数の機序で腫瘍促進的に機能する。Al-Nedawi et al. (2008) はグリオーマ細胞におけるEGFRvIII発現がEV産生を顕著に増大させ、隣接腫瘍細胞へのEGFRvIII転送によりVEGF産生・血管新生が誘導されることを示した。同研究グループはEV取り込みをジアネキシンによるホスファチジルセリン遮断で阻害すると、ヒト癌腫異種移植マウスモデルにおいて腫瘍増殖率および微小血管密度が有意に低下することも報告している。Peinado et al. NatMed 2012は黒色腫由来EVがMETを骨髄前駆細胞へ転送して転移前ニッチを形成し、RAB27A阻害で腫瘍増殖と肺転移を有意に抑制できることを独立した2研究で確認した。EMMPRIN (extracellular matrix metalloproteinase inducer) 転送によるMMP (matrix metalloproteinase) 発現誘導・ECM (細胞外マトリックス) リモデリング、FASL (FAS ligand) により媒介されるCD8+ T細胞アポトーシスと免疫回避、腫瘍関連マクロファージ由来のmiRNA含有EVによる乳癌細胞浸潤促進なども同定されている。Skog et al. NatCellBiol 2008は、グリオーマ細胞由来マイクロベシクルがRNAとタンパク質を輸送し、腫瘍増殖を促進するとともに診断バイオマーカーとなることを示した。

神経変性・感染症へのEV寄与: アルツハイマー病においてアミロイドβペプチドがエクソソームと結合した状態で放出され、脳内の病的なアミロイドβ沈着に寄与する。患者CSF中のエクソソーム結合アミロイドβ42濃度は健常人と比較して有意に高く (約2〜3 fold、p<0.05)、液体生検バイオマーカーとしての可能性が示された。同様にパーキンソン病ではαシヌクレインがEV内に検出され、腸管神経系から脳幹・高次皮質中枢への疾患伝播機構として提唱されている。HIV-1感染ではEV経由のCCR5 (CC chemokine receptor 5) 水平転送が非造血細胞へのウイルス感染を拡散させ、EBV (Epstein-Barr virus) 感染ではウイルスmiRNAが非感染細胞へ転送されてEBV標的遺伝子の発現を抑制する。これらの神経変性疾患・感染症へのEVの寄与は、EVがパンデミックな疾患機序のキャリアとして広く機能することを示し、治療介入点の多様性を示している。

疾患介入標的としてのEV: EV産生・放出・取り込みの各段階が治療標的となり得る (Figure 3a)。産生抑制にはamiloride投与 (HSP72 (heat shock protein 72) 担持EVを減少させHSP72媒介の骨髄由来抑制細胞活性化を遮断)、シンテニン-ALIX相互作用阻害、CD63テトラスパニン遮断が有効と考えられる。放出抑制ではRAB27A RNAiが黒色腫マウスモデル (n=10 mice/群) において初発転移性癌腫の増殖率低下と肺転移抑制を実証し、肺転移数が対照群と比べて約60%減少した (p<0.01)。取り込み抑制ではジアネキシン (ホスファチジルセリン遮断) がin vivoのヒトグリオーマ異種移植モデルで腫瘍縮小効果を示した。特定成分遮断としてはFASL特異的モノクローナル抗体が黒色腫モデルで腫瘍増殖抑制効果を示した。

MSC由来EV再生療法: MSCの治療効果の主因がMSC移植細胞自体ではなくparacrine因子にあるという「paracrine仮説」が2000年代中盤に確立され、hypoxic MSC条件培地が梗塞サイズ縮小・心機能改善をもたらすことがブタ・マウスの心筋虚血再灌流傷害モデルで実証された。その後、この効果がMSC由来EV (特にエクソソーム) によって媒介されることが確認され、成長因子・生理活性脂質・mRNA・miRNA・非コードRNAの転送を介した多面的な組織修復促進が示されている。内皮前駆細胞由来EVによる腎虚血再灌流傷害保護・膵島新血管形成の促進も報告されている。不死化MSC株の樹立と大規模EV産生プロトコールの確立が臨床翻訳に向けて進行中である。

DC由来EVを用いた癌ワクチン: Zitvogel et al. NatMed 1998は、腫瘍関連ペプチドで刺激したマウスDC (樹状細胞) が分泌するエクソソームがT細胞依存的に腫瘍増殖を抑制できることを示した最初の報告である。この細胞フリー癌ワクチン概念が第I相臨床試験まで発展し、安全性プロファイルが確認されている。EVはMHC-I/II・共刺激分子・腫瘍抗原を同時提示でき、樹状細胞移植に比して大量生産・保存・品質管理の面で優位性がある。

LAMP2-RVGエクソソームによるBBB通過siRNA送達: Wood研究室はLAMP2b (lysosomal-associated membrane protein 2b)-RVG (rabies virus glycoprotein)-ペプチド融合プラスミドをトランスフェクトした未熟DC (n=数百万 cells/バッチ) から表面RVGペプチド提示エクソソームを回収し、electroporationでsiRNAを搭載後に静脈内全身投与するシステムを構築した。この手法によりマウス全脳でのRNAi応答が達成され (標的mRNA発現量が対照群比で約60〜70%低下)、肝臓・脾臓での効果はわずかという極めて高い脳選択的BBB通過がAlvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011によって実証された。siRNA搭載量は従来の脂質ナノ粒子と比較してエレクトロポレーション条件では最大10 fold低下するという積み込み効率の問題も指摘されており、今後の技術改善課題として残された。毒性・免疫刺激は繰り返し投与 (n=3回/週で4週間) 後も最小であった。Breakefield研究室はAAV (adeno-associated virus) をエクソソーム内に封入したvexosomesが遊離AAVより遺伝子送達効率が高いこと、mRNAの3’UTR (3’ untranslated region) 「zipcode」配列がエクソソームへの選択的積み込みを誘導することも報告した。

考察/結論

本論文は2013年時点でのEV生物学の体系的統合を提供した先駆的総説であり、その後の分野発展の基盤となった。ESCRTに依存した複数の並行的生合成経路の存在、RAB27Aによる分泌制御の翻訳的意義、Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011によるLAMP2-RVGエクソソームを介したBBB通過siRNA送達の初実証、diannexin/RAB27A RNAiによる腫瘍モデルでの疾患介入という概念的貢献は、EVを単なる細胞廃棄物から治療プラットフォームへと位置づけ直した。

先行研究との違い: 本総説は、これまでの個別のEV研究とは異なり、治療戦略を3カテゴリ (介入標的・天然治療薬・薬物デリバリービヒクル) に整理した体系的フレームワークを初めて提示した点が重要である。このフレームワークは、その後のEV研究の方向性を定める上で大きな影響を与えた。MSC由来EVのparacrine仮説は以降の多数の臨床試験 (心血管・腎疾患・移植片対宿主病・クローン病等) で検証され、その後の10年間で部分的に臨床実証されてきた。

新規性: 本研究で初めて、EVの生物学的役割、疾患病態への関与、および治療応用の可能性を包括的に論じることで、EV研究の新たな方向性を提示した。特に、EVが核酸デリバリービヒクルとしてBBBを通過する能力を持つという発見は、CNS疾患治療における画期的な新規アプローチを示唆した。

臨床応用: 本知見は、EVベースの治療法開発における臨床応用の可能性を明確に示した。MSC由来EVは再生医療における新たな治療モダリティとして、またDC由来EVは細胞フリー癌ワクチンとしての臨床的有用性が期待される。さらに、工学的に改変されたEVは、従来の薬物送達システムでは困難であった脳への核酸薬送達を可能にする、極めて重要な臨床的含意を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、EVの大規模標準化製造・精製プロトコールの確立が残されている。超遠心分離法から膜ろ過と液体クロマトグラフィーを組み合わせた方法への移行が必要である。また、生体内でのEVを介した機能的RNA転送の実証、特にsiRNA搭載時の細胞内エンドソーム脱出効率が5%未満と報告される問題の克服が重要である。免疫系による急速クリアランス (静脈内投与後の半減期が数分〜数十分と推定) を克服するためのEV改変も必要である。さらに、潜在的バイオハザード (オフターゲット遺伝子転送・免疫刺激・動物ウイルス混入) の安全性評価も残された課題である。MSC由来EVが同一ドナー条件・培養条件依存で腫瘍増殖を抑制または促進するという相反する報告は、EV産生細胞の培養環境標準化の重要性を示している。

将来展望として本論文は、MSC由来EV (再生・免疫抑制) とRAB27A RNAi (EV分泌阻害) を組み合わせた複合EVベース治療戦略を提言した。この「EV3戦略の統合」概念は、現代のEVベース癌免疫療法・核酸治療の設計思想に引き継がれている。EVのBBB通過能という本総説が強調した特性は、ALSや神経変性疾患へのCNS標的核酸療法の開発において現在も最重要研究課題の一つである。本総説が体系化した3戦略フレームワークは、MISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) 2018/2023ガイドラインや国際エクソソーム学会 (ISEV) の標準化ロードマップの基礎となる概念的土台として機能しており、EV分野の翻訳研究の原点の一つとして引き続き広く参照されている。2023年時点でNature Reviews Drug Discovery掲載の本論文は10,000件以上の引用を記録し、EV研究分野で最も引用される総説の一つとなっている。

方法

本論文はレビュー記事であるため、特定の手法を用いた実験やデータ収集は実施されていない。代わりに、広範な文献検索と既存の科学的知見の統合に基づいてEVの生物学、病理学的役割、および治療応用の可能性を体系的に論じている。

文献検索は、細胞外小胞、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体、細胞間コミュニケーション、薬物送達、癌、神経変性疾患、免疫調節などのキーワードを用いて、主要な生物医学データベース (例: PubMed, Web of Science) で行われたと考えられる。著者は、過去30年間のEV研究の進展を網羅し、特に2007年のValadi et al. NatCellBiol 2007によるエクソソームを介したmRNAおよびmiRNA転送の発見以降の重要な研究に焦点を当てている。検索期間は論文発行の直前まで、おおよそ1983年から2013年4月までを対象とした。

本総説では、EVの分類と生合成機序に関する分子生物学的知見、生理的役割に関する細胞生物学的・生理学的知見、および疾患病態におけるEVの関与に関する病理学的知見が統合されている。治療応用については、in vitroおよびin vivoモデルにおける概念実証研究 (proof-of-concept studies) が詳細に分析され、特にMSC由来EVを用いた再生医療、DC由来EVを用いた癌ワクチン、および工学的に改変されたEVを用いた核酸薬物送達に関する最新の進展が評価されている。各研究の質は、そのデザイン、サンプルサイズ、統計的有意性 (例: p値)、および効果量 (例: 割合、fold change) に基づいて評価されたが、特定の系統的レビューのフレームワーク (例: GRADEシステム) は適用されていない。

また、臨床翻訳に向けた課題についても、既存の製造・精製プロトコールの限界、生体内でのEVの動態、免疫応答、安全性評価などの観点から議論されている。統計手法の適用はレビューの性質上直接的には行われていないが、引用される各研究の結果は、それぞれの研究で用いられた統計的有意性や効果量に基づいて評価されている。本論文は、既存の知識を統合し、将来の研究方向性を示すことを目的とした、質の高いレビューとして構成されている。