- 著者: Joshua L. Hood, Susana San Roman, Samuel A. Wickline
- Corresponding author: Joshua L. Hood (Consortium for Translational Research in Advanced Imaging and Nanomedicine (C-TRAIN), Washington University School of Medicine, St. Louis, Missouri)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-04-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 21478294
背景
腫瘍細胞が原発巣から遠隔臓器へ転移する際、あらかじめ転移先の微小環境を自らに都合の良い状態へと改変する「前転移ニッチ (premetastatic niche)」の形成が重要であるという「seed and soil (種子と土壌)」仮説が広く支持されている Psaila et al. NatRevCancer 2009。悪性黒色腫 (メラノーマ) は極めて転移能が高く、主にリンパ管を介して番兵リンパ節 (sentinel lymph node) へと拡散することが知られているが、リンパ節がこの転移プロセスをどのように能動的に支援しているか、その詳細な分子機構は長らく未解明であった。先行研究においては、原発腫瘍の下流に位置する所属リンパ節で転移に先行して反応性リンパ管新生が生じることが報告されていたものの、腫瘍側からリンパ節へシグナルを伝達する具体的な分子担体や、リンパ節を「受容的な土壌」へと再プログラミングする詳細な機序については知識ギャップが存在し、研究が不足していた。
近年、細胞から分泌される直径約30〜100 nmの膜小胞であるエクソソームが、mRNA、miRNA、タンパク質などの多様なバイオカーゴを内包し、細胞間コミュニケーションを媒介する重要な役割を果たすことが明らかになってきた Valadi et al. NatCellBiol 2007、Skog et al. NatCellBiol 2008、Thery et al. NatRevImmunol 2009。エクソソームの分泌や取り込みは、微小環境のpHなどの物理化学的要因によっても制御されることが既報で示されている Parolini et al. JBiolChem 2009。また、セラミドなどの脂質代謝経路がエクソソームの内方出芽と分泌をトリガーすることも報告されている Trajkovic et al. Science 2008。腫瘍由来のエクソソームが3次元培養系において血管新生微小環境を誘導することは示されていたが、生体内 (in vivo) においてリンパ節へ選択的にホーミングし、実際に前転移ニッチを構築することを直接的に実証した報告は存在しなかった。特に、エクソソームがリンパ節の微小環境を転移に適した状態に「準備」する具体的な遺伝子発現変化や分子イベントについては、依然として大きな課題として残されていた。本研究は、エクソソームによるリンパ節へのin vivoホーミングを評価し、その後の転移促進メカニズムを解明した初の研究として位置づけられる。
目的
本研究の目的は、B16-F10メラノーマ細胞由来のエクソソームが生体内で番兵リンパ節に選択的にホーミングし、メラノーマ細胞の転移を促進する前転移ニッチを形成するという仮説を検証することである。具体的には、エクソソームのリンパ節へのホーミングパターンを、サイズおよび脂質組成を厳密に合わせた不活性なコントロールリポソームと比較することで、エクソソーム特異的な現象を同定する。さらに、エクソソームがリンパ節の微小環境に与える分子レベルの変化を解析し、細胞動員、細胞外基質リモデリング、および血管新生に関連する遺伝子発現の誘導を通じて、前転移ニッチ形成の分子機序を解明することを目指す。これにより、エクソソームがリンパ節転移における「土壌」準備に果たす能動的な役割を明らかにすることを目的とする。
結果
メラノーマエクソソームの番兵リンパ節への選択的ホーミング: B16-F10メラノーマ細胞から精製された蛍光DiR標識エクソソーム (サイズ95±14 nm、ゼータ電位-11±5 mV) 50 μgをアルビノC57BL/6Jマウス (n=6 pairs) の左足蹠に注射し、48時間後のIVIS生体蛍光イメージングにより評価した。結果、エクソソームは注射側 (同側) の鼠径リンパ節 (IN) に有意に選択的に集積し (p<0.05)、対側INリンパ節との蛍光量に統計的に有意な差が認められた (Figure 1C)。これに対し、同サイズ (98±4 nm) および同脂質組成のコントロールDiDリポソームは、同側および対側INリンパ節に均等に分布し、選択的ホーミングを示さなかった (Figure 1C)。さらに、48時間時点でのリンパ節重量 (Figure 1D) および有核細胞数 (Figure 1E) は、エクソソーム群とリポソーム群の間で有意な差はなかった (p>0.05)。このことは、エクソソームがリンパ節の形態変化よりも、遺伝子発現変化という機能的変化を先行させることを示唆する。これらの結果は、エクソソームの選択的ホーミングが、そのサイズや脂質組成だけでなく、エクソソーム固有のタンパク質や核酸カーゴに依存することを明確に証明した。
エクソソームによるメラノーマ細胞の優先的リクルート: 48時間ごとに3回のエクソソームまたはリポソーム注射 (3回目はDiO蛍光標識B16-F10メラノーマ細胞100万個を同時注射) を行った10日間の追跡実験 (n=5 mice) において、エクソソーム前処置群では、メラノーマ細胞がエクソソーム集積部位である左膝窩 (PO) 番兵リンパ節に優先的に局在することが示された (Figure 2D)。この左POリンパ節は有意に肥大化しており (p=0.001、Figure 2A)、最小二乗法マトリクス解析により、エクソソーム前処置がメラノーマ細胞の4つのリンパ節 (左PO、左IN、右PO、右IN) における分布パターン全体に有意な差をもたらすことが確認された (F ratio=5.94、p<0.0001)。一方、リポソーム前処置群のメラノーマ細胞は、リポソームと同様のランダムな分布パターンを示し、エクソソーム特異的な転移促進作用が実証された (Figure 2D)。蛍光顕微鏡観察では、エクソソーム前処置群の左POリンパ節内に多数のメラノーマ細胞が皮質辺縁域に集積していることが確認され、リポソーム群では同様の集積は認められなかった (Figure 2E)。エクソソームとメラノーマ細胞の追跡実験の比較では、エクソソーム群でのみ細胞とエクソソームが同一リンパ節 (左POリンパ節) に共局在し、エクソソームがメラノーマ細胞の「道しるべ」として機能することが示唆された (Figure 3B)。
リンパ節内転移促進遺伝子の同期的な発現誘導: 単回エクソソーム注射後48時間におけるINリンパ節のRNA解析 (84遺伝子血管新生関連PCRアレイ、n=6 replicates) から、リポソーム対照と比較して13遺伝子が有意な発現変化 (p<0.05、両側t検定) を示した (Figure 4)。これらの遺伝子変化は、3つの主要なカテゴリに分類される。[1] 細胞動員関連遺伝子: Stabilin-1 (MS-1、血管内皮細胞およびマクロファージに発現する膜糖タンパク質) の発現が1.8-fold、EphB4 (Ephrin receptor B4) の発現が2.2-fold、およびインテグリンαVβ3の発現が2.5-fold上昇した (Figure 4A)。[2] 細胞外基質修飾関連遺伝子: MAPK14 (Mitogen-Activated Protein Kinase 14、p38) が2.0-fold、uPA (urokinase Plasminogen Activator) が2.1-fold、コラーゲン18α1が2.3-fold、ラミニン5が2.4-fold、およびGα13シグナリング関連因子が2.6-fold上昇した (Figure 4B)。[3] 血管新生因子関連遺伝子: VEGF-Bが2.7-fold、HIF1α (Hypoxia Inducible Factor 1 alpha) が2.8-fold、およびTNFα (Tumor Necrosis Factor alpha) の発現が3.0-fold上昇した (Figure 4C)。これら3カテゴリの遺伝子変化は、リンパ節に腫瘍細胞が存在しない状態でエクソソーム単独によって誘導されており、エクソソームが自律的かつ多面的な前転移ニッチを形成することを示す。細胞動員、基質リモデリング、血管新生という転移促進シグナルの同期的誘導は、エクソソームによる総合的なリンパ節再プログラミングを意味する重要な知見である。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の3次元培養系を用いたin vitroでの血管新生促進作用の検討とは異なり、生体内 (in vivo) においてメラノーマ由来エクソソームが番兵リンパ節へ選択的にホーミングし、前転移ニッチを構築することを初めて直接実証した。これまでの研究では、エクソソームのリンパ節への移行や、それが転移に与える影響の全体像は不明であった。本研究は、サイズ・脂質組成を揃えた不活性コントロールリポソームを設計することで、エクソソーム特異的な効果 (内包するタンパク質や核酸カーゴの重要性) を厳密に分離した点で、方法論的に優れている。
新規性: 本研究で初めて、エクソソームが単一のシグナルではなく、細胞動員、細胞外基質リモデリング、血管新生という3つのカテゴリにわたる計13遺伝子の発現を同期的に変化させることで、多面的な前転移ニッチを構築するという複合的機序を解明した。この知見は、腫瘍と宿主細胞間のコミュニケーションが、これまで考えられていたよりもはるかに精緻であることを示す重要な貢献である。エクソソームがリンパ節の微小環境を自律的に再プログラミングする能力は、転移生物学における新規なパラダイムシフトを示唆する。
臨床応用: メラノーマエクソソームが転移に先行して番兵リンパ節をプログラムするという知見は、転移前の予防的介入の標的として極めて重要な臨床的意義を持つ。転移を先行するエクソソームの血中またはリンパ中での検出は、転移の早期予測バイオマーカーとしての利用可能性を示唆する。また、EphB4やStabilin-1などの発現上昇は、これらの分子を標的としたリンパ節転移予防策の開発に向けた基盤情報を提供する。さらに、VEGF-BやHIF1αなどの血管新生因子の誘導は、抗血管新生療法とエクソソーム遮断を組み合わせた新たな治療戦略の根拠ともなりうる。
残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が残されている。(1) 番兵リンパ節へのホーミングに関与するエクソソーム表面分子 (テトラスパニン、インテグリン、特異的リガンドなど) の同定。(2) 前転移シグナルを担うエクソソーム内の特定のカーゴ成分 (特定のmiRNAやタンパク質) の特定。(3) 正常免疫細胞由来エクソソームとの相互作用、および免疫抑制への寄与の解明。(4) メラノーマ以外の癌腫においても同様の機序が普遍的に存在するかどうかの検証。(5) エクソソームの産生、分泌、ホーミングを阻害する治療的アプローチの開発、の5点が重要な研究方向性として挙げられる。これらの課題を解決することで、エクソソームを標的とした新たな癌転移治療法の開発に繋がる可能性がある。
方法
実験動物と細胞株: 6〜8週齢の雄性アルビノC57BL/6マウス (B6(Cg)-Tyrc-2J/J、チロシナーゼ遺伝子変異を導入したアルビノ系統) を使用した。メラニンによる蛍光吸収を最小限に抑え、蛍光シグナル損失を防ぐため、このアルビノ系統が選択された。細胞株には、マウスB16-F10メラノーマ細胞株を使用した。動物の飼育は施設ガイドラインに従って行われた。
エクソソームの単離と標識: B16-F10メラノーマ細胞を70%コンフルエントになるまで培養し、血清除去培地で48時間培養した。培養上清から、差次遠心分離法を用いてエクソソームを精製した。具体的には、300gで10分間、2,000gで10分間、10,000gで30分間遠心分離を行い、細胞や細胞破片、微小粒子を除去した。その後、100,000gで2時間遠心分離することでエクソソームをペレット化した。エクソソームはPBSで3回洗浄後、再度100,000gで2時間遠心分離し、PBSに再懸濁した。タンパク質含量はBCA (Bicinchoninic Acid) 法で測定した。精製されたエクソソームのサイズは動的光散乱 (DLS) 法により95±14 nm、ゼータ電位は-11±5 mVと測定された。蛍光標識には、DiR (励起750/発光780 nm) またはDiI (励起549/発光565 nm) を使用した。スクロース密度勾配遠心法により、エクソソームの密度は1.10〜1.21 g/mLであることが確認された。
コントロールリポソームの作製: エクソソームのサイズと電気的特性に近似させるため、コントロールとしてリポソームを調製した。リポソームは、ホスファチジルコリン (64.89 mol%)、コレステロール (32.08 mol%)、ホスファチジルエタノールアミン (3.02 mol%)、および微量のDiD (0.01 mol%) 蛍光色素から構成された。リポソームはクロロホルム中で脂質混合物を溶解し、乾燥後、脱イオン水に再懸濁し、マイクロフルイダイザーを用いて乳化することで作製された。DLS測定により、リポソソームのサイズは98±4 nm、ゼータ電位は-8±2 mVであり、エクソソームとほぼ同等であることが確認された。エクソソームと等数のリポソームを投与するため、DLS標準曲線を用いて粒子数を統一した。
in vivoホーミング実験および転移実験: 蛍光標識したエクソソームまたはリポソーム (各50 μg/50 μL PBS) をマウスの足蹠に注射した。48時間後、マウスを安楽死させ、鼠径部 (IN) リンパ節を摘出した。摘出されたリンパ節はIVIS (Xenogen生体蛍光イメージングシステム) を用いて蛍光分布を評価した。転移実験では、マウスの左足蹠に48時間ごとにリポソームまたはエクソソームを3回注射した。3回目の注射時には、DiO蛍光標識したB16-F10メラノーマ細胞100万個 (1 million cells) を同時に注射した。10日後、INリンパ節および膝窩 (PO) リンパ節を採取し、IVISによる蛍光測定を行った。
遺伝子発現解析と統計解析: 単回のエクソソームまたはリポソーム注射後48時間でINリンパ節を採取し、総RNAを抽出した。抽出したRNA (1 μg) をcDNAに逆転写し、84遺伝子の血管新生関連PCRアレイを用いて遺伝子発現を解析した。ノーマライゼーション遺伝子には、Ct値の変動が最小であったTIMP2 (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase 2) を選択した。統計解析には、2群間の有意差を検定するためにStudent t-test (両側t検定、α=0.05) を使用した。また、多群間のリンパ節分布パターンの比較には、JMPソフトウェアを用いた最小二乗法マトリクス解析 (least squares matrix analysis) を適用した。