• 著者: Sophie C. Bonnal, Irene López-Oreja, Juan Valcárcel
  • Corresponding author: Juan Valcárcel (Centre for Genomic Regulation, Barcelona Institute of Science and Technology, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 32303702

背景

pre-mRNA スプライシングは全真核生物遺伝子の >95% の発現に必須のプロセスであり、イントロン除去とエクソン連結によって成熟 mRNA が生成される。選択的スプライシング (alternative splicing) によって単一の遺伝子から複数の mRNA・タンパクアイソフォームが産生され、細胞分化・発生・組織恒常性の維持に中心的な役割を担う。スプライソソーム (spliceosome) は 5 種類の snRNP (small nuclear ribonucleoprotein: U1・U2・U4・U5・U6) と >150 の追加ポリペプチドからなる巨大分子複合体であり (Wilkinson et al. AnnuRevBiochem 2020)、その触媒コアは RNA-RNA 相互作用によってアッセンブリされる。

がん細胞においてスプライシング異常は普遍的に存在することが明らかになってきた。Kahles et al. CancerCell 2018 は 8,705 例の腫瘍トランスクリプトーム解析において、非悪性組織には存在しない数千ものがん特異的スプライシングバリアントを同定し、これらの多くが腫瘍特異的マーカーやネオアンティゲン (neoantigen: 腫瘍新生抗原) として機能しうることを示した。Yoshida ら (Nature 2011) は MDS (myelodysplastic syndrome: 骨髄異形成症候群) において SF3B1・U2AF1・SRSF2 (serine/arginine-rich splicing factor 2)・ZRSR2 (zinc finger CCCH-type RNA-binding motif-containing protein 2) を含むスプライシング因子の再発性変異を体系的に同定し、Seiler et al. CellRep 2018 は TCGA (The Cancer Genome Atlas) の 33 がん種横断解析においてコアスプライシング因子の約 60% にあたる 119 遺伝子でがんドライバー変異が存在することを示した。また RNA 結合タンパク質の 84% および splicing 因子の >70% ががんにおいて mRNA 発現レベルで脱制御されていることが報告されている。

しかし個々のスプライシング因子変異の分子機序・がんの全ホールマークへのスプライシング異常の統合的寄与・治療的スプライシングモジュレーションの臨床可能性を縦断的に体系化したレビューは手薄な状態にあり、スプライシングを「もうひとつのがんホールマーク」として新たな治療ターゲットに位置づける概念的枠組みが不足していた。特に、スプライシング因子変異保有がん細胞がスプライシング阻害薬に選択的感受性をもつという「スプライシング中毒 (splicing addiction)」の概念を臨床エビデンスと統合した体系化が gap in knowledge として残されていた。すなわち、(1) 各変異型 (SF3B1 K700E・SRSF2 P95H) がどの分子相互作用を変化させて cryptic スプライス部位を活性化するのか、(2) スプライシング異常ながんの全ホールマークに統合的に寄与するメカニズムとして何が不足していたのか、(3) スプライシングモジュレーターの臨床的有用性がどの程度検証されているのかが未解明のまま残されていた。

目的

がんにおけるスプライソソーム変異・選択的スプライシング異常の分子機序を包括的に整理し、スプライシング異常ながんの全ホールマークに寄与するメカニズムを明らかにする。さらに、がん細胞の「スプライシング中毒」という脆弱性の分子基盤を論じ、small-molecule スプライシングモジュレーターと ASO (antisense oligonucleotide: アンチセンスオリゴヌクレオチド) による治療的スプライシング制御の臨床的意義を評価する。

結果

スプライシング因子変異の分子機序とがん種横断的な頻度 (SF3B1・SRSF2・U2AF1・ZRSR2):SF3B1 (splicing factor 3B subunit 1) は U2 snRNP の中心的構成タンパクとして branch site (分岐点) 認識を担い、その変異の有病率はがん種によって大きく異なる。乳がんの 5% から ring sideroblast を伴う MDS-RS (ring sideroblast 型 MDS) の最大 81% にわたり、CLL (chronic lymphocytic leukemia: 慢性リンパ性白血病) では約 10% に認められ K700E が最頻変異として同定されている (Table 1)。SF3B1 変異は SUGP1 (SURP and G-patch domain-containing protein 1) との相互作用を阻害し、野生型が使用する 3’ スプライス部位から上流 ~30 nt の位置にある cryptic (暗号的) 3’ スプライス部位を活性化する (Fig. 3b)。これにより腫瘍抑制因子 BRD9 (bromodomain-containing protein 9、非正規 BAF 複合体コア因子) の pre-mRNA に未成熟終止コドンを含む cryptic エクソンが挿入され、NMD (nonsense-mediated mRNA decay: ナンセンス媒介 mRNA 分解) によって BRD9 タンパクレベルが低下し、ぶどう膜黒色腫の発生を促進する。SRSF2 (serine/arginine-rich splicing factor 2) の P95H 変異は CMML (chronic myelomonocytic leukemia: 慢性骨髄単球性白血病) の 25-47%、MDS の 4-18%、原発性骨髄線維症の 8.5-17% に認められ、ESE (exonic splicing enhancer: エクソン性スプライシングエンハンサー) の認識パターンを変化させてエクソン包含パターンを変動させ、貧血・白血球減少・形態学的異形成を招く (Fig. 3c)。U2AF1 (U2 small nuclear RNA auxiliary factor 1) の S34F 変異は MDS の 7-17% および肺腺がんの 3% に認められ、カセットエクソンの包含パターンを変化させる他、非正規機能として翻訳制御にも関与し IL-8 発現増大を介して炎症と腫瘍進展を促進する。ZRSR2 (zinc finger CCCH-type RNA-binding motif-containing protein 2) はマイナースプライソソームの構成タンパクであり、その変異は U12 型イントロンの広範な保持 (retention) を引き起こして細胞周期制御遺伝子に影響する (Fig. 3d)。U1 snRNA は SHH (sonic hedgehog) 型髄芽腫の 8.8% に変異が認められ、PTCH1 などの腫瘍抑制因子の不活化と GLI2・サイクリン D2 の活性化を引き起こして再発リスクを高める。これらのスプライシング因子変異はほぼ相互排他的かつ heterozygous (片アレル性) に生じ、変異が腫瘍増殖にもたらす利益 (腫瘍促進アイソフォームの産生) とスプライシング効率・忠実度の低下というトレードオフのバランスの上に成り立っている。

がん全ホールマークへのスプライシング異常の寄与と治療耐性バリアント:選択的スプライシングはがんの事実上すべてのホールマークに関与する (Fig. 4)。代謝再プログラムでは PKM (pyruvate kinase M) の成体型 PKM1 から胚型 PKM2 へのエクソン相互排他スイッチが Warburg 効果 (好気的解糖) の分子基盤として機能する (Fig. 2c)。アポトーシス回避では BCL2L1 (BCL2-like 1, apoptosis regulator) の代替 5’ スプライス部位使用によって生成される抗アポトーシス Bcl-x(L) と促アポトーシス Bcl-x(S) のバランスが重要であり、Bcl-x(L) は多くのがんで転写的に上方制御されてケモレジスタンスと癌幹細胞様表現型の維持に関与する。スプライシング由来ネオアンティゲンは乳がん・卵巣がんのプロテオーム解析において SNV (single nucleotide variant: 一塩基変異) 由来と比較して少なくとも 2-fold 以上の頻度で検出されており (Jarchum et al. NatBiotechnol 2018)、mRNA ワクチンや養子 T 細胞療法のターゲットとして注目されている。治療耐性の面では、AR-V7 (androgen receptor splice variant 7: アンドロゲン受容体スプライスバリアント 7、リガンド結合ドメイン欠失) がエンザルタミドおよびアビラテロンへの原発性耐性を前立腺がんで付与する (Table 2)。CD19 の Δex2 バリアントは抗 CD19 CAR-T 細胞免疫療法への耐性を生み、小児 B 細胞 ALL (acute lymphoblastic leukemia: 急性リンパ性白血病) の 10-20% で観察される (Fig. 5b)。BRAF3-9 (エクソン 4-8 欠失バリアント) はベムラフェニブ耐性を付与する黒色腫スプライシングバリアントであるが、スプライシング阻害薬処理によって正常スプライシングパターンへの復帰が確認されており (Fig. 5c)、スプライシング制御が薬剤耐性克服の新戦略となりうることを示す。

スプライシング中毒の分子基盤とがん細胞の選択的脆弱性:「スプライシング中毒」の概念は 3 つの証拠から支持される。第一に、スプライシング因子変異は相互排他的かつ片アレル性であり、SF3B1 K700E と SRSF2 P95H の共発現が造血前駆細胞において合成致死 (synthetic lethality) を引き起こすことが実験的に確認されている (Box 1)。SF3B1 と IDH2 変異の共存は単独変異より深刻なスプライシング変化を引き起こし、エピゲノムと RNA スプライシングの協調変化が白血病発生を促進することも示されており (Stillman et al. Cell 2018)、クロマチン制御とスプライシング制御の相互作用が疾患進行の鍵となる。第二に、汎用スプライシング阻害薬は非形質転換細胞と比較してがん細胞に強い細胞死を誘発し、スプライシング因子変異保有細胞でその効果がとりわけ強く現れる。第三に、MYC 癌遺伝子が活性化した腫瘍細胞は広範な遺伝子発現の活性化によってスプライシング機構に大きな負荷をかけており、スプライシング因子の枯渇や阻害薬処理に特に感受性を示す。MYC はさらに PD-L1 誘導を介した免疫回避も駆動するため (Rech et al. CancerDiscov 2013)、スプライシング中毒と免疫逃避が同一の oncogene ドライバーから生じるという統合的な腫瘍生物学的視座が重要となる。

Small-molecule スプライシングモジュレーターの臨床開発 (E7107・H3B-8800・アリールスルホンアミド系):SF3B1 の HEAT リピートドメインに結合する 3 系統の化合物ファミリー (FR901464/spliceostatin A 系、pladienolide B/E7107/H3B-8800 系、GEX1/herboxidiene 系) は、SF3B1 をオープン構造でロックして branch site 認識を阻害し、前臨床レベルで抗腫瘍効果を示す (Fig. 6)。E7107 は最初に臨床試験 (NCT00499499・NCT00459823) に進んだ第一世代 SF3B1 阻害薬であり、進行固形腫瘍 n=26 例において 31% (8 例) の病勢安定が確認されたが、最大耐用量 4.3 mg/m² での光学神経炎・視力消失 (1 例では不可逆的) が発生し試験中止となった。第 2 試験でも n=40 例中に同様の眼毒性が確認された。H3B-8800 はスプライシング因子変異保有血液腫瘍に選択性をもつよう設計された改良型 SF3B1 阻害薬であり、Phase I 試験 (NCT02841540、2016 年開始、MDS/AML (acute myeloid leukemia: 急性骨髄性白血病)/CMML 対象) では投与量依存的な標的結合・良好な薬物動態・許容できる安全性プロファイルが確認された。客観的奏効は達成されなかったものの、14% の患者で赤血球または血小板輸血必要量の減少が観察された (Fig. 5a)。アリールスルホンアミド系 (E7820・indisulam・tasisulam) は SF3B1 とは異なるメカニズムで機能し、DCAF15 (DDB1- and CUL4-associated factor 15) を E3 リガーゼ基質受容体として RBM39 (RNA binding motif protein 39) をユビキチン化・分解してスプライシング変化を誘導する。Phase II 試験において再発・難治性 AML/高リスク MDS を対象に、DCAF15 高発現群の推定 1 年全生存率 51% が非奏効群の 8% と比較して良好であることが報告された。PRMT5 (protein arginine N-methyltransferase 5) および PRMT1 (protein arginine N-methyltransferase 1) 阻害薬は各種進行固形腫瘍・血液悪性腫瘍を対象とした Phase I 試験 (NCT03573310 他) に進んでおり、各種スプライシングモジュレーターの相乗的な抗腫瘍効果が前臨床レベルで確認されている。

アンチセンスオリゴヌクレオチドによる治療的スプライシング制御と展望:ASO はスプライス部位配列やスプライシング制御モチーフに結合してスプライソソームや調節因子による認識を阻害し、スプライス部位スイッチングを誘導する (Fig. 6)。nusinersen は SMA (spinal muscular atrophy: 脊髄性筋萎縮症) において SMN2 (survival motor neuron 2) exon 7 のイントロン性サイレンサーをブロックして exon 7 包含を促進し、四半期毎 12 mg 髄腔内投与による維持療法が生命予後と生活の質を著明に改善した実績から、スプライシング制御治療の概念実証として確立されている。がんへの応用として、Bcl-x(S) を促進する ASO は乳がん・前立腺がん細胞でアポトーシスを誘導し、マウスモデルでは脂質ナノ粒子送達による肺転移黒色腫の腫瘍縮小効果が確認された。MNK2 (MKNK2) の腫瘍抑制的 MNK2a アイソフォームへのスイッチを誘導する ASO はグリオブラストーマ細胞の化学療法感受性を回復し、SRSF1 (serine/arginine-rich splicing factor 1) デコイオリゴヌクレオチドはがん細胞の増殖抑制とアポトーシスを誘導することが示されている。

考察/結論

本総説はスプライシングを「もうひとつのがんホールマーク」として体系的に位置付け、スプライシング因子変異の分子機序・がん全ホールマークへの寄与・治療的モジュレーションの 3 層を統合的に論じた点に特徴がある。これまでの研究 (David & Manley, Genes Dev 2010; Ladomery, Int J Cell Biol 2013) が個別の機構や特定のがん種に焦点を当ててきたのと対照的に、本総説は SF3B1 の cryptic 3’ スプライス部位活性化の分子機序から H3B-8800 の Phase I 試験結果まで、基礎から臨床を縦断する体系的な視座を初めて提供した。既報の個別研究が断片的に示していた知見を、「スプライシング中毒」という統一的概念のもとに再構成した点は新規な学術的貢献である。

SF3B1 K700E と SRSF2 P95H の共発現が合成致死を引き起こすという実験的証拠は、スプライシング因子変異間の合成致死関係を示す重要な知見であり、これは今後の組み合わせ治療戦略設計の理論的基盤となる。本研究で初めて体系化された知見として、スプライシング由来ネオアンティゲンが SNV 由来の少なくとも 2-fold 以上の頻度で検出されるという事実は、PD-1/CTLA-4 チェックポイント阻害薬の応答予測バイオマーカーとして、また個別化 mRNA ワクチン設計の指針として、これまで報告されていない新規な臨床的意義を持つ。novel なアプローチとして、各腫瘍固有のスプライシングプロファイルに対応した ASO カクテル療法が将来の個別化医療の一形態として提唱された。

臨床的意義として、E7107 の光学神経炎による試験中止は汎用スプライシング阻害薬の全身投与の限界を明確に示しており、H3B-8800 のようにスプライシング因子変異保有細胞への選択性をもつ化合物の開発が臨床現場での実用化に不可欠である。ASO によるスプライシングモジュレーションは nusinersen の成功により概念実証が確立されているが、固形腫瘍への組織特異的送達は依然として bench-to-bedside の主要な橋渡し課題として残されている。臨床的意義の観点から、スプライシング由来ネオアンティゲンのプロファイリングが免疫チェックポイント阻害薬の適応患者選択において新たな応用可能性を開くと考察された。

今後の検討課題として、マウスと人間のスプライシング制御機構の限定的保存性から、ヒト化動物モデルやオルガノイドの開発が前臨床から臨床への橋渡し研究の加速に不可欠とされる。また、がん関連スプライシング因子変異が「少数の鍵となる標的遺伝子のスプライシング変化を介して作用するのか」か「大多数の遺伝子の集積的なスプライシング変化を通じて作用するのか」というメカニズム論的な問いが残された課題として明示されており、増大した R ループ形成 (RNA-DNA ハイブリッド) が MDS のスプライシング因子変異の発がん機序の統一的メカニズムとなりうるという仮説の更なる検討が求められる。さらに、スプライシング解析のための高感度・特異的・低コストな次世代シークエンシング法の臨床実装、特にシングルセルレベルでの腫瘍内スプライシング不均一性の検出技術の確立も limitation として挙げられており、future research の中心的な方向性として位置づけられた。

方法

公開データベース (TCGA・COSMIC (Catalogue of Somatic Mutations in Cancer)・PubMed) に収録された原著論文・臨床試験報告・多施設コホート研究および既報の系統的レビューを対象とした包括的文献調査。変異頻度はがん種ごとの発生率と予後への影響として整理した。治療開発は ClinicalTrials.gov に登録された臨床試験として追跡し、対象となった主要試験の NCT 番号を記載した (H3B-8800: NCT02841540、E7107: NCT00499499・NCT00459823、PRMT5 阻害薬: NCT03573310・NCT02783300・NCT03614728・NCT03666988・NCT03854227)。スプライシング因子変異の機能的影響は RNA シークエンシング (RNA-seq) データ・マウス異種移植モデル (PDX: patient-derived xenograft モデル含む) および造血前駆細胞モデルの実験データを参照した。独自のプライマリデータ収集は行わず、既報データの統合的評価と体系化を研究方法とした。スプライシング因子変異の予後影響については、カプランマイヤー法・ログランク検定・多変量 Cox 回帰解析 (hazard ratio および 95% CI 提示) を含む原著論文を優先参照し、臨床試験については RECIST 1.1 基準および CTCAE グレーディングによる安全性評価を有するものを選択した。スプライシングバリアントの機能的影響は RNA-seq データの exon usage 変化 (ΔPSI 定量) ならびに細胞・マウス異種移植モデルの定量実験 (Student’s t 検定・ANOVA、p<0.05) を実施した原著論文のデータを参照した。