• 著者: Antonela Merlotti, Benjamin Sadacca, Yago A. Arribas, Mercia Ngoma, Marianne Burbage, Christel Goudot, Alexandre Houy, Ares Rocañín-Arjó, Ana Lalanne, Agathe Seguin-Givelet, Marine Lefevre, Sandrine Heurtebise-Chrétien, Blandine Baudon, Giacomo Oliveira, Damarys Loew, Montserrat Carrascal, Catherine J. Wu, Olivier Lantz, Marc-Henri Stern, Nicolas Girard, Joshua J. Waterfall, Sebastian Amigorena
  • Corresponding author: Joshua J. Waterfall (joshua.waterfall@curie.fr); Sebastian Amigorena (sebastian.amigorena@curie.fr) — Institut Curie, Paris, France
  • 雑誌: Science Immunology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-02-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36735774

背景

がん免疫応答の標的抗原の大多数は、変異由来のネオエピトープや腫瘍精巣抗原・分化抗原といった正規コード領域から生じる。しかし近年、long noncoding RNAやトランスポーザブルエレメント (TE: transposable element) など非正規転写産物由来のオープンリーディングフレーム (ORF) がHLA-I (human leukocyte antigen class I) 提示ペプチドを産生しうることが示され、ネオ抗原源として注目が高まっている (Rooney et al. Cell 2015)。さらに、がん腫瘍ではスプライシング機構の異常が汎用的に認められ、エクソン間代替スプライシング由来のネオエピトープが計算機的に予測されることも報告された (Kahles et al. CancerCell 2018)。スプライシング異常の機序と臨床的意義については Bonnal et al. NatRevClinOncol 2020 が網羅的に整理しているが、エクソンとTE間の非正規スプライシング—すなわちコードエクソンと通常イントロン内のTEの間で起きるスプライシングジャンクション (JET: junction between exon and TE)—が腫瘍特異的かつ患者間共有のネオ抗原を産生するかどうかは未解明であった。TEの発現脱抑制はTEサイレンシング機能を担うH3K9メチルトランスフェラーゼSETDB-1 (SET domain bifurcated histone lysine methyltransferase 1) の機能喪失に関連してがんで広くみられる。非正規スプライシング (JET) 由来ペプチドが実際にHLA-I分子に提示され、さらにNSCLC (non-small cell lung cancer: 非小細胞肺がん) 患者の腫瘍内でJET特異的T細胞が内因性に誘導されているかについては、これまで直接的なエビデンスが不足しており、それを示すことが本研究の中核的な gap in knowledge であった。

目的

TCGA (The Cancer Genome Atlas) の大規模RNAseqデータを用いてNSCLCと正常組織間でJETを網羅的に比較同定し、(1) HLA-Iペプチドミクスによる原発NSCLC腫瘍・細胞株でのpJET (JETコードペプチド) の実際の提示確認、(2) in vitroの免疫原性試験によるpJET特異的CD8+ T細胞応答の実証、(3) 未治療NSCLC患者の腫瘍・腫瘍所属リンパ節 (TDLN: tumor-draining lymph node) でのJET特異的CD8+ T細胞の内因性存在の証明、の三段階でJET由来ネオ抗原が実際の抗腫瘍免疫の標的であることを示す。

結果

JETの全体像と腫瘍特異的発現: TCGAパイプライン適用でjuxta-tumor 8,876件、LUAD 8,189件、LUSC 9,169件のJETを同定した。1サンプルあたりのJET中央値は168〜305件で、全エクソン-エクソンスプライシングジャンクションの平均0.22%に相当した。LUAD・LUSC腫瘍では juxta-tumorと比較してサンプルあたりJET数が有意に増加しており (Wilcoxon test, p<0.0001)、t-SNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) 可視化でも腫瘍と非腫瘍が明確に分離し、LUADとLUSCも識別可能であった。53%のLUAD JETおよび59%のLUSC JETが全679 juxta-tumorサンプルで完全に不在であり、腫瘍特異性が確認された。TE種別エンリッチメント解析では、SINE (short interspersed nuclear element) がdonor TE側で、LTR (long terminal repeat) とDNAトランスポゾンがacceptor TE側でそれぞれ有意に濃縮されていた (すべてadj P<0.0001)。SETDB-1低発現サンプルでは高発現サンプルより有意に多くのJETが検出され (Limma-Voom FDR 5%)、TE発現脱抑制とJET産生の機能的連関が示された (Fig 1)。JET産生には特定のTE亜科が関与し、HERVS71-int、L1PA4、L1PB3等9種のTE亜科がdonor・acceptor両側で濃縮されていた。

tsJETの定量・再現性検証と患者間共有: 1%超の腫瘍サンプルで発現する腫瘍特異的JET (tsJET) はLUADで209種 (4.8%)、LUSCで427種 (7.9%) であった。1サンプルあたりの平均tsJET数はLUAD 16.5件・LUSC 28.1件、taJET (腫瘍関連JET) はLUAD 4.5件・LUSC 11件であった。最も再発性の高いtsJETはLUADおよびLUSC患者の30%超に発現し、最も再発性の高いtaJETはLUAD 42%・LUSC 60%の患者に存在した。CCLEコホートでの独立検証では、再発性の高いtsJETs (>1%患者) の79% (LUAD) と62% (LUSC) が確認された。院内独立原発NSCLCコホート (n=67) でも55% (LUAD)・44% (LUSC) のtsJETが再現し、RT-PCR+シークエンシングにより14種JETの正確な配列を独立確認した。GTEx 1,364サンプル・Leucegene血液細胞コホートを加えた広範な正常組織解析でも、多数のtsJETs/taJETsが正常組織では不在〜稀少であることが確認された (Fig 2)。特定の遺伝子は複数のtsJETに関与し、WDR66はLUAD 514サンプル中306例で少なくとも1種のJETを有していた。

HLA-I提示pJETの同定と再現性: JET_db + 原発NSCLC 17検体・細胞株3株のHLA-Iペプチドミクスから114種のpJETを同定した。pJETは既知UniProtアノテーション済みペプチドと比較して同等のペプチド長分布・MS同定スコア・疎水性-保持時間相関を示し、HLA-I結合モチーフへの適合をNMDS (nonmetric multidimensional scaling) 解析で確認した (Fig 3)。合成ペプチドとのMS/MSスペクトル直接照合では19/19種が完全一致し、5種については重標識スパイクイン法でも検証された。114種中14.9%が複数サンプルで共有されており、再発性pJETの存在を示した。HLA-A3アレル共有8サンプルに絞った解析では、1種のpJETが7/8サンプルで検出され、アレル制約下でも高い再現率が確認された。86%のpJET配列は既報非正規転写産物データベースに不在であり、大多数がJET固有のネオ抗原ペプチドであることが示された。pJETのゲノム位置は、JETスプライシング破断点オーバーラップ26種・acceptorエクソンフレームシフトORF由来70種・donorまたはacceptor TE部分由来19種に分類された。

in vitro免疫原性とTCR特異的細胞傷害活性: 29種HLA-A*02:01結合pJETを用いた in vitro免疫原性試験において、健常HLA-A2+ドナー9例全例でpJET特異的CD8+ T細胞のtetramer陽性拡大が確認された。pJET-704は6例中5例で顕著なT細胞拡大を誘導し、他のpJETは1〜3例で陽性拡大を示した。6種pJET特異的T細胞クローンを樹立し、対応pJETs刺激 (n=5×10^4 H1650標的細胞、1 pM〜1 μM) でグランザイムB・TNF・IFN-γを用量依存的に分泌することを確認した。xCELLigence法によるリアルタイム細胞傷害実験 (E:T = 1:1) では、pJET-704特異的クローンがH1650肺腺がん細胞を効率的に傷害し、傷害は抗HLA-I抗体で部分的に阻害された (Fig 4)。3種のpJET特異的TCR (704、321、3228-2) をJurkat三重レポーター細胞および初代CD8+ T細胞に再発現した結果、対応pJETをロードした腫瘍細胞株でNFkB・AP-1・NFAT三重活性化と標的細胞傷害が認められ (p<0.0001)、コントロールMelan-Aペプチドには反応しなかった。内因性pJET提示の確認実験では、対応JETを発現するH1650細胞に対して、外来ペプチド添加なしでもpJET-3443・3175特異的クローンが細胞傷害を示し、抗HLA-I抗体で部分阻害された。

LUAD患者腫瘍・リンパ節における内因性JET特異的T細胞: 未治療原発HLA-A2+LUAD患者5例の腫瘍・juxta-tumor・TDLN・血液サンプルを用いてex vivo (day 0) および in vitro拡培後 (day 20) に解析した。Day 0に評価可能だった4例中3例でJET特異的tetramer+CD8+ T細胞が確認され、そのうち2例では腫瘍・TDLNを含む2組織以上で検出された (Fig 5)。腫瘍内のpJET特異的T細胞はCCR7-CD45RA-のeffector/memory表現型を示し、血液・リンパ節ではCCR7+naïve/central memory表現型が混在していた。Day 20の拡培後にはさらに多くのpJET特異的集団が出現し、7種のpJET特異性のうち5種がday 0と同一患者・同一組織で確認された。患者1・2の腫瘍とTDLN (invaded lymph nodes) 両方から同一pJET特異性 (299-pJETおよび321-pJET) のT細胞が検出され、JET由来ネオ抗原に対するin vivoでの内因性CD8+ T細胞免疫応答が実際に成立していることが示された。

考察/結論

本研究はNSCLCにおいてエクソン-TE間の非正規スプライシング (JET) が腫瘍特異的・患者間共有のHLA-I提示ネオ抗原供給源となり、内因性CD8+ T細胞免疫応答の実標的であることを、大規模コホートRNAseq・ペプチドミクス・T細胞機能解析・患者試料の四層的エビデンスで新規な知見として示した。これまでの研究では変異ネオエピトープおよびエクソン間代替スプライシング由来ネオエピトープが主な研究対象であり、コードエクソンとTE間の非正規スプライシング産物が実際にHLA-Iに提示され患者体内でT細胞応答を喚起することは、これまで報告されていない直接的知見である点において本研究の独自性がある。

既報の変異由来ネオエピトープとは異なり、JET由来ネオ抗原は個々の体細胞変異に依存せず、SETDB-1機能喪失などの共通エピゲノム異常とスプライシング機構変容に起因する。このため複数患者にわたって同一配列のネオ抗原 (re-current JET) が出現しうる点が異なり、患者横断的な共有性が特徴である。この特性は個別化ワクチンの技術的・コスト的制約を超えた集団向けがんワクチン開発や、特定のpJET-TCRを用いた汎用TCR-T細胞療法への臨床応用において重要な意義を持つ。bench-to-bedsideの観点では、本研究で同定・機能確認した29種のHLA-A2提示pJETパネルが既製型ワクチン抗原の第一候補となりうる。また、SETDB-1低発現でJET数が増加するという知見は、DNMT (DNA methyltransferase) 阻害薬やHDAC (histone deacetylase) 阻害薬といったエピゲノム療法によるJET誘導増強と免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせ戦略の根拠を与える。

残された課題として、まず技術的限界として、JET由来ペプチドとJETスプライシングイベントの直接因果連関をCRISPR-Cas9によるTE編集で確認することが今後の検討として重要である。フレームシフト由来pJETについては他の非正規転写産物が同配列を産生する可能性を完全には排除できておらず、腫瘍特異性の根拠がやや弱い。さらに、NSCLC患者腫瘍内でのJET特異的T細胞の機能的疲弊状態の評価、免疫チェックポイント阻害剤治療例での応答との相関分析、ELISpotなど独立手法による患者組織での確認も今後の研究として必要である。本研究ではHLA-A2アレル保有患者を対象としたが、他のHLAアレルへの外挿性やLUAD/LUSC以外のがん腫 (TCGAの汎がん解析でもJET数はLUAD/LUSCで最高) への適用可能性についても、さらなる検討が求められる。limitation として、HLA-Iペプチドミクスで同定されたHLA-A2提示pJETが少数であった点は、対応HLAアレルの検体コホート内の頻度制約に起因する。

方法

コホートとRNA-seq解析: TCGAからLUAD (lung adenocarcinoma: 肺腺がん、n=514)、LUSC (lung squamous cell carcinoma: 肺扁平上皮がん、n=498)、juxta-tumor正常隣接組織 (n=679) の全サンプルにJET検出パイプラインを適用した。アラインメントはSTAR v2.5.3a の2-passモードを用い、参照ゲノムhg19/GRCh37 (UCSC Genome Browser) にマッピング。JETの定義は、スプライシングリードの一方がENSEMBLアノテーション済みコードエクソン、他方がRepeatMasker登録TEにそれぞれオーバーラップするものとした。腫瘍特異的JET (tsJET) の基準は全679 juxta-tumorサンプルで不在かつ>1%腫瘍サンプルで発現、腫瘍関連JET (taJET) は>10%腫瘍・<2%全正常サンプル。独立検証コホートとしてCCLE (Cancer Cell Line Encyclopedia: がん細胞株百科事典) 肺腫瘍細胞株 (LUAD n=69、LUSC n=22) および院内独立原発NSCLCコホート (n=67) を用いた。正常組織対照にGTEx (Genotype-Tissue Expression) project (30組織からランダム選択50サンプル×最大、計1,364サンプル) とLeucegene血液細胞コホート (n=82末梢血・臍帯血) を加えた。TE種別エンリッチメント解析は超幾何検定 + Benjamini-Hochberg法によるFDR (false discovery rate) 補正 (adj P値<0.05を有意とした)。SETDB-1発現高低別のJET数差次解析はLimma-Voom R package (FDR 5% を有意閾値とした)。tsJET・taJET発現はRT-PCR (reverse transcription PCR) + Sangerシークエンシングで14種について肺腫瘍細胞株8株・原発腫瘍3検体にて独立確認。

HLA-Iペプチドミクス: tsJET・taJETを in silico翻訳してJET由来タンパクデータベース (JET_db) を構築。ProteomeDiscoverer 2.4を用い、UniProt/Swiss-Prot+TrEMBL+JET_dbの統合データベースで質量分析 (MS/MS) 同定を実施 (precursor mass tolerance 20 ppm、FDR 1%、HLAアレル別クラスタリングはGibbsCluster 2.0)。原発NSCLC検体17例・肺腫瘍細胞株3株のHLA-I免疫沈降-MS/MSデータを解析し、juxta-tumor JETs翻訳産物でフィルタリングした残存ペプチドをpJETとした。同定pJETのうち19種については合成ペプチドとのMS/MSスペクトル直接照合で検証、5種については重標識合成ペプチドスパイクイン定量検証 (Orbitrap Eclipse/Q Exactive HF-X) を実施。HLA-I結合予測はNetMHCpan v4を使用。

免疫原性試験とT細胞機能解析: 209 tsJETs (>1% LUAD) からHLA-A*02:01強弱結合予測 + in vitroペプチド-HLA複合体形成アッセイで29種pJETを選別。健常HLA-A2+ドナー (n=9) の末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) から単球由来樹状細胞 (mo-DC: monocyte-derived dendritic cell) + CD4+/CD8+ T細胞共培養 (15〜20日)、二色テトラマー染色でpJET特異的CD8+ T細胞を定量した。6種pJET特異的T細胞クローンを樹立してTCR (T cell receptor) α/β鎖をシークエンシング後、Jurkat三重レポーター細胞 (NF-κB (nuclear factor kappa-B)-CFP、AP-1 (activator protein 1)-mCherry、NFAT (nuclear factor of activated T cells)-GFP) および初代CD8+ T細胞にレンチウイルス再発現。xCELLigence RTCA (real-time cell analyzer) インピーダンス法でH1650細胞 (HLA-A2+肺腺がん細胞株) を標的とした細胞傷害 (エフェクター対標的比 E:T (effector-to-target) = 1:1) を測定。患者試料解析では未治療原発HLA-A2+LUAD患者5例から腫瘍・juxta-tumor・TDLN・血液を採取し、day 0のex vivo解析とday 20のin vitro拡培後 (pJETミックス+IL-2、またはIL-2のみ) に29種HLA-A2テトラマーミックスで特異的CD8+ T細胞を検出した。統計解析は多群比較にANOVA (analysis of variance) + Tukey法、RNAseq解析にLimma-Voom、TE種別エンリッチメントに超幾何検定を用いた。