• 著者: Swetha Srinivasan, Fredrik O. Vannberg, J. Brandon Dixon
  • Corresponding author: J. Brandon Dixon (dixon@gatech.edu, Georgia Institute of Technology, Atlanta, GA); Fredrik O. Vannberg (vannberg@gatech.edu, Georgia Institute of Technology, Atlanta, GA)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-04-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27087234

背景

多細胞生物における細胞間情報伝達は、直接接触、サイトカインやケモカイン等の可溶性シグナル分子、または細胞外小胞の一種であるエクソソームを介した情報交換によって行われる。エクソソームは細胞間での長距離情報伝達を担い、機能的なmRNAおよびmiRNAを輸送することで受け手細胞に機能的変化をもたらすことが確立されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。樹状細胞由来エクソソームによる抗原のT細胞への提示、感染マクロファージ由来エクソソームによる未感染マクロファージへの炎症反応誘導、腫瘍由来エクソソームによる免疫抑制など、免疫応答の調節における多様な機能が報告されている。特に、エクソソームは細胞間の遺伝子交換の新規メカニズムとして注目されている Valadi et al。

リンパ管系はリンパ節を介して末梢組織から抗原、免疫細胞、高分子を回収して循環に戻す役割を担い、免疫応答の誘導において中心的な役割を持つ Janeway et al。組織間質の物理的バリアは、5〜100 nmの粒子を選択的にリンパ管輸送に分配することが知られており、エクソソームはこのサイズ範囲(平均30〜150 nm)に収まる。このサイズ特性から、エクソソームはリンパ管輸送の最適な担体となりうることが示唆されていた。さらに、メラノーマ由来エクソソームがsentinel(センチネル)リンパ節を腫瘍転移に向けて準備することが既に報告されていたが Hood et al. CancerRes 2011、そのトラフィッキングの速度論的解析は未確立であった。特に、エクソソームがリンパ節に到達する速度や、リンパ節内の細胞による取り込みの動態については、詳細な知見が不足していた。エクソソームの輸送経路とリンパ節での細胞特異的な取り込みに関する理解は、免疫応答の開始メカニズムを解明するために重要であるにもかかわらず、この知識ギャップが残されている。

従来のエクソソームのin vivoトラッキングは可視域蛍光色素による標識が主流であったが、組織透過性が低く深部in vivo(生体内)撮像には不向きであった。NIR (near-infrared:近赤外) イメージングは最大の組織透過性と最小の自家蛍光を提供し、リンパ管の機能的輸送解析にも使用実績があるが、エクソソームへの応用は確立していなかった。本研究ではNIR蛍光体とリピッドダイによるデュアル標識法を開発し、in vivoでのエクソソームリンパ輸送をリアルタイムで定量することを可能にした。これにより、エクソソームの迅速なリンパ輸送のメカニズムと、リンパ節における細胞特異的な取り込みを詳細に解明することが目的とされた。

目的

本研究の目的は以下4点である。 (1) NIR (near-infrared) イメージングを用いて末梢注射後のエクソソームのリンパ管輸送キネティクス(到達時間・蛍光強度・定常状態)をin vivoでリアルタイム定量する。 (2) トランズウェル系を用いたin vitro(試験管内)実験で、LEC (lymphatic endothelial cell:リンパ管内皮細胞) によるエクソソームの能動的選択輸送を実証し、サイズマッチビーズとの定量的比較を行う。 (3) リンパ節内でのエクソソーム分布とそれを取り込む細胞種を同定する。 (4) HEY (human ovarian cancer cell line:ヒト卵巣癌細胞株) 由来エクソソームで得られた知見が細胞種特異的ではなく、リンパ管輸送の固有の特性であることを、SV-LEC (mouse lymphatic endothelial cell line:マウスリンパ管内皮細胞株) 由来エクソソームを用いて再現確認する。 これらの目的を達成することで、エクソソームが免疫応答の開始において果たす迅速な情報伝達の役割を解明し、リンパ系を介したエクソソームの動態に関する理解を深めることを目指した。

結果

in vivo リンパ管輸送キネティクスの実証: マウス(n=10 mice)の尾部先端への皮内注射後、NIR信号が注射部位から10 cm下流の優位収集リンパ管に注射後わずか2分以内に検出された (Fig 3d)。非優位リンパ管はそれよりも約2.5分後に検出された。両リンパ管は注射後20分で定常状態の蛍光値に到達し、6時間後も維持されたが、24時間後には血管内信号が消失した。優位リンパ管の蛍光強度は非優位リンパ管よりも常に有意に高値であった (p<0.05) (Fig 4a)。所属リンパ節では優位リンパ節が非優位リンパ節より約1.5分早く検出された (Fig 4e)。リンパ節自体は収集血管と同様に約30分で定常状態の蛍光値に達したが、血管と異なり24時間後も蛍光が検出可能であり、2日間後もリンパ節からの蛍光が確認された (Fig 5e,f)。エクスビボ摘出リンパ節は2時間および2日間後いずれも強い蛍光を示した。この結果は、エクソソームが末梢からリンパ節へ極めて迅速に輸送されることを明確に示している。

臓器分布と長期保持: 臓器分布解析 (2時間時点) では、注射部位、所属リンパ節、腎臓、肝臓への主要集積が認められた (Fig 5g)。2日後時点ではリンパ節、脾臓、胸腺、腎臓への蓄積が優位であった。リンパ輸送の特性がHEY細胞株特異的でないことを確認するため、SV-LEC由来エクソソームを用いて同一実験を行ったところ、収集血管およびリンパ節のトランスポートキネティクスと特性が再現され、到達時間とパケット頻度もHEYエクソソームと同等であった。これは、エクソソームのリンパ輸送が細胞起源に依存しない普遍的なメカニズムであることを示唆している。リンパ節では、注射後1時間でエクソソームがビーズと比較してはるかに高い保持率を示した (Fig 5h)。

リンパ管内皮細胞による能動的選択輸送の実証: in vitroトランズウェル実験(n=3 replicates)では、エクソソームとビーズはともにLEC非存在下でも膜を自由に通過した。LEC存在下での有効透過係数 (Peff_cell) を比較すると、エクソソームはサイズマッチビーズの約10-fold(10倍)高い値を示した (p<0.01) (Fig 2c)。エクソソームの管腔側への輸送は5分という早期から検出され、約20分で平衡に達した(ビーズは30分時点で検出限界以下)。共焦点顕微鏡ではエクソソームが37°CでLEC細胞質内に局在したが (Fig 2d)、ビーズはLEC内に検出されなかった。4°Cでのエクソソーム取り込みは37°Cと比較して約80%減少(0.2-foldに低下)し (p<0.001) (Fig 2e)、能動的なエンドサイトーシス依存性輸送であることが示された。これらの結果はLECがエクソソームをサイズで区別せず分子認識によって選択的に能動輸送することを示す。

リンパ節内のエクソソーム取り込み細胞の同定: リンパ節内のエクソソーム分布解析では、エクソソームが優位・非優位リンパ節間でリンパ流に依存した差異のある分布を示した。エクスビボ解析でマクロファージとB細胞がリンパ節内での主要なエクソソーム取り込み細胞として同定された (Fig 7i)。ビーズ・エクソソームの同時注射によるリンパ節保持率比較では、優位リンパ節でのビーズ保持率は注射量の約2%に過ぎなかったのに対し、エクソソームは極めて高い保持率を示した (Fig 5h)。フローサイトメトリー解析(n=3 mice)では、CD11b陽性マクロファージによるエクソソーム取り込みは2時間後で優位リンパ節において非優位リンパ節の約2-fold(2倍)高かった (Fig 7a,b)。2日後にはマクロファージによる取り込みは半減したが (Fig 7c,d)、CD19陽性B細胞による取り込みは2時間後には見られず、2日後には強く共局在が認められた (Fig 7e-h)。これは、リンパ節内の異なる免疫細胞が時間経過とともにエクソソームの取り込みに異なる役割を果たすことを示唆している。

リンパ節内でのエクソソーム局在: 免疫染色により、エクソソームはリンパ節の辺縁部全体、および辺縁部近くの小円形領域(サブカプセル洞および濾胞領域に対応)に主に存在することが示された (Fig 6e-g)。CD11b陽性マクロファージとCD19陽性B細胞との共局在も確認され (Fig 8a,c)、特にCD169陽性マクロファージとの強い共局在が認められた (Fig 8b)。PKH信号がエクソソーム膜に結合したままであることは、CD81との高い共局在によって確認された (Fig 8d)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の時間〜日単位の解析を中心とした先行研究 Hood et al. CancerRes 2011 と異なり、分単位の時間分解能でin vivoにおけるリンパ輸送をリアルタイム定量化した。これにより、従来は捉えられなかった極めて早期の動態を明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、末梢に存在するエクソソームが注射後わずか2分以内にリンパ管に取り込まれ、リンパ節に到達するという迅速な輸送経路を実証した。また、リンパ管内皮細胞(LEC)がサイズマッチビーズの約10-foldの効率でエクソソームを選択的に能動輸送する(4°Cで約80%低下、p<0.001)という、これまで報告されていない能動的トランサイトーシス機構を新規に同定した。

臨床応用: 本知見は、腫瘍由来エクソソームを標的としたリンパ節転移予防策や、エクソソームをドラッグデリバリーシステム(DDS)の担体とした癌ワクチン・免疫療法の開発など、臨床応用に直結する。特にリンパ系を介した転移が重要な経路である卵巣癌などの臨床現場において、診断や治療戦略の改善に貢献しうる。

残された課題: 今後の検討課題として、LECがエクソソームを選択的に能動輸送する具体的な受容体やシグナル経路の解明が挙げられる。また、エクソソームがリンパ節内のマクロファージやB細胞に取り込まれた後の機能的結果(免疫応答の変化や抗原提示への影響)の追跡や、腫瘍由来エクソソームが搭載する免疫抑制分子がリンパ節免疫環境に与える影響の定量的評価が今後の課題として残されている。

方法

エクソソームの調製と特性評価: ヒト卵巣癌細胞株であるHEY (human ovarian cancer cell line) およびマウスリンパ管内皮細胞株であるSV-LEC (mouse lymphatic endothelial cell line) を用いた。培養上清から超遠心分離法によってエクソソームを精製した。動的光散乱法によってHEY由来エクソソームの平均径が78.82±19.17 nmであることを確認し、走査型電子顕微鏡で球形形態(直径60〜75 nm)を観察した。フローサイトメトリー解析により、エクソソームの代表的表面マーカーであるCD63およびCD81の約80%陽性発現を確認した。コントロールとして使用したサイズマッチポリスチレンビーズは平均径67.34±13.7 nmであった。

デュアル標識と in vivo NIR撮像: エクソソームを2種の蛍光体でデュアル標識した。脂質二重層を膜透過性リポフィル蛍光体であるPKH67(緑色)で標識し、エクソソーム膜タンパク質のN末端をNIR蛍光体であるIRDye 800CW(赤色)で共有結合修飾した。マウス(n=10 mice、8週齢雄性BALB/c strain)の尾部先端に10 μgエクソソーム/10 μL PBSを皮内注射し、注射部位から10 cm下流(尾部基部方向)にNIRカメラを設置してリアルタイム撮像した。優位リンパ管および非優位リンパ管の蛍光強度、到達時間、パケット頻度を定量した。2時間および2日間の時点でエクスビボ臓器解析を行い、各臓器(心臓、肺、腎臓、脾臓、肝臓、膵臓)を消化して蛍光強度を定量した。

in vitro LEC輸送アッセイ: トランズウェルシステム(3 μm孔)を用い、下側(基底膜側)にヒト新生児皮膚リンパ管内皮細胞であるLEC (lymphatic endothelial cell) を播種して培養した。エクソソームまたはサイズマッチビーズを基底膜側に添加し、75分後の管腔側(上側)への移行量から有効透過係数(Peff_cell)を算出した。37°CとしてLECが生理的に活性な条件と、4°Cとしてエンドサイトーシスを阻害した条件で比較した。共焦点顕微鏡でLEC内のエクソソーム/ビーズ局在を確認した。この実験はn=3 replicatesで実施された。

リンパ節内細胞分布解析と統計解析: エクスビボ切片の免疫染色と共焦点顕微鏡観察、またはリンパ節を消化してフローサイトメトリーでエクソソームを取り込む細胞種を同定した。また、SV-LEC由来エクソソームをビーズと同時注射し、1時間後のリンパ節への保持率を蛍光プレートリーダーで定量比較した。PKH67陽性細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した(n=3 mice)。統計解析には、2群間の有意差を検定するため Student t-test を用いた。