• 著者: Stephanie N. Hurwitz, Mark A. Rider, Joseph L. Bundy, Xia Liu, Rakesh K. Singh, David G. Meckes Jr.
  • Corresponding author: David G. Meckes Jr. (david.meckes@med.fsu.edu, Florida State University College of Medicine, USA)
  • 雑誌: Oncotarget
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27894104

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicle, EV) はエクソソーム (40-150 nm、多小胞体由来)・マイクロベシクル (一般にエクソソームより大)・アポトーシス小体を包含する直径40-1000 nmの細胞間コミュニケーション粒子であり、免疫調節・細胞間シグナリング・細胞増殖に関与する。先行研究はEVが腫瘍の増殖・浸潤・転移能の主要なプレイヤーであることを示し、ウイルス感染細胞から非感染細胞へオンコプロテイン・核酸を転移すること、循環EVが前転移ニッチ形成における「土壌」を提供すること、がん患者で循環EVが増加することを報告してきた。Hoshino et al. (Hoshino et al. Nature 2015) はEVのインテグリンが臓器特異的転移を規定することを示し、Melo et al. (Melo et al. Nature 2015) はグリピカン-1陽性EVが膵臓がんの早期診断に有用であることを示した。一方、PSA (前立腺特異抗原)・CA-125 (卵巣)・AFP (肝)・CA19-9 (膵) 等の従来的腫瘍マーカーは感度・特異度に限界があり、膜結合された保護カーゴを内包するEVは循環バイオマーカーとして大きな期待を集めていた。しかしEVプロテオーム解析は同一・再現性ある方法で解析された細胞株数が極めて限られており、異なるがん種のEVがどの程度共通タンパク質を内包し、どの程度がん種特異的組成を持つかは依然として未解明であった。既報のNCI-60 EVプロテオーム研究はいずれもサブセットに限定され、がん種横断的な定量比較を行う方法論的基盤が手薄であり、がん種共通のコアEV機構と組織型特異的マーカーを同一データセット内で峻別する系統的研究が不足していたという明確なギャップがあった。

目的

NCI-60の全60細胞株から同一条件でEVを単離し、LC-MS/MSによる網羅的プロテオミクスにより、(1) がん種共通のコアEVタンパク質、(2) がん種・組織型特異的なバイオマーカー候補、(3) EV分泌量と相関するEV生合成関連タンパク質を同定すること。さらにEVプロテオームと親細胞のトランスクリプトーム・プロテオームとの対応を検討し、EVが親細胞の分子特性を反映することを大規模に検証すること。

結果

過去最大規模のEVプロテオームデータセット — 6,071タンパク質の同定:60細胞株のEVから合計6,071種のユニークタンパク質が同定され、2016年時点で単一研究として最大規模のEVプロテオームデータセットとなった。1細胞株あたりの平均同定タンパク質数は約1,900種であった (Figure 1C)。既存EVデータベースVesiclepedia収録のタンパク質 (約4,500種) と比較すると、NCI-60データセットで約1,500種以上の新規EV関連タンパク質が発見された (Figure 1B)。2/3以上の細胞株 (40株以上) に検出された厳格データセット ([NCI-60] stringent) をVesiclepediaと比較すると97%超の重複率を示し、データの信頼性が確認された。組織型別の総タンパク質数は前立腺がん群 (n=2の過小代表) を除きパネル全体で概ね均一であった (Figure 1D)。

全細胞種共通のコアEVプロテオーム213タンパク質:全60細胞株EVに共通して検出されるコアタンパク質が213種同定された。これらにはRabファミリーGTPase (Rab1A・Rab2A・Rab5C・Rab6A・Rab7A・Rab8A・Rab10・Rab11B・Rab14)・テトラスパニン (CD81・CD63)・シンテニン-1・VAMP3 (v-SNARE)・インテグリンが代表的成分として含まれた。従来「ユニバーサルEVマーカー」とされていたタンパク質を精査すると、CD81・Alix・HSC70のみが全60株に検出された一方、CD63・CD9・TSG101・シンテニン-1・Flotillin-1は2/3以上の株にとどまり、MMP-2は全60株中わずか16株でしか検出されなかった (Figure 2D)。これは従来マーカーが万能でなく、EV定量の方法論的再考が必要であることを大規模に実証した。

WGCNAによるEV分泌量相関タンパク質モジュールの同定:WGCNA解析で15モジュールが検出され、88タンパク質からなる「yellowモジュール」がEV分泌量 (粒子数/細胞) と最も有意に相関した (Figure 4B)。このモジュールには細胞接着・GTPase活性・細胞表面受容体シグナリングに富むタンパク質が集積し、CD63・CD81・VAMP3・シンテニン-1・SEC22Bが含まれた (Figure 4D)。yellowモジュール内でタンパク質有意性 (vesicle分泌との相関) とモジュールメンバーシップの間に有意な正の相関 (Pearson相関係数 r=0.29、p=0.006、n=88タンパク質) が確認された (Figure 4C)。特にモジュール内88タンパク質中25種が全60株EVで検出され (コアプロテオームと重複、Table 1)、平均スペクトラルカウントはGalectin-3結合タンパク質LGALS3BPが550.05、AnnexinA2が288.53、Integrin beta-1が168.1と高値で、これらがEV生合成に普遍的に関与する機構タンパク質として有力視された。

PCA・階層クラスタリングによる組織型依存的EVプロテオームパターン:変動タンパク質を使用した主成分分析 (principal component analysis, PCA) により、60細胞株のEVが組織型に対応したクラスターに分離した (Figure 3A、PC1が分散の12%・PC2が8%を説明)。白血病株K562のみが他の白血病株と異なるクラスタリングを示し (BCR/ABL融合遺伝子による接着分子ICAM3下方制御が原因)、K562を除外して以降の解析を実施。白血病由来EVに特異的な165タンパク質が同定され、他の組織型の特異的タンパク質数 (大腸86・肺64・黒色腫92等) を大きく上回った (Figure 1D)。懸濁培養 (白血病株) と接着培養の差異が接着分子パターンの違いをもたらし、基底膜糖タンパク質アグリン (AGRN) が白血病株以外の全株EVに検出された一方 (Figure 3C)、ICAM3は白血病株EVに特異的に高発現した (Figure 3D)。メラノーマ特異的タンパク質PMELが全メラノーマ株EVで検出され (Figure 3E)、転移性乳がんマーカーであるペリオスチンが2つの高転移性乳がん株 (MDA-MB-231・HS578T) に限定して検出された。グリピカン-1 (GPC1) は60株中35株のEVでのみ検出され、膵臓がん早期診断バイオマーカーとして報告された (Melo et al. Nature 2015) との整合性と、がん種依存的発現パターンが確認された。

EVプロテオームと親細胞分子プロファイルの高い一致性:共慣性解析 (co-inertia analysis) でEVプロテオーム・全細胞プロテオーム・全細胞トランスクリプトームを統合解析した結果、第1・第2軸で全変動の49% (第1軸31%・第2軸18%) が説明された (Figure 5C)。EVプロテオームは全細胞プロテオームとRV係数0.63、全細胞トランスクリプトームとRV係数0.57の高い一致性を示し (Figure 5A)、EVが親細胞の分子像を信頼性高く反映することを示した。コアEVプロテオーム213種中144種が全細胞でも同定され、tubulin (TUBB4B・TUBA1C) が肺がんEVで親細胞比富化、LGALS3BPが複数EV株で親細胞比富化しており (Figure 5E-5H)、これらが選択的EV包装の標的タンパク質と考えられた。

考察/結論

本研究はNCI-60の60細胞株全てのEVプロテオームを単一研究として最大規模で解析し、(1) EV生合成の普遍的機構を反映するコアタンパク質213種、(2) がん種・組織型特異的バイオマーカー候補、(3) EV分泌量相関の生合成関連タンパク質群を包括的に同定した。コアEVプロテオーム213種はRab GTPase・テトラスパニン・VAMP3・シンテニン-1を含み、EV研究の標準的マーカーセットとして研究界への貢献が大きい。

先行研究との比較として、本研究以前のNCI-60 EVプロテオーム研究はいずれもサブセット (卵巣がん数株・乳がん1株等) に限定されており、がん種横断的な定量比較が不可能であった。これと異なり本研究では、従来EV「ユニバーサルマーカー」とされたCD9・CD63・TSG101・Flotillin-1が全60株に一様検出されないことを大規模に実証した点が新規かつ重要な知見であり、これまで自明とされてきたEV定量の前提を覆すものである。EVプロテオームが親細胞のRNA・タンパク質プロファイルと高い一致性 (RV係数0.57-0.63) を示すことは、循環EVが非侵襲的な「細胞スナップショット」として診断利用可能であることの大規模実証となった。本研究で初めて、がん種横断的に共通機構タンパク質と特異的マーカーを同一データセット内で峻別できた。

臨床応用 (bench-to-bedside) の可能性として、組織型特異的EVタンパク質 (メラノーマのPMEL・白血病のICAM3・転移性乳がんのペリオスチン) は血漿循環EVを用いたがん種識別液体生検の基盤となりうる。特に懸濁細胞 (血液・骨髄腫瘍) と接着細胞由来EVを区別するICAM3/アグリンパターンは、臓器由来循環EVと血液細胞由来EVを区別する有用な識別マーカーとなる可能性がある。GPC1が60株中35株 (約58%) のEVにのみ検出されるという本研究のパターンは、膵臓がんでのGPC1陽性EVの意義 (Melo et al. Nature 2015) を裏付け、がん種によるGPC1バイオマーカー価値の差異を示唆する。前転移ニッチへの臓器特異的EV送達という観点では、Hoshino et al. (Hoshino et al. Nature 2015) のインテグリン依存性転移指向性とも整合する。

残された課題 (limitation) として、(1) 細胞培養系EVプロテオームと患者血漿中循環EVプロテオームの一致度の検証、(2) ExtraPEG法が異なるEVサブポピュレーション (エクソソーム・マイクロベシクル) を混在させる可能性への対処、(3) 微量・腫瘍特異的低発現タンパク質の定量精度と再現性の向上、(4) 前立腺がん株が2株のみという代表数の偏りの解消が挙げられる。今後の検討としては患者検体を用いた前向きバリデーションと、がん種特異的EV表面タンパク質を標的とした非侵襲的診断アッセイの開発が重要な方向性となる。

方法

NCI-60の60ヒトがん細胞株 (9組織型: 乳がん6株・脳CNS6株・大腸がん7株・腎がん8株・白血病9株・肺がん9株・黒色腫9株・卵巣がん7株・前立腺がん2株) を培養後、無血清培地でEV産生を誘導。EV単離法 (ISEV基準対応): ExtraPEG法 (ポリエチレングリコール沈殿による広域EV濃縮) で精製後、differential ultracentrifugation (示差超遠心、500×g 5分で細胞デブリ除去 + 100,000×g超遠心で再ペレット化) を併用。EV特性評価マーカー: ウェスタンブロット (western blot) でEVマーカータンパク質 (CD81・CD63・TSG101等) の存在を確認、ナノ粒子トラッキング解析 (nanoparticle tracking analysis, NTA) と透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy, TEM) でサイズ・形態がEVに一致することを確認。各株のEVタンパク質をトリプシン消化後LC-MS/MS解析しスペクトラルカウントで半定量。既存EVデータベースVesiclepediaとの照合で同定タンパク質の妥当性を検証。機能・パスウェイエンリッチメント解析はDAVID v6.7 (Benjamini補正後p<0.05)、細胞内局在エンリッチメントはFunRich (Benjamini補正後p<0.001)。統計手法: EV分泌量とタンパク質発現の相関解析は重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析 (weighted gene coexpression network analysis, WGCNA、dynamic tree cutで15モジュール) に基づくPearson相関係数で評価。差次発現解析はスペクトラルカウントに対する有意性検定 (FDR補正)。既存全細胞プロテオーム・トランスクリプトームデータ (Gholami et al.) との統合は共慣性解析 (co-inertia analysis, CIA) でRV係数を算出。