- 著者: Ermioni S. Arvanitaki, Evi Goulielmaki, Katerina Gkirtzimanaki, George Niotis, Edisona Tsakani, Electra Nenedaki, Iliana Rouska, Mary Kefalogianni, Dionysios Xydias, Ilias Kalafatakis, Sotiris Psilodimitrakopoulos, Domna Karagogeos, Björn Schumacher, Emmanuel Stratakis, George A. Garinis
- Corresponding author: George A. Garinis (Department of Biology, University of Crete, Heraklion, Greece)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-04-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 38635632
背景
Alzheimer病 (アルツハイマー病)、Parkinson病 (パーキンソン病)、Huntington病、筋萎縮性側索硬化症である ALS (amyotrophic lateral sclerosis) などの加齢関連神経変性疾患では、DNA損傷の蓄積が共通の病理学的特徴であると報告されている。先天性DNA修復欠損症である XFE (XPF-ERCC1 deficiency) 症候群やCockayne症候群などは進行性神経変性を呈し、対応する動物モデルでも小脳失調や大脳萎縮が観察される。神経炎症は、アストロサイトやミクログリアの活性化による炎症性サイトカイン産生が神経細胞死を誘発する過程であり、近年、認知症の核心機構として注目されている。しかし、ミクログリアを含む脳内非神経細胞のDNA損傷が神経変性の原因となるか、およびその分子経路は未解明であった。
XPF-ERCC1 (Xeroderma Pigmentosum F-Excision Repair Cross Complementation group 1) は、ヌクレオチド除去修復である NER (nucleotide excision repair)、鎖間架橋修復、Rループ処理など複数のDNA修復経路に必須のヘテロ二量体ヌクレアーゼ複合体である。XPF-ERCC1の変異はヒトにおいて早老症様の特徴を伴う進行性神経変性を引き起こすことが知られている。本研究では、Cx3cr1-Creドライバーを用いて組織常在マクロファージ (脳ではミクログリア) 特異的にErcc1遺伝子をノックアウトしたEr1Cx/-マウスを作製し、ミクログリアのDNA損傷と神経変性の因果関係を検証した。これにより、脳内非神経細胞のDNA損傷が神経変性を引き起こすメカニズムに関する不足している知見を補完することが期待された。
先行研究では、DNA損傷と神経変性の関連が示唆されてきた。例えば、Escola et al. JBiolChem 1998は細胞外小胞である EV (extracellular vesicle) の基礎的特性を報告しており、Thakur et al. CellRes 2014はがん検出におけるEV内二本鎖DNAの存在を報告している。しかし、特定の細胞型におけるDNA損傷が神経変性を引き起こす直接的なメカニズム、特にEVを介した細胞間コミュニケーションの役割については、詳細な分子経路が未確立であり、研究領域における大きなgapが存在していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、ミクログリア選択的XPF-ERCC1欠損が神経炎症、神経細胞死、および運動失調を誘発する分子機序を解明することである。特に、DNA損傷を抱えるミクログリアが放出するEVが、細胞質二本鎖DNAである dsDNA (double-stranded DNA) を積荷として神経細胞に輸送し、細胞死を伝達する経路を同定することを目指した。さらに、このEVを標的送達ベクターとして利用した治療戦略の可能性を検証することも目的とした。具体的には、cGAS-STING (cyclic GMP-AMP synthase-Stimulator of Interferon Genes) 経路の活性化がI型インターフェロンである I型IFN (type I interferon) 応答を介して神経細胞死を引き起こすか、そしてDNase Iを搭載したEVがこの病態を軽減できるかを評価する。この研究は、神経変性疾患の新たな治療標的と治療法の開発に貢献することを目指す。
結果
ミクログリア特異的ERCC1欠損による進行性運動失調: Cx3cr1-Cre; Rosa-YFPマウスを用いた解析により、Cx3cr1-CreがMAC1+脳常在ミクログリアに選択的に発現することが確認された。Er1Cx/-マウスはメンデルの法則に従って誕生し、発生異常やその他の病理学的特徴は認められなかった。しかし、6月齢 (24週) で進行性の運動失調を発症し、tail suspension testでは後肢のclaspingが観察され、rotarod試験では野生型 (wt) マウス (n=6 mice) と比較して落下潜時が有意に短縮し (p<0.05)、運動協調性の欠陥を示した (Fig 1G)。8月齢 (32週) ではkyphosisや前肢の微細な振戦も観察された (Fig 1H)。これらの結果は、ミクログリアにおけるERCC1欠損が神経変性症状を直接引き起こす因果関係を示唆する。
ミクログリアの活性化と形態変化: 6月齢のEr1Cx/-マウス (n=6 mice) の小脳、大脳皮質、脊髄ミクログリアは、Iba1染色においてfinger-like protrusionの形成、Sholl解析においてjunction数、total length、process interception数の増加、および細胞体 (soma) の拡大を示した (Fig 1I)。これらの形態変化はミクログリアの活性化を示す。フローサイトメトリー解析では、Er1Cx/-脳のミクログリアにおいて主要組織適合性複合体クラスII (MHC-II) およびCD86の表面発現が亢進しており、ATP刺激下でのtransmigrationも増加した (Fig 1J)。さらに、JAK-STAT1経路の活性化が認められ、total STAT1およびリン酸化STAT1 (pSTAT1) の発現レベルが増加した (Fig 1K)。これらの所見は、Er1Cx/-ミクログリアが炎症性プロファイルを示す活性化状態にあることを強く示唆する。しかし、CD11b+CD45lo集団の比率、Annexin V+PI+細胞の割合、およびLy6C+末梢マクロファージの浸潤にはwtマウスとの有意な差は認められず (Fig 1L, M)、観察された活性化が細胞内在性のDNA損傷応答に起因することが示唆された。
細胞質dsDNAの蓄積とcGAS-STING経路の活性化: Er1Cx/-ミクログリアでは、DNA二重鎖切断マーカーであるリン酸化Ataxia telangiectasia-mutated protein (pATM)+およびリン酸化ヒストンH2A.X (γH2A.X)+核病巣の増加が確認された。さらに、細胞質二本鎖DNA (dsDNA) の顕著な蓄積が認められ、cGMP-AMP (cGAMP) synthase (cGAS) と共局在した (Fig 2A)。cGAS+dsDNA+構造を持つ細胞の割合はwtと比較して約3倍 (64% vs 21%, p<0.01) に増加した (Fig 2A)。興味深いことに、Er1Cx/-ミクログリアでは細胞質一本鎖DNA (ssDNA) のレベルが減少しており、S1ヌクレアーゼ処理によりdsDNA蛍光が消失したことから、ssDNAの再アニーリングに由来するdsDNA生成機序が強く示唆された。また、主要衛星リピートであるGSAT_MMが細胞質で濃縮されていることが確認された。エトポシド処理したwtミクログリアでも同様のcGAS+dsDNA蓄積が再現された (Fig 2A)。これらの結果は、ERCC1欠損によるDNA損傷が細胞質dsDNAの蓄積を誘導し、cGASを介した自然免疫応答を活性化することを示している。
I型インターフェロン (IFN) 応答と神経毒性: Er1Cx/-マウスの脳および脊髄ミクログリアにおいて、リン酸化STING (pSTING) の発現が増加した (Fig 2B)。全脳ライセートでは、Ifnβ、Ifi207、Irf1、Mx1などのI型IFNシグネチャ遺伝子のmRNAレベルが有意に上昇した (Fig 2C)。脳洗浄液ではbioactive I型IFN活性の上昇が、脳脊髄液 (CSF) ではIFN-βタンパク質レベルの上昇が確認された (Fig 2D, E)。24月齢の自然老化マウス (n=3 mice) でも同様に、核内γH2A.X、細胞質dsDNA、cGASの蓄積、およびpSTING+CD11b+細胞の割合の増加が認められ、Er1Cx/-マウスで観察されたメカニズムが加齢関連病態にも普遍的に関連することが示唆された。これらのデータは、ミクログリアのDNA損傷がI型IFN応答を誘導し、神経炎症を引き起こすという仮説を強く支持する。
ミクログリア由来EVによるdsDNAの神経細胞への伝達: Er1Cx/-脳洗浄液から単離された細胞外小胞 (EV) は、走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡観察により、典型的なサイズ (直径約100 nm) と形態を示した (Fig 2G)。フローサイトメトリー解析では、Er1Cx/-由来EVにおいてCD11b+PicoGreen+ (dsDNA染色) EVの比率がwtと比較して有意に高かった (Fig 2H)。脳脊髄液 (CSF) 由来EVのDNA抽出では、Er1Cx/-EVで400 bp未満のDNA種がwtよりも豊富に検出された (Fig 2F)。ExoFlowとPicoGreenでプレラベルしたEVをSH-SY5Y神経細胞株に添加した結果、Er1Cx/-EV由来のPicoGreen+ dsDNAが神経細胞内に効率的に送達され、I型IFN応答性神経細胞死を誘発することが示された (Fig 2I)。これらの所見は、DNA損傷を抱えるミクログリア由来EVがdsDNAを神経細胞に伝達するキャリアとして機能し、神経細胞死を引き起こすことを明確に示している。
EVを介したDNase I標的治療による神経変性症状の改善: リコンビナントDNase Iを搭載し、CD11bリガンドで修飾した標的EVをNIH/3T3細胞から作製し、Er1Cx/-マウス脳ミクログリアにin vivoでDNase Iを送達するシステムが開発された。この標的EVは鼻腔内投与によりミクログリアに効率的に到達した (Fig 4A)。DNase I搭載EVの投与は、脳ミクログリアの細胞質dsDNAを効果的に除去し (Fig 4B, C)、I型IFNシグネチャ遺伝子発現の低下およびMHC-II+CD86+ミクログリアの割合の減少として評価される神経炎症を抑制した (Fig 4D, E)。さらに、神経細胞アポトーシスを有意に減少させ (Fig 4F)、rotarod試験における落下潜時の改善として示される神経変性症状の発症を有意に遅延させた。DNase I搭載EVを投与されたEr1Cx/-マウス (n=4 mice) は、21週齢から27週齢にかけて、naive EV投与群と比較してrotarod落下潜時が有意に改善し、1.8-foldの運動機能維持効果を示した (p<0.05) (Fig 4G)。これらの治療効果は、DNA損傷に起因する細胞質dsDNAの蓄積がcGAS-STING経路を介したI型IFN応答を活性化し、EVを介して神経細胞死を伝播することで年齢関連神経変性を引き起こすという因果経路を強力に証明した。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、加齢関連神経変性の新規病態モデルとして「ミクログリアDNA損傷 → 細胞質dsDNA蓄積 → cGAS-STING経路を介したI型IFN応答 → dsDNA積荷EV放出 → 神経細胞へのIFN応答性細胞死伝達」という一連の経路を提示した。これは、先行研究でミクログリア活性化の神経変性への寄与が示されていたものの、DNA損傷そのものを起点とし、EVがカーゴ伝達ベクターとして機能する機構を明確に示した点で、これまでの報告とは対照的である。特に、DNA修復欠損ミクログリアにおいてssDNAの再アニーリングに由来するdsDNAが生成されるという機序は、ATMノックアウトミクログリアでのATリッチリピート蓄積の既報と整合しつつ、新規の知見である。
新規性: 本研究で初めて、DNA損傷を抱えるミクログリアが細胞質dsDNAをエクソソームに積荷し、神経細胞に輸送することでcGAS-STING経路を介したI型IFN応答と神経細胞死を誘発し、年齢関連神経変性の原因となるメカニズムを解明した。また、この病態を標的とする治療戦略として、DNase Iを搭載したEVを鼻腔内投与することで、神経炎症と神経細胞死が軽減され、運動失調症状が改善することを新規に示した。この発見は、EVが病態ドライバーから治療ビークルに転換する双方向の視点を提供する画期的な研究である。
臨床応用: 本研究の知見は、加齢関連神経変性疾患に対する複数の臨床応用可能性を提示する。第一に、cGAS-STING阻害剤やI型IFNブロッカーが、これらの疾患の治療薬として転用される可能性が考えられる。第二に、EVベースのターゲットDNase I送達システムは、既存治療では困難な血液脳関門 (BBB) を通過し、中枢神経系への薬物到達を実現する可能性を秘めている。これは、臨床現場における神経変性疾患の治療選択肢を大きく広げる可能性がある。第三に、血中やCSF中のEVのdsDNA含量が、神経変性疾患のバイオマーカーとして機能する可能性も示唆される。Thakur et al. CellRes 2014もエクソソーム中のdsDNAがバイオマーカーとして有用であることを示唆しており、本研究はその概念を神経変性疾患に応用する道を開く。
残された課題: 今後の検討課題としては、Alzheimer病、Parkinson病、ALSなどヒト神経変性疾患におけるミクログリアのdsDNA蓄積の検証が挙げられる。また、EVがBBBをどのように通過し、神経細胞に到達するかの分子機構の詳細な解明も残された課題である。DNase I搭載EVの安全性、長期効果、および他のDNA修復経路欠損で同様の経路が一般化可能であるかどうかの評価も必要である。Escola et al. JBiolChem 1998がエクソソームの特性について報告しているように、EVの生物学的特性のさらなる理解が、治療戦略の最適化に繋がるだろう。
方法
動物モデルの作製と特性評価: Ercc1F/F動物とCx3cr1-Creトランスジェニックマウスを交配し、組織常在マクロファージ特異的にErcc1遺伝子を不活性化したCx3cr1-Cre; Ercc1F/+ (Er1Cx/-) コンディショナルノックアウトマウスを作製した。マウスの遺伝的背景には C57BL/6J マウス系統を用いた。対照群にはCx3cr1-Creトランスジェニックを持たないErcc1F/+マウス (野生型; wt) を用いた。Cx3cr1-Cre; Rosa-YFPマウスの脳凍結切片および単離ミクログリアの共焦点顕微鏡観察により、Cx3cr1-CreがMAC1+ (CD11b/CD18) 脳常在ミクログリアに選択的に発現することを確認した。
ミクログリア単離と解析: Percoll勾配遠心分離により脳からミクログリア分画を単離し、フローサイトメトリーでCD11b+CD45lo集団として解析した。活性化マーカーである主要組織適合性複合体クラスII (MHC-II) およびCD86の表面発現、ならびにリン酸化STING (pSTING) の発現を評価した。Iba1免疫染色後のSholl解析により、ミクログリアの突起の分岐数、総長、交差数、および細胞体サイズを定量し、形態変化を評価した。
DNA損傷とcGAS-STING経路の評価: リン酸化Ataxia telangiectasia-mutated protein (pATM) およびリン酸化ヒストンH2A.X (γH2A.X) の免疫蛍光染色により、核内および細胞質DNA損傷を検出した。細胞質dsDNAの特異的検出にはPicoGreen染色を用い、S1ヌクレアーゼ処理によるdsDNA蛍光の消失を確認することで、一本鎖DNAである ssDNA (single-stranded DNA) の再アニーリングに由来するdsDNA生成機序を検証した。GSAT_MM (major satellite repeat) qPCRによりATリッチ配列の細胞質内蓄積を評価した。陽性対照としてエトポシド (トポイソメラーゼII阻害剤) 処理したwtミクログリアを用いた。また、自然老化マウスのミクログリアでも同様のDNA損傷およびcGAS-STING経路活性化の普遍性を検証した。Replication Protein A (RPA) のリン酸化レベルも評価した。
細胞外小胞 (EV) の解析: 脳洗浄液および脳脊髄液である CSF (cerebrospinal fluid) から超遠心分離法によりEVを単離した。走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡でEVの形態とサイズ (約100 nm) を観察した。フローサイトメトリーによりCD11b+PicoGreen+ (dsDNA染色) EVの比率を定量し、EV内のdsDNA積荷を評価した。CSF由来EVのDNAはフェノール・クロロホルム抽出後、アクリルアミドゲル電気泳動とEtBr染色によりサイズ分布を解析した。
神経細胞への影響評価: ヒト神経芽細胞腫由来の SH-SY5Y 細胞株をNESTIN-1で標識し、ExoFlowおよびPicoGreenでプレラベルしたミクログリア由来EVと16時間共培養した。神経細胞へのEV取り込みとdsDNA送達を免疫蛍光染色で評価し、I型IFN応答性神経細胞死への影響を解析した。急性脳スライス培養系では、PKH67で標識したEVのプルキンエ細胞 (CALBINDIN+細胞) への取り込みを多光子顕微鏡で観察し、I型IFN受容体である IFNAR (type I interferon receptor) 阻害抗体を用いた実験で神経細胞死におけるIFNARの役割を検証した。神経細胞死はカスパーゼ-3染色で評価した。
行動試験と統計解析: 6月齢のマウスにおいて、tail suspension testで後肢のclasping、rotarod試験で落下潜時を測定し、運動協調性を評価した。統計解析には、Student t-test および one-way ANOVA を用いて群間比較を行った。
治療実験: リコンビナントDNase Iを搭載し、CD11bリガンドで修飾した標的EVを NIH/3T3 細胞株から作製した。このEVは、CD63結合配列 (CRHSQMTVTSRL) とαMIドメイン結合ペプチドCP05 (RKLRSLWRR) の組み合わせからなるカスタム抗CD11bペプチドでコーティングされた。12週齢のマウスに、このEVを週2回、6〜15週間にわたり鼻腔内投与した。治療効果として、脳ミクログリアの細胞質dsDNAの除去、I型IFNシグネチャ遺伝子発現やMHC-II+CD86+ミクログリアの割合による神経炎症の抑制、神経細胞アポトーシスの減少、およびrotarod性能による神経変性症状の遅延効果を評価した。