Article data
Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells
- 著者: Hadi Valadi, Karin Ekström, Apostolos Bossios, Margareta Sjöstrand, James J. Lee, Jan O. Lötvall
- Corresponding author: Jan O. Lötvall (Sahlgrenska Academy, Göteborg University, Sweden)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-05-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 17486113
背景
エクソソームは、多胞体 (MVB) の形質膜との融合によって細胞外に放出される直径50〜90nmの膜小胞である。網状赤血球、樹状細胞、B細胞、T細胞、マスト細胞、上皮細胞、腫瘍細胞など、多様な細胞種がエクソソームを産生することが知られている。これまでの研究では、エクソソームが抗原提示やT細胞活性化、免疫寛容誘導といった細胞間コミュニケーションに関与することが報告されてきたが、その機能は主に表面タンパク質を介した受容体-リガンド相互作用の文脈で理解されていた。例えば、Raposo et al. JExpMed 1996 はB細胞由来エクソソームが抗原提示能を持つことを示し、Thery et al. JImmunol 2001 は樹状細胞由来エクソソームのプロテオーム解析を通じてその多様なタンパク質組成を明らかにした。また、Mears et al. Proteomics 2004 はメラノーマ由来エクソソームのプロテオーム解析を行い、腫瘍細胞からのエクソソーム放出が報告されている。
一方で、エクソソームよりも大型の膜断片であるマイクロベシクルがmRNAを含む可能性が示唆されていたが、MVB由来のエクソソームにRNA積荷が存在するか、さらにそのRNAが受容細胞で機能的に翻訳されうるかについては、全く未検討の領域であった。エクソソームがRNAを輸送し、それが受容細胞で機能を発揮するというメカニズムが実証されれば、細胞間コミュニケーションの根本的に新しい様式を確立することになる。この細胞間遺伝子交換の可能性は、従来のシグナル伝達経路では説明できない、より複雑な細胞応答や表現型変化を理解する上で重要な知見となる。しかし、エクソソーム内部にRNAが実際に内包されているか、そのRNAが安定して細胞間で輸送されるか、そして受容細胞の翻訳機構を利用して機能を発揮できるかという点は、依然として未解明なままであった。特に、エクソソームのRNA組成がドナー細胞のRNA組成とどのように異なるのか、また、その輸送が細胞種特異的であるのかどうかについても、知識が不足していた。これらの疑問に対する明確な回答が不足しており、エクソソームによる細胞間遺伝子交換のメカニズムを確立するためには、網羅的なRNA解析と機能的検証が必要であった。
目的
本研究の目的は、マスト細胞由来エクソソームのRNA組成を網羅的に解析し、エクソソームがmRNAとmiRNAを選択的に搭載していることを生化学的に証明することである。さらに、これらのエクソソームRNA (esRNA) が細胞間で効率的に移送され、受容細胞において機能的に翻訳され、新たなタンパク質産生を誘導する能力を持つことを実験的に実証する。具体的には、エクソソームのRNAがドナー細胞のRNAとは異なる独自の組成を持つこと、RNAがエクソソーム内部に安定して内包されていること、そして異種細胞間でのRNA移送と翻訳が起こることを明らかにし、細胞間遺伝子交換の新規メカニズムとしての「エクソソームシャトルRNA (esRNA)」の概念を提唱することを目指す。この目的を達成することで、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションの新たな側面を解明し、その生理的・病理的意義を理解するための基盤を構築する。
結果
エクソソームRNA積荷の実証と内包確認: MC/9、BMMC (マウス骨髄由来マスト細胞)、HMC-1 (ヒトマスト細胞株) の3種類のマスト細胞由来エクソソームすべてから、相当量のRNAが検出された。Bioanalyzerを用いたRNA品質管理解析では、エクソソームRNAはドナー細胞のRNAとは異なり、18S/28SリボソームRNAの量が少なく、30ヌクレオチド未満の小分子RNAが豊富に含まれる独特のサイズ分布を示した (Fig. 2a)。エクソソーム内部にRNAが完全に封入されていることは、以下の4つの実験によって確立された。第一に、RNase処理によってエクソソーム内部のRNAは分解されず、外部に添加された細胞性RNAのみが分解された (Fig. 2d)。第二に、トリプシン処理によってエクソソーム表面のCD63タンパク質は消化されたにもかかわらず、内部のRNAは保護された (Fig. 2e, f)。第三に、ショ糖密度勾配遠心法により、RNAとCD63タンパク質がエクソソームの特性密度である1.11-1.21 g/mlの同一フラクションに共局在することが確認された (Supplementary Information, Fig. S1a)。第四に、Qiagen法およびEcoRI消化後のアガロースゲル電気泳動により、エクソソーム中にDNAは検出されなかった (Supplementary Information, Fig. S1b)。これらの結果は、エクソソームがDNAを含まず、RNAを膜内部に安定して内包していることを明確に示した。これらの実験は、エクソソームがRNAを安定して細胞間で輸送する能力を持つことを示唆している。
エクソソームmRNAの独自性と機能性: Affymetrix DNAチップを用いたマイクロアレイ解析により、MC/9エクソソームには約1300種類のmRNA転写産物が検出された (n=4 replicates)。これはドナー細胞で検出された16,027種類のmRNAの約8%に相当する (Fig. 3a, b)。エクソソームとドナー細胞のmRNA発現レベル間には有意な相関が認められず (R²=0.0095)、エクソソームに高濃縮された転写産物は、ドナー細胞で高発現している転写産物とは一般的に一致しなかった (Fig. 3c)。さらに、270種類の転写産物はドナー細胞では検出されず、エクソソームのみに存在する固有のRNA組成が確認された (Fig. 3d)。Ingenuityソフトウェアを用いたネットワーク解析では、エクソソームRNAの主要な機能ネットワークが「細胞発生、タンパク質合成、RNA転写後修飾」に関与する47の遺伝子産物から構成されることが示唆された (Fig. 3f)。in vitro翻訳アッセイでは、エクソソームから抽出されたmRNAがウサギ網状赤血球ライセート中で機能的に翻訳され、Cox5b、Hspa8、Shmt1、Ldh1、Zfp125、Gpi1、Rad23bの7種類のマウス由来タンパク質が2D-PAGE後LC-MS/MSにより同定された (Fig. 3g)。この結果は、エクソソームが完全型で翻訳可能なmRNAを輸送していることを明確に証明した。
miRNA積荷の同定と細胞種特異的RNA移送: miRCURY LNA Arrayを用いた解析により、121種類のmiRNAが全4回の実験で再現性よくエクソソーム中に同定された (Fig. 4)。これらのmiRNAには、AP3M2、DGKA、PRKA1、SKP1P、FGFR1OPなどの遺伝子に由来するものが含まれ、一部のmiRNAはドナー細胞よりもエクソソーム中で高濃度に存在していた (Supplementary Information, Table S5)。同定されたmiRNAの中には、let-7、miR-1、miR-15、miR-16、miR-181、miR-375などが含まれており、これらは血管新生、造血、エキソサイトーシス、腫瘍形成など、多様な生物学的プロセスへの関与が報告されている。³H-ウラシル標識RNA移送実験では、MC/9エクソソーム由来の標識RNAが、MC/9細胞 (n=6 replicates, 11±3 fold change, p=0.02) およびHMC-1細胞 (n=4 replicates, 12±3 fold change, p=0.02) へと効率的に移送されることが確認された (Fig. 3h)。しかし、CD4+T細胞へのRNA移送は有意ではなかった (n=2 replicates, 2±1 fold change, p=not significant)。この細胞種選択性は、エクソソームによるRNA輸送が、受容体-リガンド相互作用を介した特異的かつ制御されたプロセスであることを強く示唆している。
異種間翻訳の実証: マウスMC/9エクソソームをヒトHMC-1細胞 (n=8×10^6 cells) に24時間添加した後、2D-PAGEとMALDI-TOF質量分析法を用いて、HMC-1細胞内で96個の新規または増強されたタンパク質スポットが検出された (Supplementary Information, Fig. S2)。そのうち、マウス固有のタンパク質3種 (マウスCDC6、マウスZinc finger protein 271、マウスCX7A2) がヒトHMC-1細胞内に同定された。CDC6とZinc finger protein 271のmRNAはマイクロアレイ解析で2回の実験で検出されており、CX7A2のmRNAは全4回のマイクロアレイ実験で検出されていた (Supplementary Information, Table S4)。この結果は、エクソソームが輸送するmRNAが異種細胞の翻訳機構を利用して、ドナー細胞由来の新規タンパク質を産生させることが初めて実証されたことを意味する。
考察/結論
本研究は、エクソソームがmRNAとmiRNAを選択的な積荷として搭載し、受容細胞に移送された後にmRNAが機能的に翻訳されうるという「エクソソームシャトルRNA (esRNA)」仮説を初めて実験的に実証した画期的な論文である。
新規性: マウス由来のmRNAがヒト細胞内で翻訳され、マウス固有のタンパク質を産生したという事実は、エクソソームRNAが受容細胞の翻訳機械を活用して遺伝子発現を直接変化させうる能力を持つことを明確に証明した。これは、エクソソームが単なるシグナル伝達分子のキャリアではなく、遺伝子情報を細胞間で直接交換する新規メカニズムとして機能することを示した点で、これまで報告されていない重要な発見である。
先行研究との違い: これまでのエクソソーム研究は、主に表面タンパク質を介した細胞間コミュニケーションに焦点を当てていたが、本研究はエクソソームが核酸を介した遺伝子交換を担うことを示し、従来の理解とは対照的な、より複雑な細胞間相互作用の様式を提示した。エクソソームmRNAがドナー細胞とは独自の組成を持つこと (270種がドナー細胞では不検出) は、選択的な積荷パッケージング機構の存在を強く示唆し、エクソソームによる遺伝子情報交換が特異的かつ制御されたプロセスであることを示唆する。
臨床応用: 本論文が提唱したesRNAの概念は、その後のエクソソームmRNA・miRNA研究の理論的基盤となり、エクソソームを遺伝子治療ベクターとして応用する研究の着想の根拠となった。エクソソームは非免疫原性であり、特定の受容細胞への指向性を持つ可能性があるため、ウイルスベクターと比較して臨床応用における大きな利点を提供する可能性がある。また、全身循環するエクソソームを介した遠距離細胞間コミュニケーションというアイデアは、現在の液体生検やエクソソームバイオマーカー研究の先駆的な概念的提案であり、臨床現場での診断や治療モニタリングへの応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームへのRNAの選択的パッケージング機構の分子メカニズムの解明が挙げられる。また、エクソソームRNAが受容細胞内でどのように安定化され、翻訳機構にアクセスするのか、その詳細な細胞内経路を明らかにすることも重要である。さらに、in vivoにおけるesRNAの生理的・病理的役割、特にがんの進展や免疫応答における機能について、より詳細な研究が必要である。本研究ではマスト細胞に焦点を当てたが、他の細胞種由来のエクソソームにおけるesRNAの存在と機能についても、今後の研究で検証すべき点が残されている。
方法
エクソソーム精製と特性評価: MC/9 (マウスマスト細胞株)、BMMC (マウス骨髄由来マスト細胞)、HMC-1 (ヒトマスト細胞株) の培養上清から、差速遠心分離法 (500gで10分、16,500gで20分、0.22 µmフィルター濾過後、120,000gで70分超遠心) を用いてエクソソームを精製した。MC/9細胞は連続的にエクソソームを分泌させ、HMC-1細胞はCa2+イオノフォア刺激により、BMMC細胞は高密度培養により分泌を誘導した。精製されたエクソソームは、電子顕微鏡による形態観察 (約50-80 nmの円形構造)、FACS (フローサイトメトリー) によるCD63陽性マーカーの検出 (ラテックスビーズ結合法)、LC-MS/MSプロテオーム解析 (MC/9エクソソームから271種のタンパク質を同定、3回の独立精製で47種が共通)、およびショ糖密度勾配遠心法 (特性密度1.11-1.21 g/ml) によりその同一性と純度を確認した。
RNA内包の証明: RNAがエクソソーム内部に完全に封入されていることを確認するため、以下の実験を行った。まず、精製エクソソームをRNaseで処理し、エクソソーム内部のRNAが分解されないことを確認した(外部添加した細胞性RNAは分解された)。次に、トリプシン処理によりエクソソーム表面のタンパク質 (CD63など) を消化した後も、内部のRNAが保護されていることを確認した。さらに、ショ糖密度勾配遠心法でエクソソームを分画し、RNAとCD63タンパク質が同一の特性密度フラクションに共局在することを示した。DNAの非存在は、Qiagen法およびEcoRI消化後のアガロースゲル電気泳動により確認した。
mRNA解析: エクソソームRNAの品質管理はBioanalyzerを用いて行い、ポリA RNAの存在はoligo d(T)プライマーを用いたcDNA合成により確認した。MC/9エクソソームとドナー細胞のmRNA組成を比較するため、Affymetrix DNAチップを用いたマイクロアレイ解析を4回の独立実験で実施した。得られたデータはIngenuityソフトウェアを用いてネットワーク解析を行い、エクソソームmRNAの機能的関連性を評価した。エクソソームmRNAの機能的翻訳能力は、ウサギ網状赤血球ライセートを用いたin vitro翻訳アッセイで評価し、産生されたタンパク質は2D-PAGE後LC-MS/MSにより同定した。
miRNA解析: エクソソーム中のmiRNAの網羅的同定には、miRCURY LNA (Locked Nucleic Acid) Array (Exiqon社) を使用した。全4回の実験で再現性のあるmiRNAを同定し、その細胞内発現レベルとの比較も行った。
RNA移送実験: エクソソームRNAの細胞間移送能力を評価するため、MC/9細胞を³H-ウラシルで72時間標識し、その培養上清からエクソソームを精製・洗浄した。この標識エクソソームを、MC/9細胞、HMC-1細胞、およびCD4+T細胞 (対照受容細胞) にドナー対受容細胞比8:1で添加し、0時間および24時間後にRNAを回収してシンチレーションカウンターで放射能を定量した。統計解析にはKruskal-Wallis検定とMann-Whitney検定を用い、P値<0.05を有意とした。
in vivo翻訳の実証: マウス由来エクソソームがヒト細胞内で機能的に翻訳されるかを検証するため、MC/9エクソソーム (1000 µg) をヒトHMC-1細胞 (n=8×10^6 cells) に24時間添加した。その後、HMC-1細胞からタンパク質を抽出し、2D-PAGEで分離した。新規または増強されたタンパク質スポットをMALDI-TOF (Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization-Time Of Flight) により同定し、マウス固有のタンパク質が産生されているかを確認した。