- 著者: Hussein Kaddour, Malik Tranquille, Chioma M. Okeoma
- Corresponding author: Hussein Kaddour (Department of Pharmacological Sciences, Stony Brook University, NY, USA; Regeneron Pharmaceuticals); Chioma M. Okeoma (Department of Pharmacological Sciences, Stony Brook University, NY, USA)
- 雑誌: Viruses
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-11-13
- Article種別: Review
- PMID: 34835078
背景
細胞外小胞 (extracellular vesicles: EVs) は全細胞種から分泌される 30 nm〜5 µm の脂質二重膜小胞で、核酸・タンパク質・脂質・代謝物を運搬し生理・病理両面で重要な細胞間情報伝達体である。EV 研究は 1840 年代の Gulliver 報告、1870 年代の Edmunds・Müller “Haemokonien”、1946 年の Chargaff・West による凝固促進因子の単離、1967 年の Wolf “platelet-dust”、1980 年代の膜・エンドソーム由来構造同定を経て、2000 年代以降に爆発的に発展した。Théry et al. 2018 の MISEV2018 ガイドライン (PMID 30637094) や Kalluri & LeBleu et al. 2020 の exosome biology review (PMID 32029601)、Raposo & Stoorvogel et al. 2013 の EV 総説 (PMID 23420871) が分野の概念枠組みを整備したが、EV 分離法の標準化は依然として未解明・未達成である。2016 年の ISEV 調査で最多利用法は超遠心法 (ultracentrifugation: UC) であったが、純度・サブ集団分離・スケールアップ・試薬干渉・再現性に課題があり、これらを補う穏和な分離法として size exclusion chromatography (SEC) が急速に普及している。一方、Théry et al. 2006 (PMID 18228490) や Zhang et al. 2018 の asymmetric flow field-flow fractionation (AF4) 研究 (PMID 30833697) が示すように EV は exomere・small EV・large EV など複数の亜集団を含み単一手法での完全分離は困難で、SEC 自体の体系的・批判的比較が手薄 (gap) であり、ビーズ化学やカラム条件を横断する標準化指針が不足していた。
目的
1940 年代の Martin・Synge 液液クロマトグラフィーから現代までの SEC ビーズ (Sephadex・Sephacryl・Sepharose・Superose・Superdex・Bio-Gel P/A・ToyoPEARL) の開発史を整理し、EV 分離への応用例を体液種別 (細胞培養上清・血液/血漿・精液・尿・唾液・涙・乳・CSF・腹膜透析液・関節液) に批判的にレビューする。さらに、著者らが開発中の gradient SEC (gSEC) と Particle Purification Liquid Chromatography (PPLC) システムが従来 SEC の限界を克服し、near single-vesicle 解像度での EV subpopulation 分離とリアルタイム特性解析を実現しうる将来像を提示することを目的とする。
結果
SEC の分子篩原理とビーズ開発史:SEC では大きい EV はビーズ孔に侵入できず void volume で早期溶出し、小分子は孔内を通過して遅れて溶出するという分子篩機構で分離される (Fig 1)。1952 年に Martin・Synge が Nobel 賞を受賞した liquid-liquid partition chromatography に続き、Lindqvist・Storgårds の starch column (1 cm × 120 cm) がサイズ排除分離の嚆矢となった。その後 Pharmacia (現 Cytiva) が架橋 dextran (Sephadex G シリーズ)、架橋 agarose (Sepharose CL-2B/4B/6B)、dextran-agarose composite (Superdex)、cross-linked allyl dextran/N,N′-methylenebisacrylamide (Sephacryl) を商品化し、Bio-Rad は Bio-Gel A (agarose)・Bio-Gel P (polyacrylamide)、Tosoh は ToyoPEARL (polymethacrylate) を展開した。最高排除限界をもつビーズは Bio-Gel A-50m/A-150m や Sephadex G-200 だが、これらの多くが既に生産中止となっており、mega-gigadalton に及ぶ EV の大規模分離に適したビーズの選択肢は構造的に狭まっている。各クロマトグラフィー手法 (gas chromatography [GC]/HPLC/UPLC/FPLC/gel permeation chromatography [GPC]) の分子量適用範囲を整理すると、EV/virus/nanocarrier 領域 (10^6〜10^9 Da) を担う手法が手薄であることが明確になる (Fig 2)。
細胞培養上清からの EV 分離:MSC (mesenchymal stem cell) 上清は HiPrep Sephacryl S-400 HR 16/60 で抗炎症活性 exosome を精製できる (Lee 2012)。astrocyte・MCF-7・MDA-MB-231・L3.6pL・U937 からは Superose 6 で分離され、B16F10 黒色腫では Sephacryl S-1000 + 110,000 g 超遠心の組合せで ACTN4/CCNY-enriched large exosome と EPHA2-enriched small exosome の 2 集団が同定された (Willms ら、PMID 26931825 に対応)。UF-SEC (S-400) は超遠心より高収率かつ機能保持に優れ、tangential flow filtration-bind elute SEC (TFF/BE-SEC) は scalability を提供する。
血液・血漿からの EV 分離:Taylor ら 2003 は 1.5 × 4.5 cm Bio-Gel A-50m で卵巣がん患者血清から FasL+ microvesicle を単離し T 細胞 apoptosis を示した。Arroyo ら (PMID 21383194 に対応) は Sephacryl S-500 で血漿 miRNA の大半が non-vesicular な Argonaute-2 (Ago-2) 複合体に結合することを示し、Vickers ら (PMID 21423178 に対応) は Superose 6/S-200 で血漿 miRNA が high-density lipoprotein (HDL) と会合することを報告した。Böing らの Sepharose CL-2B 自作 syringe column (10 mL) は単一ステップ法として広く普及した。Baranyai らは S-400・CL-4B・CL-2B を比較し S-400/CL-4B が albumin を効率的に分離することを示した。mini-SEC (Sepharose 2B, 1.5 × 12 cm, Hong ら) は bioactive EV を保持し、PEG 沈殿・有機溶媒沈殿を性能で上回ることが nanoparticle tracking analysis (NTA)・cryo-TEM・immunoblot で確認された。ただし血漿には HDL・LDL・Ago-2 など類似サイズ・密度の non-EV が共存するため、density gradient UC + SEC の 2 段階法が推奨される。
精液・前立腺小体 (prostasomes):prostasome は 1985 年に Ronquist が命名した。Aalberts・Brouwers は Sephacryl S-1000 (70 × 2.6 cm) と密度勾配 UC を組合せ GLIPR2-rich 高密度・ANXA1-rich 低密度の 2 集団を分離した。Lyu ら (Sephadex G-50) は semen-derived EV (SEV) のうち HIV-SEV・Drug-SEV・HIV-Drug-SEV が単球の細胞骨格再編・接着・ECM-modifying metalloprotease 分泌・遊走を誘導することを示した。著者ら Kaddour らの gSEC (100 × 1 cm、6 種の Sephadex ビーズを積層) は 800 フラクションで large EV / small EV / 膜なし凝集体 / 低分子の 4 ピーク分離を実現した。
尿・唾液・涙・乳・CSF:Rood ら (BioSep-SEC-S4000 HPLC) は膜性腎症と巣状分節性糸球体硬化症 (FSGS) で尿 EV (uEV) クロマトグラムに差を検出した。Lozano-Ramos ら (Sepharose CL-2B, 10 mL カラム) は silver stain レベルで明瞭な EV 分離を示した。Aqrawi らは qEV (Izon) を唾液・涙に応用した。Blans らは 432 mL Sephacryl S-500 でヒト/ウシ乳 EV を 4–5 ピークに分離した。Kaddour らの gSEC では乳 EV ピーク強度が無脂肪 < 2% < 全脂乳 の順 (約 3 段階) で増すことが示された。CSF は S-400 HR spin column + ExoQuick で 50 以上の miRNA に年齢差が検出され、関節液 (synovial fluid) は HiPrep 26/60 Sephacryl S-500 HR が超遠心・sucrose-gradient UC を純度で上回った。これらを横断すると、SEC のカラム長は 4.5 cm から 120 cm まで、容量は 10 mL から 432 mL まで、ビーズ排除限界は 10^4 から 10^8 Da 超まで広く分布し、体液ごとに最適条件が大きく異なることが定量的に示された。
SEC を density gradient と組合せた 2 段階精製:血漿・精液など複雑な体液では SEC 単独では HDL/LDL・Ago-2 等が共溶出するため、density gradient UC との 2 段階法で純度が大幅に向上する。Aalberts らの精液研究では Sephacryl S-1000 (70 × 2.6 cm) + 密度勾配 UC で GLIPR2-rich 高密度・ANXA1-rich 低密度の 2 集団 (2 種の異なる浮遊密度) を分離でき、単一ステップ SEC では達成できない subpopulation 分解能が得られた。
SEC 手法の標準化限界:35 研究の比較表からは、カラムサイズ・ビーズ種・分画数・分離系・分離プロファイル掲載が著しく不均一で、同一研究グループ内でさえ方法がばらつくことが可視化された。gravity 駆動が多数を占め FPLC/HPLC の採用は少なく、automation・再現性・scalability が不十分である。EV は mega-gigadalton に及ぶため HDL/LDL/免疫グロブリン等の中間分子量分子との共溶出問題があり、density gradient UC との組合せや ApoB100/ApoA1/Ago-2 などの対照マーカー測定が必要である。
gSEC と PPLC の将来展望:著者らが開発中の PPLC システムは、(i) dye-free な intact EV subpopulation 分離、(ii) sample-tailored な分離条件、(iii) fully automated なリアルタイム fractionation + in situ biophysical characterization、(iv) 最大数千フラクションでの near single-vesicle resolution、(v) light scattering・fluorescence 検出器や複数カラム・化学性質の追加による拡張性、(vi) ユーザーフレンドリーかつコスト効率の高い設計、を目指すと位置付けられている。著者らは GC/HPLC/UPLC/FPLC/GPC の分子量適用範囲を整理したうえで (Fig 2)、PPLC が mega-gigadalton (10^6〜10^9 Da) の EV/virus/nanocarrier 領域を担う次世代基盤になると論じる。gSEC では 800 フラクション、PPLC では最大数千フラクションでの分離が想定され、従来 SEC の十数フラクション規模を 2〜3 桁上回る解像度が目標とされる。
考察/結論
本総説は EV 分離法として注目される SEC を、ビーズ化学・カラムジオメトリー・駆動系・試料種の 4 軸で批判的に総括し、標準化不足を比較表により可視化した点で意義が大きい。先行研究との違いとして、単一の総説で 1840 年代からの EV 発見史と 1940 年代からの SEC 開発史を統合的に提示し、これまでのビーズ単体やプロトコル単体の解説とは対照的に、体液種別の研究を体系表化して横断比較を可能にした点が挙げられる。本研究で初めて、著者ら自身の gSEC (100 × 1 cm Sephadex gradient, 800 フラクション) と PPLC システムを次世代プラットフォームとして具体的に提案し、near single-vesicle 解像度というnovel な目標を明示した。重要な現実的勧告として、単一技術による “一発” EV 精製は血漿のような複雑な生体液では困難であり、SEC は density gradient UC・AF4・immunocapture・precipitation と組合せて使用すべきとする。臨床応用の観点では、near single-vesicle 解像度の EV 分離はがん診断における liquid biopsy (ERBB2+ EV、CEMIP+ EV、integrin code)、HIV・SARS-CoV-2 等のウイルス-EV 共精製、mRNA/siRNA の EV-based 薬物送達、幹細胞治療製品の品質管理など広範な bench-to-bedside 用途をもつ。これは EV による全身性転移制御の機構 (Wang 2022) や、ESCRT 依存・非依存の EV cargo loading 機構 (Mageswaran et al. Traffic 2014) を臨床検体で解析する前提技術となる。残された課題 (limitation) は、廃番となった高排除限界ビーズ (Bio-Gel A-50m/150m) の代替開発、gSEC の column-to-column 再現性、PPLC の商用化、ISO/ISEV による標準化と multi-center validation、そして MISEV ガイドライン遵守下での negative fraction 対照・ApoB100/ApoA1/Ago-2 対照測定を伴うプロトコール確立である。EV 分離・特性解析の標準化全体については EV isolation/characterization の体系的議論 (Wang et al. Basic 2022) とも接続する。
方法
該当なし (Review)。著者らは 35 報の SEC-EV 分離研究を体系的に収集し、各報を (1) 試料種 (細胞培養上清・血液/血漿・精液・尿・唾液・涙・乳・CSF・腹膜透析液・関節液)、(2) ビーズ種 (Sephadex/Sephacryl/Sepharose/Superose/Superdex/Bio-Gel)、(3) カラムジオメトリー (長さ×内径)、(4) 自作 (home-made)/商業 (commercial)、(5) 分画数、(6) 駆動系 (gravity/FPLC/HPLC)、(7) 分離プロファイル掲載の有無、という 7 軸で比較表 (Table) に整理し、横断的な不均一性を可視化する narrative review の手法を採った。EV の同定・特性解析については ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) MISEV ガイドラインに準拠した分離法 (SEC・density gradient ultracentrifugation・AF4・immunocapture・precipitation) と特性解析マーカー (NTA・cryo-TEM・immunoblot による CD9/CD63/CD81/TSG101 等の tetraspanin/ESCRT マーカー検出、ApoB100/ApoA1/Ago-2 等の non-EV 対照マーカー測定) の必要性を評価軸とした。