- 著者: Ayuko Hoshino, Bruno Costa-Silva, Tang-Long Shen, Gonçalo Rodrigues, Ayako Hashimoto, Milica Tesic Mark, Henrik Molina, Shinji Kohsaka, Angela Di Giannatale, Sophia Ceder, Swarnima Singh, Caitlin Williams, et al., Hector Peinado, Jacqueline Bromberg, David Lyden
- Corresponding author: David Lyden (Children’s Cancer and Blood Foundation Laboratories, Weill Cornell Medicine)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-10-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 26524530
背景
スティーブン・ペジェット (1889年) の「種と土壌」仮説以来、癌の臓器特異的転移 (organotropism) の分子機序は長らく未解明であった。腫瘍由来エクソソームが転移前ニッチ形成に関与することは、Peinado et al. NatMed 2012 のメラノーマエクソソームによる骨髄前駆細胞の動員に関する先行研究で示されていた。また、Kaplan et al. Nature 2005 はVEGFR1陽性造血幹細胞が前転移ニッチを形成することを示唆した。しかし、エクソソームが特定の臓器に選択的に集積してその臓器を「教育」し、将来の転移臓器を決定するというメカニズムはこれまで報告されていなかった。特に、脳、肺、肝臓への転移性腫瘍由来エクソソームが、それぞれ異なる臓器特異的細胞種に取り込まれる分子基盤の解明が不足しており、この知識ギャップが残されていた。
目的
本研究の目的は、腫瘍由来エクソソームの臓器特異的分布を決定する分子、特にインテグリンを同定し、これらの分子が転移前ニッチ形成と転移臓器の決定に機能的に関与することを証明することである。さらに、エクソソームインテグリンの臨床バイオマーカーとしての可能性を検討することも目的とした。
結果
エクソソームは細胞株起源の臓器特異性を再現する: 肺向性4175-LuT由来エクソソームは、ヌードマウスの肺に骨向性1833-BoTおよび脳向性831-BrT由来エクソソームと比較して4倍以上の取り込みを示した (Fig. 1a, c)。同様に、831-BrT由来エクソソームは脳への取り込みが1833-BoTおよび4175-LuT由来エクソソームと比較して4倍以上効率的であった (Fig. 1c-e)。マウスモデル (E0771乳癌、Pan02膵臓癌) でも、免疫能正常な動物 n=3 mice において同様の臓器特異性が確認された (Extended Data Fig. 1b)。これらのデータは、エクソソームがその起源となる腫瘍細胞の臓器向性を反映し、特定の臓器に選択的に分布することを示唆する。
臓器特異的細胞種がエクソソームを取り込む: 肺向性4175エクソソームは、肺内S100A4陽性線維芽細胞 (40%) およびSPC陽性上皮細胞 (30%) に主に取り込まれた (Fig. 2c, Extended Data Fig. 4a)。肝向性BxPC-3-LiTエクソソームはKupffer細胞 (F4/80+) に90%取り込まれた (Fig. 2c, Extended Data Fig. 4a)。脳向性831-BrTエクソソームはCD31陽性脳内皮細胞に98%取り込まれた (Fig. 2c, Extended Data Fig. 4a)。これらのエクソソームは、それぞれラミニン豊富な肺微小環境およびフィブロネクチン豊富な肝微小環境に局在した (Extended Data Fig. 5b)。この所見は、エクソソームが標的臓器の特定の常在細胞と直接相互作用することを示している。
エクソソームインテグリン発現パターンが臓器向性を決定する: 28細胞株の定量プロテオミクス解析により、ITGα6 (ITGβ4およびITGβ1との複合体) が肺向性エクソソームに特異的に高発現していることが明らかになった (Fig. 2a, b)。ITGαvβ5は肝向性エクソソームに特異的に発現し、ITGβ3は脳向性エクソソームに存在した (Fig. 2a, b, Extended Data Table 1)。これらのインテグリン発現はエクソソームと細胞本体で必ずしも一致せず、選択的パッケージングを示唆した (Extended Data Fig. 3c)。このデータは、エクソソーム表面のインテグリンが臓器特異的転移の「住所」として機能する可能性を強く示唆する。
教育実験により肺向性エクソソームが骨向性腫瘍細胞の転移臓器を再方向化する: 肺向性4175-LuT由来エクソソームによる3週間の「教育」後、本来肺転移能のない1833-BoT細胞の肺転移が、静脈注射で7倍、心臓内注射で10,000倍増加した (Fig. 1f, g, Extended Data Fig. 2d)。これは骨向性エクソソームやPBS処理群では認められなかった。逆に、1833-BoT由来エクソソームは4175-LuT細胞の肺転移に影響しなかった (Fig. 1f, Extended Data Fig. 2c)。この結果は、エクソソームが転移前ニッチを形成し、腫瘍細胞の転移臓器を再方向化する能力を持つことを明確に示している。
ITGβ4ノックダウンにより肺への取り込みと転移が低下し、救済実験で機能が確認された: ITGβ4KDエクソソームは、対照と比較して肺への取り込みが3倍以上低下した (Fig. 3a-c)。HYD-1 (ラミニン受容体遮断) は有意に肺への取り込みを抑制したが、RGD (フィブロネクチン受容体遮断) は影響しなかった。ITGβ4KD細胞の肺転移能は低下し、野生型4175-LuT由来エクソソーム (ただしITGβ4KDエクソソームではない) による事前処理で転移能が救済された (Fig. 3e)。同様に、ITGβ5KDエクソソームは対照と比較して肝臓への取り込みが7倍低下した (Extended Data Fig. 6f)。さらに、RGDペプチドまたは抗ITGαvβ5抗体による前処理は、BxPC-3-LiTおよびPan02-LiTエクソソームの肝臓への接着を有意に減少させ、Pan02-LiTエクソソームの教育効果を阻害し、肝転移をブロックした (Extended Data Fig. 6g, Extended Data Fig. 7b)。これらのデータは、エクソソームインテグリンが臓器特異的取り込みと転移に不可欠であることを機能的に証明する。
Src-S100軸の活性化が転移前ニッチを構築する: 4175-LuT由来エクソソームは、WI-38肺線維芽細胞においてITGβ4依存的にSrcリン酸化を増加させ (pSrc上昇)、S100A4、S100A6、S100A10、S100A11、S100A13、S100A16の発現を5倍以上誘導した (Fig. 3f)。ITGβ4KDエクソソームではこの効果は認められなかった。Kupffer細胞ではS100PおよびS100A8が4倍以上誘導された (Fig. 3f)。上皮細胞 (HBEpC) ではS100遺伝子の変化は認められず、細胞種特異性を示した。この結果は、エクソソームインテグリンが標的細胞のシグナル伝達経路を活性化し、転移前ニッチ形成を促進する分子メカニズムを示唆する。
臨床バイオマーカーとしてエクソソームITGが臓器特異的転移を予測する可能性: 乳癌患者の採血時転移前サンプルを後ろ向き解析した結果、3年以内に肺転移を発症した症例 (POD群、n=2 patients) では、血漿エクソソームITGβ4が最高値を示した (Fig. 4a)。骨転移 (n=3 patients) および肝転移 (n=1 patient) 患者、または転移なし症例 (n=8 patients) ではITGβ4が低値であった。膵臓癌患者では、肝転移を発症した症例 (n=13 patients) のITGαv値が、非肝転移患者 (n=14 patients) および健常者 (n=13 subjects) と比較して有意に高値であった (p<0.05) (Fig. 4b)。腫瘍切除後6週間でITGβ4が有意に低下し、エクソソームの腫瘍由来性が確認された (Extended Data Fig. 8a)。この臨床データは、エクソソームインテグリンが臓器特異的転移の予測バイオマーカーとして有用である可能性を示唆する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、これまでの研究が細胞内在的な遺伝的決定因子に焦点を当てていたのと対照的に、腫瘍外因性エクソソームが転移臓器の決定に重要な役割を果たすことを示した点で、従来の転移研究とは異なるアプローチを提供した。ペジェットの「種と土壌」仮説の分子的基盤を、エクソソームインテグリンという具体的な分子メカニズムで初めて実証したことは、この分野における大きな進展である。ITGα6β4およびITGα6β1がラミニン豊富な肺微小環境の線維芽細胞・上皮細胞と相互作用することで肺向性を確立し、ITGαvβ5がフィブロネクチン豊富な肝微小環境のKupffer細胞と相互作用することで肝向性を確立するという機序が示された。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍由来エクソソームの表面に発現するインテグリンが、そのエクソソームが標的とする臓器の細胞に選択的に接着・取り込まれることを明らかにした。このエクソソームによる「臓器教育」は、通常肺に転移しない腫瘍細胞の肺転移能を最大10,000倍増強するという新規な現象を発見した。さらに、エクソソームのインテグリンが標的細胞のSrcリン酸化とS100遺伝子発現を活性化し、前転移ニッチ形成を促進するという、これまで報告されていないメカニズムを解明した。
臨床応用: 本研究の知見は、将来の転移部位を予測する診断テストの開発に繋がる臨床的意義を持つ。患者血漿中のエクソソームITGβ4およびITGαvレベルがそれぞれ肺転移および肝転移の予測因子となる可能性が示されたことは、臨床応用への大きな一歩である。これらのバイオマーカーは、早期診断や個別化医療戦略の策定に貢献し、患者の予後改善に寄与する可能性がある。腫瘍切除後にITGβ4レベルが低下したことは、エクソソームの腫瘍由来性を裏付け、治療効果モニタリングへの応用も示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームインテグリンが他の臓器への転移をどのように決定するか、またITGα2β1が全ての癌転移のマーカーおよびドライバーとして機能する可能性について、さらなる研究が必要である。本研究は、エクソソームが臓器特異的転移を決定する重要な役割を担うことを示したが、エクソソームのカーゴに含まれる他の分子が転移に与える影響や、エクソソームの産生・放出メカニズムの詳細は、今後の研究でさらに探求すべきlimitationである。
方法
本研究では、MDA-MB-231 (乳癌) 亜株 (4175-LuT=肺向性、1833-BoT=骨向性、831-BrT=脳向性) およびBxPC-3/HPAF-II (膵臓癌・肝向性) 細胞株を使用した。エクソソームはNIR (近赤外) 蛍光標識後に静脈内注射 (10 µg) し、24時間後の臓器生物分布をNIR全肺イメージングおよび共焦点顕微鏡で定量した。教育実験では、エクソソームを隔日3週間静脈内注射した後、ルシフェラーゼ発現腫瘍細胞を尾静脈または心臓内注射し、生物発光を定量した。プロテオミクス解析には、28種類の臓器特異的転移細胞株由来エクソソームの定量・定性マススペクトロメトリー (LFQ・インテグリン重点) を用いた。ITGβ4/β5のshRNAによるノックダウン (KD) およびITGβ4の過発現 (OE) を用いて機能実験を実施した。ブロッキングペプチドとして、HYD-1 (ラミニン受容体遮断) およびRGD (フィブロネクチン受容体遮断) を使用した。Kupffer細胞のRNAシーケンス解析は、BxPC-3-LiTエクソソームまたはITGβ5KDエクソソーム処理後の細胞で実施し、906遺伝子で2倍以上の発現差を検出した。臨床研究では、乳癌および膵臓癌患者の血漿エクソソーム中のITGβ4およびITGαvレベルをELISAで測定し、転移前サンプルも解析対象とした。統計解析には、一元配置分散分析 (ANOVA) およびStudentのt検定を用いた。