- 著者: Jean-Michel Escola, Monique J Kleijmeer, Willem Stoorvogel, Janice M Griffith, Osamu Yoshie, Hans J Geuze
- Corresponding author: Hans J Geuze (Department of Cell Biology, Utrecht University School of Medicine, AZU, Utrecht, The Netherlands)
- 雑誌: Journal of Biological Chemistry
- 発行年: 1998
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 9685355
背景
MHC (major histocompatibility complex) クラスII分子は、抗原提示細胞において外来性タンパク質抗原から生成されたペプチドをCD4陽性T細胞に提示し、適応免疫応答の開始に中心的な役割を担う (Germain and Margulies 1993; Cresswell 1994)。その複合体形成は MIIC (MHC class II-enriched compartment) と総称されるエンドサイトーシス小胞内で生じることが IEM (immunoelectron microscopy, 免疫電子顕微鏡法) 研究で示されており、MIICには形態学的に多胞性 (multivesicular) 型・多層膜 (multilaminar) 型などのサブタイプがある。1996年の先行研究では、多胞性MIICが形質膜と直接融合して内部小胞をエクソソームとして細胞外に放出すること、さらにB細胞由来エクソソームがin vitroでT細胞を刺激できることが初めて報告された Raposo et al. JExpMed 1996。
しかしこの時点では、エクソソームのタンパク質組成に関する情報が不足しており、MHCクラスII分子の相対的な濃縮と TfR (transferrin receptor, トランスフェリン受容体) の低含有量が知られているにすぎなかった。T細胞活性化に不可欠な共刺激分子 (CD80/CD86) の存否、ならびにテトラスパニンスーパーファミリー (tetraspan superfamily) に属するCD37 (cluster of differentiation 37)・CD53 (cluster of differentiation 53)・CD81 (cluster of differentiation 81)・CD82 (cluster of differentiation 82) がエクソソームに取り込まれるかについての解析は手薄であった。MHCクラスII分子のMIIC内輸送とペプチド結合過程では、不変鎖 (invariant chain, Ii) の分解とHLA-DM (human leukocyte antigen-DM) による CLIP (class II-associated invariant chain peptide) 除去が重要であることが示されていたが Peters et al. Nature 1991、これらの加工関連分子がエクソソームに取り込まれるかは未確認であった。またMIICの内部小胞膜と限界膜でタンパク質分布が異なるとすれば、それを駆動する能動的ソーティング機構の実態にも gap in knowledge が存在した。
目的
EBV (Epstein-Barr virus) 形質転換ヒトB細胞株由来エクソソームのタンパク質組成を生化学的・形態学的に網羅解析し、共刺激分子CD86およびテトラスパニン群の選択的濃縮を定量すること。加えて、IEMによりこれらの分子のMIIC内部小胞膜への優先的局在を直接証明し、エクソソーム形成における能動的タンパク質ソーティングを実証することを目的とした。
結果
テトラスパニン群およびCD86のエクソソームへの高度選択的濃縮: P1とP5ペレットの各タンパク質を解析した (Fig 1; Table I)。形質膜マーカーのTfRはP5/P1比=0.08 ± 0.01と低値であり、エクソソーム調製物への形質膜汚染が最小限であることを確認した。TfR比で正規化した相対濃縮率では、テトラスパニン群が突出して高い値を示した。CD81はP5/P1比=10 ± 0でTfR比124 ± 10-fold、CD82はP5/P1比=3.3 ± 0.2でTfR比41 ± 7-fold、CD37はP5/P1比=3 ± 0でTfR比36 ± 4-fold、CD63はTfR比7 ± 2-foldの濃縮であった (Fig 1B; Table I)。共刺激分子CD86はTfR比10 ± 2-fold、MHCクラスIIは8 ± 2-fold濃縮された (Fig 1A; Table I)。対照的に、HLA-DM (2 ± 1-fold)、Ii (0.2 ± 0.1-fold)、Lamp-1 (0.8 ± 0.6-fold)、Lamp-2 (0.5 ± 0.2-fold) はほとんど濃縮されなかった。ICAM-1は4 ± 2-foldの中等度濃縮を示したが、LFA-3 (lymphocyte function-associated antigen 3, CD58) やICAM-2 (intercellular adhesion molecule 2, CD102) は有意な濃縮を示さなかった。ウェスタンブロットでは抗体の問題からCD53の検出はできなかったが、IEMにより内部小胞への局在が確認された。これらの定量値はすべて独立した3回の実験 (n=3) の mean ± SD であり、異なる培養バッチ間でも同様のランクオーダー (CD81>CD82>CD37>CD63>CD86>MHCクラスII) が再現された。テトラスパニン群の最高濃縮率 (CD81=124 ± 10-fold) はMHCクラスII (8 ± 2-fold) の約15倍であり、TfR (P5/P1=0.08 ± 0.01) を基準とした正規化が形質膜汚染の影響を定量的に排除する。
スクロース密度勾配精製エクソソーム上でのテトラスパニン群とMHCクラスIIの共局在: エクソソームをスクロース密度勾配でさらに精製し、各密度分画をウェスタンブロットで解析した (Fig 2A)。MHCクラスII、CD81、CD82の分布は完全に重複し、いずれも平衡浮遊密度ピーク1.13 g/ml (範囲1.10-1.18 g/ml) に集積した (Fig 2B)。ホールマウントIEMによる二重免疫金標識では、CD82 (15 nm金粒子) とHLA-DR (human leukocyte antigen-DR; MHCクラスII, 10 nm金粒子) が個々のエクソソーム上で明確に共局在し (Fig 2C)、CD53とHLA-DRも同様の共局在パターンを示した (Fig 2D)。MHCクラスIIがSDS安定なαβ-ペプチド複合体として回収されたことは (Fig 2A)、エクソソームが加工済みペプチド搭載型MHCクラスII分子を搬出していることを示唆する。これらの結果はn=3の独立実験すべてで再現され、テトラスパニン群がMHCクラスII陽性エクソソームの構成要素であることを生化学的・形態学的に裏付けた。
テトラスパニン群のMIIC内部小胞膜への優先的局在と能動的ソーティングの実証: 超薄凍結切片IEMにより各テトラスパニン群の細胞内局在を詳細に解析した (Fig 3, 4)。CD82は全テトラスパニン中最高の細胞内標識密度を示し、多胞性・多層膜両型MIICに分布した (Fig 3A)。CD37とCD53は主に多胞性MIICに局在し (Fig 3B)、CD63は両型MIICに認められた (Fig 4A)。重要なことに、全テトラスパニン群がMIICの内部小胞膜に主として局在し、限界膜での標識は希薄であった。これとは対照的に、Lamp-2はMIICの限界膜に主局在し、エクソソームや内部小胞では希薄であった (Fig 4A)。エクソサイトーシスプロファイルのエクソソームはCD63・CD81・CD37で強く標識され (Fig 4A, 4B, 4C)、CD53・CD82も陽性であった。定量解析 (n=50 MIICs/型) では、多胞性MIICでCD82のi/l比=2.1、CD63のi/l比=1.6と内部膜優位であり、多層膜MIICではCD82のi/l比=4.8、CD63のi/l比=1.7とさらに顕著な内部膜集積が認められた (Table II)。一方、Lamp-1のi/l比は多胞性MIICで0.5、多層膜MIICで0.1と明確な限界膜優位を示し、MHCクラスIIの多層膜MIICでのi/l比は3.2であった。これらIEMデータは単離エクソソームの生化学データと完全一致し、MIIC内部膜形成時の能動的タンパク質ソーティングを直接的に証明した。
考察/結論
本研究はEBV形質転換ヒトB細胞株RN由来エクソソームのタンパク質組成を体系的に解析し、テトラスパニン群 (CD37, CD53, CD63, CD81, CD82) および共刺激分子CD86の選択的濃縮を初めて定量的に示した。特にCD81の124-fold、CD82の41-fold、CD37の36-foldという高濃縮率は、これらがエクソソームの主要構成要素であることを明確に示す。
先行研究との相違と新規の発見: これまでの研究ではエクソソームにおけるMHCクラスIIの濃縮が示されていたものの、多数のテトラスパニン群が極めて高度に選択的に濃縮されることは既報になかった。本研究で初めて、CD86および5種のテトラスパニンが定量的にエクソソームに濃縮されることを示した点は新規の重要な知見である。MHCクラスII輸送・加工に関与するHLA-DMや不変鎖Iiがエクソソームにほとんど含まれないという負の所見も、これまでの研究では示されておらず新規な観察である。HLA-DMがMIICの限界膜に主局在するというIEM観察は、MHCクラスII-ペプチド複合体形成がエクソソーム放出前に完了していることを示唆し、エクソソームは成熟した抗原提示分子を搬出するという概念と一致する。さらに、Lamp-1/2がエクソソームに取り込まれず限界膜に局在するのとは対照的に、テトラスパニン群が内部小胞膜に優先局在するという知見は、単純な膜小胞化では説明できない能動的タンパク質選別機構の存在を新規に実証したものである。
臨床的含意と免疫療法への橋渡し: エクソソームがMHCクラスII・CD86・テトラスパニン群という免疫機能分子を高度に濃縮しているという本知見は重要な臨床的意義を持つ。エクソソームがin vitroでT細胞を刺激できることと合わせれば、in vivoでの免疫応答調節 (T細胞刺激・記憶形成・寛容誘導) における生理的役割が示唆される。この特殊なタンパク質組成は、エクソソームをがん免疫療法や感染症ワクチンに応用する臨床応用の基礎的根拠となり、抗原提示能を持つ細胞外小胞の治療的利用への橋渡しとなる発見といえる Thottacherry et al. AnnuRevCellDevBiol 2019。
残された課題: テトラスパニン群がMIICに輸送される分子経路 (trans-Golgi networkからの直接輸送か、形質膜経由の内包化か) は今後の研究で解明すべき課題として残されている。また、MHCクラスII・CD86・テトラスパニン群がMIIC内部小胞膜に選択的に組み込まれる分子機構も未解明である。これらの分子が共通のコンセンサスソーティングシグナルを細胞質テールに持たないことから、脂質ドメイン・アダプタータンパク質・受容体媒介機構など未知のソーティング装置が存在すると考えられるが、その解明にはさらなる検討が必要である。Limitation として本研究はEBV形質転換B細胞株RN単一モデルであり、初代細胞や他の抗原提示細胞 (樹状細胞・マクロファージ) でのエクソソーム組成との比較、およびin vivo条件下での生理的役割の検証が今後の展望として挙げられる。
方法
細胞株および抗体: EBV形質転換ヒトB細胞株RN (HLA-DR15 [human leukocyte antigen-DR serotype 15] 陽性) を使用した。一次抗体としてウサギポリクローナル抗MHCクラスII、抗TfR、抗Ii (ICN-1)、抗ICAM-1 (intercellular adhesion molecule 1, CD54)、モノクローナル抗体5C1 (HLA-DM)、M38 (CD81)、C33 (CD82)、BU63 (CD86, cluster of differentiation 86)、CLB-gran1/2および435 (CD63, cluster of differentiation 63)、MEM-53 (CD53)、S-B3 (CD37)、H4A3 (Lamp-1, lysosomal-associated membrane protein 1)、H4B4 (Lamp-2) を用いた。
エクソソーム分離 (isolation method): 差次的超遠心分離法 (differential ultracentrifugation) を実施した。35 ml培養液 (約5×10^7細胞、RN株) を200 g / 10分 (P1: 細胞ペレット)、500 g / 10分×2 (P2)、2,000 g / 15分×2 (P3)、10,000 g / 30分 (P4) と段階処理後、SW27ローター (Beckman) で70,000 g / 60分の最終超遠心によりエクソソーム濃縮ペレット (P5) を得た。さらなる精製はスクロース密度勾配 (2.0-0.25 M、20 mM HEPES (4-(2-hydroxyethyl)piperazine-1-ethanesulfonic acid)/NaOH、pH 7.2) 上で100,000 g / 15時間浮遊させた後、各2 ml分画を200,000 g / 60分で再沈殿させた。
エクソソーム特性評価 (characterization): サイズ・形態はホールマウントIEMで確認した (50-60 nm小胞)。浮遊密度はスクロース勾配で定量した (平衡密度ピーク1.13 g/ml、範囲1.10-1.18 g/ml)。タンパク質マーカーによる特性評価としてウェスタンブロットでTfR (陰性参照マーカー、エクソソームで低含有)・MHCクラスII (陽性マーカー) を確認した。ペレットは還元または非還元Laemmliバッファーで溶解し、SDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis, 12.5%, 10%, 7.5%アクリルアミドゲル) 後にImmobilon-P膜 (Millipore) へ転写してウェスタンブロッティングを行った。シグナルは0.1 μg/mlの125I標識プロテインGとPhosphorImager (Molecular Dynamics) で定量した。各タンパク質の相対濃縮率は P5/P1比をTfRの P5/P1比で除して算出した (Table I)。実験は独立3回 (n=3) 実施し、値は mean ± SD (standard deviation) で示した。タンパク質濃縮率の群間比較にはStudent’s t検定 (両側) を適用した。使用したRN細胞株はEBV感染ヒトBリンパ球を不死化したB lymphoblastoid cell line (B-LCL) であり、HLA-DR15 (HLA class II DR serotype 15) 陽性を示す。エクソソーム単離・特性評価法はISEV (International Society for Extracellular Vesicles) が後に策定したMISEV (minimal information for studies of extracellular vesicles) 推奨の複合指標—粒子径 (50-60 nm, EM)、密度 (1.13 g/ml, sucrose gradient)、正マーカー (CD63+/CD81+/CD82+/MHCクラスII+)、負マーカー (TfR低含有)—を先駆的に網羅している。
細胞内局在解析 (IEM): RN細胞の超薄凍結切片 (cryosection) を作製し、コロイド金粒子による免疫金標識を施行した。二重標識には10 nmおよび15 nm金粒子を使用した。内部膜/限界膜の定量では多胞性 (MV) および多層膜 (ML) MIICをそれぞれn=50個選択し、各タンパク質の金粒子数を内部膜 (i) と限界膜 (l) で計測して膜長補正したi/l比率を算出した (Table II)。